【003】Wizardryに魅せられた者たちへ

 不定期に、そして唐突に、そんなことまったく考えていないようなときに、ふと脳裏をよぎる。


 そして、よぎってしまったが最後、どうにもこうにもプレイしたくて我慢できなくなるゲーム。


 それが、『Wizardryウィザードリィ』である。


 それも、ファミコンの第一弾である『狂王の試練場』。


 たった1Mメガ+64KRAMキロラムのデータでしかないゲームなのに、いったい何十年遊んでいるんだ? というくらい、何度もプレイしている。


 やりたくなるスパンは非常にバラつきがあって、数年越しにプレイすることもあれば、一回飽きて終わったと思いきや、数日後に再び再開する、ということもある。


 なぜこれほどまでに『Wizardry』にハマるのか?


 世間に目を向ければ、やれ『エルデンリング』だ『原神』だと超美麗ゲームが目白押しだというのに、なぜ僕はファミコンの『Wizardry』なのだろうか。


 ファミコンの性能をフル活用しても同時描画色は最大で25色である。

 しかも、25色を一画面に出したら、処理落ちして動きが遅くなるという限界ギリギリな性能しかない。


 一方、『エルデンリング』の描画力――というかPS5の描画力――は、最大で8K。


 もう、単位が別次元になってしまっている。色の数ではない。解像度の問題になっている。


 無理やり比較すると、解像度においては実に30倍もの差がついてしまっている。


 ――ん? 30倍? 意外に少ない。体感的に数百倍の差がある気がするんだけど、そこまで大げさではないようだ。


 そんな非力な性能でプログラムされているゲームだというのに、なぜ20世紀を越えて、さらには平成を越えてまでプレイしているのか。


 僕は書きかけの小説をタイプしている手を止めて、しばし『Wizardry』の中毒性について考えてみる。


『Wizardry』の魅力とは――。


 やはりなんと言っても「物語が存在しない」ということに尽きる気がする。


 設定としての世界観と、その説明くらいはある。だが、それ以上の物語は存在しない。

 ゲームの目的は大魔術師ワードナの持つ『ワードナの魔除け』を手に入れるというクエストのみ。


 美麗なオープニングも、長ったらしいムービーもない。

 ヒントをくれる町の人も、現金や装備品をくれる親切で偉そうな王様もいない。


 キャラメイクを六人分済ませたら、そのままいきなりダンジョンに潜ってしまえるほど、最初にやるべきことはほとんどない。


 もちろん、そんなことしたらすぐにモンスターに倒されて墓標が並ぶゲームオーバーの画面になるだけだが、とにかく、誰に何を指図されることなく、好き勝手に冒険がはじめられる。


 ゲーム内ではほぼ誰とも話すことなく、作り上げたキャラクターがダンジョンを探索していくだけのゲーム。RPGでありながら、ハクスラ系ゲームの原点でもあるかのように、ひたすら自分のキャラを鍛えていくストイックなシステム。


 しかもレベルが上ったからといって必ず能力値が上がるわけではない。たまに下がるのだ。


 なんの嫌がらせ? と思うが、それが仕様なのだ。基本、意地悪てんこ盛りなのである。


 必死にレベルを上げたキャラクターであっても、雑魚モンスターの「ヴァンパイア」のスキル、「エナジー・ドレイン」によってレベルを下げられるという不条理なことが何度も起こる。


 その度にリセットボタンに手が伸びる。そうすると、そこまで取得した宝物も消え失せる。


 レベルダウンに見合う宝物を持っているか(基本的に街に戻って鑑定しないと道中で取得した宝物の内容は分からない)、もし最高峰の武具を持っていたらどうしよう……などとアレコレ思案する。


 この葛藤が、ダンジョン内でパーティが相談しているような感じに、脳内補完されたら、そこからが『Wizardry』の真骨頂なのである。


 最深部まで行く頃には、それぞれのキャラクターにおける妄想設定が脳内で勝手に生成されている。


 そんな彼らが究極の移動魔法『リセットボタン』を使用するか議論するのだ。


 忍者を目指す盗賊は、宝物を持ち帰ることを訴える。

 レベルダウンした戦士は、攻撃力が減ったことによるリスクを訴える。

 それぞれが時に協力し、時に反発しあって冒険していく……。


 そう。このゲームは設定厨にはたまらないゲームなのだ。


 設定が用意されていて、物語は自分で(脳内で)作り上げる。


 そこに楽しみを見出してしまうと、このゲームはどこまでも遊べてしまう。


 さすがはTRPG全盛の時代に生まれたゲーム。

 そして、少ないプログラム容量であっても、最低限のシステムさえ組めればそこに無限の楽しみを生み出せるという、その様式美もまた素晴らしい。


 シンプルにして意地の悪い、だけどやりこみ要素が盛り沢山なこのゲームに影響されて執筆しているのが拙作の『アストラ・ブリンガー』である。

 近未来、仮想現実の中で『Wizardry』の世界をリアルな体感を持って遊ぶことができたら、どんなに楽しいだろうか……。そう夢想したのが出発点。なので、どれだけ近未来の最先端なゲーム世界であっても、あれこれと『Wizardry』っぽい縛りルールを設けていたりする。その話は書くと長くなるので、また別の機会にしておこう。


 それと最近では『KAC』参加作品でもある『迷宮シリーズ』もそうである。

 そもそも『Wizardry』をやっていなければ『迷宮』で縛ることなんて考えもしなかっただろう。

 おかげで余計な苦労を背負い込むことになったのだが、それはそれで、過ぎた今となっては良い思い出である。


 というわけで――。

 作ったキャラクターの数だけ物語を生み出すことができるゲーム。

『Wizardry』はそんな物語生成ツールとしても有用な気がする……しませんか?


 などと『Wizardry』で遊ぶことを、さも創作に必要な時間のように主張しながら、今日も僕は執筆作業もそこそこに、迷宮探検へ挑むべく使い古されたコントローラーを握りしめるのであった。


 待ってろよ! マーフィ先生! 

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