第7話 ママ



欠伸を堪えつつ、仕事から家に帰るのはいつも深夜の1時を回る…。


每日通る帰り道…。


こんな都内の裏路でも、今夜は霧がかなり深かった…。


こんなに霧が深くても、いつも通る帰り道だから、霧で前が見えなくても、少しも不安は無かった…。


(ここを曲がればポストがあって、暫らく歩けば家に着く…)


そんなことを考えながら、今日のお客を思い出した…、


(すけべな目でじろじろ見てさぁ…嫌な奴だけど、いっぱい飲ませてくれるから、今日は、ドリンクバックでかなり稼げたな…でも、少し酔っ払っちゃった…)


足元が少しふらつくがちゃんと歩いていた…いや、歩いていたはずだ…。


もう、家に着いてもいい頃なのに、なかなか着かない…着かないどころか、濃い霧の中から薄っすら見える風景は、まだ、見たことも無いような河原の土手を歩いているようだ…。


(おかしいなぁ…こんな場所、家の近所には無いはず…)


河原には、小石を積上げたような物が点在している…。


立ち止まり、引き返そうと振り向くと、そこには小さな女の子が立っていた…。


「ママ…」


その子は私をそう呼んだ…。


「ママ…おウチ帰りたい…」


「ひとりじゃおウチに帰れないから、ママを呼んだの…」


青白い顔のその子はそう言うと、私に抱きつこうと、剥き出しの私の腿に手を触れた…。


人間とは思えないその子の事は、全く怖くは無かった…むしろ、愛しさが沸き、その子を抱きかかえようとその子の背中に手を回しても、私の腕はその子の身体を通り抜け、抱きかかえる事が出来なかった…。


「ママ…」


その子はそう呟くと、スッと消えていた…。


そして私は意識が遠退いて行く…。

薄っすらと微かにその子の声が聞こえてくる…。


「ママと一緒じゃなきゃ、帰れないから…もう、ママ…わたしを連れてって…」


気付くと自宅の前に立っていた…。


(酔って夢でも見たんだわ…)


部屋に入り、服を脱ぐと、腿に小さなもみじの様な手の跡が…。


姿は見えないが、今度ははっきりと聞こえてくる…。


「やっと帰れた…もう、ママから離れないよ…」


私はまた、意識が遠退いた…。

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