第14話いない(中編)

 この本も五回は読了しているので、もう内容は完全に頭の中に入っている。

 なので読んでいても読んでいなくても構わない本なので、脳を別な作業に割り当てられる。

「趣味を何か持った方がいいのかも知れませんね。でも興味があって一番好きで、一番楽しい事はチャーちゃんの存在ですから。趣味はチャーちゃんと言うべきでしょうか?」

 履歴書の類には書けませんが。

「それにしましても、チャーちゃんは何処に行ったのでしょうか? 推測のしようがありませんが。あれほどまでに可愛らしい方が街を歩いて居たら、十歩毎に、いや、一歩毎にナンパされる危険性がありますよ。それよりも更に厄介なのが芸能事務所からのスカウトですね。チャーちゃんを一目見た瞬間に敏腕マネージャーが放っておく訳がありませんから。逆に敏腕マネージャーでも怖じ気づいてしまうかも知れませんね、チャーちゃんの愛くるしい容姿を直視したら。でも本当にチャーちゃんならスグにでもトップアイドルになれるでしょうに、そうしたら……」

 ここから先は口にしたら駄目ですね。『チャーちゃんがアイドルになったから別れて捨てられる』は想像したくありませんから。少しだけ黙って本を読みましょう。


 十分が経過しました。

 さてと、どうしたものでしょうか? 押し入れの中から時折小さな音が発生しているのでチャーちゃんが居るのは確定です。しかし、どのタイミングで出てくるつもりなのでしょうか? 第一トイレに行くのをずっと我慢しているのでしょう、今現在進行形で。隙を作らないといけませんね。

「喉が渇きましたね、台所で何か飲むと致しましょう。五分くらい掛かるかも知れませんね」


 台所に行き、五分後に居間に戻った。室内に変化は無し。

「チャーちゃんに連絡をしてみるべきでしょうか? しかしながら、何かを楽しんでいる最中でしたら、邪魔をしてしまうのも悪いですし。悪いと言えば、悪い目に遭っていなければいいのですが。誘拐、痴漢、暴力、交通事故とか…………」

 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、スイッチが入った。どうしよう、この感覚は十数年振りだ。

 キツイ。

 息が苦しい。

 呼吸が荒くなっている。

 涙出て来た。

 鼻水も垂れている。

 ヤバイ、叔父さんの交通事故を思い出した。

 息がうまく出来ない。

 ヤバイ。

 キツイ。

 苦しい。





 


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