第12話チケット

「ランランラーン、ランランラーン、ランランランーン」

 上機嫌なチャーちゃんがニコニコしながら近づいて来ています。

「何か良い事があったのですか?」

「うん、良い事があったよ。何だと思う? 当ててみてよ」

 そう来るだろうとは思っていました。さてと、今回も脳味噌をフル回転させて難問に挑まないといけませんね。先天的に察する力が高いのはアリガタイです。お父さんとお母さんありがとうございます。チャーちゃんに関しての先読みする力は必須だったので必然的に高まりましたが。とは言っても読み間違えて不機嫌にした事は、殆ど無いのは誇っていいでしょう。それとも世の中の彼氏は全員この能力を習得しているのでしょうか? 違いますよね。友達と話をした時には『海地の話は全部ノロケだよ』って言われましたから。

 さてと、余計な事を考えずに、チャーちゃんの望む答えを導き出すと致しましょう。物凄い上機嫌でニコニコしていますね。もしかして、子供が出来たのでしょうか? それならば最上級の喜びですけれども、もしもそうならばチャーちゃんはもっともっと上機嫌になっているでしょうから違いますね。フーム、なんでしょうね?

「ランランラーン、ランランラーン、ランランランーン」

 チャーちゃん独自の鼻歌ですね。普段の鼻歌なら『フンフンフンフンフン』的な感じで歌っていらしゃるのに、今は『ランランラーン、ランランラーン、ランランランーン』ですね。これもヒントになっているのでしょうか?

 『ラン』で始まる言葉を探してみましょう。ランチ、ランデブー、乱闘、卵管、欄干、ランドセル、卵黄、乱気流、ランキング、ライオン、ランジェリー、ランド、ランニング。うーん、『ラン』から攻略の糸口を見つけるのは難しそうですね。状況からヒントを得ましょうか。

 チャーちゃんは買い物帰りで、変装用のサングラスと帽子を被っています。素顔で外出すると、あまりの可愛さに誘拐とナンパが心配なので俺が強く勧めました。

 チャーちゃんは後ろ手に何かを隠しています。つまり、その隠している物を当てれば良いんですね。えーっと、買い物帰り、買い物、近所のスーパーマーケット、スーパーマーケットで凄く安かった、又はスーパーマーケットで何か貰った。貰って凄く嬉しい、尚且つ、俺がその物を知っている前提でチャーちゃんは話を進めようとして出題している。まとめますと、解答を導き出す為には過去の話を思い出す必要がありますね。

 記憶を遡りつつ、時計を確認すると、出題からの経過時間は現在五秒経過。

……ああ、思い出しました、三か月位前にスーパーマーケットで遊園地のチケットの応募をしたって話を聞きました。凄く楽しそうに話していたので一際強く印象に残っています。これでしょうね。

 時計を確認すると、出題から七秒が経過しています。

「遊園地のチケットが当選したのではありませんか?」

 チャーちゃんは一瞬真顔になり、その後、破顔なさいました。

「うん、そうだよ。スーパーで応募してた遊園地のチケットが当たったんだ。凄く楽しみにしてたから、とっても嬉しいんだ。それにしてもホントにいつも、ボクの事なんでも当てちゃうね」

 チャーちゃんが遊園地のチケットが入っているであろう、封筒を差し出してきました。

「当然ですよ。チャーちゃんの事が大好きですから」

 この言葉に対して、チャーちゃんの反応は何故か膨れっ面です。

 何が気に障ったのでしょうか? 大大大大大大大大大大大大大大大大好きと言うべきでしたか?

「ムー、カーイ君はボクの事を何でも当てちゃうけど、ボクはカーイ君の事を当てられないのは不満なんだ。だから今からカーイ君の事をよく知りたいと思うので実験をするよ」

 流石になんでもかんでもチャーちゃんの考えを当てらえる訳ではありませんが。でも実験がしたいとのでしたら、喜んで協力いたしましょう。

「俺は何をすればいいのですか?」

「そうだね、ある事を……なんでもいいから、ある事を想像してみてよ。ボクがそれを当ててみせるからさ。なんでもいいじゃ、カーイ君も困っちゃうよね。単語で答えられる物にしてよ。それで、想像した物に対してどう感じているのかを顔だけで表現してみせてよ。決めるのに三十秒、どう表現するのかに三十秒で、合計六十秒後に表現してね」

「分かりました」

 これ一般的には無茶振りと呼ばれる代物ですね。でもそんな無茶振りをしても俺ならば応じてくれると信頼してくれているからですよね。ある意味想像する物は一択ですけども。チャーちゃんもそれを想像する事を望んでいるでしょうから。

「ちょっと鏡を取って来るからね」

「はい」

 鏡を何に使うのでしょうか?


 鏡を持ってチャーちゃんが戻って来ました。

「それじゃあ想像してみて」

「はい」

 その物を想像すると、顔は自然にその物に対する表情になります。

 鏡を向けられると、当然ながら俺の顔が写っています。

「想像した物に対して、この表情で合ってるの?」

「はい、合っていますよ」

「特上のスマイルだね。すると、カーイ君にとってとても幸せな物だね……分かった想像したのはボクだ」

「はい正解です」

「ワーイ、やったー、ボクもカーイ君の考えが当てられたよ。カーイ君、だーいだーいだーい好き」

「はい、俺もチャーちゃんだーいだーいだーい好きですよ」

 二人で強く抱き締めあいました。

 もしかしてですけど、『ランランラーン、ランランラーン、ランランランーン』の『ラン』は遊園地のランド、のヒントになっていたのかも知れませんね。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る