2-2・ え、ピパピパって神様なの?

「天使様…ありがとうございますでゲス!このご恩は、一生かけてお返ししますでゲス…!」


「ぇ、天使…? 恩返しとかはいらないんだけど、天使…?」


人間の体に蛙の顔をのせたような少女が、私の足元に跪いて顔を下げ、高速で手を擦り合わせている。


「知識ではあったけど、蛙人族ってはじめて見た。会えてうれしいよ!

えっと、でも天使様って呼ぶのはやめて欲しいかなぁ?」


ハルカから、もの凄く嫌そうな気配が漂っている。


(『某乙女ゲームの初期設定でそういうのがあってね…

イラストレーターで腐女子だった同人作家に売り子を頼まれた時、あのフリフリのドレスみたいなワンピースを着せられたのを思い出すっていうかサ…

初代っていう名札をつけて延々と続く列を捌いたな…』)


「で、では、なんとお呼びすればいいでゲスか…?」


「私の名前はユーリカだよ。

あなたの名前は?」


蛙族の少女は顔を下げたまま、へへぇ~!と頭を上下させた。


「ユーリカ様でゲスね…わかりましたでゲス!

私は蛙族のミリアという者でゲス。

獣人族の街『藍川の鮎』で人間の薬師様に弟子入りしていて…はっ!

わ、忘れていたでゲス、わ、私ってば…馬鹿馬鹿!

頂いた世界樹様の葉で薬を作って、早くお師匠様を助けるのでゲス…!失礼しますなのでゲス…!」


ミリアと名乗った少女は、自分の頭をコツンコツン☆と叩くふりをして、そのままの姿勢では有りえないほどの速さでズリズリと後ろに下がって行く。


(速っ!あの体勢で!?)

(『いや、っていうか蛙版のタマオさん?ぷんぷんじゃなくて?』)


思わず同じ姿勢で追いかける私。


(『いや、前進でも難しいよ!?ユーリカもすごいな!?』)


私が蛙が潰れたような姿で追いかけたのに驚いたのか、ぽかんと口を開けて停止したミリア。


えっと、ディスったわけじゃないんだよ。

こんな動きが人にできるのかって気になってやってみただけでして


…でも、

(『やっと目があったね~』)

(『…昔の蛙人族はこんなに卑屈ではなかったのだが…』)

(そうなの?)

(『ああ、むしろ獣人の中では常に首領級だったからな』)


首領級…


(『影の』)


影の…

(『忍者的な?』)


おお…ニンジャ…?


(『あ』)

(『ユーリカ…』)


ワクワクが止まらないよ!!


「ねぇねぇねぇ、今から薬を作るの?」


「は、はいでゲス!」


「やり方は知ってるけど、やったことは無いんだよね。

 見てみたいな…(いろいろ)

私も、いっしょに行っていい?」


「え、えっと…」


「だめ??秘伝?秘伝の製法、(忍術)的な感じなの?」


ミリアは下に向けていた顔を、更に深く下げて、口を開いた。


「ユーリカ様、今、薬屋には師匠の弟子の蛙族が…たくさんいるのでゲス。

わ、私たちのような、

…み…、醜い、種族の顔を…、

天使…ユーリカ様のような方に、長々とお見せするわけには…いかない、でゲス…」


「えっ?…私、蛙好きだから平気だけど?醜いなんて思わないし、むしろかわいいと思うけど??」


(『私も~!赤いのも青いのもガマも好きだけど、

やっぱりかわいさで言ったら、黄緑のアマガエルが最強かなぁ~?』)


(『うむ』)


(うんうん、でも私は蛙ならいぽいぽもちっちゃいのもどっちゃりもみんな好きだよ)



「…ゲスっ?き、気持ち悪く、ない、でゲスか…?」


「ぜーんぜん。むしろ生き物の中では断トツに親しみがあるかな?この子も蛙(?)だし」


私は、乗って来たピパピパ1号を撫でて見せる。


ピパピパの作ってくれたふわふわのプールの中で卵たちは安心しきっていて、自分だけのスペースで、気持ち良さそうに動きまわったり、眠ったり、精霊たちと歌ったりして過ごしている。


(『グレ〇リンのギ〇モが歌ってるの、可愛かったな~』)

(あのモフモフからアレが生まれるのは衝撃だったよ…)


(『アレも見ようによってはかわいいとは思うんだけどね』)

(う~ん…?)


ミリアが跪いたままピパピパに釘付けになっている。


「こ、これが、蛙…??」


「そうだよ、子守りをしてくれるの。で、私も乗せてくれるって言うから、森の中をお散歩していたんだよね~」


子守りの精霊たちが、うんうんと返事をしてくれる。

ピパピパに心酔している顔だ。


「すごいんだよ、卵たちの後ろに私が座れるソファーを作ってくれたの。

人をダメにするタイプのやつだよ~。

ちょっと温かくて、フットレストは足湯みたいになってるし、最高だよ!

ん、ミリアも座る?」


「そそそ、そんな、恐れ多いことでございますでゲス!

こんな、ものすごい『変化』の『忍術』を使える蛙なんて…!


ハッ!?まさか私たち蛙族に代々伝わる、伝説の『忍蛙神シノビアシン様』の化身なのでわ…っ!?


どこかにある沼の奥深くに沈む神殿に眠ると言われている、古くから伝わる、伝説の大老蛙のぉおおお……!?」


(ぇええ??)


「と、とにかく、蛙族がいるから嫌とか全然思わないから…ついて行っても良いかな?

薬作るの、見たいな?秘密とかじゃなければでいいんだけど。

私、魔力ならいっぱいあるし、お手伝いするから。

急いで作って、そのお師匠さん?を治してあげようよ」


「ゲ、ゲスっ…!?


で、では…、

大したおもてなしもできませんでゲスが…、

ご案内させて頂きますでゲス!


(て、天使様は、なんてお優しいのでゲスかぁぁっ!?

心の中までもが清らかで…澄んだ湖のように、美しいのでゲスね…!!?


そんな天使様にお仕えしている忍蛙神シノビアシン様は幸せでゲス!羨ましいのでゲス~…!もし特別な力が私にもあればお仕えしたいのに、でゲス……)」


(『心の中でまだ天使様って呼ばれてる気がする~…』)





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