第10話ハロウィン

 ソファに座っていますと、やや険しい表情のチャーちゃんがやって来ました。

 どうやら仕事が上手くいっていないようですね。

「ハロー」

「ハロー」

 言われた挨拶をそのまま返しました。

「ウィーン」

「ウィーン?」

 意味は分かりませんがオウム返しです。

 チャーちゃんがそのまま近づいて来て、ギュッと抱きしめて来たので、抱きしめ返します。

 やはり仕事が上手くいっていないのですね。

 背中を優しく撫で続けてあげました。とは言え、柔らかい体と更に柔らかい胸が密着しているこの状況で下心をゼロにするのはそうと難しい生業です。

 仕事に関しては此処は聞き役に徹するべきですね。

「あのね、仕事の依頼でハロウィンの衣装を、衣装だけじゃなくて小物類もなんだけど、兎に角ハロウィンの衣装類を考えなくちゃいけないんだ。でもいいアイデアが全然浮かんでこないの」

「それは困りましたね」

「うん、そうなんだ。ボクとっても困ってるんだ。だから一緒にアイデアを考えて欲しいんだよね」

「はい、チャーちゃんのお役に立てるように粉骨砕身で頑張ります」

 チャーちゃんのお願いでしたら、青天井で叶えますよ。

「うん、ありがとう。それでね、依頼主からのターゲット層は全年齢なんだよ。今迄ハロウィンに触れた事の無い層の人々にも浸透させてくれって、注文なの」

 全年齢老若男女をターゲットって、ターゲットが全く絞れてませんよ。ターゲットの意味がありません。コレは『なんでもいいから』と言っておいて『なんでもいい訳ではない』のパターンに似ていますね。こんな指示では困るなと言うのが無理ですよ。

「でも一般的なありきたりな物じゃ、先方は納得しないのは分かり切っているから、なにか良いアイデアを一緒に考えて欲しいの」

「成程、そう言った状況なのですね。ハロウィンは通常オバケやモンスター、怪物、死者等の仮装をする物ですよね」

 ハロウィンに関してはあまり詳しくは無いのです。他に知っている事はトリックオアトリートもありますが。チャーちゃんならばロリックオアロリータでしょう。

 背中を撫で続けていますが、この状況でお尻を撫でたら怒られるでしょうか? 不謹慎なので止めておきましょう。

「うん、そうだよ。有名なモンスターとして、ドラキュラ、狼男、ミイラ、キョンシー、魔女、ゾンビ、悪魔、ゴースト、この辺りの仮装。別な言い方だとコスプレをする人はテレビで放送してたでしょ。言い換えると、ありふれてるって事。でも無名なモンスターの衣装を提案しても知名度が無いって理由で却下される思うんだ」

「確かにそうですね、メジャーならばありふれている、マイナーならば新鮮だけど知らないので興味を持たれない。うーん、両方の良い所取りが出来れば良いのですけど難しいですね」

 うーん、良い所だけを合わせる。うーん、合わせる。

 俺の額とチャーちゃんの額を合わせています。

 今は唇を合わせるのは控えておきましょう。

 こうして至近距離で確認してもやっぱり可愛いですね。全身密着していて額も合わせているこの状態では、他の所も合わせたいのですが。合わせる、合体、合成。合成モンスター、キメラ。キメラの様にも衣装も合わせる。

「あ! こう言う案はどうでしょうか?」

 チャーちゃんを横に降ろして、紙と鉛筆を持って戻って来ました。

「合成するのはどうでしょうか? 簡単な物ですと、ドラキュラのマント、狼男の腕、ミイラの服、下半身は悪魔、そんな感じで各パーツを複数用意して購入者が自分だけの組み合わせを選んで楽しめるように」

 絵を描くのは得意ではないのですが、言いたい事は伝えられる程度には絵は完成しました。

「うん、スッゴクいいね、それ。そうしたら、色違いで用意すれば選択肢がぐっと広がるね。右手は赤で、左手は青、或いは両手共黄色にしたって良いんだし。うん、何か良い感じで出来そう。ありがとう、早速仕事に取り掛かるね。コレはお礼だよ」

 唇と唇が五秒程触れ合いました。

 チャーちゃんは目を輝かせて、仕事に行ってしまいました。

 コレは数日間から十日以上掛かるパターンな気がします。

 チャーちゃんの感触を思い出して、今夜は寂しく一人で寝るとしましょうか。



 チャーちゃんがハロウィンの仕事に取り掛かってから、二週間が経過しました。

 マンションの郵便受け『三千岩海地・甘西茶美』を確認して、郵便物を回収して、自室へと向かっています。

 同じ家に住んでいるのに、此処二週間、殆どチャーちゃんのお姿を拝見できていません。辛いです。そろそろチャーちゃんの顔をじっくりと見たいものです。

 スマートフォンのには大量の写真と動画

がありますが、やはり実物が一番ですから。


 自宅に入ると、ミイラ女が居ました。

 正確には包帯らしき物を全身にまとったチャーちゃんですが。

「ハロウィンの仕事終わったんだ。ずっとカーイ君と会えなくって寂しかったよ」

 ミイラ女が抱きついて来ました。

 やはりチャーちゃんも同じ気持ちだったんですね。以心伝心はこう言う状況では使う物ではないのでしょうが。

「今日はハロウィンじゃないけど、トリックオアトリート?」

 お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ、って代物ですね。

 お菓子は持ってますけど、渡さなければ性的なイタズラをされて、渡したら性的なイタズラをしても良いって事ですよね。どっちが先かの違いですけど、お菓子を渡して先にイタズラ致しましょう。










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