2-9・ 世界樹幼稚園!

ミリアたちが旅立って一週間。

森の草原では、ピパピパ1号がお世話をしていた卵の『殻』を脱ぎ捨てた赤ん坊たちが出てきた。


…そこそこ大きい状態で。

(卵のサイズがサイズだから、中身の大きさも想像はしていたけども)

一人抱っこしたらもう一人は背負うしかない。そんな感じ。

地球の赤ん坊なら、これはもう1歳になったくらいの大きさ+しっかり加減だ。

「しっかりしたね~!もう何するかわからなくて目が離せないね…(うっかり死なせないように)ファイト!」って言われる頃だ。

…ぅう。


生まれたエルフは、コロコロ寝返りをうったかと思ったら、すぐにハイハイを始めた。

自分のお世話精霊たちに手伝われて、つかまり立ちをし始める子までいる。

ちなみに、エルフのハイハイは普通に想像するそれよりもずっと早い。

そしてどこまででも行ける無尽蔵な体力。

そう、どこまででも。たまに驚くほど遠い場所まで脱走する幼児と同じだ。

放っておけば、地面が繋がっている場所なら自由自在に行けるのだと言い切ってもいい。

縦横無尽にぷりぷりと動き回る、かわいいおしりが5つ。


ぽやっと見ていたら…竜の子どもは羽化した蝶のように、あっという間に自由自在に飛びまわっている。飛ぶ竜の尻尾の生えたまあるいおしりも5つ…もちろんかわいい。


(かわいいけども……)

『しばらくはベビーベットに寝かせておこう。』

『1人ずつお世話をしていけばいいよね~。』

『最初は慣れるまでかもしれないけど、…』


そう思っていた私は、思考停止状態である。


(思ってたのと違う………!)

10つ子スゴい…動くじゃん…


子どもたちは思ったよりも大きいし、首や手足の使い方もしっかりしている。ただ、生まれたての赤ん坊であることは疑いようのない事実である。


専属のお世話精霊がそれぞれに何体かくっついてはいるものの、生後0日(見た目6ヶ月以上~一歳くらい)の赤ん坊を放置はできないじゃない。

だから私は魔力の蔦を実体化させて子どもたちに繋いだ。犬の散歩と言われた、例のアレである。


個人差はあるものの、1週間で2~3歳くらいの大きさに。

そしてこの頃には竜っこは念話で、エルフっこは口で話し始める。

竜っこも口でもおしゃべりはできるんだけど、舌が長くて難しいのか、私や精霊に話しかける時は、すぐに話せる念話ばかりになった。

でも念話だとエルフっことうまく意思疎通ができないので、がんばって話そうともしている。

それを見て辛抱強く待つエルフっこたち。

尊い…!尊いよ…!


そんな風に成長を見守るものの、もう紐でつなぐのは無いだろう、と思い始める。

どうしたものか。

いまだに魔力の蔦紐で私と繋がった子どもたちと、森をお散歩しながら考える。

2歳も3歳も一番動き回りたい時期だから、けっこうな力であっちこっちに引っ張られる紐。

ある程度以上は伸びないように、紐と紐はすり抜け合うようにしてあるけど、そろそろ自由にはしてあげたいんだよな…私が10人…イヤ、せめて5人いれば…

 

 

10本の世界樹たちの所を順に廻る世界樹ツアーは毎日の日課だ。


樹と樹の間を普通に遊びながら足で歩くだけで15~20分。

それぞれの母樹と触れ合ったりおしゃべりしたりしながらそこで遊んで2~30分。

毎日最初の樹の順番をずらしていき、誰かの母樹の所でお昼ご飯を食べることにしている。

これは楽しいらしくて、みんな自分の順番が待ち遠しいらしい。

10カ所廻って母樹の所に帰るだけで、夕方になる。帰ってきたら、みんなで翡翠とお昼寝。

こんな感じで毎日過ごしている。

保育園みたいだな。



『おかえり、ユーリカ』

「ただいま、母樹」


お散歩から中央に帰ると、世界樹たちが新しい実をつけたよ、と念話を送ってくる。


世界樹と私は一本の線で、世界樹同士は円で繋がっていて、みんなで話すことが出来るようになったのだ。


『…新しい子、できた』と10ノ樹。


おう


『私もできた。私とユーリカの子~』と3ノ樹


お、おう?


『私だってできた!もちろんユーリカの子』と、1ノ樹


………何このハーレム??


私、女にだらしないダメ男みたいじゃない?



「また実がなったようだな。賑やかになる」


『こんなに子どもが多かったことは無いけど、なんだか懐かしいわね』


翡翠と母樹はなんだか楽しそうだ。

新しい実の数の分だけ、魔力の光がチカチカと明滅したり、波のように揺らいでいる。


「また、新しい子どもたちが生まれるのか」

早すぎない?

ぅう。

うれしいよ、うれしいんだけども

「…保育園…?幼稚園…子ども園…うーん?そういうやつ、欲しいな…」


「この世界にはそういうものは無い。子どもは自分の側で育てる」

「うん、家族や近所の繋がりが強いんだね。面倒見てくれる人がいるから…

でも、困ってる人もいるだろうな…

繋がりが無かったり、まだ子どもが小さい内に片親になっちゃって、働けなかったり…」

(ああ、私、私もそうだった、気がする)

「…人はみんな助け合わないと、命を繋げないんだよね」

私のまわりに、自然と子どもたちが集まってくる。

(こう、心が揺れる時。

子どもとか動物って不思議と近くにやって来て、寄り添ってくれるんだよね)


ソワソワ落ち着かない竜っこを小脇に挟んで、魔力を練る。

「よぉーし、赤ん坊たち、お母さん(?)の魔力ですんごいの作っちゃうからね~!」

きゃいきゃい笑う子どもたち。

遊具とか作っちゃうぞ~!


ねり、ねり…

「えっと…名前…名前…」


ねり、ねりねりねりねり…


「うーん、暫定で、とりあえず『世界樹幼稚園』ってことで!」

フワリ、と舞い上がる光が集まって、私の手のひらの魔力と混じり合うと、ブワッと丸く地面に広がる。


「幼稚園って広さ、これくらいだよね…?うちの子たち大きいからな…ちょっと大きめに…あと、飛ぶから天井高めで…」


私の目の前に広がっていく柔らかな土。

にょきにょき生える遊具たちに、建物。


「二階建てで…吹き抜けで…図書スペース欲しいな」

本は大事だよ、本は。語彙力…!


「手洗い場と水遊びできるところと…」

小さな山の滑り台、ブランコ、砂場に、鉄棒に、地球儀、シーソーに

ぴょんぴょんタイヤ…タイヤ??


この世界にタイヤってあるのかな?

無いものも作れる…のかな。

この世界に無いものってなんだろう?

化学製品…?

地球の物だって『何か』から作り出されている。

作れない物なんて、無い…のかもしれない。


「えっと、かわいい天窓が欲しいな」

白い壁にオレンジの瓦屋根。一部に丸い天窓。

柔らかなクッションタイルが敷かれた教室には、様々なオモチャ。

カラフルなトイレ、本棚にはたくさんの絵本。

ぬいぐるみ、クレヨン、オルガンに太鼓や小さな楽器。

ついでに小さな椅子と、みんなで囲める。丸い机。

「花や畑もみんなで育てよう!」

花壇に畑、果樹をぐるりと生やして、柵で囲む。

一応申し訳程度の門を作って母樹に向かって開くようにする。


(あとは先生がいれば完璧だね)


そう思った瞬間、目の前に魔力の渦が8つ。


『あなたが『生んだ』施設に特化した精霊が、一緒に生まれるのよ』


(生んだから、生まれる?…建物も、子どもたちと同じなの?)


『もちろん』


渦が次第にまとまって、形作られていく。

パン!と弾けるように殻状の魔力を飛ばして、人型の大きな精霊が現れた!


「『鈴城』『天野』『鬼瓦』…先生だ!?」


大きく名前の書かれたジャージを着た大人が三人。

天使、天使、鬼である。


(聞き覚えと見覚えがありすぎる…!?)


ニコニコツインテールの鈴城ヒナ先生、

ユルフワボブの天野キョウコ先生、

パッつんポニテの鬼瓦マサミ先生である。


(いや、鬼瓦先生優しくて好きだったけど!?鬼!?名前の印象だけだよね?)


続いて、マイクを持った二人が現れ、すぐにカラフルなピエロのような衣装を着た男女がバク転で飛び出してくる。


(【テレビ】の中で見ていた、当時の歌のお兄さん、お姉さんと、体操のお兄さん、お姉さんだ…!!)


最後に、猫耳をつけ、フリフリの衣装を着た女の子がぴょんぴょんと跳び跳ねてからくるりと回って、「にっこりにゃん!」


(にゃんにゃん村のアイドル、ニャインちゃん…!)


なんということでしょう…っ!

最推しがいまここに…!!

魔力スゴい!


(みんな、にとって【地球】での子育てには、不可欠だった存在だよ)


ニャインちゃんはいつも元気で、素直で。

ニコニコ笑って何にでもチャレンジする幼女が、少女へ成長していく姿は、子育て中の心の支えになっていた。


(うちの子も、こんな風にひとつずつ、できることが増えていくんだなって思ったんだったっけ…)


歌のお兄さん、お姉さんも、体操のお兄さんお姉さんも、もちろん幼稚園や保育園で働く人たちも。


自分がどんな風に教えてもできなかったことを、

子どもが、子ども向けのテレビを見て、ストンとできるようになったり

私には気づけなかった子どものことを、気づかせてくれたり

(が、私がいない時にはお友達を守ろうとする、強い子だって、教えてくれた)

子育てには欠かせない、スゴい8人だ…!!


(子どもと親のための子育て特化型精霊たちに、幼稚園…!完璧すぎる…!)


子どもたちや他の精霊たちが、特化型精霊たちと触れあって、キャッキャと笑って手を叩いて楽しんでいる。




(うん、子育て、がんばれそうだよ!)


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