1-6・200歳まで☆
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こうして100年の人形期間を経て目覚めた私は、翡翠や母樹と外の世界で過ごすようになった。
ハルカとも、初代ユーリカとも、記憶を追いながら勉強したり、この世界について教えて貰ったりした。
ハルカは相変わらずだし、初代は寡黙なまま、たまに翡翠に毒づいている。
3人で100年を過ごした。
そうして分かったのは、
私は【初代ユーリカの魂にくっついている魂のようなもの】であるということだった。
初代ユーリカの魂が作った身体に、【ハルカ】と【初代ユーリカの魂にくっついている魂のようなもの】である私が入り込んでしまったんじゃないかな、っていう仮説を一人で立て、しばらく検証期間を置いた。50年くらい。
その50年で、自分の身体と心の使い方を学んだ。思ったことや考えたことが二人に全て筒抜けになってしまう事も少なくなった…と思う。
お互いに感じ方も考え方も違うから、自然と心の中の間取りも変化していった。
1つのリビングとは別に、3つのお部屋ができて棲み分けができた感じっていえば分かりやすいかな?
ちなみに初代のお部屋はパンクで、ハルカのお部屋は山を一望できる温泉旅館使用だと言う。
私のお部屋は畳と縁側と、炬燵と蜜柑と、桜の木でできている。
150歳の誕生日の頃、私はこの【初代】の身体が成長しないのは【ハルカ】と【私】のせいなんじゃないかなということに気が付いた。
この身体に、私たちがいてはいけないんじゃないかな?と思ったのだ。
ハルカの魂と私の魂を、別の身体か、身体に代わる何かに移すことができればいいのに。
それを伝えると、初代は(『このままでいい』)と言った後、自分の部屋に籠ってしまった。
(『引きこもっちゃったか~』)
(反抗期?)
(『ちょっと違うかな?まあ、大丈夫だよ』)
もし私たちをこの身体から追い出せるとしたら、それは初代だけだと思う。そう言いかけて、私はハタと顔を上げた。
本当にそうだろうか。
この身体の主導権は私にある。
私にもできるんじゃないかな?魂を移動させることが。
(私が【やり方】を探せばいいんだ。)
そうすれば【初代】に【ユーリカ】の身体を返すことができるんだから。
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「お前はこの世界神樹から生まれたのだから、お前から出る物も大体植物といっしょなのである」
「ほうほう?(また始まったよ、おしりペロンの話)」
(『いつも思うんだけど、植物と一緒は違うと思うんだよね~?
だって母樹さんと違ってユーリカは色々食べてるしねぇ。肉とか、魚とか』)
(あれ、でも赤ちゃんの時のンチはそうなのかな?
…でも嫌なものはイヤだよね、自分の身体から出たものだって触りたくないもん)
だから単純にすごいな~とは思うんだよね。
生き物の…翡翠さんの父性本能はすごい。
「母樹が【私】の身体を生んで、母樹と精霊たちと翡翠が頑張って守って育ててくれたんだね、ありがとうね」
私がこれを言うと大体翡翠は満足して話が終わる。
(『記憶が無かった間も無事に生きてこれてるわけだしね~!100年ってすごいよ?100年子育ては、何回聞いても尊敬する。いやー、すごい』)
だよね。ハルカに同意して頷いて見せる。
「ありがとう、翡翠」
「うむ」
翡翠の鼻からフシュー、と息が漏れる。
「お前の今の身体が生まれた時は乱世を引きずり、まだ世界が荒れておってな、
お前に必要なものを手に入れるのにも苦労してだな」
(あれ?終わらなかった。今日はロングバージョンか…)
「うんうん、そっか、大変だったね~」
(『翡翠、この100年ずっと子育ての話を何回も何回もしてるし、もしかして…ぼけてきたのかもね~』)
「ボケて…?」
「ぼけてきとらん」
「そうだね、ボケてないボケてない」
「フン、まぁ今日はユーリカの200歳の誕生日だからな。これでもう成体となったとみなしてやってもよいであろう」
私は自分の身体を見下ろしてみる。地面は近いし、まだおムネもくっついていない。
「まだ成体になってないけど…?」
(『200歳か~!おめでとう!』)
(『…おめでとう』)
なんて言えばいいのかな。
(『「ありがとう」でいいんだよ』)
(そっか)
(ありがとう、二人とも)
200年。
そんなに生きてたかな?っていう感覚と、
もっともっとずっと長く生きてたんじゃないかな?っていう感覚があって。
これは初代の数億年の記憶ってやつがあるからなのかな。
翡翠や母樹と過ごすようになった100年。
初代は、私が困った時にはちゃんと記憶の映像を見せてくれた。
でも何度か聞いてみた、ハルカの魂と初代にくっついている私の魂とを入れる新しい【入れ物】については教える気はないみたい。
(『一緒に痛いんじゃない?寂しがりだしね、初代は』)とハルカは言うけど、私は初代は外に出たくないのかもしれない、って思ってる。
初代が出たくなったら。この身体を初代に返すことができるように、やっぱり私は考え続けようって思う。
(翡翠や母樹には…聞けないよね、やっぱり)
(『うーん?全部話して、聞いてみたら?』)
(えっと、私が偽物だって伝えるのが、まだちょっと怖い)
(『偽物じゃないと思うけどな~?』)
「………」
100年の間に、私はここを好きになりすぎてしまったんだ。
(翡翠も、母樹も、精霊たちも、私に優しいけど…)
私は、家族のような存在を失いたくないと思ってしまった。
(『表に出ているのが【初代ユーリカ】じゃなくても…ユーリカを嫌いになったりしないと思うけど』)
(そうだといいね。でも…こればっかりはねぇ…)
私はお道化たふりで肩を竦める。
(『…最近、私の祖父ちゃん祖母ちゃんの喋り方に似てきてない?』)
(ハルカのお祖父ちゃんとお祖母ちゃん、好きなんだもん。いっぱい見ちゃう)
(『うーん、なんかありがとう?』)
私はユーリカじゃない。そう本当のことを伝えようと思うたびに、母樹や翡翠に『覚えていない』と言った時の寂しそうだった顔を思い出して、どうしても伝えることを躊躇してしまう。
(嫌われたくないって言うよりは…がっかりさせたくない、かな)
(『少なくとも私も初代もユーリカにがっかりなんてしないよ』)
(『…しない。』)
私はハルカにぎゅっと抱きしめられたまま、部屋から出て来た初代に頭をヨシヨシと撫でられて、目を閉じた。
好きになりすぎたんだ。二人のことも。本当に、そう思う。
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