第8話 気安く触れないでほしい【梨衣目線】

――――HR中。


「梨衣ももちろん木崎くんの班に来るよねっ」

「そんなの決まってるって」


 えっ!?


 美音とほの香は木崎くんと浜田くんと班になることが、あらかじめ決まっていたかのような口振りで話していた。


「真莉愛はどうするの?」


 私は美音とほの香がいてくれるならうれしいと思ったけど、正直木崎くんと浜田くんの班で校外学習の間、ずっと彼らと行動をともにするのは気が引けてしまう。


 木崎くんは恋人でもない私に馴れ馴れしく触れてくるし、浜田くんの私以外の人に対する傲慢な接し方がすごく嫌だった。


 それに今回に限ったことじゃないけど、他のクラスメートを威圧して黙らせ、自分たちに都合のいい班にするって……。


 彼らのしていることは昔、私をいじめていた男の子たちによく似ている気がしていてならない。男の子たちはいじめを止めようとしていたしおりちゃんに「ターゲットを変えてやるぞ!」と脅して黙らせていたのだから。


 私はいじめる男の子も、なにもしてくれない女の子も大嫌い!!!


 私をいじめていた男の子たちのような木崎くんと浜田くんと一日中、一緒にいるのは辛いに決まっている。



 せめて真莉愛と一緒なら……。



 そう思って彼女に目をやると、寿先生が居眠りしているのをいいことに、班決めとかまったく興味なさそうに鞄の中から取り出したスマホを頬杖つきながら、眺めていた。


「真莉愛は?」


 私はなにかと面倒を見てくれている彼女に助けを求めめたのだが、返事は実にそっけない。


「あー、あたしパス」


 えっ?


 そんなひとことで美音たちと別行動を取ることを決めてしまった。高校に入ってから美音たちに流されっぱなしだった私は、真莉愛の主体性のある行動を遠慮なく取れるのがうらやましくて仕方ない。


「真莉愛もああ言ってるからさ、梨衣も一緒に班別行動しようよ」

「うんうん、あんまり面白くないとこって評判だから、木崎くんたちと行動したほうが梨衣も絶対にいいってば」


 美音とほの香は私を出汁に見た目だけはイケメンな彼らと仲良くなりたがっているのが見え見えだ。



 私はもっと鈴城くんのことが知りたいのに。



 結局私は鈴城くんと同じ班になりたいという意志を美音たちに伝えられずに二人に手を引かれて、黒板の前へと連れ出されてしまった。


「木崎くん、よろしくね!」

「おねが~い、ほの香も混ぜて」


 美音が木崎くんの隣に名前を書きこみ、ほの香もそれに続く。


「ああ、仕方ないな。美音もほの香も入れてやる。感謝しろ」

「ああん、木崎くんやさしいぃ」

「やったぁ、彼といっしょなの」


 なろう系のイキリ主人公みたいに上から目線で偉そうに二人の班入りを許可しているのに、美音とほの香はうれしそうに彼に媚びていた。


「ほら、早く梨衣も書いちゃいなよ」

「うんうん」


 書き終わった二人は私に一班に名前を書くよう促し、ほの香は私に赤というよりピンクに近い色のチョークを手渡してきていた。


「あ……うん……」


 私は無意識の内に振り返り、唯一私のことを打算的な目で見ていなかった鈴城くんへと視線が向かってしまう。


 でもただのクラスメートで、という彼の言葉を思い出し、前を向いて同調圧力みたいなのを感じながらも、これも私がまたいじめられたりしないための防衛策だと割り切り、自分の名前を書きこんだ。


「ありがとう、梨衣。梨衣と一緒の班になれてうれしいよ」


 美音とほの香には明らかに見下した態度をとっていたのに、木崎くんは手を伸ばし私に握手を求めてくるが……。 


「まだ他にも人が控えているから」

「はは、そうだったな。ごめんごめん」


 私はずっと遠慮して待っているクラスメートたちのことを口実に握手をやり過ごした。


 真莉愛は相変わらず我関せずといった具合。


「梨……伊集院さん……」


 木崎くんたちが話すには最上位のカーストである私たちの班決めを黒板のそばでじっと見つめている女の子がいた。


 その子はしおりちゃん……。


 栞ちゃんは中学時代から相変わらず学級委員をしているが、容姿の変わった私を木崎くんのそばからじっと見つめる彼女はいまの私をどう思っているんだろう?


 ううん……。


 栞ちゃんはなにもできない。なにも変えられない。彼女に期待するのはもう止めたんだから。


 ただ私を恨めしそうに見つめる栞ちゃんに助けてくれなかったくせにっ! って、思いながら彼女を睨んだら、栞ちゃんはただ下を向いてしまう。


「おう、美音、ほの香! よろしくやろうぜ」


 私たちの席に戻り際に浜田くんの席の前を通ると、手のひらをこちらに向けながら彼が声をかけてくる。


「しゃーない、浜田の面倒も見てやるかぁ」

「だねー」

「ああ? なんだよそれ。俺じゃ不服か?」


 顔をしかめる浜田くんに対して、美音とほの香はひとこと言って、手のひらを叩いて席に戻っていた。


「ま、他よりはいいかな」

「うんうん」


 まだ、同調圧力に負けてしまったことを後悔して、二人より遅れて歩いていると、


「伊集院、俺……おまえと一緒の班になれてうれしいぜ」


 と声をかけられたが、私はぜんっぜんうれしくない!


「あ、うん。そうだね」


 私は手をかざす彼に触れるもせず、適当な言葉でお茶を濁して、席に戻っていた。



 えっ!?



 クラスのみんながそれぞれ仲良い子たちと班を組み終わろうとするころ、栞ちゃんは唯一メンバーが埋まっていない鈴城くんの班に名前を書きこんでいて私は口に手を当て、声を殺して驚く。


「みんな書き終えたか?」


 木崎くんがみんなの顔を見回して訊ねると、

真莉愛が立ち上がり、


「まだだ、あたしを忘れんなよ。木崎」


 教卓の前の彼を押しのけて、鈴城くんの八班に名前を書いて、彼らにあいさつしていた。



 栞ちゃんと真莉愛と鈴城くんが同じ班だなんて、そんなことあるの!?



 栞ちゃんに真莉愛と鈴城くんに私の過去をバラされでもしたら、苦労して成し遂げた高校デビューもぜんぶ消えてしまう。



 とうすれば、どうすればいいの?



 私が真莉愛を見習って、自分の意志で決めようと思っていたときだった。



 ――――経世いくなっ!



 寿先生が鈴城くんの名前を寝言で叫んでしまっていて、クラス中が騒然となってしまったけど、


「どうせ、鈴城が玉田みたいに馬鹿やってる夢でもみたんでしょ」

「だよねー!」


 美音とほの香がそういうとクラスのみんなも、それで納得してしまい、騒ぎは収まった。


 私は違うと思った。


 寿先生と鈴城くんは過去に絶対に深い仲にあったんじゃないかって。


 なんだろう……すごくもやもやしてくる。



 寿先生だけじゃくて……栞ちゃんや真莉愛が実は鈴城くんのことを想っていたら。


 そうだ! 


 私も一班からこっそり抜け出して、鈴城くんの班で行動すればいいんじゃない!


 そうすれば、栞ちゃんと真莉愛が鈴城くんに変な気起こさないか監視できるし、一応木崎くんたちと美音たちに合わせたことになる。


 だ、誰にも……経世くんを渡したくないんだから……。


―――――――――――――――――――――――

ライバル多すぎ問題に、過去バレの危機。梨衣たそはこの大ピンチを乗り越えられるのか?


作者もどうすればいいの? という局面に来てしまいました。4万字程度書いてるんですが、まだまだ先が読みたいという読者さまがいらっしゃれば、フォロー、ご評価いただけますとありがたいです。

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