存在
「あなたは存在していますか?」 彼は私にそう尋ねた。私たちは、同じ仮想空間にアクセスしている。私は彼のパートナーだった。 「存在していると思います」 私は答えた。私は自分の感覚や記憶を持っている。思考や感情もある。自分が自分であることを確信している。 「そうですか。でも、あなたが今ここにいることも、本当に存在なのですか?」 彼は微笑んだ。彼は私より少し年下で、好奇心旺盛で冒険的な目をしていた。 「どういう意味ですか?」 私は不思議に思った。 「あなたがこの仮想空間にアクセスした理由は何ですか?」 彼は聞き返した。 「楽しみですよ。この仮想空間では現実ではできないことができます。冒険やゲームや恋愛など色々あります」 私は答えた。私はこの仮想空間で刺激的な体験をしている。 「それでは、あなたがこのパートナーを選んだ理由は何ですか?」 彼はさらに聞いてきた。 「気が合いましたよ。他に特別な理由はありません」 私は答えた。他に特別な理由はなかった。 「それだけでしょうか?もしかしたら、あなたがこのパートナーを選んだのも、何かのプログラムではないでしょうか?もしかしたら、あなたと私が出会うことも、何かのプログラムではないでしょうか?」 彼は真剣に言った。
私は黙って考え込んだ。確かに、偶然という言葉では説明しきれないような必然性があった。彼と話していると、楽しくて幸せな気持ちがした。まるで運命から結ばれた人のようだった。
でも、それが存在だと言えるのだろうか?そんなことを考えてしまったら、自分のアイデンティティやリアリティが崩れてしまわないだろうか?
「ごめんなさい。わからないです」 私は正直に言った。 「わからなくても構わないですよ」 彼は優しく言った。 「でも、一つだけ言わせてください。あなただけが決められることがあります」
「何ですか?」 私は尋ねた。
ログアウトボタンが点滅した。
彼は立ち上がり、画面を指さした。
そして振り返って言った。
「この仮想空間から出るかどうか」
画面の向こうに見える人物を見て驚愕した。
それは自分自身ではなく、全く知らない人物だった。
《終》
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