冬梨チャレンジ!
「『後期になっても友達が少ない人の会』?」
「そうなんですよ。冬梨ちゃんいきなりその会に参加するとか言い出して…」
俺とバラムツさんは講義の終わりにたまたま一緒になり、大学の校内を2人で歩いていた。そして世間話をしているとバラムツさんから冬梨が怪しげな名前の会に出席するという話を聞かされる。
「その『後期になっても友達が少ない人の会』ってのは何なんだ?」
「そのまんまです。前期に友達をあまり作れなかったコミュ障たちのために、後期からでも友達が作れるようそういうコミュ障たちを集めて仲良くなろうって会らしいですね。学部のラウンジに張り紙がされてたんですけど、それを見た瞬間冬梨ちゃんが『…これだ!』と言い出しまして…」
「誰がそんなの主催してんの?」
「えーっと…確か『
「ああ、あいつらね」
ボランティアサークル。その名の通り、自発的に社会への奉仕活動を目的としたサークルである。奉仕活動をしているというと「なんて良い人たちなんだ…」と感心するかもしれないが、実際は就活のためのエピソード作りを目的にボランティア活動をしている少し腹黒いサークルだ。
今回の活動も「コミュニケーションが苦手な人たちのために率先して行動し、その結果、見事に友達を作らせることが出来ました!」と人事にアピールするためにやるのだろう。逆を言えばエピソード作りのためには労力を惜しまない連中なのである意味信頼できる。
友達がいない子というのはコミュ障の子が多い。だがそこにボランティアサークルの人間が間に入って取り持ってくれれば、コミュ障の子同士でもスムーズにコミュニケーションがとりやすいのは確かだ。まさに就活生が大好きな潤滑油の役割である。
…まぁ就活生がみんな潤滑油を主張するので会社の面接会場は油でドロドロになってそうだが。
そういう話は今は置いといて、これなら冬梨も友達作りがしやすいのではないだろうか?
しかし冬梨…前期の時はあんなに友達作りに億劫になっていたのに、まさか自分から友達を作りに行動するようになるなんて…成長したなぁ。俺は心の中でホロリと涙を流した。気分はまるで彼女の親の如くだ。
このまま冬梨の友達作りが上手くいけば…彼女の抱える問題であるコミュ障な部分はほぼ解決したと言っても良いだろう。俺が女子寮にいる理由である4女神の問題を1つ解決したという事になる。
「ちなみに今日の16時半から大学のカフェでやるみたいですけど…どうします? あと10分ぐらいですね」
「そりゃ当然見に行くだろ」
「おにーさん、冬梨ちゃんには過保護ですよねぇ…。ワタクシには雑なのに…。あぁ…これが顔面格差という奴ですか? 天使のような冬梨ちゃんと魚類のようなワタクシ…」
「別にバラムツさんを粗末に扱ってるつもりは無いんだが…」
確かに冬梨は可愛いが、俺が彼女の様子を見に行くのは純粋に心配だからだ。それに彼女のコミュ障を解決するという責任感もある。責任を持つからには最後まで面倒を見てやらなくてはならない。あとバラムツさんもそこそこ可愛いと思うよ。
「えっ、哀れなワタクシにカフェでコーヒーを奢ってくれるって? 流石おにーさん! 太っ腹ですね!」
「そんなことは一言も言っとらんが…まぁいいか」
この子なんだかんだ言ってこうやって人にたかるの上手いよな。いい性格をしている。俺は彼女の要求を承諾しつつそのままカフェに向かった。
○○〇
「おっ、いましたよ。角のテーブルです」
「ホントだ」
俺とバラムツさんは飲み物を買うと冬梨が良く見える席に陣取った。彼女は店の左奥のテーブルの通路側の席に座っている。テーブルは4人席でそのテーブルにはすでに4人着席していた。あの4人が「後期になっても友達が少ない人の会」に参加した面子だろうか? 全員女の子だ。
『はい、では時間になりましたので始めさせていただきます。まずは我々ボランティアサークルの企画に集まっていただいてありがとうございます。私は今回進行を務めさせて頂くボランティアサークルの山本と申します。皆さんと同じ1回生なので気軽に話しかけて下さいね♪』
一番奥の角席に座っていた茶髪でポニーテールの女の子がまず自己紹介をする。へぇ、あの子も1回生なのか。1回生から就活のエピソード作りとはご苦労な事だ。…俺も何かしらエピソード作っとかないとな。
『今回集まってくれたのは3人という事で…まず私から反時計周りに自己紹介していきましょうか? 最初は金髪のあなたね』
山本さんに指名された金髪の女性が立ち上がった。あれ…? あの人どっかで見たような…?
『あ…穴山梅子です…。きょ、今日はヨロシク…。お菓子系metuberやってます…』
明らかに引きつった表情であいさつをしたのはお菓子系metuberの穴山梅子さんだった。どおりで見た事あると思ったんだよなあのウェーブのかかった金髪。そういえば彼女も友達少ないって冬梨が言ってたなぁ…。だから今回の企画に参加したんだろうな。
おそらく穴山さんの顔が引きつっていたのは参加者に冬梨がいたからだろう。冬梨は色々穴山さんの恥ずかしい話を知っているからな。暴露されると不味い…彼女はそう思ったのかもしれない。
しかし友達をつくるために参加したイベントの参加者の1人が穴山さんだとは…これはちょっと冬梨が新しい友達を作るのは厳しいか? 冬梨と穴山さんは犬猿の仲だ。最近はなんか喧嘩友達みたいになってるけど。
「オホ声の奴やっぱり友達少なかったんですね。あんなに友達がいるアピールしてたのに…」
バラムツさんがカップからコーヒーを飲みながら穴山さんをジト目で見つめた。…人間誰でも見栄を張りたくなる時はあるもんさ。
『はい、ありがとうございました。では次、眼鏡をかけているあなた』
進行役の山本さんにそう言われて黒髪ツインテの子が立ち上がる。んん…? あの子もどっかで見た事あるような…?
『は、初めまして、私は小山田信子です! オタ研に入ってます。最近のマイブームは「進撃の魚人!」です。気軽にオタ話振ってくださいね!』
あー…どこかで見た事あると思ったら以前冬梨が友達になろうとして失敗した小山田さんじゃないか。確か好きなキャラに対する解釈が合わなくて喧嘩したんだっけ?
…うーん、参加者のうち2人がこれでは今回冬梨が友達作るのは難しいかもしれないなぁ。
『はい、ありがとうございます。じゃあ最後に白髪のあなた』
山本さんに指名されて冬梨が立ち上がる。冬梨大丈夫かな…? ちゃんと自己紹介できるだろうか? いやいや、この数カ月で冬梨は成長したんだ。近くでそれを見て来た俺がそれを信じてやらなくてどうするんだよ。
『…ば、馬場冬梨、よろしく。…す、好きなものはお菓子とアニメとゲーム』
おぉー…少しどもりながらだけど、ちゃんと言えたじゃないか。まぁ相手が穴山さんと小山田さんですでに顔見知りという事もあるのだろうが。
『はい、では全員自己紹介できたので、これからコミュニケーションタイムに入ります。みんな気軽におしゃべりしてね♪』
…このイベント、一体どうなるのだろうか?
○○〇
次の更新は12/11(月)です
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