1-12・ 蛙かな?【ピパピパ】はフルオートベビーカー!☆
「ふぅ~」
私はおでこに手をあてて今日を振り返る。
慌てすぎた私に呆れた翡翠が、世界樹巡りにつき合ってくれた。
(口が悪いお祖父ちゃんみたいなんだけど、結局は優しいんだよね~)
10個の実は一日で全部、無事に生まれ落ちた。
世界樹を植えた順番と同じ順で時計回りに。
一ノ樹の実から卵が出てきてすぐに競うように次の実が落ちて卵が出たので焦ったけど、五ノ樹からは慣れてきて、楽しむ余裕も出て来たくらいである。えっへん。
生まれる前から考えていたことなんだけど成長過程を見ていたいというのもあって、私は卵を抱えて生活することにした。
ハルカと一緒になって色々実験したところ、抱っこ紐やおんぶ紐では4~5玉が限界だった。
入れるのも出すのも紐系では時間がかかる。
実からでた卵がどこまでお世話が必要で強度がどうなのかもわからないし、やってみて改善することも視野に入れつつ、『抱える』ことだけを念頭に悩んだ末に、カンガルーが思い浮かんだ。
安全の代名詞、カンガルーの子育てポケットをイメージして、お腹の前に魔力で袋を作ったら安定した。
10個の子育てポケットを作ってもう安心だと思っていたら、あっという間に卵が成長をし続ける。ポケットに入れていられたのは半日にも満たない時間だった。
本当に育つのが速い。ヤバイ。
さっき見た時よりも一回り大きい、という状況を一時間ごとに繰り返す。まじで?と言いながら、経験者のハルカが一番慌てていた。
(大丈夫?ぶつからない?)と不安になってくる。みんな動くし。
それぞれの卵には一緒に生まれた精霊たちがぴったりとくっついている。
だから卵同士がぶつからないようにはしてくれているんだけど…
保険で袋同士がくっつかないように安全地帯を作り、そこにもクッション用の袋を挟んで分けてみた。
魔力で実体化させてるから簡単に改造できるんだよね。
(『見たまえ、これがほんとの魔改造、ってやつだよ~!』)ハルカがいつもと違う……いっしょか。
少しして、ピカピカ光る精霊たちの、卵への影響が気になってくる。眼下に光。新生児の目に強い光が直撃はよろしくないのでは、と気づく。
卵は一分一秒毎に、少しずつ大きくなって、私の両手の上に乗せられなくなった。
(うーむ。成長が早い。…うらやましい。)
とうとうのんびりお散歩がしていられなくなって、袋を抱えたまま翡翠に寄り掛かって座る。
「ふぅ~…」
袋同士が大きすぎて、手が自由にならない。届かない。
(私の手が…短い…??)
(『ぷふ――――――!!!!!ちょ、やだ、笑わせないで』)
ウルリカが噴出した横でハルカもゲラゲラ笑っている。
笑い事ではないのである。
(いや、本当に私の身体の成長、遅いよ?)
主に身長、つまり身体。
50cm伸びるはずだったのに…(『あはは、まだ言ってる』)だってさぁ。
「翡翠、私って小さいよね?大人のサイズ感じゃないような気がするんだけど」
(【地球】でいうと、12~15歳くらい?なんじゃないかな~、っていう感じ。
目線の高さで、普通の木や草花と比べて…なんとなくだけど)
(『あ~、この世界の植物のサイズが【地球】の植物と違う可能性もあるのかな?』)
(くぅっ、ハルカの目線の記憶はあてにならないかもしれないのか…!あっ!)
思いついて、初代ユーリカ…ウルリカの記憶での目線の高さを参考にして、今の自分の背の高さを比べてみる。
…うん、やっぱり低いと思う。ずいぶん。
「そうだな、この世界の人種として見るなら、、、8歳か…発育の良い10歳くらいか?」
「は、は、は、は、8歳!?」
(思ったより小さかった!)
(『おおぅ、今気がついたよ。私たち、この世界で一回も人を見ていないんだなぁって。そりゃ人恋しくもなるよねぇ。あはは。8歳かー』)
(わ、私、8歳…いや、10歳に見えるの…?)
「ここで人を見たことが無いから、分からない…」
「ああ、結界があるからな」
入って良いよ、としないと誰も何も虫も空気も入れない超スゴイ結界がね…あったね…
「結界かぁ…結界のせいかぁ…」
(知識だけじゃなくて、見てみたいなぁ、他の人。
あと…ちょっと怖いけど、結界の外の世界にも行ってみたいな)
卵がうねうねと私の魔力を食べるように吸収して、また一回りずつ大きくなる。
(かわいいよ、かわいいんだけどさ…)
(か、かさばるなぁ…)
本当なら、卵の母樹が寝床を作って、生まれるまで根元で魔力をあげるみたいなんだけど…
(最初の子だけじゃなんだからって、私がうきうきしながら、ノリノリで全員にまとめて魔力を注いじゃったから…)
この子たちは、卵から生まれるまで私の魔力をあげないと、うまいこと育たなくなってしまったらしい。
いや、生まれるんだけど、必要とする量が増えてしまって、私の魔力じゃないと時間がかかっちゃうんだって。
卵を破るのに必要な魔力の容量が大きくなりすぎてしまったみたいだ。
私が近くにいれば普通に生まれるから問題はないらしいんだけど、そこら辺にポン、と置いておくわけにも…ねぇ?
だから袋で私に固定したんだけど
「この子たちの母樹、怒ってないかな?」
(私だったら、自分から生まれた子供を持っていかれるのはイヤだと思うんだよね…)
『ユーリカに怒ったりしないわよ、気にしないでいいわ』と母樹が揺れる。
「お前が育てた世界樹は、お前の分身のようなものだ。神樹の分身とは根本的に違う」
「私の…分身なの?」
初耳だよ?
「そうだ。おそらく神樹よりも、『念話』だってしやすいはずだ」
『遠くからでもできるけど、世界樹たちと後で直接繋いでくると良いわよ。聞こえが違うから』
聞こえが…?うーん、後でちゃんと謝って、繋いでもらおう。
「つ、繋ぐの…痛くないかな…」
『ウフフ、痛くないわよ』
「よかった。母樹とみたいに、仲良くなりたいな」
「…しかし、ずっとそのまま抱いているつもりか?
もう一度言うが、卵の近くにおれば、抱いている必要はないぞ?魔力の一端が届けば大丈夫であるからな」
翡翠が爪で地面の上を撫でる。
「そういう訳にはいかないってば~」
(赤ちゃんだしねぇ)
「…でも、いつまでこのまま…卵状態なのかは気になるかな?
この状態から、どれくらい大きくなって、どれくらいで卵から出てくるのか」
「その大きさからか…普通であればあと1カ月はかかるか。…お前のことだから、早まるかもしれんが」
(とりあえず1カ月みておく感じか)
「あと1カ月…どれくらいまで大きくなる?」
翡翠が頷く。
「そのまま抱いておくのは無理であろうな」
(『うむむ、べ、ベビーカーが欲しいな…。というか、色々準備しなきゃだよねぇ?
ベッドに、おもちゃに…オムツ…?あれ、出てきたら何食べるのかな。ミルク?』)
「…あっ、まずお家がいるよね…!あわわ」
「慌てるでない。もうとりあえず草原に寝かせれば良いではないか。
精霊に満ち満ちた、豊潤な魔力のベットである。我はお前をそうしておったぞ?神樹がずっと魔力で包んいたしな」
(『ちっちっち、気分の盛り上がりが違うんだよ、ベビーベットは』)
ちっちゃいベットに寝ている赤ちゃん…うん、かわいい!
「添い寝もしたいから、お布団部屋も必要だなぁ…」
妄想が膨らんでいく。10人の小さい子供たち!寝相の良い子悪い子普通の子!!くは~!!かわいい!!
「だから、草原でだな」
「ちょっと翡翠は黙ってて」
「わ、我だって添い寝に誘われるかもしれんだろうが…!」
あ、だから草原推しなのね…おじいちゃん。知らんがな。
「よーし、色々作っちゃうぞ~」
しかしそうなると、作業するのに目の前で10個のこんもりした袋がピカピカウネウネしているのはちょっと困るな…更に大きくなるんでしょ?
前、見えなくなるよね。ていうか、今だってもうすでに私の腕は自由にならず、何もできていないのに…
「…背中にくっつけようかな」
(『おんぶ紐的な?けっこう危ないんじゃないのかな~卵だし』)
そうなんだよね…卵であるということが一番の問題点で…
(『背中でたくさんの子どもを育てるやつ、動物。いたなぁ、そういえば。なんだっけ?テレビで…』)
(ああ、見たね、閲覧注意的な…)
こう…背中にくっつける?的な、蛙…?
【コモリガエル】…だったかな?あ、あれだ、見た目に反して名前がかわいくてびっくりした…
「『【ピパピパ】!』」
ボフン!!
私とハルカが同時に叫ぶと、目の前に大きなお布団…じゃなくて、平べったい蛙が…
ピパピパがあらわれた!
「な、なんだ、これは!?」
翡翠が驚いて寝そべってアピールしていた地面に顎を落とした。
「ピパピパ、だねぇ…」
(『びっくりしたぁ~!うん、私もびっくりしたよ、本当』)
(具体的?に思い浮かべたら出てきたよ…魔力と【地球】の奇跡のコラボレーション、みたいな?)
「だからそのピパピパというのが何なのかと聞いておる!」
「えっ…地球の…蛙…?みたいな?」
ピパピパが私の方をチラチラ見てくる。
「え?卵?育ててくれるの?代わりに?」
背中に乗せれば、育ててくれるらしい。そう聞いたらピパッピパは頷いてニカッと笑った。
ぇ、それって
「ベビーシッター的な?」
(『【フルオートベビーカー】だぁ!?』)
ピパピパがもう一度頷いた。
ニコニコ顔が、キモかわいい。
(『ぅえーん、私もこんなの欲しかった~!』)
『うふふ、ちょっと気持ち悪いけどかわいいわ、この【ピパピパ】』
母樹が魔力を伸ばしてピパピパをツンツンと触っている。
「…むむぅ、、まぁ…ネバネバしとらんなら良いか…」
「うん。実物は触ったり見たりした記憶は無い…と思うから、たぶんハルカがテレビとか本で見た知識をベースにしてるんだと思うんだけど。
本物はどうなのかな?」
(『う~ん、こんなに大きくはない気がするけど、卵に合わせて余裕を持たせたサイズ感だね~でっか!』)
(ペトペトネバネバ…はしてないのかな?)
そっと指を伸ばしてみる。
(『蛙って本来両生類だからな~?乾燥したらよくないんじゃないかな…?多分。ペトペトして…ないね?』)
サラサラだしぷにぷにだし、ちょっと温かくて、触り心地が良い。
翡翠がピパピパをムニムニしている私を見る。
ピパピパも、さあどうぞというようにこちらを見て待っている。
「じゃあ、お願い」
「きゅ」
私が一つの卵を袋からそっと取り出すと、その卵にくっついていた精霊たちが飛び出してピパピパを取り囲む。
ピパピパはその子たちに身を任せながらも、ふかふかのお布団のような、滑らかなクッションのような背中をポヨンポヨンと震わせて歩いてくる。
面白がった精霊たちがピパピパの背中で飛んだり跳ねたりしているから余計だ。
ピパピパに卵を乗せると精霊が背中の穴に入っていって卵の居場所を整えていく。
最後に小さな手でその感触と安定感を確かめて腕で大きな丸を作った。それを見た精霊たちがワッと手を叩いてくるくると踊り出す。
「卵のお世話精霊たち、大丈夫だと思うけど、よろしくね」
順番に渡した卵たちは、ピパピパの背中にできた柔らかなクッションのひとつひとつに計ったかのようにぴったりと嵌まっている。
卵が大きくなったらスペースを広げる余裕もあるみたいだ。
お世話精霊たちは、親指を立てたり、腕を組んで頷いたり、手を叩いて喜んでいる。
『すごく乗り心地が良いみたいね』
「喜び方が異常であるな…?」
「精霊たちもリラックスできるのかもね…?」
卵にくっつくように、精霊用の椅子のようなクッションが設置されていて、精霊たちはみんなとてもうれしそうだ。
『あれ、いいなぁ…』
母樹が羨ましそうに見ている。
ぅーん、母樹サイズのは無理じゃないかな?
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