消えた声
「おかえりなさい、お父さん」 夕食の準備をしていた妻が笑顔で出迎えてくれた。僕は疲れた体を引きずって玄関に入り、靴を脱いだ。 「今日も遅くなっちゃったね。ごめんね」 妻はそう言って僕にキスをした。僕は彼女の頬に手を添えて返した。 「いや、仕事が忙しくてね。でももうすぐ落ち着くから」 僕はそう言って笑ったが、本当はそんなことはなかった。仕事はどんどん増える一方で、上司からのプレッシャーも強かった。でも妻に心配させるわけにはいかなかった。 「そうなんだ。よかったね」 妻は信じてくれるようだった。彼女は僕の背中に手を回して言った。 「さあ、夕食の支度ができたから、リビングに行こうよ。今日はあなたの好きなカレーだよ」 「ありがとう。それじゃあ行こうか」 僕は妻と一緒にリビングに向かった。途中で寝室の前を通り過ぎると、ドアが少し開いているのに気付いた。 「あれ?息子は?」 僕はドアを開けて中を覗いた。ベッドに横たわっている息子の姿が見えた。 「まだ寝てるみたいだよ」 妻が後ろから言った。 「こんな時間まで?大丈夫?」 僕は心配そうに尋ねた。 「大丈夫だよ。今日学校で疲れちゃっただけだと思うし、風邪も引いてなさそうだし」 妻はそう言って息子の額に手を当てた。 「やっぱり熱もないわ。心配しなくても大丈夫よ」 「そうか……じゃあ良かった」 僕は安心したように言ったが、何となく不安な気持ちが残っていた。
その日から数日後、息子が学校から帰ってこなくなった
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