図書館の天使

「えーっと、ここら辺だったかなぁ…」


 現在俺は図書館にいた。講義の課題で出たレポートを書くための資料を探しに来ていたのである。


 一応図書館の入り口にある検索機で目当ての本の大体の場所までは分かるのだが…あくまで大体の場所しかわからないので大量の本の中から自力で見つけなくてはならない。しかも誰かに目当ての本が借りられていた場合は骨折り損のくたびれ儲けとなる。このシステムどうにかならんかな。


「お! あったあったこれだな。よしよし、他の人に借りられてなかった」


 俺は目当ての本を見つけると埃っぽい本棚群から出る。あとはこれを受付に持って行って貸出手続きをしなくてはならない。


 ふと図書館をぐるっと見渡すと本を読んでいる人、PCを持ち込んでレポートを書いている人、自習している人、そして睡眠学習をしている人など様々な人がいた。そんな中、俺の耳に近くで自習していたと思われる2人組の男子生徒のヒソヒソ話が聞こえて来た。


「おい、あれ図書館の天使じゃね?」


「えっ? 本当だ。相変わらず可愛ええなぁ。可憐で控えめで…」


 図書館の天使…? 誰の事だろう? でも最近なんかそんな言葉を聞いたような気がする。気になった俺はその男子生徒の視線を先を追ってみた。するとそこにいたのは…。


「あれ? 諏訪さん?」


 男子生徒が熱を上げて見つめていたのは最近俺と知り合いになった女の子、諏訪信野さんだった。机に大量に本を積み上げ、熱心に本を読んでいる。可憐な彼女が本を読んでいる様はとても美しく、神聖ささえ感じられた。…なるほどなぁ、彼女が図書館の天使と言われている理由が分かる気がする。


 声をかけようかと思ったが、読書に集中しているのを邪魔するのも悪いかと思った俺はそのまま退散することにした。


「あっ…東坂君? キャ!」


 俺はそのまま黙って去ろうとしたのだが、諏訪さんは俺に気がついたのか顔を上げた。しかし彼女が顔を上げた瞬間に、諏訪さんの横に塔のように積み上げられていた本に彼女の頭がぶつかって、グラグラと揺れる。


「あぶない!」


 俺は揺れる本を両手で抱きしめて彼女の方に倒れるのを防いだ。なんとかバランスを取り戻した高く積み上げられた本のタワーを2つに分けて倒れないようにする。


「あ、ありがとうございます。東坂君に助けられるのはこれで2回目ですね」


「いやいや、ケガが無いようでなにより」


 俺はとりあえず彼女にケガが無い事を安堵した。


 ひぃ、ふぅ、みぃ…積み上げられていた本の数を数えてみると全部で20冊はある。背表紙の題名をサラッと読んでみるが、法学、経済学、歴史学、語学、はたまた小説に音楽関連の本など関連性が全くない本ばかりだ。


 これだけジャンルがバラバラだとレポートをまとめるためとかではないよな? レポートをまとめるなら同じようなジャンルの本ばかり借りるはずだ。


「すいません…私、気になった本があるとつい手に取って読んでしまう質でして…」


「へぇ、読書が好きなんですね」


 あ~…なるほどな。彼女は本を読む事がそもそも好きなタイプか。こんなぶ厚い本を何冊も読めるなんて凄いな。俺は講義でレポートをまとめる時以外に本なんてほとんど読まないタイプだからなぁ…。途中で集中力が切れて読めん。漫画を読書に含めるなら話は別だが。


 俺は彼女が彼女が借りていた本を1冊手に取ってみる。なんだこりゃ…「中世ヨーロッパの怖い話」? 怪談系の本か?


「あっ、それは中世ヨーロッパの幽霊などに関する話をまとめた本ですね。とても面白かったです。当時の人々が霊的なものをどう感じていたのか、そしてキリスト教の価値観からみて幽霊は~…」


 彼女はいきなり饒舌になって語り始めた。凄い…いつもの5倍ぐらいのスピードでしゃべっている。オタクという人種は何故自分の得意分野になると饒舌になるのだろうか。…俺もそうだけど。


「あっ/// すいません。私ったらつい…。つまらなかったですよね?」


「え? ええ。いや、面白かったですよ。諏訪さん独自の考察の所とか」


 早口すぎて内容がほとんど頭に入ってこなかったのであるが、俺は一応そう答えた。諏訪さんはやってしまったという顔をして恥ずかしそうに手に持っていた本で顔を隠す。


 俺の目に彼女が顔を隠した本の題名が飛び込んでくる。「古代中国の房中術」? これまた…エッチなものに興味がおありですね。彼女は俺の視線に気づいたのかその本を慌てて自分の後ろに隠した。


「こ、これは//// 違うんです//// 私が借りたんじゃなくて…えっと…たまたま机の上に置いてあった本を手に取っていただけでして…」


 彼女は赤面してそう言い分けをする。…まぁそういう事にしておこうか。あまりこういう物には突っ込まない方がいいだろう。俺も中学生の時に学校の図書室にあった「男女の身体の違い」とかいう本を友達と隠れて読んでたりしたしな。


「そ、そうだ! 東坂君この後お暇ですか?」


「えっ? うーん、まぁ暇と言えば暇だけど…」


 この後の俺の予定と言えば寮に戻ってレポートを書くぐらいである。そのレポートも提出は来週なので別に今日やらなくてもよい。


「もしよかったら私とカフェに行きませんか? 助けて頂いたお礼もしたいので」


 最初は「別にそれくらいでお礼だなんて…」と断ろうと思ったが、俺の中でこれは女性とコミュニケーションをとるチャンスなのでは? という考えが生まれた。


 もちろん俺なんかが諏訪さんと付き合えるとは思っていないが、女性とのコミュニケーションスキルを鍛える事で将来彼女を作る時に役に立つのではと考え直したのだ。女子寮の4人とはコミュニケーションがとれている、では他の女性ではどうなのか試してみたかったというのもある。


「分かりました。いいですよ」


「本当に!? やったぁ!」


 諏訪さんはまるで子供のように喜ぶ。そんなに俺とカフェに行けるのが嬉しいのだろうか?


「じゃあ早速借りた本を返してきますね。おっと…」


 彼女は大量の本を腕に抱えようとしてまたバランスを崩してこけそうになる。俺は慌ててよろける彼女をささえた。この人…結構危なっかしいな。


「すいません…また助けられちゃいましたね」


「重い本は俺が持ちますよ」


「ううっ…重ね重ねすいません…」


 彼女から本を受け取った俺は元あったところに本を返しに行った。そして一緒に図書館を出て、大学内にあるカフェへと足を運んだ。



○○〇


次の更新は11/11(土)です


※作者からのお願い


もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る