第13話いない(前編)

 帰宅し、インターフォンを押しましたが反応がありません。

 チャーちゃんは買い物にでも出かけているのでしょうか? いつもならば連絡がある筈なのですが。

 スマートフォンを取り出し、確認しましたが、チャーちゃんからの連絡はありませんでした。

 たまには黙って出かける事もありますよね。

 そう納得して、マンションの自宅へと向かいます。


 自宅へ入ると、食卓上に置き手紙がなされていました。

『少し出かけます、今日中には戻るので心配しないで下さい。茶美』

 食卓上には一人分の料理が置かれています。

 フーム、妙ですね。普通にチャーちゃんが文章を書いたのならば、こんな風には書かないでしょう。目的地とおおよその帰宅時間と愛の言葉は書いていく筈ですよ。まるで誰かに無理矢理書かされた? 書かされたのだとしたら状況は誘拐された……それは考えすぎでしょうか?

 玄関に戻り、靴を確認したが、チャーちゃんの靴は全て残っていた。

 靴を履かずに外出する現代日本人は基本的には居ません。拠って裸足で外出したとは考えられません。


 食卓に戻り、再度手紙に目をやりました。

『少し出かけます、今日中には戻るので心配しないで下さい。茶美』

 チャーちゃんは無理矢理運び出されたか、室内に居るのかの、二択ですね。

 大きく深呼吸を繰り返します。目的はリッラクスではなく匂いを集める為。

 チャーちゃんの匂いがしますね、ちょっと甘い感じの香水の。

 居間に移動すると何となく視線を感じました。

 軽く柔軟体操をするフリをしながら、部屋中に視線を送ると、押入れが僅かに開いているのに気が付いた。

 恐らく、押し入れの中にチャーちゃんが隠れていますね。でも目的は何でしょうか? 単に驚かすだけならば置き手紙は必要ないでしょうし。そうしますと、チャーちゃんが居ない時に俺がどんな行動をしているのか知りたいのでしょうね。隠してあるお菓子を食べるとか、コッソリとエロ動画を鑑賞しているとかを。そんな様子を覗き見したいといった所でしょうね。生憎ながらその期待には応えられませんけど。あんなにもロリ巨乳な、エロエロな素晴らしい肉体を持った彼女が居るのですから、エロ動画は不要なんですからね。そう考えてみると、チャーちゃんは此処二十年位容姿があんまり変わっていない気がします。


 手洗いとうがいを済ませて、再度居間に戻ります。

 うがいをしながら今後の方針をまとめてみた。行動前には全部声に出してから行動を起こす、その方がチャーちゃんにも分かりやすいでしょうから。普段は行動予告をしませんが。

「はてさて、晩御飯はどうしましょうか? チャーちゃんが帰ってくるまで待っていましょう。二人で食べた方が何倍も美味しいですからね。チャーちゃんの分は帰って来てから作る事にしましょう。チャーちゃんが帰宅する迄は何かをして時間を潰す事に致しましょう。とは言っても俺は趣味らしい趣味はありませんからね。敢えて言うのならばチャーちゃんが趣味であると言えますね」

 本を一冊取り出して、畳に座って読み始めました。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る