しゅらば?
本日、俺は冬梨に誘われて近くのケーキショップでやっているという数量限定のケーキを買いに向かっていた。冬梨にお菓子を買いに誘われるのももう慣れたものである。
「冬梨とお菓子買いに行くの、何回目だったかな?」
「…兼続は今まで食べたパンの数を覚えている?」
「…覚えてないな。つまりそれくらい沢山冬梨とお菓子を買いに行ったって事か」
ちなみに先ほどの冬梨のセリフは有名な漫画のセリフの引用である。オタクの彼女らしい返答だ。
「…そういう事(…美春、千夏、秋乃。寮に住んでいる3人全員兼続の事が好き…。ならば冬梨は彼女らを出し抜くために兼続をデートに誘って好感度を稼ぐ。幸い冬梨はお菓子を理由に兼続をデートに誘いやすい。この勝負…冬梨が俄然有利)」
冬梨が俺の隣でグッとガッツポーズを決める。
…そんなに限定ケーキを買いに行けるのが嬉しいのかな? お菓子が大好きな冬梨らしい。
「それで…今日はどこのケーキショップに行くんだ?」
朝ご飯を食べてすぐに冬梨に「…限定ケーキを買いに行くから手伝って!」と言われて連れ出されたので、俺はまだどこのケーキ店に行くのか聞いていなかった。
「…『色彩洋菓子店』のハロウィン限定カボチャケーキを買いに行く。数量限定、おひとり様1個。無茶苦茶美味しいと聞く。お菓子ハンターとして是非とも手に入れたい逸品」
「へぇ~…『色彩洋菓子店』の。そりゃ期待だな」
色彩洋菓子店とは何かとお菓子の味にうるさい冬梨も認める美味しいケーキ店だ。冬梨だけではなくお菓子系metuberの穴山さんも絶賛していたりするので味は確かなのだろう。
…そういえば冬梨に言われて気が付いたけどもうすぐハロウィンか。もう10月も終わりなんだなぁ。
俺が子供の頃はそうでもなかったけど、最近ではハロウィンも日本の一大イベントの1つとして扱われている。
この色彩市もその例外ではなく、確か去年から現市長企画で色彩市民が仮装して町中を練り歩くという「色彩ハロウィンパレード」も開催されていたはずだ。
…寮のみんなは参加するのかな? みんなが参加するなら俺も参加して見ようと思う。でもコスプレしなくちゃダメなんだよな。それがちょっとめんどくさい。
俺がそんな事を思いながら歩いていると「色彩洋菓子店」が見えて来た。
「うわっ…むっちゃ並んでるじゃん。まだ開店前だろ?」
「…少し出遅れた」
色彩洋菓子店にはすでに長蛇の列ができていた。これは1時間ぐらいは並びそうだな。まぁ今日は他に別に予定がないからいいけど。
俺と冬梨は列の最後尾に並んだ。
○○〇
俺と冬梨は列に並んでいる間もお互いの近況や最近気になったゲームやアニメなどの話をしながら時間を潰した。こういう時に趣味の合う相手だと話す話題に困らなくて良い。
「お次の方どうぞー?」
おっ! とかいう間に俺たちの番が回ってきたようだ。
「…限定のハロウィンケーキを2つ。あと…そこのカップル限定ケーキを2つ//////」
冬梨がショーケースの中に入っているケーキを指さして店員さんに注文をする。
…ん? ちょっと待て。なんかハロウィン限定ケーキの後になんか聞きなれない言葉が聞こえたような気がするのだが…。
「はい、かしこまりました。ハロウィン限定ケーキ2つとカップル限定ケーキ2つですね。店内で食べていかれますか? それともお持ち帰りで?」
「…て、店内で食べる///」
「かしこまりました。ではあちらのお会計の方にお進みください」
俺たちはレジでお金を払うとハロウィン限定ケーキとカップル限定ケーキを受け取った。そして店内の飲食スペースへ向かう。
「あの…冬梨さん?」
「…カ、カップル限定ケーキを食べたかった//// ここのカップル限定ケーキはまだ冬梨は食べた事ない」
「お、おう…」
まぁ冬梨とは何度かこういう限定メニューを頼んだ事があるので今さら特に気にするような事ではないが…。
俺と冬梨は知覚のテーブルに座ると早速ケーキを頂く事にした。しかし俺は次の冬梨の行動に驚く。
「…か、兼続、口開けて?////」
「えっ?」
冬梨は何故か俺の方にフォークで突き刺したカップル限定ケーキを向けて来る。…どうしたんだ一体?
冬梨と言えば、この世のお菓子は全て自分の物と言わんばかりにお菓子を食べ漁る子だと思っていたのだが…。その冬梨が俺にケーキを差し出している。天変地異の前触れか?
「どうしたんだ冬梨? お腹痛いのか? ポンポンペインなのか?」
「…違う。兼続は失礼。冬梨だって…いつもお菓子を独り占めしている訳じゃない。兼続は特別。兼続だから一緒にお菓子を食べる喜びを分かち合いたい////」
「そ、そうか…」
よく分からんが、くれると言うのなら貰おう。しかし「あ~ん」の体勢は恥ずかしいな。
「お、俺の皿の上においてくれたら食べるから」
「…ムッ。兼続はよく美春や秋乃に『あ~ん』されている癖に冬梨からの『あ~ん』は受け取れないって事?」
「いや、別にそういうわけではないんだが…」
「…じゃあ問題ない。ほら『あ~ん』」
なんか今日の冬梨は強情だな。仕方ないか。
「あ、あ~ん…」
冬梨は俺が口を開けた隙に中にケーキを放り込んだ。うーん…恥ずかしさで味が分かんねぇ。
「…お、美味しい?///」
「う、うまいんじゃねぇの?」
「…次は兼続の番////」
「…えっ?」
冬梨はそう言うとその小さな口を開けて来る。今度は俺が冬梨に『あ~ん』をしろと? でもやらないと冬梨は引き下がりそうにない。俺は観念して冬梨に『あ~ん』をする事にした。
「ほら、『あ~ん』」
「…パクッ/////」
「う、うまいか?」
「…うん//////」
赤い顔をしてうつむく冬梨、恥ずかしいなら最初っからやらなきゃいいのに…。あー…なんか気分も口の中も甘ったるくなってきたな。コーヒーでも飲んで気分と口の中をスッキリさせるか。そう思った俺は店の入り口にあった自販機を目指した。
○○〇
「えっーーー!? もうハロウィン限定ケーキ売り切れなんですか?」
「申し訳ございません。大変人気の品でして本日分はすでに売り切れてしまいまして…」
俺がコーヒーを買いに行くとレジで何やら女性が叫んでいた。あれは…穴山さん? お菓子系metuberの彼女もここのハロウィン限定ケーキに釣られてやって来たのか。残念ながら少し並ぶのが遅かったのか、買えなかったようだ。
しょんぼりしながらレジから離れる穴山さん。そしてコーヒーを買った俺と彼女はたまたま目がバッチリと合った。
「あっ…東坂先輩。チッス…」
気まずそうな顔で俺に挨拶してくる穴山さん。知らぬ顔ではないし、挨拶をしないのは失礼にあたると思ったのだろう。変な所で律儀な人だ。
「なんで…いるんですか? 先輩ってそんなにお菓子好きでしたっけ?」
「冬梨の付き添い」
「ああ、そういう事。…という事は馬場冬梨もここに?」
「うん。いるよ」
俺は冬梨のいる飲食スペースの方を指さす。
「あーーーー!? 馬場冬梨ハロウィン限定ケーキ買ってんじゃん!!! しかも2つ!?」
彼女はテーブルの上に置いてあったハロウィン限定ケーキが目に入ったようだ。彼女はダッシュで冬梨の傍に近寄っていく。
「…オホうるさい」
「ね、ねぇ…馬場冬梨。もしよかったらだけどさ。そのハロウィン限定ケーキ1つ譲ってくれない? 値段は定価の倍払うからさ」
おそらく動画のネタにしたいのだろう。でもわざわざ今日買わなくても次来た時に買えばいいような気がするが。
冬梨は彼女にそう言われて悩んでいたようだったが、やがて自分のハロウィン限定ケーキをさしだした。冬梨が他人にお菓子を譲るなんて珍しい。こりゃ明日は本当に雨か?
「いいの?」
「…冬梨だって鬼じゃない。美味しい物はみんなで分かち合いたい。それに…いい加減オホとも仲直りしたい…。昔、動画ボロクソに言ったのは悪かったと思ってる」
「馬場冬梨…」
冬梨…。いや、本当に最近の冬梨の成長具合は著しい。俺は心の中で彼女の成長に涙を流していた。あのコミュ障な子がここまで…。まるで蛹が蝶になるが如く、彼女のコミュニケーション能力は成長し続けている。
「ありがとう。恩に着る。私も…色々罵ったりして悪かった…」
これは…2人の間に仲直りが成立したという事でいいのかな? 穴山さんは自分のスマホを取り出すと彼女に差し出した。
「これ…私のreinのアドレス。良かったら登録しといて…」
「…オホ。うん。分かった」
「…あとオホって言うのやめて」
あぁ…良かった。冬梨にまた1人友達?…が増えた。これで彼女のコミュ障はもうほとんど克服されたと言ってもいいだろう。女神の抱える問題をまた1つクリアだ。
冬梨と穴山さんはお互いにreinアドレスを交換した様だ。無事アドレスを交換し終わった穴山さんは冬梨が食べているケーキをジッと見つめる。
「うん? 馬場冬梨が食べてるそれってカップル限定ケーキじゃなかったっけ?」
「…? うん。実は兼続と冬梨はカップル(という設定)」
冬梨が周りにまた勘違いされそうな事言っている。う~ん、訂正するのももうめんどくさいから今はそれでいいか。
「あれ? でも東坂先輩って確か高坂先輩と付き合ってるじゃありませんでしたっけ?」
…あっ、やべ。その設定すっかり忘れてた。
○○〇
次回に続く。
次の更新は12/31(日)です
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