2-9・ 世界樹幼稚園 1
ミリアたちが旅立ってすぐ、森の草原では10の卵から『殻』を脱ぎ捨てた赤ん坊たちが無事に誕生した。
(『思っていたよりも、かなり大きい状態だったけどね~?』)
(卵のサイズがサイズだから、中身の大きさも想像はしていたけどさ…)
(『一番小さい卵がスイカサイズだったもんねぇ』)
(うん…ちょっと考えればわかったはずなのになぁ…、お世話精霊に任せても大丈夫なんだよね?
(『ああ、大丈夫だ』)
(ん、だとしても…)
子どもたちを、ちゃんと抱きしめたい。
せっかく腕があって、この手でまるっと抱っこできる子どもたちがいるんだもの。
それに、泣いている子供が目の前にいて、放っておける?
(わたしには無理そう。)
ハルカだってウルリカだって、きっと同じだって思う。
私が一人を抱っこしたら、もう一人は背負うしかないという状態で、あとの8人はどうすればいいんだろう?
泣くのが仕事と言われるような子どもを、平等に、順番に対処する…なんて上手くいくものだろうか。
(子どもって泣き虫な子もいれば泣けない子もいて、機械的に相手していればいいってもんじゃないよね?)
(『まぁ、そうだね』)
(『…私も気づくべきだったな…こんなに一時に複数のエルフの子どもが生まれたのは初めてだからというのは言い訳になるが、そもそも私は子育てをしたことがないからな。こうなるとは思わなかったし、分からなかった。すまない』)
(え?昔は
(『精霊たちだな』)
(お世話精霊?)
(『うむ。時に私や翡翠が抱き上げることもあったが…あっという間に大きくなるからな。
それに、本来生まれるのは100年に一体くらいだ。
私は育てたと言えるようなことは何一つとしてやってはいない。いつも気がつけば成体になっていた』)
生まれて、あっという間に成体って…
(普通のエルフの成体って何歳くらい?)
(『成長が止まると成体だ。30…いや、50歳くらいまで成長する者もいたか』)
(なんだ、ウルリカの時間の感覚が変なのか)
(『む、そうか?…いや、そうかもしれないな。50年で寿命を迎える種族もいるな……』)
足元で私を見上げる子エルフは首を傾げすぎてひっくり返りそうだ。
零れそうな大きな瞳はしっかりと焦点が定まっていて、私の姿をきちんと捉えているのがわかる。
(『う~ん、地球の赤ん坊なら、これはもう1歳になったくらいの大きさとしっかり加減だよ~?
この大きさだと、すぐ動き回ってもう何するかわからなくて目が離せないね~。
うっかり死なせないように、ユーリカ、ファイト~!』)
(…ぅ、うん)
(『うむ。私たちが手助けできるでもなし。この体は一つで、腕は二本しか無いからな』)
生まれた赤ん坊たちはコロコロと何度か寝返りを打ったかと思うと、当たり前のように臆することなく高速でハイハイを始めた。
自分のお世話精霊たちに手伝わせてつかまり立ちをし始める子までいる始末だ。
(今日生まれたとは思えない…)
(『キリンの子は生まれた日に立つらしいよ?』)
(『獣人の子どもも早いぞ?』)
(どうしよう、経験者のはずの二人のアドバイスが全然役に立たない…!!)
ちなみに、エルフのハイハイは普通の赤ん坊の高速のそれよりもずっと早い。
そしてどこまででも行ける無尽蔵な体力。
そう、実際にどこまででも行けてしまうだろう。
(目の玉二個しかない…10個欲しい。高速で動くすぐ死ぬ生き物、こわい)
(『目の玉が10個あるエルフの方がこわいよ~?』)
(『10個あっても目を飛ばすことが出来なければ無意味だしな』)
(確かに…!いや、そういう問題じゃないよねっ?)
竜の子どもは羽化した蝶のように翼を広げ、あっという間に飛び始めている。
(『たまに驚くほど遠い場所まで脱走する幼児がいるらしいんだけど、この子たちそれと同じだね~。いち、にぃ、さん…って、全員だ。みんな元気でよかったね~アハハ』)
地面が繋がっている場所なら自由自在に行けるのだと信じて疑わないような、キラキラでまんまるの瞳をもった子どもたち。
少し目を離せば一瞬で視界から消えるだろう小ささと速さ。
縦横無尽にぷりぷりと動き回る、かわいいおしりが5つ。
ちいさな鱗の並ぶ、これまたちいさな竜の尻尾がくっついたまあるいおしりも5つ…もちろんこちらもかわいい。
(かわいいけども……)
(『しばらくはベビーベットに寝かせておこう』)
(『1人ずつお世話をしていけばいいよね~』)
(『最初は慣れるまで少し大変かもしれないけど、《《動き
回り始めるまでに何かしら対策を考えよう》》』)
そうのんきに話していた私たちは、思考停止状態である。
さっきからの会話がすべて上滑りしているのがいい証拠だ…
(『うん、経験者の私でも、思ってたのと違うよ~』)
(『そうだな…いや、私は経験者とは言えないが』)
(10つ子だもん、だれも経験なんてしたことないよね…)
幸いにも子どもたちはみんな元気で健康そうだ。
思っていたよりも一回り以上大きいし、首や手足の使い方もしっかりしているから動けちゃって、それが逆に危ないんだけど…。
ただ、生まれたての赤ん坊であることは疑いようのない事実である。
専属のお世話精霊がそれぞれに何体かくっついてはいるものの、生後0日(見た目一歳だけど)の赤ん坊を放置はできないじゃない。
(とりあえず、魔力の蔦を実体化させて子どもたちに繋いでみるよ)
(『ああ、それでとりあえず不意の事故は防げるな』)
(日本でこういうのつけてる子いたよね、ほら、天使の羽みたいなのとかついてたの)
(『私のころは犬の散歩みたいでかわいそうだーとかって言われてた、例のアレだね~』)
(『愚かなことだ。人型の幼子はとても脆い。動くようになれば誰かが守らなければ死んでしまう』)
走り回る子エルフたち、絡まる紐
振り回される私と翡翠、精霊たち。
飛び回る子竜たち、絡まる紐…振り回される…ry
とは言っても、魔力の紐だからスルリと溶けてまた瞬時に成形されるから引っ張り合うようなことにはならないよ。むふふ
(『こんなに賑やかなのは、はじめてだ』)
ウルリカはそう言って目を細めた。
(うん、子育て、がんばれそうだよ!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます