2-7・ベースside1:ユーリカ(※残酷な描写に見える内容があります)
私は、泣いていた。
何度目かの死があり、
何度目かの生だった。
母は世界神樹で
私はハイエルフで
傍らには樹竜王があり
『子どもたち』がある
この森は平和で、あたたかで
豊かで、生に溢れ、
喜びに充ち満ちている。
私が育てた『子どもたち』は
母樹になり、実をつけ、
それが卵になり『子ども』が増える。
その母樹となったものらから生まれた
『子どもたち』は
その身体に命を宿し、
身体から子どもを産む。
それは、
私にはできないことだ。
私には、その『器官』がないのだから。
そう、きづいたのだ。
私はただの女王で、
ただの一度も、
母ではなかった。
私が、もう戻らないと決めて森を出たのは、
長く、長い、永久の時流の中では初めてのことだった。
森を出て、
動けない母樹から、
樹竜王から離れて、
私はこの世界の、闇のやみに堕ちた。
闇のやみの中で、
私は大切に大切に持っていた卵を取り出した。
私が初めて育てた世界樹が
最後に生んだ卵
私は自分の身体を切り開いた
神でさえも傷つけることのできない
私の身体を、自分の魔力で切り開いた。
下腹部に、生まれたばかりの卵を入れた。
あたたかかった。熱かった。
幾数千もの年月を、私はそうして過ごした。
少しずつ、世界樹が死んでいくのがわかった。
やがて加護を失った『子どもたち』も
死に、絶えていくだろう。
卵は長い時間をかけて、少しずつ大きくなった。
私の身体から出ることができずに、
どんどん、どんどん大きくなった。
もう、私より遥かに大きい。
私は、満足だった。
私は、ここで死ぬ。
この子を生んで、私は死ぬのだ。
力が失われていくのがわかった。
最後に『出口』を作らなければ
この子も、私と共に死んでしまうだろう。
私はもう一度、身体を切り開く。
少し切るたびに、魔力が吸われ、霧散していく。
闇のやみの、もっと奥に。
もっと大きく、切らなければ。
遠くで声がする。
『ユーリカ』
「…」
『ユーリカ、私の愛しい子』
母樹はずっと、私の名を呼んでいた
ずっと、ずっと、
聞こえていた。
『…ユーリカ』
「…母樹、私は、もうすぐ死ぬ」
『ユーリカ!…ユーリカ…』
「私は、あなたたちのようには
なれない」
「私は、私は」
母に、なりたかった、
「お願い」
もう、同じものには、
なりたくない。
二度と…
「私を、もう」
二度と。
「産まないで」
私はずっと、泣いていた
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