第4話心理テスト

「フンフンフーン、フンフンフーン」

 上機嫌のチャーちゃんが手に本を持って近づいて来ています。題名は手で隠れていて確認できません。

 一体何でしょうね、又なにか面白い事を考え付いた、みたいな表情をなさっていますね。とても可愛らしいです。

「フフフーン、今から心理テストをするよ。難しく考えないで素直に正直にまっすぐな気持ちで自分を信じて答えてね」

 難しい注文かもしれません。チャーちゃんはこちらが過剰なほどに神経を回さないと極極極稀に不機嫌になる時がありますからね。まぁ、その時の拗ねた顔も可愛いのですけれども。

 読んでいた本を閉じて机上に置きました。

「はい、それでは心理テストをお願い致します」

 さてと、頭をフル回転させて、最上の解答をお届けしないといけませんから、一時たりとも気が抜けません。

「それじゃあ始めまーす」

 出題者の吞気そうな声とは裏腹に、こちらは既に軽い緊張状態になっている。

「あなたは、無人島に行く事になりました。一つだけ持ち物を持ち込む事が出来ます。さて、一体何を持ち込みますか?」

 成程、この問題ですか。心理テストではなくても、よく聞く問題ですね。話の種として議題に上がる事が多い出題だと思うんですけど。解答としましては、火を点ける道具、十徳ナイフ、水のろ過装置等が一般的な模範解答でしょう。少し変わった所ですと、無線通信機一式、眼鏡、トレーラーハウス、毒薬、オールを含んだイカダ、この辺りですね。或いは日本列島、瞬間移動装置、無人島に行かない、と言ったトンチ的な解答方法もありでしょう。所が今回は心理テストの解答として、チャーちゃんの喜ぶ解答を導き出さなくてはなりません。しかも解答権利は一回のみと来ています。そう考えますと、結構ピンチかも知れませんね。

 腕を組み、無言で考察をしつつ、チャーちゃんの表情を凝視します。

 ニコニコとしていて、期待に満ちた眼差しをこちらに向けていらっしゃいます。

 これは絶対に外せないパターンですね。


 外した場合は『フーンそんな人間だったんだね、ボク幻滅しちゃったよ』と、こうなる可能性は充分にあり得ますね。今迄にそんな冷酷なチャーちゃんを見た事はありませんが、今迄無かった事が、今後も無いと言う保証は何処にもありませんから。


 少しばかり無言でいる時間が長かった為でしょうか、チャーちゃんが可愛らしい口を開きました。それにしても、全てのパーツが可愛くて愛おしいです。

「もう一回問題を言うね。あなたは、無人島に行く事になりました。一つだけ持ち物を持ち込む事が出来ます。さて、一体何を持ち込みますか? そんなに深く考えなくってもいいんだよ」

 暗に早く解答しろと、促しているのでしょうか? そうでは無いのでしたらば無自覚の重圧ってとても怖いです。ですがこれ位でビビッていたら、チャーちゃんの彼氏は務まりません。少し探りを入れてみましょう。

「チャーちゃんは心理テストの本の解答を読んだのですか?」

「うん、読んだよ」

「そうですか。それで何と解答なさったのですか?」

「ボクはね、オレンジジュースって答えたんだよ」

 無人島に持って行くのにオレンジジュースですか、なんとも可愛らしくて独創的でユニークな発想です。解答時にオレンジジュースが凄く飲みたかったのでしょうね。

「この後でオレンジジュースを買いに行きましょう」

「本当? 嬉しいな。ワーイ、ボクオレンジジュース大好き。でもカーイ君の方がもっと大好き」

「ありがとうございます。俺もチャーちゃんが大好きですよ」

 チャーちゃんが求めている答えが分かりました。これは心理テストの本の解答とは関係の無い、愛情確認テストですね。

「無人島に持って行く物は、チャーちゃんに致します」

 俺の答えを聞いて、チャーちゃんの表情が一気に明るくなりました。そのまま抱きついてきました。

「良かった、この問題の解答結果はね、『あなたが何を大切にしているのかが分かります』って書いてあったんだよ。ボクの事が一番大切だって事だよね」

 胸に両頬を擦り付けてくる姿が可愛らしくて、柔らかくて気持ちが良いです。

「当然ですよ。一番大切で一番大事です。それではオレンジジュースを買いに行きましょうか」

「うん、行こう」

 気掛かりな事が一点ありますね。この心理テストに拠りますと、チャーちゃんの中では俺よりもオレンジジュースの方が大切って事になりますけど。

……いいんです、これから逆転出来るように努力するだけの話ですから。









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