小話シリーズ（失踪済み）

真実

「あなたは真実を知りたいですか？」 彼は私にそう尋ねた。私たちは、同じ研究所に勤めている。私は彼の部下だった。 「真実を知りたいと思います」 私は答えた。私は科学者として、事実や証拠に基づいて物事を判断することを信条としていた。感情や思い込みに惑わされることなく、真理を追求することが大切だと思っていた。 「そうですか。でも、あなたが今ここにいることも、本当に真実なのですか？」 彼は微笑んだ。彼は私より少し年下で、冷静で鋭い目をしていた。 「どういう意味ですか？」 私は不思議に思った。 「あなたがこの研究所に来た理由は何ですか？」 彼は聞き返した。 「興味ですよ。この研究所では最先端の技術や発見が行われています。それらに関われることが夢でした」 私は答えた。私はこの研究所で人工知能やバイオテクノロジーなどの分野に携わっている。 「それでは、あなたがこのプロジェクトに参加した理由は何ですか？」 彼はさらに聞いてきた。 「任されましたよ。上司から指示されました」 私は答えた。他に特別な理由はなかった。 「それだけでしょうか？もしかしたら、あなたがこのプロジェクトを選ばれたのも、何かの陰謀ではないでしょうか？もしかしたら、あなたと私が出会うことも、何かの陰謀ではないでしょうか？」 彼は真剣に言った。

私は黙って考え込んだ。確かに、偶然という言葉では説明しきれないような不審さがあった。彼と話していると、不安や疑念が湧き上がってくる気持ちがした。まるで隠されている秘密を暴こうとする人のようだった。

でも、それが真実だと言えるのだろうか？そんなことを信じてしまったら、自分の信頼や業績が崩れてしまわないだろうか？

「ごめんなさい。わからないです」 私は正直に言った。 「わからなくても構わないですよ」 彼は優しく言った。 「でも、一つだけ言わせてください。あなただけが決められることがあります」

「何ですか？」 私は尋ねた。

アラームが鳴った。

彼は立ち上がり、コンピューターを操作した。

そして振り返って言った。

「このデータを見るかどうか」

《終》