2-5・ 美少女になった蛙娘のミリアは神様と契約して聖女になるってよ!? ・1

結論から言うと、蛙族は獣人の中でも、随一の美男美女の集まりでした。まる。


「水もしたたる…ってやつだねぇ…両生種族なだけに!」


こう言った私に、控えめながらもお寒い視線が集まったのは内緒である。

地球の言葉っぽいと思ったら『水もしたたる良い男(女)』という煽り文句はこっちの世界でも使われている言葉らしい。


主にセクシーな感じが売りのお店の中で…脂ぎった…こう…年輪を重ねた感じの? オジサマ、オバサマたちが…お目当ての相手の肌と服の間におひねりをネジ込みながら言う定番の煽り文句だそうで…。


「ごほんごほんっ!ユーリカ様…!!


お師匠をお助け頂いただけでなく、まさか我ら一族にも知り得なかった人型への常態化術をご伝授頂けるなど…思いもよらず…!

どのようにもお礼のしようがございませぬ…!」


全ての蛙族が跪いて私を見上げる。

ミリアは周りを見回して、頷いてから私の目をしっかり見た。


(『うんうん、やっと、ちゃんとみんなの目が見えたね~!

 つぶらで真っ黒な無数の蛙の目に見つめられると…あれ?ちょっと怖いかも?』)

(こういう映画あったね、ハルカの記憶に……確か『超…)


(『あ======!聞こえない、聞きたくなーーいぃ!』)


「こほん。」

私はみんなの目を見回して、少しだけ自信を取り戻したように見えるミリアに向き合った。

彼女は俯かない。

うん、私はそれだけでうれしくてニマニマしちゃうよ。

私は、ミリアと目を合わせて話したかったんだな、と思う。


だって、ミリアって良い子だから。

虐げられたとしても、人を助けたいって思って行動できる女の子なんだもん。


(『誰かを助けたいと思っても行動できないことの方が、きっとたくさんあるよね』)

(うん)


これから少しずつでも、蛙人族が他の人たちと目を合わせていけるなら、彼らの世界はきっと、もっとずっと広がるだろう。

私も、彼らともっと話したいって思うしね。


(『目を合わせるってすごいんだよ?

それだけで、何も言えない動物とでさえ心が通じあうんだからね!

犬とか!犬とか!はぁはぁ。

犬かわいい。オレサマ、イヌ、欲しい。丸かじり。』)

(食べちゃダメ…)


ん??

犬も猫もかわいいけど、獣人をペットにしようとかじゃないよね…?


(『アタリマエダノクラッカー!

獣人は獣人の良さが、獣には獣の良さがあってだね~』)


(う~ん、分かったから落ち着いて、ハルカ…)



私の目の前で、部屋にいた蛙人族の全員が跪くと同時に、頭を深く下げて声をあげた。


「「「我ら一族、シノビアシン様への信仰と共に、今まで以上に神の森への信仰を捧げます(でゲス)」」」


「そして、私は…一族の長の嗣子ミリアは

『ユーリカ様』をお仕えする主人とさせて頂きたいと思いますでゲス」


「「「我らも同じく…!!!」」」


みんなのお尻にブンブン振られる尻尾が見える気がする。

いや、本当に出してるやついるな?変化?変化なの?


(妙に犬っぽい手下ができた⁉)

(『わ~い!これはこれでいいかも』)


いや、でも…


「えっと…そんなのわざわざいらないけど…

これから森で子どもたちが生まれるから忙しいし…」


「「「が━━━━━━ン!!」」」


「ぇえぇ…」


蛙族たちは全員が示し合わせたように顎を落とした。


美男美女がやると…なんか余計バカに見えるような…?

 

(『そう!そうなんだよ。そういう研究があってね?

 美男美女は能力も高いって勘違いされて、ハードルが高く設定されちゃうんだって。

 で、普通の子がやる失敗で評価はそんなに下がらない程度の事でも、美男美女がやるともう、もの凄いがっかりされちゃって評価が下がっちゃうんだって~』)


そ、そうなんだ…?悪いことしたかなぁ…


「えっとね、あのさ、今までだって、ほら、あそこ、森の入り口のさぁ。

 貢ぎ物?捧げ物?みたいなの、別に頑張ってくれなくて良かったんだよね…?」


「し、しかし、先祖代々、世界樹の神たる神樹様の顕現される森には感謝を捧げるようにと教えられてまいりましたので…!影ながら警護も兼ねておりまして…!」


感謝してくれるのはうれしいだろうとは思うけど、たぶん母樹、どっちでもいいと思ってるっていうか…うう、これは言ったら傷つけるやつ…!


「だって、いつの間にか祭壇ができてて?なんか、こう…、

 なんだろ?みたいな感じっていうか…ね?だってさぁ…」


私は、いつも母樹にぶら下がって遊んだり葉っぱの上で飛び回って追いかけっこしたりして好き勝手にのんべんだらりと生きている『太古の精霊』たちを思い出す。


「昔からいる…古い精霊たちがね

『ねーねー、うちの森を神の森って言い出したのいつから?うけるんだけど』

『だれが?ちょーうける』

『ぶっちゃけキョーミなーい、知らなーい。うける~』

『まじ、森の外の人族が勝手に名前つけた?的な?うける~』

『ちょーうける~』

…って、言ってたし」


「う、うける…?」

「うける…!何度も出て来る!よほどの神託なのでは…!?」

「意味を、意味を調べよう!私の命に代えても!」

「神の国の言葉でしょうか…?」


勢いよく立ち上がる者数名。


「うけるの…意味…!?

 うぅ、あれはもうただの相づちの一つって言うか…

 あの世代には言葉の意味より響きの方が大事というか…!!


 と、とにかく、あんまりがんばらなくていいんだよってことかなぁ


 信仰とか宗教とかは人それぞれ、自分が信じたいものを信じれば良いけどさ。


 こう、もっと自由に楽しく、森の物はみんなで分け合って欲しいって思ってると思うよ、母…神樹は


 だから森の物は採取した人が自由に使えばいいし、

 世界樹の神様は確かに森の奥にいるから神の森と言えなくはないけど…、

 じゃあなんか貰う代わりに貢物をしないといけないかってそんなこと全然無いんだよ」


「おお…!!神樹さまが…!!」

「あまりがんばらないでいいってこと…うけるとは、応えであり、響き…!」


「樹竜王であらせられる翡翠様もやはりこの森の奥にいらっしゃるのでしょうか…!」


「一生に一度はお目にかかりたいものです…!うける!」


あ、なんか違う風に伝わった。

どうしよう…?


でもやっぱり母樹も翡翠も人気あるのね…?


(『昔は神殿に行けば他の竜王にも会えたが、

 樹竜王はもっと遠い存在だったのだ。世界神樹の根元が神殿のようなものだからな。

 だから母樹と樹竜王だけは人間だけだと会いに行けないのだよ』)


つまり、たまーに翡翠だけで出てくるのを待つしかないってことか。


母樹も結界の外からは見えないようになってるけど、昔は姿らしい。


私が生まれる前のユーリカの時代には、ユーリカがいろんな場所に『世界樹』を植えていて、それに付き添っていた翡翠を見た人たちが描いた絵や絵本も人気がある。


簡単に見られるわけじゃない神殿の古い本は、人が集まった日に神殿に詰めてる人が読み聞かせたりする。

べつにその人たちも仕事としてやってるわけじゃないみたいなんだけどね。


神殿内に飾られた絵やそこでだけ読める絵本に出て来る『世界神樹』や、『樹竜王・翡翠』というのは、こう…伝言ゲームみたいにいろんな話が混ざったりしている割合が、実際に会いにいける系の竜王よりは多いっていうか、想像が膨らんじゃった感じになっている。


世界神樹は、昔の人たちには身近にあった世界樹の母神のような存在だから、まだ親近感があったりで変な妄想は生まれなかったみたいなんだけど、翡翠は違った。


翡翠は優しく、美しく、どこまでも甘く、ロマンチストで、父性愛にあふれたイケメェン、らしい。


口伝って怖い。



「捧げものはさせていただきたいのでゲス…!

 そうしないと、頂くばかりでは私たちの気がすまないのでゲス…!」


ミリアがそういうと、他のみんなも不安そうな顔でこちらを見ていた。


「うーん、じゃあ、たまにあると樹竜王が喜ぶお菓子があって、それがあるといいかも。

 少なめに…こういう形の…球根みたいな…?」


ふわしゅわな生地の中にクリームと果物がまるごと入ったアップルパイみたいな…シュークリーム、みたいなお菓子。


「なんと!シュウクラムですね…!樹竜王様はシュウクラムがお好き…!かしこまりました…!」


(『後日、獣人の管理する祭壇にはシュウクラムというお菓子が山のように積まれることになるのであった…なんてね?あはは』)


イヤ、なるかもしれない…この感じだと


(『なるだろうな。私もあれは好きだ』)


「少なめにね…ほんと、少なめに…」


一言一句漏らさないように!みたいに目をひんむいて熱心にメモを取っているルヴァの弟子たちの姿が少しコワイです…


「あ、あと、新しく世界樹も何本か植えたし、まだ増やす予定だけど…大丈夫かな?


 世界樹を増やしたから元々の結界の範囲が広がっちゃって、今回ミリアたちや他の人たちが森の外周に入れなくなっちゃって、

 それは勿論今日帰ったら調整するし安心してほしいんだけど、


 なんなら私が世界樹を増やしたことがきっかけで『特別な薬の材料』が採れなくなって、ルヴァさんが襲われた訳で、

 あれ?なんならじゃないよね?なんか今気づいたかも!?

 私が全部悪いんじゃない!?

 ご…ごめんなさい??」


私は床に手をついて頭を下げた。

謝る、すなわち土下座である!



いやいやいや!!と全力で私を立ち上がらせる蛙人族たち…


イヤイヤイヤイヤ!!と意地でも土下座を慣行する私…


(負けられない闘いが、ここにはある…?)

(『がんばれーまっけるな~ちぃからぁのぉかぎり…』)

(『ぶっふぉぉ!!!

 その歌は止めろとあれほど言っただろう!あの男の背中と段ボールが浮かんでしまうじゃないか…!』)


うん、やめてほしいかな、今は…


「や、やめて欲しいのでゲス…!

 ユーリカ様が『世界神樹の葉』や『聖水』をくださったからこそ、

 傷だらけで、内臓や折られた手足がパンパンに腫れ上がって、顔だけは死守していながらも、男たちには『偽善者イケメンムカつく』とか、

 女たちには『役に立たないB専イケメン死すべし!』とか言われて今にも死にかけていたお師匠様が生き返ったのでゲスから……!!(死んでない)」


…ぇえぇ…

(『この娘、初恋の相手に対しての手のひらクル~がスゴすぎる…!?』)


立ち上がりかけていたルヴァさんが、咳き込みながら((あれ?なんか胸が痛い))((なんだろ、内臓が…))とか言いながらベッドに戻っていった…ちょっと笑いをこらえているグロリアさんの手を借りて。


私は土下座スタイルを諦めて立ち上がる。

ピパピパは天井に貼りついていて、卵たちはキャッキャとよろこんでくるくる回転している。ほっこり。


『調薬』魔法は見れたからもうだし、帰ろうかな、とピパピパに合図を送る。


「じゃ、お後がよろしいようで…私は帰るね?」


と近くの一人にそっと言った私にぴっとりとくっつくミリア。


ひっそり挨拶して、こっそり帰ろうと思ったのに……!

(は、離れない…!さすが蛙…!)

(『蛸並みの吸盤力~!』

ミリアの指を剥がそうとするが、一本ずつが違う生き物のように動いて離れない…!


「ご、ご一緒させて下さいでゲス!

お礼ができないなんて、義理堅いと評判の蛙人族の名折れでゲス!


みんな、私は後日、荷物をまとめたりしに戻って来るでゲス!

お師匠様にも、どうか許可を頂きたいのでゲス。

まだまだ未熟なのに修行を投げ出すようで申し訳ないでゲスが…私はユーリカ様の元、奴隷となって一生身を粉にして働くでゲス」


「だから、それがいらないんだってば~!奴隷なんて絶対要らないし…!?

 自由にしててよ…っていうか、それだ!

 ミリアたちが自由に生きるのが私の望みだよ!

 人型になったらしたいこと、なんか無いの?観光旅行に行くとかさ?」


ミリアが顎に指をあてる。

ピンク色の唇を突き出して私を見上げている…動作がハルカの子供の頃よりもさらに昔のテレビの再放送とかで見た昔のツーステップでフリフリのアイドルみたい。

蛙の顔の時と所作は変わっていない。さっきまで蛙でおもろ可愛かったけど、これは真面目にかわいいやつだ。


(しかし…こんなに種族単位で美男美女だらけじゃ、外に出るのも別の意味で気を付けなきゃかもね…?)


みずみずしい肌、艶々な髪、黒目がちなつぶらな瞳に、長い手足…

あれ?

この説明、まんま蛙に当てはまるじゃん…?

あっ、髪がないわ。

でもまあ…

蛙型のままでも、やっぱりかわいかったのでは?


私の心を読んだように、頭を振るミリア。

(なんで私の周りの人って心が読めるの?エスパー?忍者?ぁっ、ミリアは忍者だったわ)

(『くノ一ね』)

(『む、性別以外に何か違うのか?』)

(『う~ん、知らないけど、お風呂でやっつける』)

(『お風呂で…?ああ、あのハレンチな女か…』)


(ハレンチ…)


特に蛙人族の中でもミリアは群を抜く美少女っぷりで、お風呂におびき寄せられた悪代官をやっつけるのも可能だろう。

中身や能力はどうであれ、見た目は私より少し大きいだけの華奢な女の子だ。人拐いから見たら絶好の獲物だろうし、後で気を付けるように言っておこう…。


ちなみに当人は人型になった瞬間に手鏡を渡したら離さなくなった。


(ぇ、待って、この娘まじで片手に手鏡を持ったまま私の土下座との闘いを繰り広げていたの?…つよ!)

(『確かに!』)

(『人拐いにあうかもとか心配するだけ損だな』)


「まぁ一応、念のため、

人拐いとか奴隷商人とか盗賊とか貴族の脂ぎった奴とかには気をつけてね…」


(『よっぽどじゃない限り人拐いに捕まっても忍術で逃げられるだろうけどね~?』)


「確かに…そうでゲスね…

 今の私たちは、美しい獣人族の中でも観賞用に大人気の魚人族に不本意ながら誠に不本意ながら似ているでゲスし…

 …私たちにヒレはないでゲスから、見せ物小屋の水槽に入れられることは無いでゲスけどね!えっへん!」


(確かに、魚人族は美しい種族で有名だって翡翠もいってたよね)

(『む、しかしナルシストが多いため、観賞用以外ではあまり人気は無い。


 ちなみに、観賞用の水槽は内側からは鏡になっていて、良い給金と至れり尽くせりの福利厚生つきの、魚人族にとっては最高の職場だという話だ。

 かなり昔からある仕事だし、奴隷とは違うのだろうが、一度気になって聞いたことがあるのだ』)

(なんて?)

(『楽しいのかと』)

(『ウルリカって…なんか本当に天然だな~…』)

(『?それにすべての魚人族はこう答えた。「自分以外の生き物が目に映らない、これ以上に楽しいことは無い」と』)

(『すべての魚人族がっていうところがすごいね…』)


手鏡を離さないミリアをちらりと見やる。

う~ん、近いもんがあるね。


「私たち、蛙人族は唯一の欠点だった見た目もこうして良くなった…!

 もはや、魚人族には勝るとも劣らないでゲス!

 ちょっと水掻きが短いくらいしか違わないでゲス!ということは…!

 これでアイツに仕返しができるでゲス!」


ゲスゲス笑いながら、ミリアは薄い胸を張った。


「そうでゲスね…!人型になれるなら、人間に見つかっても苛められたりしないのでゲスね!?

 じゃあ私は…私は、許されるなら、旅に出たいのでゲス!

 世界を見て回りつつ、各地の蛙人族の仲間に教えてあげたいでゲス…!この(ふざけた)変身方法を…!」


(ふ、ふざけた…)

(『お~い、ふざけたってところ、言ってないつもりで言ってるよ~?』)

(『…』)


小さく咳き込んでいたルヴァが、ミリアに声をかける。


「ミリア、君にはもう教えることは無いと思っていたんだ。

 一番弟子の君は、もう『免許皆伝』だよ。

 旅に出るのなら、どうか蛙族だけじゃなく、薬が足りずに困っている地域をまわって欲しい。

 全ての人達に私の『調薬』の魔法や薬の作り方を、教えてあげてはくれないか」


「お、お師匠様に教えて頂いた『調薬』魔法や、技術を…!?

 い、良いのでゲスか…!?」


「私は人を救いたくて薬師になった。

 …でも、私や君たちが作る薬の量じゃ、この世界には全然足りない。

 そう思わないかい?」


「お師匠様…!やっぱりお師匠様は世界一のお師匠様でゲス…!!」


[[ルヴァはベッドの上から、精一杯のイケメンオーラを放った!]]

[[ミリアにはあまり効果がない!]]


「…わかりましたでゲス!」


(『ふぅ~安牌キタ!コレ!

 ミリアよ、旅立とう!旅立つならば!旅立った時!

 え~い、とにかく大志を抱け!』)


(別にミリアがイヤなわけじゃないんだけど、

 『主人』とか『ユーリカ様』とか言われながら生活するのは…絶対うっとおし…

…いや、肩が凝ると思ったんだよね!)


(『そうだな、敬われることも時に重荷だ』)


「ではユーリカ様、せめて旅立つ前に『世界神樹』様にお会いして、御礼をさせて頂きたいのでゲスが…」


ミリアが私に向かって跪き、そっと手を合わせる。


…シュシュシュシュって擦り合わせてお祈りするの、蛙人族の文化なの…?

擦り合わせる時は粘着力はどうなってるの…??


あぁっ?……!粘着しちゃわないように素早く動かしているのでは………!!?


「こほん。うん、それならいいよ。

 じゃぁ、ついでにもうちょっと世界神樹の葉っぱ、もらって行ったらいいね!」


私はピパピパとミリアを連れて忍者屋敷と化した薬屋を出る。


ミリアは見送りについてくる蛙人族の娘たちに旅立ちの準備を頼んでいて、数人が焦った顔で「忍長シノビオサに確認をしてからにして下さい、ミリア様」と声をかけている。


「もちろんすぐには出ないのでゲス。

 …お師匠様とグロリアの結婚式を待って出発するのでゲスよ。

 忍長とも、後でちゃんと話すでゲス。安心するのでゲス」


(『忍長…なんか響きが渋そう』)

(確かに…髭が似合いそう)

(『うむ、アレは黒いぞ』)

(くろい……?)

(『黒い………?』)


森の手前にある獣人族の作った祭壇に戻ると、私はそこから世界樹たちに念話を送る。


(あ~、テストテストぉ、ゼロより通信。

ワンより、順番に応答せよ~)


(ワン!)

(つー)

(スリ~)

(フォー。)

(ファイブぷち!)

(しっくす!)

(セブン11)

(えいとぉ!)

(ないん)

(…テン)


(あのね、結界が広がりすぎてるから、

 君たちのちょっと手前くらいまでにしてくれる?

 魔力をきゅってしすぎると強くなりすぎちゃうかもなんだけど…、

 えっと、硬いけど柔らかい感じで?)


硬いだけだと間違ってぶつかった人や動物が怪我しちゃうからね


(((((了解)))))


少し見ていると、すぐに全体的に結界が縮小していくのがわかった。

その早さに合わせて、てくてく歩く私とピパピパ、そしてミリア。


ミリアは腰を落として、周りを気にしながら、びくびくキョロキョロしている。

(『相変わらずよく前進できるな、と思う動きをするな~』)


「私たちと一緒にいれば奥まで安全に入れるからね~」

「は、はひぃ、でゲスぅ」

「~♪」


[ピパピパは喋ることができない!]

[しかし楽しそうだ!]

(昔なつかし【TVゲーム風ナレーション】楽しいな~)


ピパピパは私に乗って欲しいのか、背中に私用のソファーを出して、チラチラこちらを見ている。うん…乗ります!

(『左右にリクライニングしてアラビア~ンな感じにしよ~』)


「…ミリアも乗る?」


「!?それだけは…!!

 それだけは勘弁して欲しいのでゲス!神様に乗るなんて…!

 (…ハッッ!!わかったでゲス!やっぱり神様を乗り物扱いしているユーリカ様は天使様ではなく、むしろ神様…確定っでゲスぅ!)」


「そ~?気持ちいいのにねぇ~」

卵たちをツンツンしながらオヤツに魔力をあげていく。

大きくなーれ、大きくなーれ…


ミリアが口をパクパクしてから、遠慮がちに話しかけてくる。

「ユーリカ様、シノビアシン様は、その…本来は河童のおっさ…

 河童のオジサマのお姿だと言い伝えられていたのでゲス。

 ピパピパ様はシノビアシン様の変化されたお姿なのではないでゲスか…?」

(『忍蛙神か』)


「ピパピパはたぶん、ミリアたち蛙族に出会ってシノビアシンに見つかった感じかな?」

ミリアは大きな瞳を見開いてから、ぱちぱちと瞬きをする。

「見つかった、のでゲスか?」


蛙人族は、シノビアシンを信仰している。


以前、翡翠に聞いた話だと『水神竜』が『依り代』に造ったのが『河童のおっちゃん』と『青い鳥』だとか。

守護している水生の種族に神託をするためにその2人(人?…ええと、1羽と1河童)をお使いに出すらしい。


(『そうだ』)


(河童のおっちゃんは(忍術・水・収納・異空間魔法・闇魔術)

青い鳥は(生命・薬・死者蘇生)の力を強く持つんだよね?)

(『水神竜の眷属として生まれた水の精霊神を、神竜が二つに割ってこねて造ったんだ。儚げな顔をして、アレは一番そういうことをする…』)

(水神竜……)

(『水の精霊神の扱いが酷い…』)


水生、両生生物はシノビアシン(河童)と青い鳥の加護を強く持っていて、それらの魔法や魔力の術法を覚えやすいのだとか。


(『魔法とは出来上がっているもの。

 人から人に伝承して、出力がそれにしか向かわないもののことだ。

 威力も基本的にはみんな同じになる』)

(魔力を使って自分で工夫した術法で何かをするのは『魔力で◯◯する』とか、『(自己流)魔術』とか言ったりするんだよね?)

(『そうだ。

 ちなみに、アレ……水神竜は生命力を与え出産を司る。

 だから妊娠中の夫婦ならほとんどが水神竜を信仰する』)


『愛情の国』と呼ばれるロマリアに住む民は水神殿に足しげく通い、信仰を深め、ほとんどの人が『水神竜の守護』を授かっているらしい。


(『頑張ると加護を頂けるのだと昔から言われているのだ』)

(『何を頑張るの?恋愛?』)

(うーん、お祈りかな?)

(『…』)


(河童のおっちゃんも青い鳥も、3本指、3本足の、青に金の線が散った姿なんだよね?)

(『うむ、その通りだな』)

(『へ~!見てみたいな~。南国っぽいイメージ』)


各神殿に立像される水神竜の足元には、2体共に造形されていることが多い。


ピパピパを見ると…いつの間にか、手足に金の筋が通っている…。

__________________

名前: ピパピパ 〈忍蛙神(仮)〉

年齢: 0歳 

種族: ハイエルフの眷属

称号: 

・忍蛙神に認められた生物

・自由自在の身体

・忍術皆伝

・世界神樹の加護

・樹竜王の加護

・フルオートベビーカー

・蛙族の信仰を集める生物

・ユーリカの乗り物 New!

__________________


(これを見ると『水神竜』って入ってないから、たぶん

『忍蛙神に認められた』が→『忍蛙神に見つかった』で、

『水神竜様の眷属かな?(仲間かな?)』ってなって、でも私の眷属だから『あれ?』ってなって、

ミリアたちから『シノビアシン』だと思われ、

『蛙族の信仰を集めた』から→『忍蛙神(仮)』になったんだと思われるのよ…

つまり忍蛙神的には、信仰も集まるっぽいし、仲間のカテゴリーに入れておきたい、と)


世界神樹の加護がある時点で敵対したら不味いしね?


(『母樹は他の神よりも立場は上だからな』)


(『それより、ピパピパのステータス、またなんか増えてるね~』)


とりあえずピパピパの鑑定結果をなんとなくざっくりと、省略してミリアに伝える。


(なんか目つきが更に狂信者みたいなヤバい感じになったけど大丈夫かな…)

__________________

名前: ミリア 〈忍蛙姫〉

状態: ユーリカの信者(強) New!

年齢: 15歳 

種族: 蛙族

称号: 

・忍蛙神の加護

・薬師の聖女(免許皆伝) New!

・忍術皆伝:くノ一1級

・世界神樹の加護

・ユーリカの加護

・銭ゲバ

・ピパピパの守護 New!

━━━━━━━━━━━━━━━━━

(『おぅ………』)

(み、見なかったことにしよう…)

信仰…宗教、お布施…相続、テロ、殺人っ…!?

ぅう、こ、こわい。信仰いらない、ダメ、ゼッタイ。

(『むむ…』)


採取に来る人達が森に入るための道のあちら側に結界の位置が戻ったのを確認して、一つ頷いてから、私はミリアとピパピパを連れて、母樹の根元に転移した。


ちなみに、世界神樹から直接大量の葉と聖水を貰い、樹竜王と目が合ったミリアは、その場で立ったまま気絶してしまった。

そのまま寝かせて、次の日に私の転移魔法で店に送り返した。


…繋げた空間の向こうで何か黒い物体が「朝帰りガー」と叫んでいたが、見なかったふりで扉を閉じたのだった

まる。

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