古本屋看板猫そーせきと白猫さくらの風船騒動

アほリ

古本屋看板猫そーせきと白猫さくらの風船騒動

 古本屋の看板サビ猫のそーせきは、店の窓から外を眺めていた。


 そーせきは、歩道を行き交う人々を眺めているのが好きだった。

 何故なら外を眺めるそーせきを通りすがりの人が「あっ!あの猫だ!」と見つけて、ガラス窓沿いに愛撫でしてくれるからだ。


 今や古本屋のそーせきは有名猫。

 猫雑誌やペット番組で知って、態々この古本屋にやってくる人々が多かった。


 暖かい日差しに、ついつい古本屋の店の窓の前でウトウトしていたそーせき。


 「今日は、余り人が覗いて来ないにゃ・・・久しぶりにのーんびり出来るにゃ・・・」


 と、その時1匹の白い地域猫がじーーーっと古本の上でくつろぐそーせきを、キラキラした目で見つめていた。


 「うにゃっ!?」


 そーせきは、思わず古本の山から堕ちそうになった。


 この白い地域猫には、見覚えがあった。


 というかこの白い地域猫をそーせきは愛していた。もう、夢にも出てくる程のゾッコンな恋猫だったのだ。


 その白い地域猫は扉から肉球でトントン叩いたり、爪でガリガリと引っ掻いたりして扉をあけさせようと、店員に催促したのだ。


 「はいはい、開けますよ」


 と、店員がドアを半開きするとすっと店の中に入り込んだ白い地域猫。


 「よく来たね、さくらちゃん。」


 店員もこの白い地域猫のさくらが好きだった。

 古本屋の側にやって来ると、よく餌をあげていた位だ。


 しかし、店員は地域猫のさくらには古本屋に入ると警戒気味だった。

 何故なら、所詮地域猫。何処に歩いたか解らない脚で売り物の古本を歩いたら汚れるからだ。

 

 「ねぇねぇ!そーせきさん!お願いがあって来たの。」


 「ん?なあに?あっ?!」


 そーせきの顔は青ざめた。


 白い猫のさくらは、口に萎んだ赤い風船を何個もくわえていたからだ。


 そーせきは、夢の中でみた光景を思い出した。


 ・・・夢の中でも、さくらちゃんはどんどんふくらんでいく、でっかい赤い風船を渡してニッコリしたんだっけ・・・


 ・・・で、でっかい風船が割れたとたんに乗っていた古本の山から墜落したんだっけ・・・


 ・・・まさか、正夢になるとは・・・


 そーせきは悪い予感がした。


 「ここじゃ、店員さんに気付かれるから店員さんの目のつかないところで話すわ。」


 と、さくらの言う通りに古本屋のストックが積まれた奥に移動したとたん、そーせきにお辞儀をして頼まれた。


 「そーせきさん。この風船膨らませて。」


 「えっ?俺?」


 猫のそーせきは、風船を店の窓から何度も見た事があっても、実際に口で膨らます事は産まれてこの方全く無かった。


 「で、さくらちゃんは風船を口で膨らます事出来るの?」


 「出来るわよ。頬っぺたの方が大きく膨らむけど・・・」


 「みたい!!さくらの頬っぺたがパンパンに膨らむとこ!!」


 「いやん!恥ずかしい!!それより、そーせきさんにこの風船を膨らまして欲しいの!!」


 と、持ってきた萎んだ赤い風船の1個を口移しにそーせきの口元に渡した。


 「ハンドポンプで?ここは古本屋だから風船膨らますハンドポンプは無いけど?」


 「ハンドポンプじゃなくて、口!口で風船膨らますの!!ねぇ・・・風船を口で膨らませてよぉ・・・ねぇねぇ・・・!!」


 地域白猫のさくらは、猫撫で声でそーせきにスリスリと甘えてせがんだ。


 さくらの愛をマトモに受けたそーせきの胸がキュンとなったとたん、


 「解った!!今から口で膨らましたる!!割れちゃうかも試練から耳塞げよーー!!」


 サビ猫のそーせきは息をおもいっきり吸い込むと、赤い風船の吹き口をくわえて頬をパンパンに孕ますと、思いっきり赤い風船に息を吹き込んだ。


 ところが、


 ぷ、ぷ、ぷ、ぷ、ぷぶぷぷ・・・!!



 「ぜぇ・・・ぜぇ・・・風船が全く膨らまないよぉ!!」


 「でも、鼻の穴がこれ以上パンパンにならない位に膨らんで、頬っぺただけでなく顔もパンパンに膨らんで面白い!!」


 「ねぇ、その為に風船膨らますようにせがんだの?!」


 そーせきは、半ばムカついた。


 「誤解だわよ。愛する貴方の吐息で満たした風船で遊びたくて、膨らますようにせがんだの!!」


 「解ったよ!!解ったよ!!」


 サビ猫のそーせきは今度は更に息をおもいっきり吸い込んで、渾身の力を込めて赤い風船に行を吹き込んだ。



 ぷぶぷぷ、ぷぶぷぷ。


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!




 遂にサビ猫のそーせきの吐息で、赤い風船は膨らんだ。



 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!



 どんどんどんどん、サビ猫のそーせきは赤い風船に息を吹き込んで大きく膨らませていった。


 「うわー!!そーせきさん!もうこんなに大きく風船を膨らませちゃった!!

 私も風船膨らませたくなっちゃった!!」


 白猫のさくらも息を深く吸い込んで、もう一方の赤い風船を口で膨らませた。



 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!



 「さくらちゃん!白猫なのに顔真っ赤!!物凄い浮腫んだ顔!!美貌台無し!!ぷぷっ!!」


 「失礼だわね!!」


 白猫のさくらは膨れた。


 「うーん。この位でいいかな?僕、古本の風船の本見てこれをやりたかったんだ。」


 看板猫そーせきは、洋梨状になる位に大きく膨らませた風船を上に向けて肉球で地面に抑えていた風船の吹き口を離した。



 ぷしゅ~~~~~~~!!ぶおおおぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!



 吹き口を離した赤い風船は、古本の山を上下左右にすり抜け古本屋の店舗じゅうを吹っ飛んでいった。


 「あー面白かった!!風船ってやっぱり面白いねぇーー!!」


 看板猫のそーせきは笑いながら、向こうの古本の棚に墜ちた萎んだ風船を取りに行った。


 

 び~~~~~~~~~~~~!!



 「何この音?!面白い!!」


 「これはね、膨らませた風船の吹き口を引っ張って萎ませばこんな音が鳴るの!!」


 「うわー!!さくらちゃん!!ありがとう!!僕もやってみよう!!」


 看板猫のそーせきは、一度膨らませ癖のついた赤い風船をもーっと大きく膨らまそうとめいっぱい頬っぺたを孕ませて、大きく大きくぷぅ~~~~~~~~!!ぷぅ~~~~~~~!!と息を吹き込んだ。


 「そーせきさん!!風船大きくしすぎ!!

 付け根までふくらんじゃってるわ!!」


 「あっ!!本当だ!!」


 看板猫のそーせきは、慌てて口から風船の吹き口を離そうとしたとたん・・・



 ぱぁーーーーーーーーん!!



 「うにゃぁーーーっ!!」


 「にゃにゃーーーーーっ!!」


 看板猫のそーせきの風船が、古本屋を揺るがす程大きな音をたててパンクした。


 

 ドサドサドサドサっ!!



 風船がパンクした振動で、古本の山が次々崩れてしまった。


 「あっ・・・!」


 「うにゃっ?」「にゃ・・・?」


 何事か?と店員が風船がパンクした音がした奥の方へやって来ると、


 割れた風船の吹き口をくわてて呆然とする看板猫のそーせきと、耳を塞いで硬直する白猫のさくら。 


 そして、思わず白猫のさくらが膨らませた赤い風船がしゅるしゅると周りで吹っ飛んでいたのだった。


 更にタイミング悪く、丁度古本屋に客が来ていたのだ。


 「看板猫のそーせき・・・と、白猫はそーせきのいい名づけ????」


 ちなみに、客がこの状況をSNSで拡散したところ看板猫のそーせきの人気がいい名づけ(?)と勘違いされた白猫のさくらまで巻き込んで上昇して、俗に“風船が好きな古本屋の猫コンビ”と表されるようになったとさ。


 そして、古本屋看板猫のそーせきのファンの差し入れに好物のちゅ~ると一緒に風船が贈られるとか。








 ~古本屋看板猫そーせきと白猫さくらの風船騒動~


 ~fin~

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古本屋看板猫そーせきと白猫さくらの風船騒動 アほリ @ahori1970

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