潜入のメイド喫茶

「すごーい…本当にメイドさんがいる」


「そりゃメイド喫茶なんだから当たり前でしょ…」


「…なぁ、俺来る必要あった?」


「「兼続(君)は絶対必要!!!」」


「あっ…そうですか」


 現在俺は千夏と秋乃と共に駅前にある「メイド喫茶・舞方」に来ていた。理由は文化祭で俺たちがやる予定のメイド喫茶の参考にしようと下見をしにきたのだ。


 流石に全員で行く…というのは多すぎるので、何人か代表を決めて行くことになった。


 俺は以前にこのメイド喫茶を利用した事があったので、メイド喫茶が大体どのようなものか理解している。なので辞退しようとしたのだが、他の4人が「兼続(君)は絶対参加する事!」と言ってきかなかったのだ。何故かはわからない。


 そして公正なるジャンケンの結果…千夏と秋乃と俺の3人でメイド喫茶に行くことになったのである。


 俺たちはメイドさんに案内されて席に着いた。秋乃はメイドさんの存在が珍しいのか先ほどから接客を行っているメイドさんを興味深げに眺めている。


「うわ~すごーい…。あのメイド服可愛い~(あの服着て兼続君にアピールしたら彼は落ちてくれないかな? 『ご主人様…/// そ、それはダメですぅ//// ああっ//////』『良いではないか、良いではないか』ってな感じで…グへへへへへ////)」


 秋乃はメイド服が余程気に入ったらしく、恍惚と言った表情をしてそれを見つめていた。う~ん…秋乃にそんな趣向があったとは驚きである。コスプレとか好きなのかな?


 俺たちはさっそく注文してみようという事で、呼び鈴を鳴らす。するとメイドさんがすぐに注文を取りに来た。おっ、この人は…以前に氏政から金を巻き上げた敏腕黒髪ロングのメイドさんじゃないか。


「いらっしゃいませ旦那様、お嬢様方! ご注文をお伺いいたします!」


 メイドさんは素敵な営業スマイルを浮かべて俺たちの注文を取る。へぇ、女の子の客の場合は「お嬢様」になるんだな。徹底している。


 彼女は俺たちから注文を聞くと、優雅にお辞儀をしてキッチンの方にオーダーを通しに行った。


「凄いわね…。本物のメイドさんみたい」


 千夏が彼女の所作に感心する。そしてメニュー表を再び手に取るとそれを眺め始めた。


「メニュー表見たけど結構なお値段するわね。土地代とかも含んだ料金なんでしょうけど、相場の2倍…下手したら3倍近くない?」


「それは…そういう商売だからな」


 こう言った商売をしている所はどこもそんなものである。むしろここは数千円~数万円で済む分良心的な方かもしれない。近い所で言うとキャバクラやホストクラブがそうであろうか。


 ホストクラブなどはそれこそシャンパン1本100万円とかの世界らしいからな。文字通りケタが違う。


 こういう店の料金が高いのは通常の食品の料金に加えて、メイドさんに尽くされる、美女から話しかけられる、イケメンホストにちやほやされる…という「夢」の料金を乗せて販売しているのだ。


 「夢」の値段は…無限大だ。だからこそ金にがめつい寮長はそこに眼をつけたのだろうが。大学で4女神と言われている美少女たちからの接客を受けれる…男子生徒からするとまさに「夢」のような出来事だろう。


「夢を売るねぇ…」


 千夏はゲンナリとした顔でメニュー表を睨む。実際に接客しなければならないのは彼女たちだからな。気が重くなるのも仕方がない。だが寮長に自分たちを含む、将来の寮生の生活を人質に取られている以上は気に入らなくてもやるしかないのだ。こう考えてみるとあの人相当のゲスだな。


 千夏はパラパラとメニュー表をめくり、オプションのページに目を通す。


「なにこれ…メイドさんの手を握る権利? メイドさんと見つめ合う権利? 私たちこんなことまでしなきゃいけないの?」


 千夏の白い綺麗な肌に鳥肌が立っているのが分かった。確かに見ず知らずの異性に肌を触られたりするのは抵抗があるだろう。女性ならなおさらだ。


「そこは…嫌ならそういうオプションはメニューから排除すればいいんじゃないかな? 寮長も嫌なオプションは除けてもいいって言ってたし」


「この中で私の許容範囲というと…一緒にゲームをするのと料理に文字を描くぐらいね。それ以外は無理」


「そんなところだろうな」


 あまり過激なのをやると勘違いしたガチ恋勢を増やしてめんどくさい事になりそうだし、オプションはそれくらいが無難だろう。


 千夏は自分が思いついた事を色々スマホにメモしているようだ。流石千夏、仕事の出来るお人だ。彼女がいればそう変な物にはならないという安心感がある。


「あっ…確かにやりすぎると勘違いした変な人が来る可能性もあるもんね。どうしよう兼続君、私こわーい…(ここはか弱いアピールをするチャンス! ひょっとすると何かのはずみに恋に繋がるかも? 『秋乃、大丈夫か? 暴漢は俺が追い払ったぜ!』『兼続君カッコイイー、素敵抱いて!』とかとか/////)」


 …? 秋乃は口では「怖い」と言っているのだが、何故か口元はニヘラと笑っている。言動が一致していない気がするのだが…一体さっきからどうしたんだ彼女は? ワケが分からん!?


 俺たちが話しているとメイドさんが先ほど注文したメニューを持ってきた。俺は親子丼、千夏はオムライス(メイドさんが文字を描くオプション付き)、秋乃はカルボナーラである。


 千夏が文字を描くオプションを付けたのは、実際に自分が見る事によってそれがどういう物なのかを体験するためだそうだ。百聞は一見に如かずである。


「ではお描きしますねー♪」


 メイドさんはオムライスの卵の上に猫のような動物と「お嬢様ありがとう♡」という文字を描いていく。


「では最後に美味しくなる魔法をかけまーす!『萌え☆萌え☆キューン。美味しくなれニャン♡』」


 それを見た瞬間、千夏が固まった。石化の魔法にかけられたようにピクリともしない。メイドさんは魔法をかけ終わると一礼し、俺たちの席から去っていった。


「ち、千夏…?」


 俺は恐る恐る千夏に声をかける。すると千夏の石化が解けたようで、彼女は赤い顔をしながらアタフタとし始めた。


「ちょ、ちょっと待って!?//// 私、メイド服を着て今のをやらなくちゃいけないって事?///// 無茶苦茶恥ずかしいんだけど//////」


 千夏も共感性羞恥心にやられたか。俺もだ。アレは見るだけでも恥ずかしいんだよな。いつもは冷静な千夏が顔を真っ赤にして動揺している。可愛いな。


「さっきも言ったけど、嫌ならやらなきゃいいと思うぜ。オプションは文字を描いて終わり…とかでもいいんじゃない?」


「ま、まぁそれはそうなんだけど///」


「えー? 可愛いと思うけど?」


「秋乃は…平気なの?」


「私? 私は別に平気かなぁ。別に愛の告白をするわけでもないし…。要するに料理に『おいしくなぁれ!』って魔法をかけるだけでしょ? 私はメイド服を着た千夏ちゃんがああいうのをやるって可愛いと思うなぁ」」


「そ、そう…//// 兼続はどうなのかしら…? 私のああいうの見たい?////」


 なんで俺に聞いてくるんだろう? 自分がしたいか、したくないかで決めればいいと思うんだけど…俺の意見必要なのか? しかし個人的には…普段は冷静な千夏のキュートな姿を見てみたいってのもある。


「うーん…見てみたいかなぁ。もちろん千夏が良いならだけど」


「そ、そう//// し、仕方ないわね。あれもオプションに追加しましょう/////」


 千夏はそう言ってスマホのメモに「魔法をかけるオプション」を追加した。



○○〇


次の更新は12/21(木)です


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