千夏のトラウマ

「ふっふっふ。いい買い物が出来たわね♪」


「…そう、良かったな」


 あの後散々千夏の下着選びに付き合わされた俺はグロッキー状態になっていた。いや、千夏の下着姿を見れた事はある意味役得なのだけれど、心労的な意味で凄く疲れたんだよなぁ。


 なんせ周りにいる他の客から「見て見て! あの人彼女の下着選んでる。男が彼女の下着を選ぶのってその下着を脱がせたいからよね?」「ええー? ウッソー!? あの人、人畜無害そうな顔して意外とドスケベ侍なのね! よいではないかぁ! よいではないかぁ! とか言いながら脱がすつもりよ」とか根も葉もない噂されたり。


 しまいには店員さんが出てきて「お客様、お連れ様のスレンダーな体型にはこちらのような下着はいかがでしょう?」とか言って、明らかに大事な部分が隠せていない下着をセールストークで進めて来たり(もちろん断った)で俺の精神が徐々に削られていったのだ。童貞には刺激が強すぎる。


 現在俺たちは『色バラ』4階のフードコートで休憩をとっていた。千夏は先ほどおやつに購入した大判焼きを笑顔で頬張っている。普段は美人系の顔をしている彼女だが、和菓子を食べている時はとてもいい笑顔をしていて可愛らしく感じる。


「これでもう誰にも私の下着は色気が無いなんて言わせないわ。なんせ兼続が選んだんだもの! 私の下着を色気が無いと馬鹿にするのは男の子の好みが分かってないのと一緒よ!」


 千夏はドヤ顔でそう述べる。別に俺の好みが全ての男性に刺さっているとは思わないが…というかそもそも俺は自分の好みじゃなくて無難な奴しか選んでないし。なので人によっては評価が低くなるのかもしれない。


 俺はまだ若干ドキドキしている心を落ち着かせるためにミルクティーをストローで吸う。紅茶のさわやかな香りと濃厚なミルクのまろやかさが俺の脳に安らぎを与える。…なんか最近はコーヒーか紅茶が精神を落ち着けるための必須アイテムになっている気がするな。


 …さて、千夏の用事は終わったようなので次は俺の番だ。彼女のトラウマについて聞き出さなくてはならない。でもいきなり聞くのもアレだし…。どうやってそっち系の話題に持っていくかだな。さて、どう切り込んだものか。


「今さらだけど…なんで俺に下着を選ばせたんだ? そういうのなら美春先輩とか秋乃に聞いた方が良いと思うんだが…」


「えっ?//// えっとぉ…//// そうね。それはそのぉ…そう! あなたが寮で唯一の男の子だからに決まってるじゃない! 異性がドキッとする下着を選ぶなら同性に聞くよりも異性に聞いた方が良いでしょ?(好きな人の好みに合わせた方が確実…とは言えない////)」


 千夏は少し顔を赤く染め、目をそらしながらそんな事を言ってくる。ふーん…そんなものなのかね。


「それに…あの2人に聞くと私の精神が持ちそうにないわ」


 千夏はそれまでの表情とは変わり、絶望した顔になった。あぁ…なるほど。そういう理由ね。


 おそらくあの2人に下着の相談をすると、嫌でもスタイルの話になるので自分の胸とあの2人の胸を比べてしまってショックを受けてしまうという事だろう。あの2人大きいからなぁ…。


 異性の好みを知るなら異性に聞いた方が良い…か。正直俺を頼ってくれたのは嬉しい、嬉しいけど…やっぱり友達程度の男が異性の下着を選ぶのはなんか違う気がするんだよなぁ。


「言っとくけど、男でも人によって好みって違うからな。それにこういうのはその…ただの友達に頼むより、好きな人とか彼氏を作って頼んだ方が良いと思うぞ?」


「う゛っ…(ただの友達…。そうよね、私たちの今の関係はただの友達止まり…。ここからどう恋愛関係に持っていくか。まずは彼に私を意識させないと…)」


 彼女は少しショックを受けたような表情をしていたが…やがて口を開いた。


「兼続…あなた私が親しい異性を作れない事を知っていてそれを言ってるの? あなたが今の所1番親しい異性だから頼んだんじゃない? わ、私はそれだけあなたを信頼しているという事よ(…さりげなく自分が1番親しい異性であることをアピール。これでどう? 私にはあなたしかいないの!)」


 おっ! …これはなんとか彼女のトラウマに関する話題に持って行けそうではないか? このまま聞いてみるか。


「これ聞いていいのかどうか分からないんだけどさ。千夏が異性と親しく出来ないトラウマの原因って何なんだ? 答えにくいなら別に言わなくても良いけど」


「えっ? 私のトラウマ?(なんだか私の予想した会話とは別の方向に行ったわね…)」


「俺も千夏の彼氏づくりに協力したいんだ。できれば教えてくれると嬉しいな」


 俺は千夏の手を取って彼女の目を見て頼み込んだ。彼女が苦しんでいる原因をしれば、彼氏ができる手助けになるかもしれない。


「ッ~~~!!!/////(兼続、顔近い! 近い! そんな目で見つめないで)」


 千夏は顔を真っ赤にして俺から目をそらした。


「分かった! 分かったから手を離して!(今のはヤバかった…心臓が爆発しそうだった///// 不意打ちは止めて欲しいわ…)」


 あっ…ちょっと馴れ馴れしすぎたかな。確かにいきなり異性の手を握るのはやりすぎだったか。親しき中にも礼儀ありという事を忘れないようにしないと。千夏は残りの大判焼きを一気に口の中に放り込むと話を始めた。


「そんなに大した話じゃないわよ。えっと…あれは私が小学生ぐらいの時だったかしら? 当時仲の良い男の子がいたのよね。カネちゃんって言ってね。本名はなんて言ったかしら? 確か名字に『東』の文字が入っていた気がするけど、忘れちゃったわ」


 千夏は抹茶を一口飲んで話を続ける。


「結構頻繁に遊んでたんだけど、ある日そのカネちゃんが私の家に遊びに来ることになったの。で、そのカネちゃんが私の部屋を見た時に言ったのよ。『ちなっちゃんの部屋汚ねぇな。なんかショックだわ』って。で、その言葉に傷ついた私はそれ以降、異性に自分の本性を見せるのが苦手になったってワケ。カネちゃんともそれからは疎遠になっちゃったわ」


 …なるほどなぁ。つまり仲の良かった異性に傷つくことを言われたのがトラウマの始まりだったわけか。この情報が千夏のトラウマを解消するためにどう役立つか…。


 千夏が現在自分の本性を見せれる異性は俺だけ。彼女が何故俺にだけ本性を見せられるかと言うと、半場無理やりだったとはいえ寮長の策略により、千夏の部屋の有様を知ったからだ。


 これから考えると、やはり千夏のトラウマを解消するには彼女の本性を異性にカミングアウトするしかないんじゃないか? もちろんそれにショックを受ける者もいるだろう、だが逆に千夏を受け入れる者もいるはずだ。その自分を受け入れてくれる異性がいるのを知る事で千夏のトラウマは解消されるのではないだろうか?


 …でも千夏はカミングアウトを拒否してるし、それは難しいか。


 もしくは千夏に別に異性に失望されても良いやと開き直らせるか。嫌われる勇気という奴だな。これも言うのは簡単だけど実行するのは難しい。


 うーん…考えれば考える程、トラウマを解消するのは難しい気がする。


「そうか、辛い事を思いださせて悪かったな」


「構わないわ。それよりも兼続、私まだ行きたい場所があるんだけど」


「ん? ああ、いいぞ。どこ行く?」


「えっとね…」


 俺は果たして千夏のトラウマを解消し、彼女に彼氏を作らせることができるのだろうか?



○○〇


すでにお気づきの方もいると思いますが…千夏の小学生時代の友人の「カネちゃん」はあの人です。そう、2人は小さい頃に会っていたんですね。


次の更新は11/29(水)となります


※作者からのお願い


もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る