2-8・ ミリアの旅立ち!道のり、行く道、30年?だってよ。

ミリア御一行が旅立つ朝だ。


町の南の門から伸びる河沿いの道はある程度整備されていて、真っ直ぐ行けばいくつかの町を経て首都エストールに辿り着く。

本当に真っ直ぐ突き抜けるよりは少し遠回りだけどね。


広く取られた道は少し先に広がる森の手前で枝分かれしていて、右に曲がる形になる小道を通って森を抜ければ、獣人の住む町や村がある。

ミリアたちの目的はすべての村や町で蛙人族を探し、常人化の術を伝えて、更にたくさんの人に薬を広めることだ。

だからヴィクトル王国を蛇行するように進んで、一つの村も、集落でさえ取りこぼさずに進むらしい。


(たのしそう…)

(『蛇行だもんね~!絶対楽しいよ』)


(『…そうか…??』)


私はミリアたちが森に入るのを、ピパピパの柔らかソファーに座ったまま、ゆったり待っている。

空は高く、雲一つない青空。旅立ちの日にはもってこいの朝だ。

この世界にも四季の移り変わりがあって、今は春。

私が目を覚ましたのも春。

意識を取り戻したと言うべきか…

自我が、芽生えたと言うべきか…?


(ば、ばぶぅ…?)


そう、まだ私、ユーリカは0歳なのである!ばぶぅ!

身体はオトナ!頭脳は0歳!って流行る?

(『流行らないよ?逆パクリだよ??怒られるよぉ~?』)

ですよね?


昨日はルヴァとグロリアの結婚式だったんだけど、夜通し飲み明かした蛙人族は早朝の出発にもケロッとした顔で全員現れた。


(『蛙だけにゲコかと思ったら、蟒蛇うわばみだったね!』)


(へび?)


起伏の激しいヴィクトル王国では、旅人は基本的に船か徒歩で移動するのが一般的らしく、山中の村々にも満遍なく訪れる気概で臨むミリア御一行は早朝に出発することになった。

獣人族だけで構成されているグループは基本的に馬車と徒歩が多く、人間を含むグループは船を選んでいるように見える。

周りにもちらほら旅立とうとしている人たちがいるけど、徒歩の人間はほとんどいない。


ヴィクトル王国で商売をするには足腰が強くないと難しいんだろうなと思う程、みんながみんな筋肉ムキムキである。

冒険者を雇う必要あります…?と思う程の猛者揃いの商人たちが出発していくのを眺めていると、早朝出発組の一番最後にミリアがやって来た。

…踊りながら。


「『愛情の国ロマリア』…っ

名前だけで素敵でゲス~!早く行ってみたいでゲスぅ!」

と言いながら簡易馬車の馬を勢いよく撫でまわすミリア。

収納魔法が使えるとはいえ、魔力を食うので簡易馬車は必要だという忍長に押し切られた形だそうな。

収納魔法は、荷物の量によっては精神力の使い過ぎで身体に負荷がかかるらしい。

いざとなった時に必要になるかもしれない。


(『え~!あんなに無駄に無尽蔵に代々のご先祖ウルリカの荷物が色々突っ込んであるのに、ユーリカの身体は平気なの?』)

(これ、まりょくつかってるんだ…?)

(『なぜアホの子みたいに言ったのだ?ハイエルフの身体だぞ?問題ない。魂の欠片ほどの領域も使っていない』)

(ほ、ほおぅ。)


「忍長はやはりショックで起き上がることが出来ず…ユーリカ様と共に見送りができずに申し訳ないとのことです」

ユミンがそう言うと、


「根性ナシでゲス。放っておくでゲス」

少し間をおいてミリアがそう言った。寂しそうに見えるのは気のせいかな?


(見送って欲しかったのかな)

(『心配せずに信じて力を認めてほしかった、

とかかな~?』)


この世界での成人とはいえ、15歳って言ったらまだ子どもみたいなもんじゃん。

きんぱち~ずに毛が生えたみたいなもんじゃん。

15歳の一人娘を旅に出すなんて、そりゃ倒れもするんじゃないかなぁ…父親なら


「旅でついでに良いお婿さんを見つけて来るのでゲス!

帰ってきたら結婚式をするでゲス!

エヘヘェ」


(シノビオサ…)

(『…倒れた原因これ?』)

(『生き物はつがうものだ。あれは子離れができていないな。…人のことは言えないが』)


ここは大陸の北北東で、ロマリアは西南端だ。

ミリアは位置関係とか距離とかわかっているのかな…?


いぶかしむ私の耳元でユミンがそっと囁く。

「ミリア様は初めてこの町をお出になります」

「お、おぉう…」


吐息が!耳に!


(『ぅ~ん、ヴィクトルを出て大河沿いに行けばいつかは着くだろうけど…その後に帰って来て結婚…?何年後?』)

(…って、えっと)

徒歩である。

どんな早さで進んでも、町村に滞在し、本格的に薬の作り方を含めて広めようとするなら一か所につき1年…はかからなくても、数ヶ月はかかるだろう。

大河沿いにまっすぐ行ってもロマリアまでは片道10年…イヤ、…12年はかかる、かなぁ。

何もせずにただ進むだけなら船もあるしそんなにかからないけどね。


ちなみに、昨日の内にお付きのユミンには、ワタシ特性の、超精密で分かりやすい拡大縮小機能付き大陸地図を渡している。

なんだかんだ一番しっかりしていそうなので…うっかり無くすとか…売るとか…はしなさそうだし。

今の時代、渡した地図ほど正確な情報は無いらしく、目を見開かれた。

機能を説明すると、更に目をまん丸くして私を見た。ワタシの魔改造付き地図なので。


「このピカピカ光ってる白い点がミリアね

で、この桃色の点がユミンさん。

青がカクサンで赤がスケサン。黄色がハッチで黒がヒコザルで、この紫のがもう1人の人。

紫のは消しておく?この点に指を乗せて「消えろ~」ってやると消えるし、目の前にいて地図に触りながら出ろってやればまたつけられるよ」

紫の人は、いるっぽい、と思った所にいたので、追加しておきました。


「でね、ここにお手紙のマークがあるでしょ?」

「はい」

「ここに触ってみて?」


「もっ、!文字が、目の前に…!?」

「それは昨日書いてユミンさんに送っておいたやつ。

本人と、触ってる人にしか見えないからね?

で、私が今からこっちの地図の同じマークの所からお手紙を書いて送って見せるから、同じように返事をしてみて」


ユミンと何度かやり取りをして、問題なさそうなので説明を終える。

ミリアや他の人にも、使い方を教えてあげてね、と伝えて手渡す。


「ユーリカ様…ありがとうございます。

必ずやミリア様を助け、ユーリカ様から賜った聖なる神薬(そして共に信仰)を拡げて参ります!」

そういってユミンが手を合わせて平伏しようとするので、私はあわてて止めに入る。


ユミンは、私から見た蛙人族の中でも一、二を争うクールビューティーである。

上から順番に、クールで、たゆんたゆんで、きゅっ、プリっ、シューッ!なのである。

そんな彼女が、目を潤ませながら、上目遣いで、たゆんたゆんの部分と、お膝を汚して私に手を合わせるのである。

男どもはソワソワするし、

ミリアは私と同じくお胸がのっぺらぼうなので、なんだか目があえば郷愁、なのである。

うん、もう、お腹いっぱいです。


「うんうん、みんなに会いに行くからね(週一くらいで…)その時に旅先で食べておいしかった食べ物とか教えてね~」

でもでも、山中の村とか、すごい山賊料理とか食べてそうだよね!わくわくすっぞ!


「ハハァッ!かならずや!私の命に変えましても…っ!」

ユミンがそう言いながら立ち上がる。


(ユミンのおムネが汚れなくて良かった…)


(『蛙人族の信仰心…おも!重すぎる~!』)


(『元々『神の森』への信仰が厚い種族だったからな』)


(ウン、いのち、くれなくていいです…イノチイラナイ)



獣人族の街町村は他の国と同じように『豊穣の国ヴィクトル』の領土全体に点在しているけど、彼らが広く信仰している『神の森』と接しているこの北東部には、特に大小さまざまな町や村が集中している。

小さな集落や移動しながら暮らす種族は普通の地図には載らないけど、それらの人口を足したらヴィクトル王国民の半分以上がこの森の近くに暮らしていることになる。


(『え、王様の求心力だいじょぶ?』)


(『地球で言う国教のようなものだからな。代々の王も神の森を守るように布告している』)

(ほ~)

ちなみに森の真東には河を挟んで精霊の森が、その下の南側には人間の国で唯一、神からの祝福がある『平等の国セイラン』がある。


森の北西は魔人の国で、やはり祝福された『安らぎの国カインリール』がある。彼らもこの森の近くに町を作って暮らしているけれど、獣人ほどではない。


ヴィクトル国内の街は、元々は種族毎に作った集落が始まりだ。

街町村として整備をした後も、名前は始めに集落を作った種族が決めた呼び名をそのまま残しているところが多い。

元虎人族の街『赤虎アカトラ』とか、

元獅子人族の街『黄金の鬣おうごんのたてがみ』とか。

で、ここは元蛙人族の里から町になった『藍川の鮎アイカワノアユ』。


その土地の名士と言えばやっぱりその街に名前を残した種族が多い。

だけど今はすべての街を自由に、多々様な獣人が行き来をしている。

まさに百獣の世界だ。

この光景を見ていると、よくぞこの多種多様な人種、種族入り乱れた状態で平和な様相を維持しているものだ、と思わずにはいられない。


(『人種が違っても、認め合って暮らしているのはスゴイよね』)

(『今は、な。…魂の形は同じだというのに、外側が違うからと争ったこともある』)

(外側…肌の色とか、種族がちがうとか?)

(『う~ん。それは地球と同じかぁ…』)


ヴィクトル王国が建国されるより前には、血で血を洗う種族間の争いがあったそうだ。

獅子、虎、兎に猫、犬、ネズミ、牛、馬、猪、魚に鳥…。

猿人族か、蛇人族か、獅子人族かという、

いわゆる巨大勢力の三つ巴、最終決戦間際になった時に、

神々が降臨したのだという。

獣人たちは、はじめは誰も信じなかった。誰かの魔法で、幻影だと。

直接神に立ち会ったことの無い世代がほとんどだったから。

それより更にずっと昔には、毎日神が現れ神託や加護を与え、触れ合うことさえあったというのに、人々は忘れてしまっていた。


すべての始まりの『始祖竜』。そして始祖竜を頂点とした、10柱の神々。この世界の日常には、かつて本当に神が姿を現していた。

それぞれの神には『好きな場所』があった。

よく訪れていた場所に、その1柱を中心とした『神殿』が建造されていた。

昔の人々の手によって建てられた神殿はその神に直接祝福されている。

祝福は場所にのみ与えられる人への加護より強い繋がりで、半永久的に消えない結界が張られる。その中にいると、その神の得意な分野、事柄や魔法や魔術が覚えやすくなったり、上達しやすくなったりする。


しかし、神々が姿を現さなくなった時代が長く続き、人は不安定になった。

加護は元々与えられることが少なかったから影響は無かった。

しかし、ほとんどが結界の中にいれば自然と与えられていた『守護』さえもが、与えられなくなったのである。

守護をもらうには、その神の名を呼び、その姿を思い描き、祈らなくてはならない。神を忘れた人々はそれができなくなっていた。


『守護』は時と共に薄れ、消えていくもの。

なぜ、我々は『愛されなくなったのか?』

『信仰が足りなかったのではないか』そう考え、人々は焦った。

そうして、

多種多様な人種族はそれぞれに立ち上がり、自分の信仰する神が『一番』だと争い始めたのだ。


(『前の前だったか、もうひとつ前だったのか。

私は、その時は死んだばかりで

同じ『入れ物』に戻る、竜や龍や精霊族やらの魂と、暗闇を揺蕩っていた。

私が目を閉じていた、魂で過ごす異空間での、その百年か、千年かの間に神々が各地に、同時に顕現した』)


はじめは信じなかった人々は、それでもすぐに理解した。

目の前にいるものは決して、人の身で作り出すことなど叶わないものだということに。

目の前にある存在が、なんなのかを。


この世界の子どもたちは、各地に残る神語や絵画を見て、知っている。

神は竜の姿をしていることを。

普通の竜よりも大きくもなれれば、

アリより小さくもなれることを。


その日、神々は、大陸のどの土地からも見えるように、大きく、大きくなって顕現したのだという。争っていた民は畏怖し、跪き、神を仰ぎ見て名を呼び、ただ祈った。


(『我らにとって始祖竜が唯一天上の存在である』

『その下に双頭の竜がいて』『不死の竜がいる』

『太陽と月と星があり』『水と風と地があり』

『闇がある』『すべては別々であり』

『すべてはひとつである』

『能力を持ち寄って暮らせ』『小さき力を集めればこの地は豊穣となるであろう』)


誰の目からも見えた竜たちの『神託』によって、

獣人同士の争いは無くなったという。

キチンとした信仰が戻ると、少しずつ守護が得られるようになった。


(『神殿の真上に現れた神はだったんだろうな…

忘れられた神々が、本当に現れたんだから…。くぅ~いいねぇ、私も見てみたかったなぁ。

宗教画の、あの作者が感じる神々しさとかを工夫して絵にする感じ、好きなんだよねぇ。』)

(ああ、地球で見たあの絵、好きだったなぁ)

(『え!?どれどれ?最後の晩餐?あっ、キリスト系じゃない?ギリシア神話系もイイよね~』)

(天国と地獄)

(『えぇ…』)



(『…まぁ、とにかく。神が姿を現したことで争いはすぐに止まったそうだ』)


そこからは獣人族同士で共に補い合い、更に足りなかった力を長齢種のドワーフやエルフに頼み、補い合ってヴィクトル王国となり、豊穣の国と呼ばれるようになった。


(『…なるほどねぇ。そういう経緯を経てできた国だから…信仰がゆるいけど重い感じなのね…なんか親近感』)


(どっかの八百万の国みたいな、こう…雑多な感じ。でもニホンって宗教で重いイメージないかも?)


(『雑多w

まあ宗教の自由があるからね。

でもほら、重さはね、天皇ご一家への信仰…っていうよりはDNAに組み込まれたレベルの愛情ってやつかな?

外交とか日本の文化とかを残すために働いて、衆人環視の中、国民の心の拠り所になるために規則正しくあらねばならないって、

相当負担だと思うんだよね。私には無理。

だから、これは本当に失礼だとは思うけど愛っていうよりは同情かもしれない』)


(同情…神のような存在に?)


(『そ、我慢してない?大丈夫?っていう同情と、うわ~、やることやっててえらいな~、の敬愛かな。

日本のために生きてる。不自由だと思う。

一生だよ?公人で言ったら政治家はやりたいことやって辞めれば終わりだもん。皇室の仕事は、やりたくなくてもやらなくちゃいけないんだもの。やって当たり前。

いくら生活が保障されていてもね。足枷と努力と笑顔の仮面を強制される。

規範となる生き方ができなければ叩かれ、責められる。

まるで罪人だよ。』)


(う~ん、やって当たり前はいやかも)


(『誰だってそうだよね~…うん、だからやっぱり敬愛のが強いかな』)


(『……』)


鼻歌を口ずさみながら準備を整える7人を眺める。

どこか晴れ晴れとした彼らの道筋が自由なものであるといい。



土地を束ねた王『地王』が治めるヴィクトルはとにかく自然が多い。

山、森、小川、湖、街(、山、森、川、森、湖、街…エンドレス)、

こんな感じの割合いでできている。


国の中央にある首都エストールから西は海に面していて、北にはドワーフが集まる鉱山群がある。

そこを更に北に下って大河から分かれた分岐流河を渡ると、人間が建てた小国が集まってできた『ラムフス連合諸国』がある。

ロマリアに行くには、二通りの道があって、

まずはヴィクトルの南南西にある鉱山群を抜け、ロザリア川岸の関所からラムフス連合諸国に渡り、魚人種に許可を得て海王の治める水神殿からロマリアに入る道。

もう一つは、ヴィクトルの南西にある細長い浮島(自由の国メルユーイの飛び地)を通って国境を越え、商業民主国家『ニカイア』からロマリアに入るというルートである。


(『あ、行きと帰りで違うルートを選べばいいんじゃない?』)


(ロマリアから連合諸国を廻っていく感じかな)


慣れた自国の道で、ある程度は整備されているとしても広大な上に自然に満ちた中を抜けていくのは大変だ。

(もしルヴァの希望通り連合諸国の8カ国も廻るなら、帰り道は更に時間がかかるとして…余裕を見て行って帰ってきてで30年…かなぁ)

(『んん、ミリア30年後は45歳だけど、蛙人族の平均寿命、たしか55歳だよね?』)

(『うむ』)

帰ってきて結婚式…するって言ってたな。

ユミンさんは何歳になるんだろう…??あれ?なんか耳元に冷気ががががが?


(もう考えるの止めとこ。うん)


(頑張れ、ミリア…御一行…)


「「「行ってらっしゃいませ、ミリア様…!!」」」


南の正門から、川沿いの街道を行くミリアたちの姿を見送るのは蛙人族だけじゃない。いつの間にか集まってきたたくさんの町の人たちも笑顔で見送っている。

私の周りの沢山の蛙人族の中にはさみしそうに見送る者もいれば、誇らしげに手を振る者もいる。


「ほらね、やっぱり町のみんなから元々好かれてるじゃん。ミリアってば」


ミリアは照れたようにくねくねと、相変わらずすごい早さで歩いていく。

…簡易馬車を置いて。

それを当然のように受け入れる御一行。

普段通りの穏やかな表情でサササ、シュシュシュ、、と追いかける忍3人、馬を駆る商人1人に用心棒1人。隠れ忍者1人。

…って、あの人どうやって隠れてんの!?隠匿にしては私にも見えなくて驚く。気配ははっきりわかるけど。


あの集団、控えめに言ってもカオスである。

混沌、またはケェィオス!なのである。

(『※発音には個人差がありま~す』)


川沿いから右に曲がり、小さな森に入る道に入ろうとしているミリアたちが振り返ったので、ピパピパの上から手をふる私。


大きく飛び跳ねて声を上げる御一行。

「「ユーリカ様ぁ~~!!行って参りますでゲスぅ~~!!」」


(こ、声、でかすぎぃ)


遠くでこちらに手を振るミリア。

平伏している御一行。


…何事か!?と、あちらとこちらを二度見する、無関係な旅人や冒険者たち。

(『あははははは!カオス!』)

(怪しいよねぇ…?)

(『うむ』)

ミリア御一行にはシノビアシンの加護と、ユーリカの加護が生えた。

ミリアを含む4人の蛙人族は元々小さめの収納魔法が使えたらしいのだが、加護によって空間が広がったそうだ。

商人枠の猿人、ハッチも収納魔法が使えるようになったらしい。

同時に魔力の底上げもされて、カバンに入れる程度のものであれば常時収納していても問題は無い。

(ヒコザルはだめだった…加護は貰えたのにね?)

シノビアシンの加護が生えた瞬間に、猿忍者の称号も増えていたんだけど、大岩投げとか、大ジャンプとか、筋肉倍増とか。主に攻撃に特化している。


話が逸れたけど、収納魔法持ちだらけのミリア御一行は手ぶらである。

簡易馬車はほんの気持ち程度のかごのついた荷台があり、御者台の方が大きいほど。


一見旅の行商人とそれを守る冒険者に見えなくもないのだが、武器以外は手ぶらの状態で旅に出るミリア御一行は怪しいのである。

(だって荷台が空っぽだからね!)

自分の魔力が増えたのが楽しくなっちゃったミリアがなんでもかんでも自分の収納に入れてしまったのだという。

(『こどもか!』)

絶対すごい収納魔法使える魔力持ってんじゃーん、っていう、下手したら悪い奴らに狙われるパターンである。

(なんでカモフラージュしないかなぁ…?)


そんな御一行が遠くから土下座をする。

パッと見、蛙っぽい何かに座っている、ただの少女(この世界での見た目年齢8~10)に向かって。


これ、蛙人族を手先にした悪の組織のボス的美少女☆なポジションになってるんじゃ…?


娯楽の少ないこの世界ではこんなことでも面白おかしく脚色されて話のタネにされるかもしれない。


(私じゃないよ、って顔をして周りを見回したら、蛙人族のみんなニコニコしながら帰りかけてるんだけど!?)


(『ちょっwww』)


(信仰は!?信仰はどこに行った!?置いてくってどういう宗教!?いや、信仰いらないんだけども!!)


道の先では、振り返る度に何度も頭を地面にこすりつける御一行。

何度も

…何度も。

(怪しい・オブ・ザ・イヤー受賞だよ?)


うん、ピパピパの横ノビスマイルと相まって、私はただただ怪しい子どもなのである。

無関係の人たちの遠巻きにこちらを見る目が痛い。

この世界はちょっとしたことですぐ称号をつけようとする。妙な噂のせいで変な称号が付いたらどうしてくれるんだ。ぉおう?。


『土下座やめろ』


そうミリアに念話をすることにした。



ピぃ!という小さな叫びが

森の街道の奥深くまで響いたとか、響いてないとか…。


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