2-4・気になるならなんで人型にならないのかなって、ずっと思ってたってよ?

(『く…なんということだ…!』)

(『うわ~…、ライバルが良い子で終わる人魚姫なんてもうそこで終わりじゃん!ザマァする相手がいないんだから…』)

(?)

ウルリカとハルカはなにがそんなに悲しいんだろうと不思議に思っていると、

(『ふ…まだユーリカにはわからないのだな』)

(『おぼこだからね…って、ウルリカも一緒か』)

(オボコ???)

(『なっ!私には分かるぞ?!せっかく助けてやったのに別の女に奪われた悔しさが…!!!』)

(『ちょーっとちがうんだよね~?』)

二人が二人だけで盛り上がり始めたのでユーリカはいつものことだなと音声(念声?)をシャットダウンして腰に手を当てた。


「やれやれ」

ウルリカとハルカはまだ騒いでいる感じがするし、隣室の騒ぎは収まりそうもない。


仕方なく、落ち込んだ…というよりは脱け殻のようになったミリアを連れてルヴァさんの寝室である隣室へ向かう。


「やあやあ、元気になったかな~?」

私がミリアの背中を支えたままそう言うと、ベッドで起き上がって微笑んでいたルヴァさんがグロリアさんの手を握ったままこちらを振り返る。

「はい、すっかり良くなりました。ところであなたは…?」


「私はあっちの森に住んでるユーリカ。お薬になる葉っぱをあげる代わりに、ミリアに『調薬』を見せてもらったんだ~」

「森に住んでいる…?葉っぱ…ですか…?」

そう言ってルヴァさんが首を傾げる。

疲れも感じさせないその姿は、すっかり良く寝て起きたばかりの休日の朝の一場面かのようである。

先ほど見た姿が幻であったかと思う程の健やかさだ。


「お師匠様…良かったでゲス…」

ミリアはほとんどため息ほどの声でそう呟いて、肩の力をようやく抜いた。


「ミリア、調薬をしてくれたんだね。ありがとう。君がいなかったら私の命はもう無かっただろう」

(そう言いながらも自分の彼女の手を握り続けるイケメン師匠…)


「いえ、当たり前のことをしただけのことでゲス…」

私はそう言ったミリアをチラッと見る。

うん、白い。笑ってやがる。燃え尽きたんや…



イケメン師匠の周りには、さっきはいなかった蛙人族の弟子らしき人たちが姿を現していて、部屋はぎゅうぎゅうに近い。


(『慕われてるねぇ~。良い人なんだろうけど。ちょっと女心が分かってないね~』)

(『ふん、まったくだ』)


蛙人族のみんなは、寝室に私が入った時に一斉に膝をつき、顔を下に向けたままだ。

グロリアさんも、ベッドの横に置かれた椅子に座ったまま顔を下げている。


(うーん…頭を下げてお礼っていうよりは…)


(『…顔を見せないように隠してる感じだね~?』)


(『むぅ…?』)


「あのさ、みんな自分の見た目を気にして下を向いているの?」


私が思わずそう聞くと、一人、また一人と顔を少しだけ上げて口を開く


「ミリアは気にしすぎだとは思うけど…まぁ、種族全員、少なからずは…はい」


「そういう目に、合ってますからね…はい」


と一言ずつ、全員が小さくなりながらも応えていく。私はそれを聞きながらむむむ、とうなる。

なんて言えばいい?いい?


(『しゃべる蛙、かわいいと思うんだけどね~。趣味は人それぞれだからな~』)


(みんな同じに見えるから【宇宙人】みたいに感じちゃうのかな?それがかわいいのに)


イケメン師匠はよく『グロリア』を見分けられるなと思う程に、みんな見た目は同じに見える。蛙人族から見たら自分たちの顔は全然違って見えて、むしろ人間の顔の方が見分けられないのかもしれないけどね。


うつむいていたグロリアがそうだと言うと、イケメン師匠は身を乗り出して反論をした。


「私はグロリア程に美しいと思う人に出会ったことはありません。

蛙人族も、皆かわいらしいと思うようになりました。

始めはびっくりしましたが、その……蛙の舌で話せるところに…」


(『確かに!』)


(なるほどねぇ…)


「師匠はこう言ってるけど?」

思ったよりも素早く失恋の廃状態から復活した様子のミリアに話しかける。


何故私に話しかけるのでゲスかぁ?!という顔をしてから

(あ、ミリアはもう見分けられそうだわ、私)


彼女はこう言った。


「同じ種族や親が可愛いというのは近親者のひいき目でゲス。

お師匠様は、私たちが弟子だから…弟子かわいさからそう言っているのでゲス!」


ピシィ!と指を反らしてルヴァと自分を指し示すミリア。


(『それは人間でもあるやつだから否めないな~』)


自分の『子ども』は存在する細胞の一つ一つがかわいいのだという。

(『切った髪や爪をすべて取っておきたいと思うものよ?

ユーリカも一緒に見てるんだけどなぁ…私のそういう記憶もね』)




「じゃあ、みんな人型になって生活してみたら?蛙の顔だから下を向くなら、人型でいればいいじゃない?」


私がそう言うと全員が、下に向けていた視線をこちらに向けてくる。


「変化の術で、ってことでゲスか?

あれは一時的なもので…長くても半日ももたないのでゲスよ。

魔力が枯渇して、数日ヘロヘロでゲス。

人間の多い場所や街に、仕方なく行く時に使いますでゲスが、門にある『真実の珠』で術が解かれてしまうのでゲス。最初が一番燃費が悪いでゲスから、かけ直しはほぼ不可能。半日だって人間のままでいることはできないのでゲス」


(『………………むん………?』)



(あれ、でも蛙人族は、たしか…)


「胃袋をひっくり返して、ニンニンって言うだけで人型になれるって聞いたけど?」



「「「に、ニンニン…??」」」


(『え、蛙族って忍術使えるのに、ニンニンって言わないの~?』)

(ほんとだ、ハットリは言ってたのに…へんなの)

(『…』)


これは彼らにとって、失われた記憶なんだろうか。

自分たちのための、自分たちの術なのに。


なぜ?

自然に?そんなことはありえない。

(意図的に、誰かが隠した…?)


そうだとしたら、それに何の意味があるんだろう?


目的は何??


(『蛙人族から自信を奪いたかったとか~?』)


実際に迫害され、搾取された。

競争力の低下、力の低下…


力とは、願いだ。

力とは、笑う力だ。

力とは、生きるための不可欠な要素だ。

そして自信とは、そのすべての力を支える源だ。


(だれが、何のために?)


(『まあまあ、とにかく、まずは力を取り戻させよ~!』)


(うん!えっと、戻り方の説明だね…)


「えっとね、戻りたいときは、水を口に含んだまま、蛙族の忍術を解く動作で戻るだけだって。

そうしないと戻れないらしいから気をつけてね?

みんな使える?『解術』っていうやつ」


「解術は生まれたての黒い赤ちゃんだってできるでゲス…でも…でも…」


「「「そ、そんなバカな…(でゲス)」」」

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