文化祭の準備
本物のメイド喫茶の偵察から帰ってきた俺たちは早速文化祭で企画しているメイド喫茶についての案をまとめる事にした。まとめ役が得意な千夏が議長を務めて会議を進行させる。
「…次はオプションについてね。これについてはあまり過激なのをやると面倒な事になりそうだから最低限にしようと思ってるんだけど…みんなはどう思う?」
「さんせーい!」「…冬梨も異存はない」「私も賛成かな」
千夏のイニシアチブにより会議はつつがなく進行しているようだ。ぶっちゃけ俺は裏で簡単な料理を作ったり、もしもの事があった際の護衛役なのであまりメイド喫茶の内容自体には口を挟む事が無い。なので茶でも飲みながら会議の進行を眺めていた。
「ふぁ~あ。で、最低限にするとは言ったけど、具体的には何をやるの?」
寮長があくびをしながら口を挟んだ。この人も一応寮の監督者という立場なので会議にはいるのだ。…ほぼ何もしてないが。
「一緒にゲーム…トランプなどの簡単な奴ですね。…をやるオプションと食べ物にケチャップで文字を描くオプション、それから食べ物に魔法の呪文をかけるオプションの3つです。それ以外はめんどくさいのでやりません」
「なるほどね。まぁ…そんな所かしらね。…ん? でも千夏、魔法をかけるオプションなんてこっ恥ずかしい物をよくあなたがやろうと思ったわね?」
「へっ?///// それは…その///// やった方がいいと言う意見がありまして…////」
千夏は顔を赤くして俺の方をチラリと見て来る。おい、それだと誰が意見したか丸わかりじゃないか!
案の定寮長はニヤニヤとしたゲス顔で俺の方を見て来た。子供が新しいおもちゃを見つけた時の顔にそっくりだ。
「兼続ぅ…あなた『俺って硬派です』みたいな顔しながら意外とそういうの好きだったのね。やっぱりあんた童貞だわ」
「いや意味が分からんよ!? なんでメイドさんの魔法をかけるオプションに賛成しただけで俺が童貞って事になるんだよ!?」
寮長はどうやら俺がメイドさんの魔法のオプションを千夏にごり押ししたと思っていらしい。
「あんなの好きなの童貞に決まってるでしょ?」
「暴論すぎるだろ!? そもそも俺はメイドさんの魔法を好きだなんて一言も言ってないぞ」
「じゃあなんで千夏は兼続の方をチラチラ見ているのよ?」
「それは…」
不味いな。千夏のメイド姿で魔法をかけるオプションが見たいから、それを付ける事に賛成したとは寮長の前では絶対に言いたくない。言えば弄られること確定だ。
「えっと…さ。この寮に住んでる4人って可愛いじゃん? だからメイドさんの魔法をオプションに加えれば人気が出るんじゃないかと思って賛成しただけだよ」
「ふーん…つまんない答えね。でも確かに人気は出るかもしれないわね。この子たち見てくれだけはいいから。兼続、あなたも金儲けの基礎が分かってきたじゃない。大学の男子生徒共から金を搾り取るわよ!」
こいつは本当に…。しかしなんとか誤魔化せたようだ。寮長は俺に興味を無くしたのか、それ以上追及してくることはなかった。
千夏はコホンと咳払いすると次の議題に話を進める。
「それで私たちが当日着るメイド服だけど…どれにする? せっかくだから4人で揃えたいわよね? 4着だけだからコスプレショップの通販で買おうと思ってるんだけど」
千夏は自分の持っていたタブレットをみんなに見えやすい方向に向けると、コスプレショップの通販の画面を見せて来た。
へぇ~。ひとえにメイド服と言ってもこんなに種類があるんだな。それに結構お安い。1着3000円ぐらいか。コスプレ用の服ってもっと高い物だと思っていた。
「その代わり生地は結構安っぽいわよ。所詮着るのは文化祭の2日間だけだからこれくらいでいいかなと思ったんだけど…」
「あっ、これ可愛い!」
美春先輩がタブレットをスクロールしながら声を上げた。彼女が可愛いと言って指をさしたのはミニスカメイド服にさらにウサミミと網タイツをつけた「バニーメイド服」という物だ。
カジノとかにいる女性が身に着けてそうな少しセクシーなメイド服である。俺はそれを美春先輩が着用している所を想像した。確かに長身でスタイルの良い先輩には良く似合うかもしれない。
「ウサミミかぁ。可愛いけど、ちょっと恥ずかしいかも? それになんかエッチだし…////」
秋乃が自分がそれを着ている所を想像したのか少し顔を赤く染める。
確かに。普通のメイド服にウサミミと網タイツを追加するだけでなぜこんなにもエロさが増すのだろうか。ある意味哲学的な問いである。
「…冬梨は正統派のヴィクトリアン風メイド服がいい。これ1度着てみたかった」
タブレットを見ていた冬梨が指さしたのはメイドの本場であるイギリスで、実際にヴィクトリア女王の時代に着用されていたものをモチーフにしたメイド服である。
他のメイド服に比べるとスカートが長く、大人っぽくて気品がある。コスプレ…というよりはガチの給仕服と言った感じの服装だ。
冬梨は自分が子供っぽく思われないために大人っぽいファッションに憧れている。なのでこのメイド服をチョイスしたのだろう。
「ええー? でもこのメイド服を冬梨が着てもちんちくりんにしかならないんじゃない? これはある程度身長が無いと着こなせないわよ」
「…ムカッ」
そこで一緒にタブレットを見ていた寮長が話に入って来た。寮長にちんちくりんと言われた冬梨は目に見えてイラついている。
「…寮長みたいなオバサンが着るよりはマシ。メイド服はオバサンには似合わない」
「あら、言ってくれるじゃない…」
「こらこら、喧嘩しないの…」
睨み合う冬梨と寮長の間に千夏が仲裁に入る。このおばさんさっきから碌な事言わんな…。
「あっ、私はこれが良いなぁ」
秋乃が指さしたのはドイツの民族衣装である「ディアンドル」をモチーフにしたメイド服だ。「ディアンドル」はドレスと給仕服を足して2で割った感じの衣装で、それを上手い事メイド服に落とし込んでいた。快活さと可愛さが上手い事同居しており、秋乃には似合いそうである。
「う゛っ…私はこれには反対だわ。その…この服胸を強調しすぎじゃないかしら?」
秋乃に意見に千夏が苦虫を潰したような顔で反論した。「ディアンドル」は千夏の言う通り、図らずも胸を強調するようなデザインになっている。
ブラウスの上に体にぴったりとくっつく「
…千夏が着ると胸の部分が「スカッ」と寂しい事になると思うので彼女は反対したのだろう。
その後もあーだこーだと各々が自分好みのメイド服をあげていったが、中々意見がまとまらなかった。「会議は踊る、されど進まず」状態である。
結局、議長である千夏の鶴の一声で全員オーソドックスなミニスカメイド服を身に着ける事で決定した。
そして議題はようやく次へと進んだ。当日着るメイド服を決めるだけで1時間もかかってしまった。
「で、次に提供する料理についてだけど…簡単に調理できて、尚且つ保存が容易な物をピックアップしておいたわ。この中から選びましょ」
「あっ、ちょっと待って。料理だけど全てレトルト&冷凍食品にするから。だからチンして盛り付けるだけでOKよ」
しかし千夏の意見に寮長が待ったを唱えた。
「えっ、でも寮長。以前に『私たちが料理を作っている』というのを『ウリ』にするっておっしゃってませんでした?」
「ええ言ったわ。その方が売れるでしょうからね。でもそれは建前よ。料理はわたしと兼続が裏でレトルト&冷凍食品をチンして盛り付けたものをあなたたちが作ったものとして高額で提供するわ。調理法も保存法も簡単でしょ? 大丈夫。最近のレトルトは美味しいからバレはしないわよ」
俺はそれを呆れながら聞いていた。この人は金儲けのためなら悪知恵がトコトン働く人だな。ある意味尊敬する。確かにその方法なら保存も冷凍庫に突っ込んでおくだけだし、調理も楽だ。それに料理を4女神が作っている事を謳えば、男子生徒から金を踏んだくれるだろう。
千夏も寮長の言葉に呆れたのかジト目で彼女を睨んでいた。生真面目な千夏としては思う事があるのだろう。しかし、寮長は一度言い出すとめったに意見を覆すことがないため彼女も渋々それを承諾した。
その後も俺たちはメイド喫茶の案を詰めていった。
○○〇
次の更新は12/23(土)です
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