本気を出してきた女神たち 前編
また始まってしまった寮長の思い付き企画。でも彼女たちの成長を見るための試験だと言われれば俺は断れない。
それにしても男性をキュンとさせるセリフを言えるかの試験って…。多分あの4人が俺に告白まがいの事をしてくるって事だよな? 俺はそれに耐えられるだろうか。
ただでさえあの4人は美少女なのだ。その4人からドキドキするようなセリフを言われたりすると俺の精神が爆発してしまうかもしれない。
俺は出来うる限り精神を落ち着けようとコーヒーを入れる事にした。
「寮長もいる?」
「あら、気が利くじゃない。お願いするわ」
ケトルに水を入れて電源を入れる。そして2つのカップにインスタントコーヒーの粉をスプーンにひとすくい入れると湯が沸くのを待った。
現在4人は自室に戻ってどのような台詞を言うか考え中である。試験はこの食堂を使って行われ、4人が1人ずつこの部屋に入って俺をキュンとさせるセリフを言う。そして見事俺をキュンキュンさせる事ができれば合格らしい。
ちなみに試験の順番は冬梨、千夏、美春先輩、秋乃の順となっている。
お湯が沸きケトルの電源が自動で切れる。俺はカップに湯を入れてコーヒーを作ると、片方を寮長に差し出し自分も一口飲んだ。コーヒーの香ばしい香りが脳をリラックスさせ、苦さが身体をシャキっとさせる。ふぅ、ひとまずこれで大丈夫そうかな?
「そろそろ時間ね。最初は冬梨からだったかしら?」
寮長がそう言った瞬間に食堂の扉が開いた。冬梨のお出ましである。彼女の様子を見ると少し顔がこわばっているのが分かった。そりゃ緊張するよな。演技とは言え好きでもない奴に告白まがいの事をするんだから。
冬梨と俺は仲の良い友達ではあるが…別に男女の感情はない。彼女自身もあまり恋愛に興味がないようだし…。でもそれならどうして彼女は今回の試験にノリ気だったのだろうか甚だ疑問である。
…さて、俺も覚悟を決めるか。俺はコーヒーをテーブルに置くと彼女の前へとゆっくりと歩み寄った。
「さぁ試験開始よ。冬梨、兼続を落として見なさい!」
寮長がそう言うと冬梨の身体がビクリと震えた。冬梨は自分の頬を両手で叩いて「…ヨシッ」と気合を入れると俺の顔を見上げ、見つめてくる。
いつも見ている顔なのだが、改めてその妖精のような可愛らしい容姿の彼女に見つめられると、それだけでも照れてしまう。正直言って「可愛い」と言わざるをえない。
「…兼続、少ししゃがんで」
「???」
俺は彼女の指示通りにしゃがんだ。するとあろうことか彼女は俺に抱き着いて来た。何をするつもりなんだ?
彼女がまとっているお菓子の甘ったるい香りが鼻を通って脳に届き、俺の脳をとろけさせる。それと同時に女性特有の身体の柔らかさが俺の身体を包んだ。
そして彼女は抱き着いたまま俺の耳元に口を近づけると、こう
「…兼続、大好き!」
「!?////////」
俺の心臓は彼女の言葉を聞いてビクンと跳ねた。自分の感情を相手に伝えるのが苦手な冬梨が、あまり自分の好意を相手に伝えるのが得意ではないあの冬梨が…まさかの直球勝負!? ドストレートに自分の好意を伝えて来た。
これは彼女の性格を理解している人間こそ、心が打ち震えるのではないだろうか。試験に合格するための演技だと分かっていても破壊力が凄い。
当然ながら俺の心臓はバクバクと轟音を身体の中で鳴り響かせた。
「…兼続、ドキドキした?」
「あ、ああ…////」
俺は彼女の顔を見ていられなくなり横を向いてしまう。クソッ…落ち着け兼続。これは演技だ。本気で俺の事を好きなわけではないんだぞ。俺は心臓を落ち着けようとするが、中々心臓の高鳴りは治まってくれなかった。
「…グッ(…色々考えたけど、男の人をキュンとさせる言葉はあれくらいしか思いつかなかった。…でも、兼続はそれでもドキドキしてくれた。…冬梨の言葉足らずな愛情表現にも。…これはつまり冬梨にも芽があるという事。今日はそれが分かっただけでも十分)」
冬梨は自分も顔を赤くしながらもガッツポーズをして喜びをかみしめていた。
「…寮長、合格?」
「ええ、合格よ。でもこれで満足してちゃダメよ。兼続ぐらいの童貞なんて瞬殺できるぐらいでないとイケメンは落ちないわ」
「…そこまでは求めてない。冬梨は兼続で十分」
まだ心臓のドキドキが治まらない俺はテーブルに置いてあったコーヒーを飲み、なんとか精神を落ち着けようとする。入れててよかったコーヒー。
冬梨は満足した様子で部屋に帰っていった。
「兼続、これくらいでドキドキしてたらあと3人耐えられないわよ。あんたも案外チョロいわねぇ…。普段は『俺って硬派です』みたいな顔してるのに、ちょっと可愛い娘に『大好き!』って言われただけで落ちちゃうんだから! あっ、だから童貞なのかしら?」
「うるせえよ!」
そりゃ確かに俺は女性耐性が低いのは確かだが…今のは例えモテモテのイケメンであってもドキドキするんじゃないだろうか。それくらい破壊力が凄かったぞ…。
俺は飲み干してしまったコーヒーをおかわりするべくもう一度ケトルの電源を入れる。でも参ったなぁ…。1人目でこれだとあと3人持たないかもしれない。
○○〇
次は2番目の千夏の番である。俺は彼女が食堂に入ってくるまでコーヒーを飲んで精神を出来るだけ落ち着かそうとしていた。あっ…もう2杯目無くなっちゃった…。仕方が無いので3杯目を作る。インスタントの粉を多めに入れて苦めに作っておこう。
ちょうど俺が3杯目のコーヒーを作ったところで「バン」と食堂の扉が開く。そちらを見ると2番手の千夏がのっけから顔を真っ赤に染めて俺の方を睨んできた。
えぇ…恥ずかしいのは理解できるが、この寮長の悪ノリに賛成したのは千夏だぞ。だから俺を睨んでも仕方が無いと思うのだが…。
俺は困惑しながらも彼女の前へ行った。
「か、かねつぐ…」
「お、おう…」
いつもはクールで何事も涼し気な顔をしてこなす千夏が顔を真っ赤に染めてソワソワしている。その普段の彼女からはあまり見られないギャップに俺の心は早くもドキドキしていた。うーん…ソワソワモジモジしてる千夏も可愛いな…。
「い、言うわよ…」
「ドンと来い」
「か、かねちゅぐ…」
あっ、噛んだ。
「くぅ~///////」
彼女は顔をそれまで以上に真っ赤に染めて、まるで完熟トマトのように顔を真っ赤っかに染めて俺の方を睨んでくる。いやいや、今のは自分で噛んだんだろ!? 俺のせいじゃないぞ!? 彼女は咳払いすると改めて俺の方に向き直った。
「か、かねつぐ」
「う、うん」
「………///////(あっ、不味い。緊張しすぎてさっきまで頭の中にあったセリフが飛んだ)」
「………」
「………ッ///////////(どうしよう? ネットで調べてさっきまであれだけ部屋で練習したのに…)」
「………」
「………ッ~~~///////////////(もうダメ! 頭の中が真っ白!??????)」
「いや、早く言えよ!?」
千夏はプルプルと震えながら俺の方を見つめて来る。これはこれで可愛いけどさ。いつものシャキとした千夏じゃなくてグダグダな千夏。彼女のダメな所をここまで見れるのも珍しい。
「あ、ああ、あああ//////////(これが『恋』!?//////// 好きな人の事を想うと頭の中が真っ白になる…///// 私がこんな風になってしまうなんて…///// 恋は病とはよく言ったものね…。自信満々で寮長の悪ノリに賛成したあの時の自分を殴ってやりたい…)」
「千夏~。何も言わないと失格になるわよ」
何も言わない千夏に寮長がしびれを切らしたのか横やりを入れて来る。いやぁ~…でも実際好きでもない異性に告白まがいの事をするなんて緊張するし、難しいだろ…。千夏の反応が正常だと思う。
…本当になんで千夏も寮長の悪ノリに賛成したんだ? 今の自分の力を試したかったというのは理解できるが、他の方法でも試せたはずだ。
「かかか、かね、かねつぐ、わ、わたしは、あ、あな、あなたの…そ、その…律儀な所がす、すすす、す」
「すすす?」
「やっぱり無理ぃ~///////」
千夏はそのまま食堂から走って出て行ってしまった。
「えっと…」
困った俺は寮長の方を見る。
「千夏は失格ね」
寮長はつまらなそうな顔をしながら俺がいれたコーヒーを一口飲んだ。
…千夏の告白こそ受けられなかったが、いつもともは違う様子の千夏に俺の心は悶えていたのは内緒だ。
○○〇
後編へ続きます。以前もお知らせでお伝えしましたが、1話あたり大体3000字前後になるように書いてます。
次の更新は11/5(日)です
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