第10話 妄想三角関係

「あの真莉愛。一応パーク内ではあるんだが、ここでいちゃつくとまずいから、一旦離れようか」

「うん……」


 うん!?


 ゆっくりと俺から離れた水上だったが、頷きかたがいつもと違い、あまりのギャップにきゅんとときめいて心臓を掴まれそうになってしまう。


 えっと……水上、すでにデレてないか?


 いや逆に俺が彼女にデレさせられた?


 俺が勘違いを起こそうとしてると、水上はさらに俺の勘違いをロケット噴射で加速させてくる。


「じゃあ、あそこの林に隠れて……する?」


 ふだんは口さがなく男子をののしる言葉ばかり吐く口はどこへやら、形が整い光沢のある唇に人差し指を軽く咥え、甘えたように俺を上目遣いで見て、水上は訊ねてくる。


 するって……おいおい。


 これは罠だ!


 間違いなく罠だ!


 水上が俺みたいななんの取り柄もない陰キャに甘いわけがない。


「あ、いや水上、やっぱりこういうのって、もっとムードのあるところのほうがいいと思うんだ」 


 俺は適当なことを言って、誘ってくる水上をなだめた。


 やっぱ陽キャってすげえよ、いきなり青姦あおかんで罠にかけようとか、演技が堂に入ってる。パパ活とかで美人局つつもたせ的なこともやってるのかもしれない。


「それはそうだけど……」


 なおも物欲しそうに俺を見てくる。


 なんちゅうハニトラを仕掛けてくるんだよ!


 だが俺は断る。


「それに朝、注意されたよな。ヤバいことすりゃ、停学どころか退学にもなりかねないから」

「そ、そうか……それもそうだよな……」


 水上は残念そうに思ったのか、眉尻を下げながら諦めたようにゆっくりと俺から手を離してくれた。


 良かった……。


 それにしても水上の奴、ギャルだけどかなりかわいいし、もしかしたら将来女優とかになれたりしてな。


 俺は退学の危機を脱して、緊張感が解けたからか、ふーっと息を長く吐いていたところに水上は顔を桜色に染めながら、おずおずとデコったスマホを差し出す。


「じゃあよ……LINE交換してくんね?」


 赤く染まった顔が恥ずかしいのか、ぷいと顔を俺から背けた仕草がクッソかわいい……。


「ああ、もちろんだとも」


 さすがにこれくらいはいいよな。


 “陰キャの俺がクラスで二番目のギャル美少女のLINEをゲットした“


 みたいなラブコメ的展開があっても。


 図らずも偶然が重なり、水上からLINE交換を果たしてしまった俺だったが、玉田たちはおろか、伊集院の姿すら見失ってしまっていた。


 早足で歩く俺たちだったが、道の横手に小さな建物が見えたところで水上の足がぴたりと止まる。


「鈴城……ちょっとここ離れる」

「ん? どうした?」

「訊くな」


 ぐっと手を伸ばした水上に俺は口を押さえられる。


「分かった。待ってる」


 どうやらお花を積みに行きたいらしく、水上は道中にあったお手洗いへと入っていった。それから数分後、道端カントリーロードで暇を潰そうとするが、パーク内ほとんどが草木くらいで、ぼーっと眺めるくらいしかできないことを知る。


 そりゃつまらないなんて声があがるのも仕方ないのかな、と思っていたら、



 ピロン♪



 と俺のスマホが鳴っていた。


 珍しい……。


 午前中に連絡があるとか、家族からはめったにないのに。そもそも俺にメッセージが届くことが稀で愛菜が寄越すくらい。


 そう思って確認すると、どうやらさっき交換したばかりの水上だったらしく、さすが陽キャ! 連絡がとにかく早いと思って見てみると俺は画面を見て固まった。

 

 水上はスマホで顔を隠してはいるものの、いつも開放的なブラウスは卍解ばんかいしており、第四ボタン辺りまで外されヒョウ柄のブラがこんにちは、顔隠して谷間丸見えになっている。


 なお固まったのは俺の下半身……。


 これじゃ、俺までトイレにいかない収まらないじゃねえか!


 だが行ったら、最後だ。


 これはツイッターでエロ垢にフォローされたようなもの。水上に釣られていったら最後、木崎や浜田が潜んでいて、トイレの中で水上といたそうとしていたことを責められ、全裸土下座させられ動画を撮られ人生が終了するに決まってる。


 その手には乗らん。


 水上は十分もしない内に戻ってきたのだが、色々訊ねても無視されて、いつも通りの不機嫌そうな表情に戻ってしまっていた。


「待ってたのに……」

「ん? なにか言った?」

「しらねえよ……ばかぁ」


 ああ、あれか美人局が成功しなかったから、俺にキレているのか、それは悪いことをしたかもしれないが、俺にも日陰で平穏に暮らす権利くらいあるよな?


 かなり時間を食っちまったが、玉田たちと合流する。黄昏の丘と看板のあがったバス停のベンチに伊集院と中村が二人で座っていて、涙目になってる伊集院を中村があやしており、それを遠目に玉田たちが見ていた。


 伊集院と中村……この二人に接点があったのか?


 そう思った瞬間いきなりだった。


「鈴城くん、サイテー……」


 えっ!?


 真面目かつ地味で大人しい中村から、まるで二股かけてた屑男を見るような目で見られ、浴びせられた言葉に驚く。


 遠くから見ていた玉田と太田が俺のことを話していたが……、


「鈴城の奴サイテーだってよ、俺も薄々そう思ってたんだよなー」

「タマキンよりはマシでしょ」

「んだと!? もっぺん言ってみろ、キモデブ」

「うっせーぞ! 陰キャは向こうに行ってろ」


「「は、はいっ」」


 水上に一喝されるとすごすごとどこかへ行ってしまうテンプレだった。


 玉田たちが立ち去ると伊集院は俺のシャツを両手で掴んで、あふれる感情を爆発させ、ぶつけてきた。


「なんで! なんで、真莉愛と浮気するのっ! 私っていう彼女がいるのに……」

「いやいやいや、俺、そもそも伊集院と付き合ってないし、告白もちゃんと断ったよな」


「じゃあ、ここで改めて告白します。鈴城くんのことが好きです。お付き合いしてください」


 俺たちの遠くの視界に映るモブコロパークのお花畑みたいな伊集院の思考に俺は呆れた。


「大変素晴らしいお申し出です」

「じゃあ、今日から私の恋人だよね?」


 呆れてビジネスライクな口調に変化してしまったが、それで勘違いを起こした伊集院は俺からオーケーをもらったのだと早合点してしまう。


 だがそうは問屋が卸さない!


「だが断る!!!」


 俺は伊集院とは近からず遠からずの距離感を持って接したいと思ったのが、そもそもの間違いだったのだ。


 付き合ってもいないのに浮気とか、意味が分からん!


 俺も伊集院の告白を穏便に断りたかったのだが、無理だった。理由は伊集院が俺の家に来てからというもの、ストーカーが出現したのだ。


 それは班決めのHRのあった日から校外学習までの一週間それはずっと続いていた。



――――一週間前。


 登校しようとマンションのエントランスから出て、道を歩いていると、俺の後ろに良からぬ気配を感じて振り返るとさっと物陰に潜む人物が見えた。


 俺は歩く速度を落としながら、タイミングをずらしながら振り返るという高校生にもなって、何者か分からない影と“だるまさんが転んだ“をしている。


 敵もさるもの、急に振り向くスピードを上げたり工夫をするも全貌を現すことはなく、微かにうちの高校の制服であることだけ分かった。それだけでストーカーと認定するのは難しい。


 つけて来た相手がはっきりと俺を追跡しているところを捉えないと、電柱の裏に隠れているのに無理やり引き出して責めれば、逆に俺が言い寄ってきたと言われてしまうと俺が悪者とされてしまうだろう。


 何者かにつけられることが数日つづいたが、特に実害があったわけじゃない。だけど決して気持ちの良いものでもなかったので、俺はつけてきてるのを確認したら、歩いているところを急に走り出していた。


 するとストーカーも走って追いかけてきてるようで俺の足音とともにストーカーの足音も響いていた。


「はあっ、はあっ……」


 少し息が切れてきたが、俺は隠れる電柱がなくなった校門付近で振り返ると後ろに膝に手を置いて、息を切らしてるかわいらしい女の子が立ち止まっていた。


「伊集院……」

「あっ!?」


 俺に見つかったことで伊集院はびっくりして、声を出してしまうが、白々しく口笛を吹いて俺の横をすり抜けて校門へ入っていってしまった。


 長い黒髪が電柱の陰から出ていたこともあったが、自意識過剰だと否定していた。まさかストーカーが伊集院だなんて……。


 なに考えてんだよ、伊集院の奴……。


 とはいうものの、俺に教室で堂々と伊集院と話すような真似はできそうにない。


 伊集院を見つけた日の放課後のことだった。


 俺が伊集院の思考が読めないでいると、いつも通り木崎と浜田が彼女の席に来て、


「梨衣、カラオケにでも寄っていかないか?」

「俺も部活サボって行くぜ!」


 遊びに誘っている。二人とも部活なのに梨衣を遊びに連れ出すのに、凝りもせずご執心だ。


 だが……。


「ごめんね、私、今日は大事な用があるの。明日も、明後日も、ずっと忙しいから無理!」


 なんて遊びに誘うな、とでも言っているかのようだった。伊集院はフェルトでてきた小さなクマのマスコットを下げた鞄を持って「またね~!」と水上たちに手を振って、教室を出ていってしまった。


 水上たちは、伊集院の素早い帰宅になにがあったのかと、ぽかんとしている。


 俺は伊集院が先に帰ってくれたことで安心した。


 帰るときも気配を感じていたからだ。


 今日は心おきなく本屋に寄って、美少女文庫の吟味ができようというもの。


 もしかしたらエロ小説コーナーに行けば、伊集院は恥ずかしがってストーカーを止めるかもしれないと思ったが、俺の性癖が彼女でもない伊集院に露見するのは生き恥に近くそこまでの勇気はなかった。


 だが伊集院は止まることを知らない。


 俺は手提げの鞄を肩に担いで、束の間の自由を謳歌おうかできると鼻歌混じりで校門を出たまでは良かった。


「鈴城くん! 一緒に帰ろ」

「えっ!?」


 先に帰ったと思われた伊集院は校門の塀に隠れて俺を待ち伏せしており、ストーカーがバレたことを逆手に大胆な行動を開始しようとしていた。


「いや、俺……伊集院と付き合ってねえし……」

「友だちでも一緒に帰るよね?」


 学園一の美少女の武器のひとつ、天使の微笑みを浮かべて正論をぶっこんでストーカーからナチュラルに友だちにクラスチェンジしてくる。


 俺は“友だちで頼む“みたいなことを伊集院に言ったことを後悔しつつ、投げやりになって肩を落として彼女に返事した。


「もう勝手にしてくれ……」



――――現在。


 伊集院は手を握り、俺に顔を真っ赤にしながら、訴えてきた。


「夢の中で鈴城くんにいっぱいいっぱいえっちなことされたんだもん。責任取ってよね!」


 俺は夢で伊集院にセクハラしたことまで責任を取らないとならないのか?


「は? それってあなたの妄想ですよね?」


 俺は伊集院を論破する魔法の言葉をぶちかますが、伊集院はそんなことお構いなしに顔を両手で覆って身悶えしていた。


「初めてなのにあんなことやこんなこと、とても人前じゃ言えないことをいっぱいされたんだよ。だから、夢じゃなくて本当にしてくんなきゃ、許さないんだから!」


 本当にしろ? って俺、付き合ってもいない女の子にしたら、マジ屑男じゃん……。


「えっと、ごめん……。伊集院、いい病院紹介してやるからな。精神科がいいかな?」

「ううん、鈴城くんに夢の中で犯されて、そ、その……あそこが濡れちゃうの」


 伊集院は手で目元を隠しながら、スカートの上から股間に手を置いて恥ずかしがりながら、痴態を告白していた。


「だったら心療内科がいいかもな。って、おまえはなに言ってんだよ!!!」


 いつ俺が伊集院を襲ったのか教えてほしい。それこそナプキンだ! ちがった濡れ衣だ!


 中村と水上のほうを見るとぽかんと口を開けて、俺たちをイエティやつちのこみたいな珍獣に遭遇そうぐうしてしまったように見ていた。

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恋愛フラグを立てて、自ら破壊していくスタイルw


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