芋煮会は修羅場になる!?
寮長の思いつきにより急遽始まった芋煮会。しかし彼女の思いつきにしては珍しく良い案だったのではないだろうか。ありがたく秋の恵みを堪能しよう。
俺はスーパーで買って来た紙のうつわに鍋の中身をすくって入れる。…うん? なんか出汁が凄くドロドロしてる気がする…さっきまでサラサラだったのにな? 芋のデンプン質が出汁の中に溶け出したか? まぁいいや。
おー…里芋にネギ、こんにゃくに人参にごぼう、沢山の野菜の他にも豚肉や豆腐といったタンパク質も見える。肉も野菜もたっぷり! これ1杯で栄養は満点だろう。
バラムツさんの持ってきた鮭は残念ながらすくえなかったか。鍋に入っている鮭って美味いんだけどなぁ…。あんまり欲張って他の人の分が無くなるといけないのでここは我慢するとしよう。
では、秋の恵みを頂くとするかな?
俺は早速芋煮を食してみた。ホクホクの里芋が歯で噛むと柔らかく崩れて口の中を楽しませる。野菜や肉にも出汁の味がしみ込んで非常に美味だ。
…でもなんか予想してた味と違うなぁ。美味いのは美味いけど…。もっとアッサリ系の味だと思っていたのだが、この出汁の味はコッテリ系である。
「兼続、楽しんでますかな?」
俺が芋煮に舌鼓を打っていると朝信が話しかけて来た。彼は紙のうつわに芋煮を大盛りにして入れている。取りすぎだろ。
「ああ、美味いよ」
「やはり我の入れた隠し味が効いたようですな。この出汁のコッテリとした濃厚な味は我の入れた隠し味があってこそですな」
「隠し味…?」
そういえばこいつ何か鍋に入れてたなぁ…。何を入れたんだろう?
「グフフ…。何を隠そう我は鍋の中にラードを入れましたな!」
「おい!? だから鍋の中があんなにドロドロしてたのか!?」
こいつ…脂っこいものが好きだからってアッサリ系の鍋をコッテリ系にしやがって…。だから太るんだぞ。
今回は偶然にも鍋の味が良かったからいいものの…不味かったら大ひんしゅくものだ。中山寮長といい、どうして鍋にそんなに不純物を入れたがるんだ。闇鍋にでもする気か? 王道の鍋でいいじゃないか。
他の奴らは変な物入れてないだろうな? 一応秋乃がチェックしてると思うけど。ちなみに野菜類は女子寮の俺を含む5人の提供である。他の人が何を持って来ても最低限の鍋にはなるように材料を割り振ったのだ。なので女子寮の住人は変な物を入れてないと断言できる。
まず女性陣…バラムツさんは鮭を持ってきたことは確認済み。諏訪さんと甘利さんは何を持ってきたのだろうか。この2人は常識人だから変なものは入れていないと思うが…。ちょっと聞いてみるか。俺は諏訪さんに近づくと話しかけた。
「諏訪さん、楽しんでる?」
「東坂君。うん、楽しんでるよ。いきなり『芋煮会に参加しない?』って言われた時はびっくりしましたけど」
「あっ、ごめん。芋煮はみんなで食べた方が美味しいって聞いたから誘ったんだけど…いきなりすぎたよね?」
そういえばこの人コミュ障って言ってたな。そんな人にあまり面識がない人との芋煮は荷が重かったか。この前合コンにも参加していたようだし、これくらいは大丈夫だと思っていたけど…ちょっとやらかしたかな。俺も女性の扱いはまだまだの様だ。
「ううん、そんなことないですよ。みんないい人たちばかりだし、私でも居心地いいです」
「そう言って貰えると嬉しいな」
「それに芋煮って結構美味しいんですね。特にこの鮭が美味しい!」
「分かる。鍋に入ってる鮭って美味しいよね。鮭って焼いて食べる事のが多いと思うけど、煮ても美味しいんだよね」
俺と諏訪さんは鍋の話に花を咲かせる。うーん、彼女が何を持ってきたか聞こうと思っていたけど話がずれていくな。
ま、いいか。鍋美味しいし。何を入れていても美味しければ全て良しだ。
「あれ? でも東坂君のうつわに鮭入ってないですね…」
「あ、うん、すくえなかったんだ。他の人の分もあるし、今回はまぁいいかなって」
芋煮の鍋の中を覗いて見ると、もうほとんど空になっていた。人数多かったしな。今日の参加者は合わせて14人だっけ? そりゃ大型の鍋と言えど中身はすぐになくなるわ。
「ふーん…。あっそうだ。東坂君、口開けて!」
「えっ?」
諏訪さんは悪戯っぽい顔をすると俺の口の中に何かを放り込んだ。あっつ! でもこれは…鮭? ホクホクの身と塩みの聞いた味が口の中に広がる。
「どう? 鮭、美味しい?」
「いや、美味しいけど…」
えっと…諏訪さんはさっき俺に何をしたんだ? 俺の口の中に鮭を入れた? つまり「あーん」をした事になる…。えっ、何で?
俺はいきなりの事に頭が上手く回らず困惑する。女子寮の4人にはされた事があるし、したこともあるが…。あれは俺たちの仲が良いからやれたことだしなぁ…。
諏訪さんとはまだ知り会って1カ月も経ってない。それなのに俺に「あーん」してくるとはどういうことなのだろうか?
「あっ、ごめんね。嫌だった?」
「別に…そんなことは無いけど」
「東坂君ってなんか親しみやすいからついやっちゃった。ごめんね♪」
彼女はそう言って笑う。…俺って諏訪さんに親しみやすいと思われてるのか。20年生きてきて、女の子にこんなことを言われたのは初めてである。俺は少し感動した。
…うん? なんかおぞましいオーラを後ろから感じるような…?
○○〇
~side another~
「…ムムムッ(何あの女…。あざと…あっざと。無茶苦茶あざといわ! 私の兼続君にちょっかい出して…。コミュ障? 本当にコミュ障な人間はあんな事できません! そもそも知らない人がいる芋煮会なんてものには参加もしません! どういうつもり?)」
秋乃は芋煮会が始まってからずっと兼続を視線でストーキン…ゲフンゲフン、観察していた。理由は最近彼女が警戒している女、諏訪信野がこの芋煮会に参加していたからである。
秋乃は先ほど信野が兼続にした行為について非常に嫉妬を燃やしていた。怒りのオーラを放ちながら兼続を凝視する。そのあまりの迫力にたまたま彼女の近くで鍋の残りをおたまですくっていた氏政や朝信は恐怖心を抱き、おたまを地面に落とすほどだった。
「(絶対にあの女何か企んでる…。これは兼続君の運命の人である私が彼をあの悪女の手から救わないと…)」
彼女は隣で芋煮を食べていた親友に声をかけた。
「ねぇ千夏ちゃん…。さっきのアレ見た?」
「ええ」
「あの諏訪信野って女…怪しいと思わない? ここは寮の仲間として兼続君を救おうと思うんだけど、どう?」
「乗ったわ」
千夏も先程の「あーん」を目撃していた。彼女も兼続の事が好きなのであるが、恋愛音痴故に中々兼続との仲に1歩踏み込めない千夏は、それを見て心を痛め、どうしたものかと考えていた。そこに幸運にも秋乃から声がかかったのである。千夏には渡りに船であった。
2人は話している兼続と信野の間に割って入り、信野がそれ以上彼と話せないように兼続をガードする。
「兼続君鮭欲しいの? 私のうつわに一杯入ってるからあげるね♪ はい、あーん!」
「兼続! 私少食だからこんなに食べられないの…。だから少し食べて頂戴。はい、お肉。あーん!」
いきなり秋乃と千夏に囲まれた兼続は困惑した。
「えっ? ちょ? 2人ともいきなりどうしたんだ? 別に『あーん』じゃなくても普通にうつわの中に入れてくれればいいから」
「じゃあ落とすといけないからあっちの机の方で食べよう? さぁ兼続君こっちこっち!」
「ええ、あっちに行きましょ」
「ちょ、押さないでくれ! 諏訪さんごめん、また今度ね」
秋乃と千夏は少々強引な手ではあったが信野と兼続を引き放すことに成功した。
○○〇
すいません、ちょっと中途半端ですが3000字オーバーしたので一旦切ります。
次の更新は11/17(金)です
※作者からのお願い
もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます