秋乃エキサイト!

「兼続くーん♪ ついでに部屋掃除しに来たよー♪」


 とある日曜日、秋乃が俺の部屋に掃除機をかついでやって来た。


「掃除は自分でやるから大丈夫だよ」


「まぁまぁ。細かい事気にしないで! ついでだから! 兼続君にはいつもお世話になってるし」


「えぇ…」


 俺は一見ズボラに見えるかもしれないが、ちゃんと週に1回は部屋の掃除をしている。毎週日曜日に部屋の掃除をして部屋と気分をリフレッシュし、新たな週を迎える…というのが俺の1週間のルーティンだったのだが、最近俺が部屋の掃除をしようとすると、秋乃がやって来て自分が掃除をするというのである。


「いやいや、本当に大丈夫だから。秋乃には食事の面でお世話になってるんだからこれ以上負担をかける訳にはいかないよ」


「気にしない~♪ 気にしない~♪」


 彼女はそういうと掃除機のスイッチを入れ、鼻歌を歌いながら部屋のゴミを吸い始める。そんなに汚れていないので秋乃の負担はあまりないとは思うが…やはり申し訳ない気持ちになる。秋乃は何故俺にここまでしてくれるのだろうか? 


 確かに俺は寮の力仕事を手伝ったり、秋乃の異性限定のコミュ障を直すために協力したりしている。しかしお世話になっている…というだけでは彼女の献身ぶりは説明がつかない気がする。


 もしかして俺の事が好き…とか? 


 俺はそこまで考えて首を振った。


 いやいや、ないない。大学で4女神の一柱に数えられるあの山県秋乃さんだぞ? 俺みたいな平凡な男を選ばなくても、イケメンでハイスペックな男子を十分捕まえられるお人だ。


 確かに俺と秋乃は他の異性に比べると仲が良いとは思うが…それだけである。危ない危ない…危うく勘違いするところだった。自意識過剰な男は嫌われるんだぞ! 


 せっかく秋乃と仲良くなったのに、勘違いのせいで仲がこじれたら大変だ。俺はその考えをそっと胸の奥にしまった。


 掃除機でゴミを吸い終わった秋乃はご丁寧に雑巾まで持って来て棚のホコリを取り始める。あーあ…そこまでしなくてもいいのに。秋乃に後で何かお礼をしなくちゃいけないな。


 ちなみに見られたら不味い物はすべて隠してあるので、そこら辺の心配はない。


「ら~♪ らら~♪(ふっふっふ…。私が今実行しているのは名付けて『兼続君を私に依存させよう、そうしよう作戦!』。掃除、洗濯、炊事を全て私がやることによって兼続君を私に依存させ、私ナシでは生活できなくさせる恐ろしい作戦よ。お母さんが言ってた作戦を私なりに改良してみました♪ 我ながらあの天才軍師・諸葛亮孔明もびっくりの作戦だと思うけど…恋愛は戦争だもの、最近兼続君の周りに変な女が増えたことだし、これくらいやらないとね)」

 

 秋乃は微妙に音の外れた流行りの歌の鼻歌を歌いながら雑巾がけを終えた。そして掃除が終わったので帰るのかと思いきや、今度は俺が今日洗濯しようと洗濯物を溜めておいた洗濯カゴに手をかける。


「ちょちょちょ!? 秋乃さん!? 何やってんの!?」


「何って…洗濯もついでにやろうと思って?」


 秋乃は「何か問題なの?」というようなキョトンとした表情を俺に向ける。


「いやいや、本当にそこまでしなくてもいいから! 今日日曜だし、秋乃もゆっくり身体を休めればいいと思うよ」


 上の服やズボンだけならともかく、パンツも中に入っているので流石にそれを女性に触らせるのは不味いと思った俺は慌てて洗濯カゴを秋乃の手から奪った。


「あぁー…(兼続君の匂いがしみ込んだ服…取られちゃった…。彼の服にしみついた匂いを堪能してから洗濯するのが楽しみだったのに…。ガックシ…)」


 俺が洗濯カゴを奪い返すと彼女は何故か残念そうな顔をした。なんでそんなに残念そうな顔をするんだ!? なんか俺が悪い事をしている気分になるじゃないか。


「ついでなのに…(あぁ…私の貴重な栄養が…。あの匂いだけで私は1週間何も食べなくても生活できるのに…)」


 何がついでなのか分からないが、わざわざ上の階に行って洗濯をするのはついでではないと思う。


「とりあえず洗濯は自分でやるから」


 俺は彼女から奪い返した洗濯カゴを部屋の隅の方に置いた。ふぅー…危ない。パンツに触られるところだった。善意でやってくれているのは嬉しいんだけど…流石にね。


 彼女は俺が洗濯カゴを奪ってからそれまでの上機嫌が嘘のように沈んでしまった。絶望して今にも自殺しそうな表情をしている。そこまでか!? うーん…訳が分からんよ。なんでそんなに俺の服を洗濯したいんだ?


 しかしこのままの表情でいられるのもなんとなく気分が悪い。


 …そうだ! 秋乃に普段のお礼も兼ねて少しねぎらってあげよう。


「秋乃、さっきも言ったけどせっかくの日曜なんだから身体を休めようよ。昨日気分がリフレッシュできるハーブティーを買ったんだ。よかったら休憩がてらお茶にしない?」


「えっ、ホントに!? 飲む飲む!(やった! 兼続君がお茶に誘ってくれた! 洗濯物の匂いは堪能できなかったけど、これはこれでOK!)」


 俺がそう誘いをかけると彼女は再び機嫌を取り戻して乗って来た。機嫌が直ったのは嬉しいんだけど…今度はまた凄いハイテンションだなぁ。俺には女の子の考えはやっぱりまだまだ理解できないようだ。


 俺は新品のハーブティーの封を開けると中のティーパックを取り出し、ケトルのスイッチを入れる。そしてその間にテーブルの上にお菓子を出した。普段俺はお菓子をあまり食べないのだが、来客があった時用に一応いくつか確保してある。


 それから数分経過し、ケトルの湯が沸いたのでティーカップに湯を注ぐ。ハーブティーのさわやかな香りが部屋中に広がった。


「はい、どうぞ」


 俺は入れたてのハーブティーとお菓子を秋乃の前に差し出した。


「ありがとう兼続君!(うほぉ~//// 兼続君が手ずから入れてくれたお茶…。いただきまーす!)」


 秋乃は大喜びでハーブティーを飲み干す。…熱くないのか?


「これ美味しいねぇ。おかわりしてもいいかな?」


「気に入ったのなら良かったよ」


 俺は新しいティーパックを取りだすと湯を注いで秋乃に差し出した。俺たちはそのまま大学の後期が始まったことについて世間話を咲かせた。


 だがその最中、秋乃が辛そうに肩をグルグルと回しているのに気が付いた。肩が凝っているのかな?


「秋乃、肩凝ってるのか?」


「う、うん。後期が始まったから勉強の方も大変で…」


 寮内の家事に加え、勉強も頑張っている秋乃。俺はそんな頑張り屋の彼女に普段の感謝も込めて何かしてあげられないかと考えた。…そうだ、アレにしよう!


「肩揉もうか?」


「えっ、いいの? 私の肩結構硬いよ?」


「大丈夫さ。これでも男子寮にいた頃はよく中山寮長や高広先輩の肩を揉んでたんだ。結構上手いって褒められるんだぜ?」


「じゃ、じゃあ…お願いしてもいいかな? 最近凄く肩が重くて…。ふへへ///(か、兼続君に肩を揉んで貰えるー!? よっしゃあー!)」


 俺は彼女の後ろに回るとその華奢な肩に手を置いて揉み始めた。…確かに結構硬いな。でもこれくらいは男子寮で「揉みほぐしの兼続」と呼ばれた俺の敵ではないな。うりゃ、くらえ必殺のツボ押し!


「あっ♡//// いい♡//// そこっ♡////」


 …なんだか秋乃の声が少し卑猥な気がする。まぁいいか。俺はそのまま別のツボに狙いを定めると親指でグッと押し込んだ。


「はぁぁ~♡//////// いい、すごくいいよ兼続君♡♡♡///// 私のソコ…とろけちゃいそう♡//////」


 …エロい。いやいや、なに変な気持ちになっているんだ俺は!? これは普段頑張ってくれている彼女へのお礼なのだ。それなのに俺が淫猥な気持ちになってどうするんだよ!? 平常心、平常心! 心を無にしろ!


 俺はそのまま無心の境地で彼女の肩を揉み続けた。


 10分後、俺は彼女の肩が十分にほぐれた事を確認すると肩から手を離した。


「秋乃どうだ? 肩軽くなったろう?」


 俺は彼女にそう尋ねた。しかし、彼女はどうやら俺のマッサージが気持ち良すぎてそのまま眠ってしまったようだった。こっくりこっくりと舟をこいでいる。


「あらら…仕方ねぇな」


 そのままの姿勢で寝ていると疲れがとれないと思った俺は彼女をお姫様だっこして自分の布団の上に寝かせた。


「秋乃、いつもありがとう」


「むにゃ、かねつぐく~ん」


 俺は彼女にお礼を言うと起こさないように静かにすごした。



○○〇


次の更新なのですが、カクヨムコン9に投稿する作品を12/1(金)に投稿するため、1回休みます。なので次回は12/3(日)に更新します。

最近休載多くてすいません。


※作者からのお願い


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