第9話屁

 自宅の食卓にて夕食を終えて、チャーちゃんはさつま芋のケーキを召し上がっています。

 嬉しそうに食べている姿を見ると、こちらも嬉しくなります。

「今日、調べ物をしている時に見つけたんだけどね、昔は屁負比丘尼って職業があって、身分の高い女性の身代わりになって、自分がオナラをした事にして申告してたんだって」

「そうなのですか。不思議な職業ですね、背景はどのような感じなのですか?」

 始めて聞きましたね、そのような仕事の事は。

「昔、江戸時代だね。身分の高い女性が人前でオナラをするのはとてつもなく恥な行為だったらしいの。引きこもったり自害したケースもあるんだって。だからそれを防ぐために普段はお世話係として常駐していて、非常時にはさりげなく自分が粗相をしましたってアピールしてたんだよ。試しに『へおいびくに』って入力すると一発変換できたから、ちゃんと知名度のある言葉みたい」

 身分の高い女性の話とは言え、現代とは価値観が全く違うのですね。今現在でも残っているのだとしたら、ハローワークの求人欄にも掲載されているのでしょうね。

「成程、現在からは考えられない話ですね。オナラと言えば、東下缶一のオナラの話はした事がありましたでしょうか?」

「東下缶一ってヒガシ君だよね、久し振りに名前を聞いたけど。ヒガシ君のオナラの話は聞いて事が無いと思うよ」

 俺とチャーちゃんは同い年で幼稚園小学校中学校高等学校が同じなので共通の友人も多くいます。

「そうですか、高校時代にヒガシを含めて五人で遊んでいたのですが、その時にヒガシがおならをしました、それがアニメのオープニングのイントロ部分にそっくりの音だったのです。屁のイントロで屁ントロ、屁ントロクイズって盛り上がって馬鹿笑いをしてましたよ」

 懐かしいですね、十年位前の話でしょうか。ずっと長い事忘れていましたよ。

 プー。

……問題です、正確には大問題が発生しました。

 問題、この部屋には俺とチャーちゃんの二人が居ます。オナラの音がしましたが、屁音の主は俺では無いと確定している場合、オナラの発信者は誰になるのか答えなさい。

……解答、チャーちゃんです。

 でもチャーちゃんのオナラを聞くのは始めての気がします。さて、今の話を直後でどのように反応すればよいのでしょうか?

 気づく気づかない、どちらの選択肢が正解でしょうか? 仮に気づくを選んだ場合は、なんて声を掛ければ良いのでしょう? 

 仮定の話ですが、この場に三人居れば、俺がチャーちゃんの身代わりとして名乗り出る事も可能ですが、実際には二人しか居ませんから放屁した本人に対して身代わりを申し出るのは不可能です。俺もスグにオナラをして『お揃いですね、仲良しですね』って言えれば良いのですが、オナラってそんなに自由自在に出せる物ではありませんから。

 幸いな事に屁音はそんなに大きくありませんでしたので気づかなかったフリをするのは可能ですね。とは言え、急に話題を変えるのも不自然ですし……。

「オナラ出ちゃったごめんね」

 チャーちゃんから申告して頂けたので助かりました。

「いえいえ、オナラが出るんは大腸が健康な証拠ですよ」

 思い付きを口にしてみましたので、実際の所は分かりません。

 チャーちゃんのオナラなら集めて香水が作れますよ。でもコレを伝えたら呆れられそうなので黙っておきましょう。

 ブーーーーーーーーーー。

 とても大きな音がして、チャーちゃんが赤面しています。

 ヤバイ、照れている姿は最上級に可愛いです。でも後日オナラの事を話題にしたら嫌われそうなので、今後オナラの話は止めておきましょう。

 今の音は、屁ントロクイズだと、似た曲はありませんね。


   





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る