夏の終わり

 俺達色彩大学生の夏休みももう今週で終わりである。来週から大学の後期課程が始まり、また毎日教室に行って教授の難しい話を聞く日常が始まる。気温も9月の後半になってやっと涼しくなってきたし、まさに正真正銘の夏の終わりと言っても良いだろう。


 思い返せば結構充実した夏休みだったと思う。友達とバカやったり、可愛い女の子たちと海に行ったり祭りに行ったり…。俺の人生史上最高の夏休みだったのではないだろうか?


 俺は喉が渇いたので麦茶を補充するべく地下室の自分の部屋を出て食堂へやって来ていた。ガラリとドアを開けて中を覗くと中には寮長がいた。


 う゛っ…めんどくさい人物に会ってしまったな。最近は彼女も忙しかったらしく、食事の時以外はあまり会うこともなかったので平和だったのだが…。


「あら兼続じゃない!」


 早速見つかってしまった…。無視するのもアレなので俺は寮長に話しかける事にした。


「よっす、寮長久しぶりだな。最近なんか忙しそうにしてたじゃん」


「そうなのよぉ! 実はね。いよいよわたしのお見合いが上手くいきそうなの! それで最近忙しかったのよ」


 寮長はニヤけながらそう言った。…えっ? この人のお見合いが成功しそうだって!? …そういえばちょっと前に冬梨が寮長が今度お見合いするとか言ってたなぁ。そのお見合いが成功したという事か。相手の人は相当ファンキーな人物に違いない。なんせこの寮長と気が合うのだから。


「…そう、おめでとう」


 こういう時はお祝いの言葉を述べるのが礼儀だと思うので一応お祝いしておく。


「ウフフフフフ♡ 結婚式は呼んであげるわね」


「いや、遠慮しとく…。職場の人間と親族だけ呼んでてくれ」


 この人の結婚式に呼ばれたら余興で変なかくし芸をやらされそうで嫌だ。寮長は少し残念そうな顔をしていたが、すぐに元のニヤけ顔に戻った。


「もしかすると来年の女子寮の寮長はわたしじゃないかもしれないわね♪」


「寮長結婚したら退職すんの?」


「わたしは専業主婦希望よぉ。なんのために年収の高い男を探していたと思ってるの?」


 …というかもう相手と結婚した気でいるのか。現時点ではお見合いが上手くいったというだけで結婚までは相手と確認しなければならないことがまだまだ沢山あると思うんだけど…。まぁせいぜい相手に愛想尽かされないように気を付けるんだな。


 俺は一通り寮長と話すと当初の目的である麦茶を補充するために冷蔵庫の方へと向かった。しかし寮長はまたもや俺に話しかけて来る。


「そういえば…兼続、わたしがあなたに頼んだことの進捗はどうなっているのかしら?」


「頼んだこと?」


「やあねぇ…。女子寮の4人に彼氏ができるように何とかしてってお願いしたじゃない」


「ああ、それね」


 といってもみんな当初に比べると大分改善しているのではないだろうか?


 美春先輩の恋愛において頓珍漢な所を直すという問題はくだんのインチキ恋愛アドバイザー・大蒜醤油真紀子から先輩を脱却させることに成功したし、今は絶賛俺と一緒に普通の恋愛について勉強中である。


 まだもう少し時間はかかると思うが、美春先輩ならそう時間かからずに普通の恋愛というものをマスターできるのではないか思っている。


 次に冬梨のコミュ障な所を直すという点だが、徐々にではあるが…改善出来ているのではないかと思う。バラムツさんという友達を作ることに成功したし、犬猿の仲だった穴山さんとも最近はなんだかんだしっかりとコミュニケーションが取れてきている。


 あとはこの大学の後期が始まってからが勝負だな。後期になれば夏休み中に会う事のなかった同回生とも会う事になる。その同回生の人たちと見事友達になる事ができれば…コミュ障は克服できたと言っても良いのではないだろうか。


 秋乃に関しては正直何も言うことは無い。男性限定のコミュ障という話だが、彼女が男性と話す時に別にコミュ障になっているとは思わないので、彼女に関してはもう何もしなくてもいいだろう。治療完了という所だな。


 問題は千夏だな…。彼女は過去のトラウマがある故に異性と深い仲になれないのだが…そのトラウマを解消するにはやはり自分で自分の過去に踏ん切りをつけてもらうしかないと思っている。


 俺もなんとか力になりたいと思い、夏休み中に精神医学の本を読んだりしたのだが…これと言って良いアイデアは浮かんでこなかった。

 

 総じて…千夏以外は何とかなるのではないかと思っている。


「千夏以外は順調かな」


「あら、千夏はダメなの?」


「うーん…やっぱりトラウマ的なものの解消は難しいよ」


「男なら女の子のトラウマぐらいパパッと解決してみなさいよ!」


「無茶言うなよ!? 俺は精神科の先生じゃないんだぞ」


「だからあんたはパッとしないしモテないのよ! ラブコメ漫画の主人公なんてヒロインのトラウマを1話で解決してるじゃない!」


「うるせぇ! 現実と漫画を一緒にすんな!!!」


 この人と話してるとやっぱり疲れるな。はぁ…ある意味結婚して女子寮からいなくなってくれた方が寮生としては楽かもしれん。寮長はスマホを見ながら少し考えている様だった。


「トラウマねぇ…。千夏がなんでそのトラウマを抱えるかに至ったかを知れば解決の糸口になるかもしれないわよ」


「そんなうまくいったらこの世に精神科なんていらんよ」


 まぁでも…少し参考程度には聞いておくか。俺は麦茶をタンプラーに入れると食堂を後にした。



○○〇



~side???~


「諸君! 本日は集まってくれてありがとう! それではこれよりボォクらの大いなる計画の最終確認を開始する」


 ここは色彩市内のとある邸宅の部屋、その部屋の中には4人の男女が集まり何やら悪だくみをしている様だった。中央の高そうな椅子に座る男は3人に計画の詳細を話していく。


「…というワケだ。理解したかね」


「フフフ♪ 面白そうですね」


「しかしこれはちとやりすぎな気が…」


「………」


「なぁにこれくらいはボォクの受けた屈辱に比べたら屁でもないさ! 東坂兼続! 見てろよ…。目に物を見せてやるからな!」


 男は恨みたっぷりの表情で兼続の名を呟いた。



○○〇


はい、この話で2章は終わりとなります。少し短いですが今回はまとめ回という事で。次回から3章に入ります。この物語も6割ほど終わり、残り4割ほど。


・主人公は見事4人の問題を解決することができるのか?

・自分の気持ちに気づいたヒロイン達、これから主人公にどうアプローチしていくのか?

・ちょくちょく出て来る謎の集団はなんなのか? 主人公の身の回りにどのような事が起きるのか?(※悪だくみと言っても暗い話にはせず、あくまでギャグテイストで行きます)


もちろん今まで通りサブキャラたちも大暴れ。


さて、皆さんお待たせいたしました。この物語は他のラブコメに比べてイチャイチャ成分が少ないと思っていらっしゃる方もいたでしょう。3章からはいよいよヒロインたちの主人公への猛烈なアピール合戦が始まります。ラブコメの本領発揮という所ですね。お楽しみに!


次の更新は10/26(木)です


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