第5話ダメージゼロコーラ
「ジャーン、今日スーパーに行ったら、タダで良い物を貰ったんだ」
「それは良かったですね。どうして無料で貰えたんですか?」
「試供品だって言ってたからだよ。所で何だと思う?」
チャーちゃんは隠しているつもりでしょうが、後ろ手にした背後にコーラが見え隠れしています。
さて、これはどっちなんでしょうか? 意図的に見せているのでしょうか、それとも偶然見えてしまってるのでしょうか? それと無く分かった感じで答えてみる事にいたしましょう。
「そうですね、俺は今喉が渇いていますので、ジュースか何かの飲み物ですと嬉しいです」
「それなら丁度良かった。ジャーン、正解は七百五十ミリリットルのダメージゼロコーラでした」
んんん? 今変な事を口にしませんでしたか? ダメージゼロコーラって聞こえた気がします。ダメージって、ダメージジーンズや、三十五ポイントのダメージを与えた、的に使用するダメージですよね。即ち傷や痛みを意味する言葉の筈。そう考えた場合、ダメージゼロコーラって何ですかね? カロリーゼロコーラならばよく聞きますが。聞き間違いでしょうか?
「すみませんが、もう一度繰り返して頂けますか?」
「うん、いいよ。おはよう、今日は暖かくなるみたいだよ。それと夕方に買い物に行ってくるけど、何かリクエストはある?」
はい違います。今朝の会話を繰り返して欲しい訳ではありません。ですがチャーちゃんの可愛らしいボケが聞けたので感謝いたしましょう。
「って言うのは冗談だよ。ちゃんとやるね。それなら丁度良かった。ジャーン、正解は七百五十ミリリットルのダメージゼロコーラでした」
結局のところ、明らかにダメージゼロコーラって発音なさっていますね。どう考えても聞き間違いではないです。チャーちゃんはダメージゼロコーラ、と意図的に発言をしている、ここまでは確定事項とします。問題点はチャーちゃんが何故ダメージゼロコーラと言っているのかです。可能性としましては、試供品を渡した店員さんが言い間違いをしたのをそのまま覚えて、そのまま発音している為。或いはボトルに書かれている文字を読み間違えている。この線は充分にあり得ますね。チャーちゃんは以前にビタミンとピータンとピーマンを読み間違えった実績がありますから。もしくは、チャーちゃん本人はカロリーと言っているつもりでも、口から出ている言葉はダメージとなっている可能性もあり得ます。カロリーとダメージはあんまり似てはいませんけど、全く似ていないとも言い切れない単語同士ですから。ですのでチャーちゃんが間違えていたとしても仕方の無い部分です。さてと、どうしましょうか、チャーちゃんを傷つけずに訂正、指摘をするのには……。俺は商品名を何と呼べば良いのでしょうか? うーん、難しい問題ですね。出来る事ならばチャーちゃん自身で気が付いて頂けると良いのですが。それとなーく、遠回しに話を進めてみましょう。
「すみませんが開栓前に、コーラの実物を見せて頂けますか?」
「うん、良いよ、はい、どうぞ」
コーラ一つでこんなにも悩めるなんて、ホントにチャーちゃんと一緒に居ると退屈しなくて刺激的で、楽しい毎日です。
チャーちゃんからコーラを受け取り、ラベルの文字をしっかりと確認しました。
『ダメージゼロコーラ 七百五十ミリリットル』
実際にそう言う商品名だったんですね。色々と疑ってゴメンナサイ。
ペットボトルのコーラを抱えながら反省しています。
「それはどう言う表情なの?」
ポカンとした表情のチャーちゃんに尋ねられました。
「え? 俺は今どんな表情をしていますか?」
「うーんとね、恥ずかしさと悔しさと申し訳なさと安心感が入り混じってるみたいな表情だよ」
そう見えるのでしたら、まさしくそれが正解でしょうね。
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