寮長企画 誰が一番男心を分かってるか選手権!!!

 その日、俺達寮生は食堂に集まって晩御飯を食べていた。美春先輩が食堂にあるTVで最近ハマっているというTVドラマの再放送を見ており、その終盤のクライマックスシーンでヒロインが想い人に告白するシーンが流れた。


『ガズナリィ! 私をあなたのモノにしてぇ』


『ピロミン…。ああ! お前は俺のモノだ一生離さない!』


 そして2人は見つめ合い激しいキスをする。カメラが2人から引き、EDクレジットが流れていく。


 なんというか…こういうラブシーン?がお茶の間で流れると恥ずかしさで思わず目を背けてしまうんだよな。1人で見る時は別に何ともないんだけど何故だろう? 周りを見ると他の面子も俺と同じく恥ずかしさを感じたのかTVから目を背けていた。


 千夏は顔を赤面させながら咳ばらいをし、秋乃は顔を赤くしてうつむいている。おっ、珍しく冬梨も顔をちょっと赤く染めているな。彼女が赤面するとは珍しい。こういう事には興味がないと思ってた。


 3人とは逆に寮長は興味のなさそうな顔をしながらもTVをガン見し、美春先輩はドラマの内容に感動したのか涙を流していた。俺はドラマの内容を流し見しかしていないのでなんともいえないが、そんなに感動するようなストーリーだったのだろうか。


 美春先輩はハンカチで涙を拭きながらTVを消し、食事を再開する。


「うっうっ…。何度見てもこのシーンは感動するわ…」


 しかし感動の余韻に浸っている先輩に寮長が噛み付いた。


「ハッ! くだらないドラマだこと。なんというかセリフが浅いのよねぇ…。『こう言っとけば視聴者に受けるでしょ?』みたいな制作人の顔が透けて見えるわ」


「寮長! 言っとくけどこれ大ヒット少女漫画のドラマ化なんだからね! 今のセリフも原作通りのセリフよ。苦難を乗り越えてガズナリに自分の想いを伝えるピロミン…。このセリフに20万人の乙女が感動したんだから!!!」


 先輩は寮長に猛烈に講義した。そういえば前に先輩が「これ名作なのよ!」って言ってた少女漫画のタイトルがこのドラマと同じだな。漫画の実写化だったのか。


「少女漫画ぁ? ハッ! まだ本当の恋愛というものを知らない未通娘おぼこのような女は騙せるかもしれないけど、わたしのような百選練磨の恋愛強者はあの程度のセリフでは心に響かないわ!」


「じゃあ寮長はどんなセリフなら心に響くのよ?」


「そうねぇ…。わたしなら男を落とす時にこう言うわ。『世界一の美貌を持つこのわたしがあなたの事を好きと言っているのよ。光栄に思いなさい。そしてあなたの持つ全て(の財産)をわたしに捧げなさい!』とね」


「ただの金の亡者じゃないの!? そこに愛なんて無いじゃない!」


「金のない愛なんて幻想よ。金がなけりゃどんな愛も砂上の楼閣だわ!」


 寮長と美春先輩はお互いに譲らず睨み合う。2人はそのまま数秒間睨み合っていたが、やがて寮長は何かを思いついたように手を「ポン」と合わせた。


「そうだわ! この際だからあなたたちが男をキュンとさせるセリフを言えるかどうかテストしてみましょう!」


 …まーたこの人とんでもない事言いだしたよ。


「いい? この試験の目的はあんたたちがいざ男性に想いを伝えようとする時に男性の心をガチンと掴めるセリフを言えるかどうかチェックする事よ。あんたたちもこの数カ月兼続との共同生活で大分男性という物がわかってきた頃だと思うわ。そこで兼続を練習台に男性を悶えさせるセリフを1人1つ言って貰います。兼続を悶えさせる事ができれば合格ね。兼続程度の童貞を悶えさせることができないようじゃイケメンの彼氏なんて夢のまた夢だからね」


 そして案の定、また俺も巻き込まれるのか。俺は背中にある種の悪寒を感じて念のため食堂の周りを見渡した。今回は板垣さんいないよな? 前回の試験である「下着ファッションショー」の時は板垣さんもいたせいで無茶苦茶になったからな。


 俺の精神衛生のためにもう絶対あんな事はやりたくない。俺は寮長の思い付きを阻止するために千夏に目線を送った。


「(千夏、寮長を止めてくれ!)」


 この女子寮で一番良識のある彼女なら絶対に寮長を止めてくれるはずだ。しかし千夏は俺の思いもよらない反応を見せた。


「面白そうですね。私も今の自分の力を試して見たかったんですよね(兼続を悶えさせる? これは願ってもないチャンスだわ。散々ネットで調べた私の恋愛テクニックを彼にお見舞いよ! ここで彼を悶えさせることができれば…恋愛音痴の私の自信にもなるし…。そのままグッと距離を詰めて行ける…かも?)」


 えぇ…? 千夏はまさかの寮長の悪ノリに賛成に回ってしまった。どういう風の吹き回しだ? 前回も一番反対していたのは千夏だったのに…。千夏が賛成に回ったのなら仕方が無い。俺は次の手段として寮長ストッパー役である秋乃にも目線を送った。


「(秋乃、頼む! 寮長を止めてくれ!)」


 俺の目線に気が付いたのか彼女と目が合った。そして彼女は俺の目を見てニッコリと微笑んだ。やった! 俺の気持ちが彼女に伝わったんだ。


「私も賛成かな(兼続君を悶えさせる…。それができれば彼がどんな言葉に弱いのか分かるし、それに私の事も気になってくれるはずだよね。ドキドキするようなセリフを言う相手を気にならないはずないもん! これは寮長の提案に乗ったぁ!)」


 えぇー!? 秋乃も寮長の悪ノリに賛成だって!? 本当に一体どうしたんだ? 明日は土砂降りの大雨か? 天変地異の前触れか?


 俺は最後の希望である冬梨に眼を向ける。冬梨ならめんどくさがって反対してくれるはずだ。前回は寮長のお菓子につられて参加していたが、今回もそうなるようならあの例の1缶3000円のクッキーでこちらも冬梨を釣ろう。


「(冬梨、助けてくれ!)」


 だが俺の希望はむなしくも砕け散った。


「…冬梨もやってみたい(…これは兼続の気持ちを冬梨に向けるチャンス!…普段は恥ずかしくて言えない事も試験というていなら言える。…恥ずかしいけど、勇気を出して。言葉は言わないと相手に伝わらない…)」


 …冬梨も賛成か。季節は10月だが明日は大雪になるかもしれない。先輩は…


「面白そうね。やるわ(兼続をドキドキさせるチャンス来たーーー! 皐月から色々アドバイスして貰ったし、それを試すわよ! 見てなさい兼続! あたしの魅力で顔を真っ赤っかにしてあげるわ! 今までの分を全てお返しよ!)」


 …ですよねー。この人は面白い事が好きだから絶対に寮長に賛成すると思った。


「あら…珍しく満場一致で賛成なのね? わたしが寮長になって以来初めての事じゃないかしら?」


 4人全員賛成した事に寮長も困惑を隠しきれないようだ。そりゃこんな突拍子もない事に全員賛成するとは普通思わんよな。というかあんたもそんな反対されるような事ばかり言うなよ。今までどんだけ無茶苦茶な事を言ってきたんだ。


「あのー…? 俺の意思は?」


 俺は無駄な抵抗だと思いながらも5人に向かってそう言った。俺の言葉を聞いた寮長は呆れた顔をして口を開いた。


「兼続、わたしがあんたを女子寮に呼んだ理由を言ってみなさい!」


「えっと…女子寮の4人に彼氏ができるように協力する事です」


「そう! これは4人に彼氏ができるかどうかチェックするための試験なのよ。あんたがそれに協力しないんじゃあんたを女子寮に呼んだ意味が無いわ!」


 う゛っ…それを言われると俺は何も言えない。俺は女子寮の4人に彼氏ができるよう協力することを条件にここにいる事を許されているのだ。


 はぁ…仕方ない。これも4人のためだ。それにこの前4人に彼氏が早くできるように積極的に行動すると決めたばかりだしな。俺のこの行動で4人に彼氏が出来る助けになるなら安いもんだ。


「わ、分かりました。協力します…」


「当然よ♪」


 こうしてまたもや寮長によるトンデモ試験が始まったのだった。



○○〇



次の更新は11/3(金)です


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