第3話 雪の果て



男は北国へ商談の為に来ていた…。


今住んでいる古民家を改築、リフォームし、民宿にしたいとの依頼を受け、主要駅よりローカル線に乗り継いで、依頼人の自宅の茅葺き屋根の古民家へやって来たのだ…。


商談はうまくいき、雪が降ってきたので今夜はお泊りなさい…との、依頼人の言葉を丁寧に断り、ローカル線に乗り込んだ…。


'今から帰れば、明日の昼過ぎにはオフィスに戻れるだろう…契約書を作って、その後は久々の休息ができるな…乗継の○○駅までは、結構あるから、少し眠ろうか…"


男はそんなことを思いながら、1両編成て、乗客も少なくガランとした車内の座席に腰掛けると、コートの襟を立て直し、ウトウトし始める。


どのくらい眠っていただろう…。


不意に肩を叩かれ、男は目を開く…。


男の前には、運転手兼車掌の制服を着た、初老の男が立っていた。


「お客さん、この先、急な積雪で電車、進め無くなりました。車両は引き返し手前の駅で待機になりますが、後、7〜800メートルくらい、線路伝いに歩けば、次の駅に行けます。次の駅からは振替のバスが○○駅まで走りますが、お客さん、どうしますか?先程までは吹雪いていましたが、今は少し弱まっています…」


男は、停車している車両の窓から見える風景を眺めた…。


雪は深く、辺りは白く積もっていた。

しかし、線路上だけは、なんとか歩けそうだ…。


慣れているのか、2〜3人居た、他の乗客はすでに下車し、次の駅まで歩き始めている。


復旧のめどもたたない様子。

男も歩くことにした…。


前を歩く他の乗客の背中を追い、男はそれでも慎重に歩を進める。


暫らく歩きと男は立ち止まり、手提げ鞄を足元に置き、していたマフラーを少し強めに巻き直す。


鞄を持ち上げ、辺りを見渡すと、雪景色の雑木林が広がっていた…。


鞄の取手を握り直し、歩き出そうとした時に、一陣の風と共に雪が視界を一瞬遮った…。


顔伏せ、視線を戻すと前を歩く人の姿は見えなくなっていた。


急ぎ歩いても、前を歩く背中は無かった…。


どれくらい歩いただろう…。


いつの間にか、線路上からも、外れてしまったのか、雑木林の中をひとり歩いていた。


どこまで歩いても、向かう駅の姿は見えない…。


疲弊しながらも、歩き進む…、


かなりの時が過ぎ、疲労も限界かと思えた時、古びれた洋館が見えてきた。


深夜にも関わらず、窓から見える灯りを頼りに玄関前に辿り着いた…。


扉を叩くと、扉を開き、中から、白く透き通るような肌をした、美しい娘が現れた。


雪道を、次の駅まで歩き向かう途中で道に迷い、灯りを頼りに辿り着いた旨を話すと、娘は愛らしく微笑み、男に言った…。


「それは、お困りですね…ここから駅までは、かなり遠いですよ。見れば、お疲れのご様子。朝までここでお休みになり、明るくなったら、駅まで私が、お送りいたしましょう…」


男は娘の瞳を見た瞬間、娘に心を奪われた…。


「この家は、私と祖母の2人暮し…たいしたおもてなしは出来ないですけど、どうぞごゆっくり休んで下さい」


男は、娘の案内に任せ、娘の後からユラユラとついて行く…。


「久々のお客様…こんな所まで来て下さりとても嬉しく思います」


娘は心地良い音色を奏でるかのような声で男に話し掛ける。


「この屋敷は広いだけで寒いでしょ?暖房代わりに私の身体で暖まって下さい…」


娘はそう言いつつ、男の服を脱がせ、ベッドへ寝かせると、自分も着ていたドレスをはらりと落とし、下着も、脱ぎ捨て男の横に滑り込む…。


娘に心を奪われた男は欲望のまま、娘の上へと覆い被さる…。


娘は男の首に両腕を回し、男を自分へ引き寄せる…。


そして、男の耳元へ、フッと吐息を吹きかけた…。


甘くそして芳しい、娘の吐息を感じると男は、両目を見開きつつも身体が凍え、逝ってゆく…。


赤く妖しく娘の瞳が蠢くと、何処からともなく、無数の赤子のような影達を従え、白髪の老婆が部屋に入る…。


「娘や…今日はお前の客だったゆえ…お前が最初に喰らうて良いぞ…」


「嬉しい…ならば、私は目玉を貰うよ…」


指で目玉をえぐり出し、娘は目玉に齧り付く…。


「あぁ…美味しい…死ぬ時の驚きがまだ、目玉には残っていて、格別の味だわ…」


「ワシはこれが1番じゃ…あぁ…脳みそが1番うめぇ…」


赤子の影がさわついた…。


「さぁ…お前達もお食べ…たんと、食べるんだよ…」



窓の外には最果ての雪景色…。


ベッドの上は赤い血色の花模様…。


小さな赤子の影たちは、美味しそうに喰らっている。


外が薄っすら明るくなるまで、くちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃと、男を喰らう音がした…。

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