寮での休日
「かねつぐー! 後ろからオッサン投げるわよー」
「ちょ、先輩それは卑怯ですって!」
「勝負に卑怯も糞も無いわ! 勝ったものが勝者よ! よしっ、あたしが1位ね」
「…ほい、札束の雨」
「ああー!!! 冬梨、それは反則よ! 2位に転落しちゃったじゃない!!!」
「…勝負に反則も糞もない。勝ったものが勝者。冬梨が1位」
…俺たち3人が今何をしているのかと言うと…俺の部屋で「メリオカート」というレースゲームをやっているのである。
以前にも紹介したかもしれないが…「メリオカート」とは任地堂オイッチの人気対戦レースゲームで、メリオという30代半ばの工場勤務のおっさんがアップル姫という我儘の末に婚期を逃した40代の姫をビビンバという熟女フェチの亀から助け出すというゲームの派生作品である。
ゲームのルールは単純でプレイヤーは「メリオ」に登場するキャラクター達が乗ったカートを操作し、トラックを先に3周した者が勝者となる。トラックを周回する道中にアイテムが落ちているので、それを拾いつつ自分が有利になるように立ち回りゴールを目指すのだ。
このゲームで勝つためにはゲームの純粋な腕だけではなく、ある程度の運要素も必要だ。なのでビギナーがやりこんでいる人にいきなり勝ったりする事もあり得る。そういう所が受けて老若男女問わず楽しめる対戦ゲームとして人気なのだろう。
ちなみに…先ほど先輩が言った「オッサン」を投げるというのは、メリオカートには先ほど説明したように様々なアイテムが存在しており、自分のカートの速度を上げたり、はたまた相手のカートの進行を妨害するものもある。
「オッサン」というのはその相手を邪魔する妨害アイテムのうち、最も基本的なものの1つで、文字通り「オッサン」を相手のカートに投げつけて進行を妨害するのである。
冬梨が最後に使った「札束の雨」も同じく妨害アイテムの1つで、これはすべてのプレイヤーの周りに札束をバラまいてカートを足止めするという効果がある。1位目前の先輩は2位の冬梨に「札束の雨」を降らされて2位に転落した。
何故3人でゲームをしているのかというと、俺が暇を持て余していると冬梨がゲームをしないかと部屋にやって来たので2人でゲームをしていたのだが、そこに美春先輩もやってきて3人でゲームするに至ったのである。美春先輩もゲームは結構やるようだ。
「くっそー…悔しいわ! もう1回、もう1回よ!」
「…望むところ。冬梨がコテンパンにしてあげる(…せっかく兼続と2人っきりでゲームできると思ったのに…美春に邪魔された。…冬梨は激おこ!)」
なんか知らんが今日の冬梨はえらく闘争心が強いな。普段は勝っても負けても結構淡白な反応なのだが…。先輩に負けられない理由でもあるのか?
そしてそのまま2回戦目がスタートする。まず好調なスタートを切ったのは先輩だった。先輩はそのまま1位に躍り出る。
「フッフーン♪ 『カエンダケ男』使いのあたしにスピードで敵う奴なんていないのよ。このまま1位を取るわ!」
「…なんの、勝負はここから! …メリオカートを制する者はアイテムを制する。このゲームで勝つにはスピードよりも如何に有用なアイテムを引けるかがカギ!」
確かにこのゲームは引けるアイテムの運で順位がかなり変わる。例え最初にビリでも有用なアイテムを引き続ければ1位になれるのだ。
「…取った! これは…オッサン3人」
冬梨が最初に引いたのは「オッサン3人」というアイテムだった。名前の通り、オッサンが3人冬梨のプレイキャラの周りに出現する。順位を逆転したいときには少し微妙なアイテムである。
「フフン♪ こっちは広辞苑3冊分よ。防御もバッチリだわ!」
それに対し先輩が引いたアイテムは広辞苑3冊分。防御寄りのアイテムで、他のアイテムの妨害から3回だけ先輩を守ってくれる。順位を維持したい時に有用なアイテムだ。これは…先輩に運が傾いたな。
「…フン!」
冬梨はオッサン3人を早々に投げつけて使い果たすと、新しいアイテムを取る。彼女が次に取ったのは「洗剤」だった。これも順位を逆転したい時には微妙なアイテムである。
「…クッ、天は冬梨を見放したか…」
「やったわ! このまま1位を維持よ!」
先輩が1位を維持したままレースは終盤へと突入する。
「…おっ?」
そのまま先輩が1位を取るかと思ったその時、冬梨が逆転のアイテムをようやく引き当てた。
「…スペースシャトル。GO!」
「えっ、ちょ…冬梨引き強すぎない?」
冬梨のプレイキャラがスペースシャトルに乗り込み、超加速する。スペースシャトルが他のプレイヤーを薙ぎ払い、そして先輩をも華麗に追い抜いて見事冬梨が1位を取った。
「そんなぁ…あたしが1位だったのに…。やっぱりスペースシャトルは反則よ! チート過ぎるわ! 設定で出ないようにしましょ?」
「…勝負に反則も糞もない。勝ったものが勝者。美春の負け」
冬梨はそう言って先輩にドヤ顔でアピールする。
「クッ…。くやしいぃ~!!!!!」
「…勝った者には賞品が必要」
「賞品?」
冬梨はそう言うと俺が胡坐をかいている所にすっぽりと座って来た。ちょうど俺が小柄な冬梨の座椅子になるような形になる。
「何それ? 賞品なんて聞いてないわよ?」
「…勝負するからにはあった方がやる気が出る。冬梨はこの通り兼続椅子を貰った」
…俺は物ではないのだが。まぁいいか。別に俺には何の不利益も無いし。むしろ冬梨はポカポカしてあったかいので心地よい。
「…じゃああたしが勝てばあたしも何か貰ってもいいのよね?」
「…美春は冬梨に勝てない。今日の冬梨は絶好調!」
冬梨は「…フッ」と笑って美春先輩を挑発する。
「言ってくれるじゃない。次の勝負よ! 次こそはあたしが勝つわ!」
…なんか2人でヒートアップしてるなぁ。冬梨もどうして先輩を挑発したりしたんだろうか? いつもはそんな事しないのに…。
そうして次のレースがスタートした。今回は冬梨が好調なスタートを切る。
「…このまま1位を維持する」
「まだまだ勝負はこれからよ!」
2人とも最初のアイテムを取った。冬梨はオッサン3人。先輩は洗剤を引き当てる。
「なんで順位が低いのにまともなアイテムが出ないのよ~」
「…美春の運尽きたり」
そのままレースは進み、いよいよ最終周に差し掛かる。先輩はその後なんとか2位にはなったものの、まともなアイテムを引けずに冬梨を追い抜けないでいた。
「…また冬梨が1位」
「勝負は最後まで諦めないわ! 何が起こっても不思議じゃないのがメリオカートよ!」
冬梨がゴールしようとした直前、別のプレイヤーが「札束の雨」を使い冬梨のキャラクターがその場に制止する。
「…あっ!」
「チャンスよ!」
たまたま「札束の雨」に巻き込まれなかった先輩のプレイキャラが冬梨を追い抜いて見事1位を取った。
「フッフーン♪ 今回はあたしの勝ちね! 何を貰おうかしら?」
先輩は俺の方をニコニコと見て来る。えっ、なんで俺の方を見てるんだこの人? もしかして賞品って俺の事なの?
「決めたわ! 兼続の頭の上を貰いまーす♪」
あろうことか彼女はそう言って俺の頭の上に胸を乗せて来た。ええっ…ちょ、それはどうなんですか先輩…。柔らかくて重量のある物が俺の頭の上に「タプン」と乗る。
「兼続は知らないでしょうけど、これ結構重いのよ? はぁ~、ラクチンだわ~」
いやぁ…重いのは頭の上に乗っている物の重量で分かりますけど、異性の頭の上に胸を置くのは流石にどうかと思いますよ…。ある意味役得と言えば役得なんだけど…。
「これは冬梨にはマネできないわよねぇ」
今度は美春先輩が勝ち誇った顔で冬梨を見下ろす。
「…ムカッ、大きい胸は下品なだけ。兼続も重いって言ってる。美春は今すぐその下品な物を兼続の頭から除けた方がいい」
「じゃあ次のゲームで勝った方が決めましょ。あたしが勝ったら冬梨は兼続の膝から退くこと、あたしが負けたら兼続の頭の上から退いてあげる」
「…望むところ!」
えぇ…俺の意思は? あっ、はい。関係無いですか、そうですか。
その後、俺は2人の気が済むまで賞品として扱われた。
○○〇
次の更新は12/25(月)です
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