本気を出してきた女神たち 後編
さて、寮長の思い付きの「男性をキュンとさせるセリフを言えるかの試験」も後半戦な訳だが…。あとは先輩と秋乃か。前半の2人も強烈だったからな。俺も精神が悶えて爆発しないように気を付けておかないと…。
インスタントの粉を多めにいれた苦いコーヒーを飲んで3番手である先輩の襲来に備える。
う~ん、苦ぇ…。インスタントコーヒーのいや~な苦みが俺の舌を襲う。でもこれが効くんだよな。
俺が3杯目のコーヒーを飲み干し、4杯目のコーヒーを作っている所で先輩が食堂のドアを開けて中に入って来た。俺も先輩の前に移動する。
先輩はどういう告白をしてくるのだろうか? 俺はいつ告白が来ても良いように身構えた。
彼女は俺の目の前に立つと顔を赤らめ、体をモジモジさせながら俺の方を見つめて来た。
「え、えっとね兼続//////」
んん? なんかいつもの先輩の様子と違うような…? いつもの先輩なら直球勝負でストレートに告白してくると思ったのに…。なんかモジモジしてしおらしいぞ。ヤバい…俺のギャップ萌えの性癖が…。モジモジしている先輩可愛いな。
先輩は俺の方をチラチラ見ながらモジモジしていたが、やがて覚悟を決めたのか口を開く。
「あ、あたしは前からあなたの事が好きでした! …いつも変な事ばっかりするあたしにも嫌な顔せずに付き合ってくれて、それであたしに色々アドバイスをくれたりして…とっても嬉しかった。そうしているうちにドンドンあなたの事が好きになっていったの。だから…その…あたしと付き合ってください!///////」
先輩はそう言って俺に頭を下げて来た。俺は思わず心臓を押さえる。
うううううううう、ヤバい。思わず反射的に告白を受けそうになってしまった。落ち着け兼続! これは演技だぞ。先輩は本気で俺に告白している訳じゃない!
いつもは自信満々の先輩がしおらしい態度で必死に心の中にある言葉をひねり出して想いを伝えて来る。そのシチュエーションに俺の心は悶えていた。
「………(フッフーン♪ 兼続の様子を見るにこれは効いたみたいね。さっき皐月にreinでこの試験の事を相談したら『兼続君はおそらくギャップ萌えだと思うからいつもの美春とは違う感じでいじらしい姿を見せながら告白すれば落ちると思うよ』ってアドバイスを貰ったから試してみたけど…ここはまで効くとはね。いいわ。このまま兼続を落としちゃうわよ!)」
俺はなんとか精神を落ち着けるために用意しておいた4杯目のコーヒーをがぶ飲みする。すると俺の下半身をとんでもない尿意が走った。
う゛っ…ヤバい。コーヒー飲みすぎた。カフェインによる強烈な利尿作用が俺を襲う。俺はひとまずトイレに行こうと先輩に試験中断の声をかけようとした。しかし…。
ガシッ!
先輩は俺の両手を握って上目遣いで見つめて来た。えっ、ちょ!? トイレに行けないんですけど!?
「ねぇ兼続…。返事を聞かせて貰えないかしら…?」
不安そうな顔で俺を見つめて来る先輩。くぅぅ…可愛い、可愛いけど。今はそれどころではない。俺の膀胱がパンパンに膨れ上がっているのが分かる。これ以上我慢すると膀胱が爆発しそうだ。
「かねつぐ…。お願い返事を聞かせて…?」
「先輩すいません、トイレに行ってきます!」
もうダメだ。我慢の限界だ。流石にここで漏らすわけにはいかないので俺は先輩の手を振り払って急いでトイレに向かう。う~~トイレトイレ。
「えっ? ちょ、兼続!?(トイレぇ? もしかしてさっき兼続が悶えてるように見えたのはトイレに行きたいのを我慢していたからかしら? …なぁ~んだ。じゃあたしの告白にドキドキしてた訳じゃなかったのね。残念。はぁ~あ、どうしたら彼をドキドキさせられるのかしら?)」
○○〇
~side another~
兼続のいなくなった食堂に美春と寮長は残される。美春は兼続が自分の渾身の告白を振り切って突然トイレに向かったのでしょんぼりとしていた。
「そういえば寮長、これって試験の結果どうなるの?」
「合格よ」
「えっ、いいの? 兼続全然キュンとしてなかったと思うんだけど…」
「そう見えるならあんたは眼科に行った方がいいわ」
美春は寮長の言葉に首を傾げた。
○○〇
~side兼続~
トイレから戻り、スッキリした俺は食堂のドアを開けた。すると美春先輩はもうそこにおらず、中には寮長が一人でコーヒーを飲んでいるだけだった。
「あれ? 美春先輩は部屋に帰ったんですか?」
「ええ、合格にしたわよ」
「そうですか」
個人的に俺の性癖を見事に突いてこられて悶えたので合格なのは納得だ。それにしても先輩はなんでいきなりあんな告白の仕方をしてきたのだろうか? 普段の先輩なら考えつきそうもない手法である。
…誰かの入れ知恵? でも先輩が恋愛相談できそうなのって俺以外に誰かいたっけかなぁ?
うーん…また少女漫画とかに影響されたのかもしれない。まぁいいや。それよりもまだ最後の1人、秋乃が残ってるんだ。油断していると心臓を打ち抜かれるぞ。俺は精神を安定させるために5杯目のコーヒーを用意することにした。
またトイレに行くことになるかもしれないが、これを飲まないと心臓のバクバクが治まらないのだ。
「あっ、わたしもおかわり頂戴」
「了解」
寮長と2人分のコーヒーを用意した俺は秋乃がやってくるのに備えるべくコーヒーを飲んで精神を落ち着かせた。
○○〇
5分程たっただろうか? 食堂のドアを「コンコン」とノックする音がする。寮長が「どうぞ」と言うと秋乃がドアを開けて部屋に入って来た。さぁ、いよいよ最後の一人だ。これを乗り切ればこの試験は終わりである。俺の心に平穏が訪れる。
俺は5杯目のコーヒーを飲み干すと秋乃の前に立った。
秋乃は俺の前に来ると顔を紅潮させて上目遣いで見つめて来た。男性としてはやはり女性のこういう表情にはグッとくるものがある。…しかしみんな男性をドキッとさせる表情上手いな。女子の基本スキルとして備わってるんだろうか?
「あ、あのね兼続君…////」
「う、うん」
「わ、私…兼続君の赤ちゃん欲しいな♡///////」
「グハッ…」
あまりにも予想外な告白に俺は吐血した。
えっ!? ちょ!? 秋乃さん!? いくら告白の練習の試験だからってそこまで言っちゃうのか!? というか好きでもない異性にこれを言える秋乃のメンタルも凄い。
もはや恋人という関係を飛び越えてその先まで行ってますやん…。他の面子はあくまで恋人という関係を構築するための言葉選びであったが、秋乃の場合はその先の結婚して子供を産むところまで見据えている。
いくら知能が高いと言っても人間も動物である。なので人生の最終目標は自分の子をなして自らの遺伝子を未来に残すことであるのだが…告白の際にこれを言われると大抵の男は落ちてしまうのではないだろうか?
今まで「異性が苦手」という秋乃の恋愛スキルを上げるために協力してきた俺であるが、ここまでできるならもう俺の協力も必要ないんじゃないかと思えて来る。秋乃って実は凄く恋愛強者なんじゃ…?
「兼続君!? どうしたの?(おほぉ~…。兼続君悶えてる悶えてる♪ 私が研究に研究を重ねて結論を出した男を落とす呪文よ。これで落ちない人は男じゃないわ)」
俺は心臓の動悸を押さえるためにコーヒーを飲もうとする。しまった!? さっき飲み干したんだった。これでは心臓のドキドキが治まらない…。
どうしようかと思っていると寮長がとんでもない言葉を発した。
「今の告白…いいわね。わたしも婚活の時使ってみようかしら?」
「キモイからやめろ」
俺は寮長が先ほどの秋乃の告白を言っているシーンを想像して無理やり気分を萎えさせ、自分の心臓の高まりを押さえた。はぁ~助かった。寮長のキモイ告白を想像しなければ俺は心臓発作で死んでいただろう。
やっとの事で精神の安定を取り戻した俺は再び立ち上がる。秋乃は俺の方を見てニコニコと上機嫌だった。
「という事で秋乃は合格よ」
「当然ですよね。そういえば兼続君に聞きたいんだけど…誰の告白が一番ドキドキした?」
「…えっ?」
秋乃が無事合格し、この訳の分からない試験も終わりかと思いきや…彼女はとんでもない質問を俺に投げかけて来た。彼女は笑顔でズイッと俺に迫って来る。
「で、誰?」
「え、えーっと…全員かな?」
「あえて言えば?」
「あー! そういえば明日提出のレポートがあるんだった! ごめん秋乃! ちょっと俺レポート書いてくるわ!」
俺は適当に嘘をついて逃げ出した。いや、本当に全員ドキドキしたよ?
○○〇
次の更新は11/7(火)です
※作者からのお願い
もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます