2-3・ 蛙娘、ミリアの初恋:神薬だってよ!?

森の近くの祭壇から、不思議な動きをしながら歩くミリアにくっついてまっすぐ行くと、獣人の町『藍川の鮎』に到着した。


町は私が思っていたよりも広く、栄えて見える。


(『細長くないな~?』)

(うん、どちらかというと丸いね…?)


私とハルカが期待していたのは、こう…迷路都市みたいにくるくるした感じだったんだけども。

円の外を円で囲むみたいな。

(『鮎の追い込み用迷水路みたいなやつね~』)

(うんうん)

(『それはむしろエストールだな』)


町の名前が藍川の鮎って聞いたからなんかこう…すっかりアレっぽい感じなのかと思っちゃってたんだよね。二人で。


(『普通だね~』)

うん…普通だね…

いや、いいんだけど、普通で。


道はほぼまっすぐで、森から町の北門までは飛び石が敷かれていた。次に来る時、一人でも迷わずに来ることができるだろう。


ミリアは北門の片開きの扉にかけてある鈍色のベルを鳴らして、門の上で立ち番をしている兵士に小さく手を振った。


木の大きな外門は開かれているけれど、内側に作りつけてある鉄の門は誰かが通るたびに開けたり閉めたりするらしい。


「あぁ、ミリアか。あんまり急いで森に向かうから、心配していたんだぞ?」


詰所は2階建てで、塀と連なった造りになっている。

その屋上から四方を見張っていたらしい少年が飛び降りるのを目で追う私。人型の生き物が現実に目の前に次々に現れると、なんだか安心する。

(いるねえ、人間)

(『人間…で良いの?呼び方的なの』)

(『獣人も人型の種族。人と言っても差支えはない。

人間は人型の別の種族を亜人と呼んだりもするが…我々にとってはすべて同じ。人の種だ』)

(『ふんふん。

創作物では亜人とか言ってたけど、その呼び方は好きじゃないんだよね~。そんなことリアルで言ってるやつ見つけたら奥歯ガタガタ言わせちゃうかも』)

(魔法で実際にできそうだね…)


目の前でモフモフとした耳をピコピコさせる少年の姿を、上から下までしっかりと観察する。


ミリアが第一村人だとすれば、この少年が第二村人だ…!

長い尻尾に三角の耳。猫人族だろうか。


私と同じくらいの背丈だけど

(あれ、この子も8歳くらいってこと?

あ、人間と獣人の平均身長って違うのかな?)


少年は自分の背丈の倍以上ある高さの鉄門を軽々と開けて見せた。


尻尾が揺れるのを目で追っていると、少年が私の鼻先に顔を近づけて睨んでくる。


「なんだ?お前」

そう言って、こちらをじろじろと見回してくる。

(『失礼な子どもだなぁ~?』)

(そう?8歳ならまぁ…許せるかな?)


お姉さんの余裕で。


「私はユーリカだよ」


「ユーリカ?ユーリカなんて名前はいくらでもいるぜ。

女神様の名前を貰ったにしては、パッとしねぇなぁ。

耳がまだ成長しきってないのか…ん?

尻尾がないじゃないか。スウィンクス種じゃないのか?

っていうか、猫人族じゃないのか。

…兎人族の毛がない種族か?」


私の周りをクンクンしながら歩き回る少年。何度もミリアが止めさせようとするけど、私から目を離さない!


「お前、怪しいなぁ。本当に獣人か??」


怪しい?私怪しいの??


「ユーリカ様は天使様でゲス!」


プンプン怒るミリアが思わず、というようにそう叫ぶ。


「天使ぃ?」

うーん、それは止めてとは言ったけど、この少年にはそれで行こうかな?


「これが?バカだなミリア!

天使様はな、もっとこう、儚げでな!」


「儚げでゲス」


私の背中をぐいと押し出すミリア。

ミリア!なんか私の扱いが変わってない!?


「そ…うとも、言えなくもないのか…?ううぅ~ん

…いや、でもな、もっと背が高くて、ほら、オッパイとかもな!

ボンキュボンってなってるんだぞ?」


(『あ~…ウルリカはあるもんね?』)

(『む…?確かに私の昔の絵姿が神殿の絵物語に使われることは多かったが…』)


途端に私の背中から手を離すミリア。


「さて、こんなところで油を売っている場合ではないのでゲス

もう行くのでゲス」


(ん?言い返さないのかな?)


「あっ、こら!」


「このお方は、私が保証するのでゲス!

急いでいるのでゲス!もういくのでゲス!」

「そーだそ-だ~

急いでるんだよ~、だ」


背後で騒ぐ少年にあっかんべーをしておく。フンだ。

その内、おムネはくっつくんだからね!!



北門から入ると、道は石畳みのようなもので平らに整備されていて、雨が降っても流れるように溝も掘られている。

2階建ての木造住宅の立ち並ぶ中に時折レンガ造りの施設があって、何の店なのかわかるように旗には商品の絵がデザインされたものを看板のように掲げている。

風に靡く色とりどりの色鮮やかな布は美しく、青い空にとても映えて…

ちょっと気の利いたのようなオシャレさがある町並みだ。


砂利敷きの大通りには噴水のある広場があって、そこに水を汲みに来る女性たちが井戸端会議を開いている。

彼女たちの周りを子どもたちが駆け回って、ワーワーという声が響く。それがぬけた空に吸い込まれていくのが、なんだかとても心地良く感じた。


足早に進みながらも、私はゆったりとした町の雰囲気をたっぷり吸いこんでいく。

(『焼き鳥の匂いがする~!?』)

ハルカがそう言うので見ると、確かに肉の焼ける香ばしい匂いがしている一角がある。

いくつかある出店の主人が客寄せに何かの肉を焼いていて、肉汁と甘辛い匂いが混じった食欲をそそる香りが団扇のようなものに煽られて風に乗ってくるのが分かった。


(いい匂い)

(『暮らしている人たちの生活の匂いが交じってるね。

 お日様の匂い、洗濯の匂い、ご飯の匂い、人の体の匂い…。

 全部が懐かしい。なんかさ、懐かしい気がする町っていい町だよね~』)

(『…ああ、そうか…これは匂いなのだな…』)


ウルリカが遠くを眺めるように魂を巡らせるのが分かった。

なんだか、ムズムズする。

(『子供の頃の記憶ってさ、匂いで覚えてるんだよね~』)

(匂い…?)

(『そう。私の一番古い記憶はね、布団でお昼寝してた時のお日様と草の混じった、あったかい風の匂い』)


(匂いの記憶か、)


そう思った瞬間に、鼻の奥がツンと引き攣れた。

広がるのは、鉄の匂い…土と、火薬のにおい


(っ…?)


(『ここはもう町っていうより『街』って感じだね~。

 思ってたより大きい建物も多いし、お店も多いもん。

 一日でまわれない町は、もうシティーだよ~』)


記憶に奪われた嗅覚にくらりと頭を揺らされて、私がハルカに応えた思考がするりと滑り落ちる。

「そうだね、ここは広いね、一日じゃまわれない…」


それに応えるようにミリアが横で頭を下げる。

「この町は元々は蛙人族が作った集落だったのでゲス。でも力仕事には向いていなくて、猿系獣人に来てもらったのでゲス。

猿系獣人は器用でゲスから、小型の種族は商売人、大型の種族は大工が多いのでゲスが、職人でも商売上手なのでどんどん規模が大きくなっていったのでゲスよ」


「へぇ~」


「今では様々な種族の獣人が集まってくれているでゲス。

 河川沿いだし、小さな港もあるでゲス。

 だから、人間も来るのでゲス」


通り過ぎる道沿いを珍し気に見まわす私に、ミリアがぽそぽそと教えてくれる。


行きかう獣人たちは様々な出で立ちで、冒険者のような風貌の者がやや多い印象だ。

耳や尻尾があるだけで、人間と変わらない。

いや、ミリアが言っていたように獣人は美しい。

これは、動物としての美しさだ。


筋肉ムキムキの逞しい人も、しなやかな曲線を持ちながら程よい筋肉がそれを覆っている人も多い。

男性も女性も無駄が無いというか、装飾は要らないというか…、一切着飾る必要が無いほどに美しい、生まれながらの野生味。生き残るための遺伝子を持っていると感じる。

顔も均整がとれているし、人間が獣人を美しいと特に感じるのも頷ける。


(『こっちの人が地球人と同じ普通の人間だとしたら、ストイックに鍛え上げないとここまでスタイル良くはならないもんね~』)

(そうなの?)

(『地球人を良く知らないから分からないが、人間よりも獣人の方が身体能力は高いな』)


フードを深くかぶり縮こまって下を向くミリアにも「よお」とか「ミリア、元気かい?」など声をかける人がたくさんいて、獣人の心根も裏表なくまっすぐなように感じるんだけど。

そりゃぁ、性格なんてその人によるんだろうけど…


私はうつむくミリアに声をかける。


「みんな、顔が見えなくてもミリアだってわかるんだね?」


「ぁ…、獣人族は匂いを覚えれば大抵忘れないのでゲス。

 見た目をあまり覚えないっていうのもあるのでゲスが…基本は匂いとか、気配で判断するのでゲス」


(『そんな環境にいたら見た目のことなんて気にする必要ぜんぜん無い気がするんだけど…それとこれとはちがうのかな~?)


ハルカが言うように、私も今のところ、すれ違った誰もが、人の外見なんて気にしていないと思う。

ミリア本人だけがうつむいている。


「あのね、気にしすぎなんじゃないかな

下を向いていたら危ないし…蛙族の見た目のこと、気にしている人はいなさそうだよ?」


「…ここには蛙人族の見た目が苦手な人間もやって来るでゲスから…

上を向いて歩いて万が一、目でもあったら、その、申し訳ないのでゲス。顔は見せない方がいいのでゲス」

「そうなの…?」

私は口を閉じて、フードを深くかぶったまま下を向いていても人にぶつかることなく足早に歩くミリアについて歩く。


(『気にしすぎって言うのは私やユーリカの気持ちであって、ミリアにとってはそうじゃないのは分かってるんだよね?』)


(うん…。でも、他の人の気持ちなんか分からないし、目で見ることで安心することもあるよね?

だって、あの人もあの人もミリアに笑顔を向けて話しかけたし、すれ違った人の中でミリアを嫌そうに見る人なんか誰もいなかったのに)


相手を見ないと、想像しかできない。

見ているだけでも、本当のことは分からない。


(人って、話せるのに話さないよね)

(『そうだねぇ…

自分の思いが脳内に勝手に作りだした仮想の相手が言う言葉を信じて、勝手に疑ったり、嫌ったり、逆に好きになったり、依存したり…するね』)


(想像って、どんどん増えて、膨らんでいくよね。だって私の中で、ハルカのお祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、どんどん増えていくもの。ここにいたらこんなこと言いそう、とか)


次第に人の多い商店街から離れ、集合住宅や民家、小さな職人の受注窓口の看板が掲げられた作業場が立ち並ぶ通りに入った。

住宅と一体化したような小さなお店がたまにあるくらいで、基本的には入って楽しむようなお店は少ない。


私の後ろをピパピパがついてくる。乗って欲しそうにこっちを見てくるけど…、

私もたまには歩かないとね。うん。


すれ違う人たちの中には人間もいるけど、ミリアよりも大きなピパピパが短い足ですばやく移動するのに目を丸くして二度見している。

ミリアを蔑むような視線は、やっぱり一度も感じないていない。


「しつこかったらごめんなんだけど、みんな、どっちかっていうとピパピパを見てるよね?」


ひゅっ、と息を吸い込んでから、ミリアはそれを少し吐き出した。

口をつぐんで、もう一度小さく、ハク、と息を吸う。


「『蛙人族を思い出すだけで吐き気がする』と」


「特に獣人差別がひどい人間の国の貴族様からは、蛙族は『あまりに邪悪で封印するべき生き物』だとか言われているでゲス」


はぁあ???


「なにそれ?イヤな奴ら」


(『そんなことを言う奴の方がよっぽど邪悪だと思うけどね~!』)


ホントだよ!


へにゃり、と目を細めるミリアは、自分の指先を鼻先にかざして開いて見せた。まるで手鏡を覗き込むみたいに。

「…自分でも、もう、

他人から言われ続けたから自分を『醜い』と思っているのか、

もともと自分自身が鏡を見て醜いと感じたのか、わからないのでゲスよ」


(『自我が先か、第三者の評価が先か…って、

 もう醜形恐怖的な意識が深層心理に染みついてるね~…』)


(私が本当にミリアをかわいいなって思っても、

それをどんなに伝えても、上書きなんてできない感じ、っていうか…)



「ここでゲス」

通りの突き当り。

他の建築物よりも一回り大きなレンガ造りの建物の前でミリアは立ち止まった。


「天使…ユーリカ様…えっと…世界樹様の御使い様を御連れしたでゲス」


周りに誰もいないのを確認して、目の前の壁をトンと一つ叩いてから、そこに向かって話しかけるミリア。


壁の向こうから平坦な声が小さく聞こえる。


『水ノ精霊神様ハ』


「河童のおっさん」


ミリアが間髪開けずにそう言うと、

壁の奥でカチッと音がした。


「おおぉう…!!?」


(『忍者屋敷~!合言葉~…?うん、これはかっこいい!』)


(かっこいい!!ハットリ?ハットリなの!?)


(『うむ…!』)


話しかけた壁から数歩離れたミリアは、店の裏手に進んで行き、また別の壁を押して入り口を開けた。


(『連動型カラクリ屋敷………!!!!』)



「どうぞでゲス」


私とピパピパが入ると壁はすぐに閉じられた。


(『外に誰かいたのはわかってたけど、全然見えなかったな~』)


(『私は分かっていた』)


(私、この世界の忍術の知識は翡翠から教えてもらってたけど、聞くのと見るのと全然違う!

なんか、カラクリとか、かっこいい…!

忍術…今度やってみようかな)


階段は人一人が通れるぎりぎりの幅で、ピパピパは普通に歩くのが無理だと判断したのか、はじめからこともなげに、悠々と壁を歩いている。


(『足の裏、どうなってるのか気になるな~?』)

(たしかに…?)


(『吸盤?それとも細かい針がみっしり…』)


(『やっ…!やめろ、変なことを想像させるな…!?』)



事もなげに壁や天井をペタペタと歩く、そんなピパピパをミリアは羨望のまなざしで見ている。


(心なしか建物中から同じ気配を感じるんだけど…)


ピパピパを鑑定したらいつの間にかこうなっていたよ…

__________________

名前: ピパピパ 〈忍蛙神シノビアシン(仮)New!〉

年齢: 0歳 

種族: ハイエルフの眷属

称号: 

忍蛙神シノビアシンに認められた生物 New!

・自由自在の身体

・忍術皆伝

・世界神樹の加護

・樹竜王の加護

・フルオートベビーカー

・蛙族の信仰を集める生物 New!

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(シノビアシン(仮)って何だろ?ミリアに出会ってから変わったんだよね、たぶん?っていうか『New!』って)



薄暗い階段をしばらく上がって、狭い入り口から普通の室内に入ると、窓際に置かれた質素な木のベッドに横たわった人間がいる。

その周りを守るようにいくつもの気配。

目に映る蛙族3人より、数倍人数は多い。

(この部屋だけで15人、建物周辺を含めると50人ってとこかな)



「ただいま帰ったでゲス!グロリア、師匠は⁉」


「ミリア様…!ルヴァ様は…もう…。

熱が下がらず、意識も途切れている時間が増えて…今夜が、山かと…」


うぅ、と崩れ落ちる蛙人族の女性が涙を落とすと、それがルヴァに当たり、光って吸い込まれていく。

(おぉ…!蛙人族の油だね…!)

ちょっとした回復能力があるんだけど、やっぱり瀕死の状態では効果が無いようだ。


「ま、待っていてほしいでゲス!

世界樹様の葉っぱをいただいたのでゲス!

今すぐ…っ、

今すぐ煎じてお薬を作るでゲスから…!!」


(『イケメンな師匠さんだなぁ…ミリアの頬がピンクに…なるほどぉ~?』)


ミリアが走って調薬室と書かれた部屋に入るのにそっとついていく。


(お手伝いお手伝い…っと)


(薬の作り方ね…えっと、きれいな水で…お湯を沸かすんだったっけ?)


昔、母樹や翡翠に教わったような記憶を思い出す。


これ!って思うとデータが引き出されるんだよ。

ハイエルフの脳、ハイテク!


(ウルリカが経験済みなら私の身体が覚えているのだぁ!)


(『なんかちょっと…卑猥な想像しちゃった…てへ』)


(『ぬぁ…っ?!??わ、私はなにも…っ!?』)



「ミリア~、お湯沸かすね?」


「あ、ありがとうございますでゲス!」

(聖水しかないけど、まあいいか)

異次元から大鍋を取り出して、聖水を一瞬でお湯にする。


(その後は…えぇっと?)


「ミリア、世界樹の葉っぱ、刻んで入れちゃうね?」


ミリアは大きな口をパカッと開けてこちらを見ている。

蛙の吃驚顔は可愛いしかないのですが


「ふぁっ…っ?(あのきらめきは…聖水…なのでは、でゲス??)」


空中に浮かせた世界樹の葉を細かく細かく、目では見えないくらいまで粉砕して、(『これはもう黄砂より細かいのでは~…!?』)…鍋に入れる。


(うん、分量はむかーーーしに教えてもらった通りに入れたし、後は専門家の魔法かな?)


「じゃぁ、ミリア先生『調薬』魔法、お願いしま~す」

(たぶんできるけど、この身体での実践は未体験なので)


「ぅぇえええええ⁉ちょ、ちょ、『調薬』!!」

(ここまで、い、一時間はかかると思っていたでゲスのに……っ!?)



(『『調薬魔法』は、定められた薬の材料を正しい知識を持って使うと薬ができる魔法だ』)

(実際に手で作ったことがある人が使わないとできない、リアル修行が必須の技術系の魔法なんだよね…?)



大鍋からは眩いほどの光が溢れ出し、部屋中に魔力の渦が巻き起こった。


パチンパチンと弾けるように光ってから、世界神樹の葉が聖水に解け出るのがわかる。


「ほうほう」


(パッと光って出来上がりって聞いてたけど…

ちょっと聞いてたより大がかりだな~?

でもきれいだからいいか…)


(『ミリアの魔力と世界樹の葉の相性がいいのだろう』)


光が収束して、大鍋にはたっぷりの薬が出来上がっている。


ミリアと私の声が被る。


「「鑑定!」」

__________________

名称: 神薬 New!

材料: 世界神樹の若芽・聖水

状態: 最上級

※薬師の聖女の魔力により進化して、効果が上がっている

薬効: 死者蘇生(1日以内)

__________________


「おお」(ミリアって聖女なんだ)


「ぇええええええええええええええ?!

し、し死者蘇生ぃいぃぃぃい⁉

それに、せ、せせせせせ、聖女……⁉

あぶヴぁ」


(…あれ、今までは違ったのかな?)


(称号って簡単に変わるんだなぁ…あ、私もだった)


「ミリア~、飲ませやすいように瓶に入れちゃうね?」


口を開けたままガクガクと頷くミリアを横目に、瓶を【ペットボトル】で製造して自動で注いでいく。


(瓶だと割れちゃうもんね~)


このペットボトルはちゃんと劣化を防いで成分が保護されるように設定した。


何を隠そう、『時間停止』機能付きである!えっへん!

【地球】と魔力の合わせ技だよ。製造魔法、便利~!


それをミリアに伝えると、また口を開けて『あぶヴぁ』と言った。


…あぶヴぁって流行ってるの?



ミリアが時間停止しているので、扉の外にいたグロリアさんに薬を手渡す。


「神薬一丁あがり!一番テーブル、おねがいしまーす」


「しん…?ぁ、ありがとう、ございます…っ!!」


駆け出すグロリアさんの背中を見送って、ミリアのところへ戻る。


(気付けに『神薬』でも飲ませようかな?)

(かけても効果はあるけど、濡れちゃうからねぇ)


ミリアの口に神薬をこくこくと注いで飲み込ませる。


「ミリア~、ミリアのこと鑑定してもいい??」


「ほえぇ⁉

(じ、人物の鑑定もできるのでゲスかっ??

物質、植物、人間、魔物の順番にマスターしないと名前すら出ないはずなのに、でゲス!!

なぜなら魔力量が多いものは鑑定の熟練度と魔力の量が必要だからでゲス…!

鑑定は魔力が無い物質から、少ない植物、人間の順番で修練するのでゲスよぉぉぉぉぉおおお!


…っもう、この人は規格外すぎて驚くのが疲れたのでゲス

…人ではないのでゲス。

あ、そうだった、天使様なのでゲスから、疲れたら損でゲス…)

ど、どうぞでゲス。私のことは好きにしてほしいのでゲス」


「ミリアのことは良い娘だなと思うけど、好きにしたいことは無いかな~?じゃあさっそくぽちっと鑑定するね~」

__________________

名前: ミリア 〈忍蛙〉

状態: 初恋中

年齢: 15歳 

種族: 蛙族


称号: 

忍蛙神シノビアシンの加護

・薬師の聖女 New!

・忍術皆伝:くノ一1級

・世界樹の加護 New!

・ユーリカの加護 New!

・銭ゲバ

__________________


にやぁ、と笑うユーリカに、ミリアはびくりと肩を震わせた。


「なるほどねぇ」

「な、なんでゲスかぁ?」

「初恋中かぁ…相手はさっきのルヴァさん…かなぁ?」


「…っあ…あぶヴぁぁ⁉(なんで!?なんでそんなことまで分かるのでゲスゥゥゥ!???)」


そんな話をしている内に、ルヴァが寝ていた部屋の方から『ワァッ!』という歓声と拍手が起こる。


『『『おめでとう!グロリア!!』』』

『そ、そんな、私なんて…っ』

『頼む、グロリア、君がいないと私はもう生きていけないんだ…っ!』


そりゃあ隣の部屋だからね、そんなに騒いだら聞こえますよ…??


もう一度ミリアの鑑定をしてから、私はそっと彼女の肩に手を置いた。

__________________

名前: ミリア 〈忍蛙〉

状態: 失恋 New!

年齢: 15歳 

種族: 蛙族

称号: 

・忍蛙神の加護

・薬師の聖女

・忍術皆伝:くノ一1級

・世界樹の加護

・ユーリカの加護

・銭ゲバ

__________________

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