波乱の芋煮会
俺は秋乃と千夏に連れられ、みんなが座って食べられるように設置しておいたテーブル席に移動した。2人から有無を言わさない圧力をかけられ椅子に座る…いや、正確に言うと座らされた。俺が座るのを見届けた2人は俺の両隣りの席に陣取る。
「えっと…? 2人とも?」
ワケが分からずに混乱する。なんで2人は俺を強引にテーブル席に連れて来たんだろうか?
2人は笑顔だ。それはそれはとてもいい笑顔をしている。しかし、その笑顔から放たれるプレッシャーは半端ない。もしかして…2人とも怒ってる?
「兼続君、鮭食べたかったんだよね? 私のあげるね。はい、あーん」
秋乃はニコニコと俺に鮭を差し出してくる。ここで秋乃の「あーん」を断る勇気は俺にはなかった。覚悟を決めると口を開けて彼女が差し出している鮭を頬張る。
「………モグモグ」
「おいしい?」
「流石秋乃の作った料理だ。美味しいよ。これほど美味しい鍋を作れる人は中々いないんじゃないかな?」
「えへへ♪ そりゃ出汁からこだわってアク取りもちゃんとやったからね。もっと褒めても良いんだよ♪」
正直な話を言わせてもらうと彼女たちから飛んでくるプレッシャーで緊張して味が全くしなかった。だがここで秋乃を褒めておかないとヤバい…。俺は本能的にそれを理解していたので彼女の料理を褒めちぎった。
彼女の機嫌はそれにより多少マシになったようである。
「兼続、次はこっちよ。私のお肉を食べて頂戴。はい、口開けて。あーん」
秋乃の機嫌がマシになったと思ったら次は千夏が俺を攻め立てる。千夏も秋乃と同じようにニコニコと俺に肉を差し出してきた。俺、何か2人の気に障るような事したかなぁ? もちろん断る勇気は俺にはなかったので彼女の差し出した肉を口の中に入れる。
「………モグモグ」
「もっと食べて良いのよ。私のうつわの肉全部食べちゃいなさい♪」
千夏は俺が肉を飲み込むのを確認すると、さらに続けて肉を差し出してきた。2枚、3枚…俺の口の中は肉で支配された。
「…千夏、ありがとう。お腹いっぱいだよ」
「そう、満足したのね。良かった。男の子は一杯食べなきゃね!」
俺は千夏から差し出された計20枚の肉を全て食べきった。千夏はそれで満足したらしく、彼女から放たれていたプレッシャーは収まっていく。
それにしても千夏のうつわに肉入りすぎだろ!? 俺のうつわなんて肉2枚しか入ってなかったぞ!?
とりあえず2人の怒りは治めた。でも何で怒ってたんだろうな?
○○〇
~side another~
秋乃と千夏が兼続に「あーん」合戦を繰り広げてたその時、当たり前ではあるが…その光景は芋煮会に参加していた他のメンバーも目撃していた。
「なぁ、定満後輩。兼続の奴もしかして…」
「ですかねぇ…」
兼続の男子寮の先輩と後輩である高広と定満は先ほどの光景を見て色々察した。おそらくは…あの2人は兼続の事が好きなんだろうなと。
「あいつ…自分なんか4女神に相手されてないとか言ってたのにやるじゃねぇか。一気に2人も落としてやがった」
「僕は前から兼続先輩は何かをやり遂げる人だと思ってましたよ」
2人が話していると同じく男子寮の中山寮長が話に混ざる。彼も先ほどの光景を見て察した人間の1人だった。
「兼続の奴、一皮むけたな。チ〇ポの皮がむけるのももう少しか?」
「寮長…下ネタはやめてくださいよ。せっかく先輩に彼女が出来るかもしれないのに」
「言っとくけどアンタ邪魔はすんなよ」
「俺だってそれが分からないほどヤボな人間じゃねぇよ。俺がふざけるのはふざけても良い時だけだ」
「ホントですかねぇ…」
男子寮の面々は兼続が修羅場っている光景を生暖かい目をして見守った。
○○〇
…一方のこちらは美春&皐月のグループ。彼女たちも先ほどの光景を目にしていた。
「兼続君やるねぇ…これは美春もウカウカしてられないんじゃない?」
「えっ、どうして?」
皐月は秋乃と千夏の「あーん」合戦を見て察していた。あの2人も兼続の事が好きなんだろうなと。普通好きでもない人間にあんな事はしない。
親友である美春の恋路を応援している皐月としては、恋のライバルが出現した彼女に発破をかけるためにもそう言ったのであるが…肝心の美春は意味が分かっていなかった。
「だってあれくらい寮のみんなは普通にやってるわよ? 多分兼続をからかうのが楽しいんでしょうね。あたしもそうだったもの」
「………」
皐月は親友の言葉に頭を抱えた。ああ、そういえばこの友人は昔から色恋沙汰にはニブかったなと。美春に彼氏が出来なかった要因は色々あるが、その理由の一つに美春自身がニブチンであった事が挙げられる。自分に向けられる好意にも他人に向けられている好意にも結構ニブいのだ。
…これは結構長い戦いになるかもしれない。皐月はため息を吐いた。兼続に好意をよせているのが美春1人であれば、彼女にドンドンアタックさせることで兼続を落とせたのであるが…ライバルがいるとなると話が変わって来る。
「これは作戦の練り直しね…」
皐月は友人のためこの状況を打破するべく新たに作戦を練り直す事にした。
「でもとりあえずは…せっかく彼と一緒にイベントに参加してるんだからアピールしてきなさい!」
「えっ? 皐月?」
皐月はは美春の背中を「バン」と叩いて兼続の元へ送り出した。
○○〇
~side兼続~
「うわっとと…」
秋乃と千夏の機嫌をなんとかなだめた俺は、2人に囲まれながら一息ついていた。そんな中、美春先輩がこちらにバランスを崩しながらやって来る。石にでも躓いたのだろうか?
バランスを崩した先輩は転ぶまいとうつわを持っていた手をテーブルに勢いよくつける。しかし先輩はバランスを立て直すことには成功したのだが、その机に手を付けた時の衝撃で、うつわの中に入っていたコンニャクがうつわを飛び出して彼女の胸の谷間へと入って行った。
「えっ? あっつ!? あっつ!?」
アツアツに熱せられていたコンニャクが彼女の胸の谷間の上でダンスを踊る。うわっ…これはちょっと男の目には毒だ。俺はそれをあまり見ないように目を背けた。
「か、兼続! とって、とってぇ! あっつ!?」
だがあろうことか先輩は俺を指名してきた。何でだよ!? 自分でとって下さいよ!?
コンニャクは先輩が熱さで身をよじったせいで、谷間の奥の方に行ってしまったらしく彼女は自分が着ている服を「バッ」ずり下げて俺の方に見せつけて来る。俺の目には先輩の綺麗な胸の谷間がドアップで映し出された。
指名されたからには仕方ないのでコンニャクをとろうと箸を構えた。だがコンニャクの姿は目に見える範囲には見つからない。
…もしかすると胸の谷間の間に挟まってるのか? 流石に谷間の間に箸を入れてとるのはセクハラだろう。これは困った…。
「わ、私が取ります」
見かねた秋乃が手を貸してくれた。ありがとう秋乃。こういうのは同性に任せた方が良いよね?
「ハハッ…。どうせ私にはコンニャクを挟めるような谷間なんてありませんよーだ…」
千夏は1人でショックを受けていた。
「あっ、あん//// ちょ/// 秋乃、そこダメェ////」
「せ、先輩動かないで。コンニャクがとれません////」
…これコンニャクをとってるだけだよね? なんでコンニャクをとるだけでこんなに淫猥な感じになるんだろう。
やっとの事で秋乃は先輩の胸の奥に挟まっていたコンニャクを救出した。あのコンニャク…先輩の胸の谷間に挟まれていたんだよな。
「兼続、これ食べる?////」
「いや、食べませんよ!?」
俺は丁重にお断りした。そこまで変態ではない。
○○〇
次の更新は11/19(土)です
3000字程度で区切っているので毎回ちょっと中途半端な切り方なります。
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