第15話いない(後編1)

小学生の時。



 叔父さん夫婦には子供が居なかったので、俺の事を実の子供の様に可愛がってくれている。

 今は父さんと母さんと叔父さんと叔母さんでデパートに行った帰り道だ。

 歩行者用の信号が青になり、横断歩道を渡っていたら、突然叔父さんに突き飛ばされた。『叔父さん何で?』と思いつつ、飛ばされながら叔父さんの方に顔を向けると、叔父さんが車に撥ねられていた。

 俺を信号無視の車から守ってくれたのだ、と理解した。

 突き飛ばされたので多少の怪我は負ったが気にならない。

 叔父さんの元へと駆け付けた。

 父さんに止められたが、振り切って、血塗れの叔父さんの手を握ったが、握り返してはくれなかった。叔父さんの血と、俺の涙が延々と流れ続けている。


 暫くして救急車が来たが、その場で叔父さんの死亡が告げられた。


 叔父さんが俺を庇って死亡したショックで暫く自宅から出られなかった。


 その後は、数年間は恐怖感が蘇って来て苦しんだ。ニュースで交通事故の話題になると、息苦しくなり、数分間動けなくなった。

 

 しかし更に数年が経過すると、記憶も事故の直接の薄れてきたのだろう、ニュースで交通事故の話題が流れても聞き流せるようになった。





 やばいやばいやばいばやいやばいやばい

 ふらっしゅばっくってしろものだ

 なにをどうしたらいいんだ

 わからないわからない

 だれかだれかだれか

 たすけてくれ

 たすけて

 だれか

 いきが

 なにかの音がしたので、息苦しく泣きながらどうにか顔を向けると、チャーちゃんが居た。

「ごめんね、もう大丈夫だから」

 強く抱き締められた。

 顔が胸に圧迫されている。

 あーそうだチャーちゃんがいたんだ。いるのにいないことになっているのをわすれてた。

 顔を胸に当てたまま、丁寧に呼吸を整える。

「ごめんね、ボクがクダラナイ事をしたばっかりに、辛い事を思い出させちゃって、ホントにごめんね」

 チャーちゃんはなみだごえになっているので、ないているのだろう。


 そうだ、思い出した。小学生の時も自宅にこもっている俺にチャーちゃんは毎日会いに来て勇気づけてくれたんだ。幼稚園時代に一目惚れした相手が、毎日励ましに来てくれたお陰でどうにか回復したんだっけ。それで更に好きになったんだ。




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