甘い匂いに包まれた想い

『はぁーい! 今回は「100日後に彼女ができる氏政!」50回記念! なんとUMEKOちゃんねるの梅子ちゃんと同じ大学のよしみでコラボすることになりましたー! 初めて見る方のために説明しておくと俺のちゃんねるは俺に彼女が出来るまでの栄光の軌跡を描いたちゃんねるだから興味のある人は登録よろしくねー』


『お菓子系metuber、UMEKOちゃんねるの梅子でーす! みなさん! こんにちわわー。今回はコラボ配信。氏政ちゃんねるの氏政先輩と動画を取っていくよー! 今日も美味しいお菓子を紹介していくからみんな応援よろしくねー!』


 俺は今、この前の合コンで氏政が穴山さんを必死に口説き落として成立した企画…『100日後に彼女ができる氏政!』の第50回記念、UMEKOちゃんねるとのコラボの撮影をしている。


 …この企画もようやく半分まで来た。足りない頭を捻らしてどうにかこうにか氏政に彼女が出来る方法を考えてやっとこさ半分まで来たのである。長かった…。


 氏政にとっとと彼女が出来てくれればこんな苦労はしなくて済むのだが…それはまた夢の夢なんだよなぁ…。あいつ企画が達成できなかったらどうするんだろう。また脱ぐのか?


 というか穴山さん「こんにちわわー」って何よ。以前の「こんにちわんこそばー」をダサいと言われたから変えたんだろうけど…。ダサさは全然変わってない気がするのは俺だけだろうか?


「…ダサい」


 隣でスマホのカメラを構えていた冬梨も俺と同じことを思ったらしい。ちなみに冬梨の隣にはバラムツさんもいる。


 何故冬梨がカメラを構えているのかというと、穴山さん側の動画を取るためだ。今回のコラボ企画はお互いに撮った動画を編集し、お互いのちゃんねるにそれぞれ上げるつもりだったのだが、穴山さん側のカメラマンが急にドタキャンしてしまったらしい。


 それでたまたま今回の企画を面白半分で見学に来ていた冬梨に白羽の矢が立ち、穴山さん側のカメラ撮影をすることになったのだ。…あんなに仲の悪かった冬梨に撮影を頼むなんてどういう心境の変化だろうか。


「…ここだけの話、実はオホは友達が少ない。だから困った時に頼れる人があまりいない。だから苦し紛れに冬梨を頼って来た。冬梨にあんなに偉そうにボッチだって煽ってきたのに本人も友達が少ない…」


 冬梨が憐みの視線を穴山さんに向ける。そうか…穴山さん友達少ないのか。なんかあまり聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。友達が少ないからmetubeで目立ってちやほやされようと必死だったんだな…。バラムツさんもそれを聞いて涙を流している。


「ちょっとそこの3人! 揃って私に憐みの視線を向けないでくれる!?」


 俺達3人が向けていた視線が穴山さんにバレてしまったようだ。


「特にそこのブリブリ女! 何泣いてんのよ!?」


「あぁん!? てめぇもう一回言ってみろ! ケツの穴に下剤突っ込むぞ!!!」


「バラムツさん、キャラ変わってるよ…」


「おっと、ワタクシとしたことが…」


 バラムツさんは普段は温厚な人なのだが「下痢」とか「油まみれ」とかいうワードを彼女に向かって言うとブチ切れてしまう習性がある。幼少時のトラウマという奴だ。俺はなんとか怒り狂うバラムツさんを押さえた。


「………」


「…な、なによ馬場冬梨?」


「…オホォ~」


「それやめてって言ってんでしょ!?」


「『オホォ』って何?」


「せ、先輩は気にしなくていいですよ。オホホ…」


 事情を知らない氏政が穴山さんに疑問を投げかける。穴山さんは小金こがねを稼ぐために限定配信で下品な声をして信者からスパチャを貰っているのだ。本人はそれを必死に隠したがっているけれど。


「それより撮影進めなくていいんですか?」


 バラムツさんが呆れた顔で2人に投げかける。そうだよな。まだ冒頭の部分しか撮れてない。このままの調子でやっていたら日が暮れそうだ。


「よっし、じゃあ撮影の続きをやろうか? 兼続! 撮影の準備はいいか?」


 俺は氏政にジェスチャーで「OK」と伝える。そしてスマホのカメラの撮影ボタンを押した。


『では今回コラボ企画という事で…何をするのかというと!? 梅子ちゃんお願い!』


『はい! お菓子系metuberと彼女作る系metuberのコラボという事で、今回は「女の子にプレゼントすると喜ばれるお菓子3選!」を紹介したいと思います! 彼女がいない男性の方は必見ですよー?』


 全く持って関連性の無い2人がどういう内容のコラボをするのか不安だったが、そこら辺はちゃんと考えて来たらしい。この内容であれば双方のちゃんねる登録者に興味のある内容になっているのではないだろうか。どうなる事かと思ったが結構真面目な動画になりそうで良かった。


『はい、では早速紹介に入りたいと思います! では「女の子にプレゼントすると喜ばれるお菓子』第3位は~………。ジャン! この潮風堂の「さつまいものタルト」で~す! サツマイモの中でも特に甘いとされる安納芋あんのういもを使ったタルトで、芋とタルトの相性は抜群。これをプレゼントした女の子から「こいつ…できるな!」と一目置かれる事間違いなしでしょう!』


 へぇ~。確かに女の子ってみんなサツマイモが好きそうな印象がある。ちょうど今が旬だしな。そういえば秋乃もこの前スーパーでサツマイモが安売りしてたって大量に買って来てたなぁ。


 横の冬梨をチラリと見ると口元に少し涎を垂らしていた。食べたいんだな…。


「冬梨、よだれよだれ」


「…おっと、冬梨としたことが…」


 彼女は慌てて涎を拭く。冬梨が涎を垂らしているという事は穴山さんのチョイスは間違いないという事だろう。


「…オホの癖にやる。さつまいものタルトは冬梨的に点数高い」


 珍しく冬梨が穴山さんを褒めている。ここはお菓子系metuberの面目躍如という所だろう。


『では早速試食して見ましょう! じゃあまず俺から…う~ん、うめぇ!!! うぼぁぁぁぁぁあああああ!!!』


 タルトを試食した氏政が全力でアへ顔をする。うわぁ…きめぇ…。これ動画の再生数むしろ下がるんじゃないのか。モザイクをかけたいぐらいだ。…コラボという事で穴山さんが普段やっている事をリスペクトしたのだろう。


 氏政のアへ顔を隣で見ていた穴山さんもドン引きしていたようだが、撮影中という事を思い出したのか顔を振って笑顔に戻った。…これ普段あなたがやっている事ですよ。


『どうやら氏政先輩にもお気に召していただいた様ですね。それでは私も1つ…。あひゃあ~!!! 口の中で濃厚な芋がタルト生地と融合して深い味わいを生み出している…。これを食べた女の子は絶頂間違いなしでしょ…って馬場冬梨! ちゃんと私の方を撮りなさいよ!!!』


 冬梨は何故か俺の方にカメラを向けて撮っていた。


「…ハッ! オホのアへ顔が気持ち悪すぎて思わず兼続の方を撮ってしまった…」


「ちょっと!!! 私渾身のアへ顔だったのにぃ~…撮り直しじゃないの!!」


 どうでもいいけど渾身のアへ顔ってすごいパワーワードだな。エロ漫画家もびっくりだろう。


 その後、撮れ高のために穴山さんはもう一度タルトを食べてアへ顔を披露した。なんというか…ここだけ見るとmetuberも大変だなぁと思う。撮れ高を取るために何度もアホな事を繰り返しやる根性はある意味尊敬する。


『では気を取り直しまして…「女の子にプレゼントすると喜ばれるお菓子」第2位はぁ~………ジャカジャン! 色彩洋菓子店の「チョコクッキー」! 女の子が大好きなチョコとクッキーの合わせ技! これをプレゼントされた女の子はあなたに胸キュン間違いなし!』


 これはウチの町ではちょっと有名な店のお菓子で、色彩市を訪れた際のお土産ランキングTOP5には必ず入っている。俺も昔食べたことがあるが確かに美味しい。


「あー、あのクッキー美味しいんですよね」


「…悔しいけどオホにしては3位と2位のお菓子は妥当と言わざるを得ない」


 俺の横の2人も納得している様だ。


『おっ! これ俺も食べた事ある。美味しいよね。サクッとな』


 氏政はまるでイケメンアイドルのように格好を付けながらクッキーをかじる。うーん…こいつ顔だけはそこそこいいから絵にはなるな。


『チョコレートには媚薬の効果があると言う…つまり、これを食べた男女は発情するという事…。梅子ちゃんはこれを見越しておススメのお菓子にチョイスしたのかな?』


『えっ? いや…ただ単にプレゼントとして人気だからですけど。それにチョコに媚薬の効果は無いですよ? それは迷信です』


『ハァハァ。嘘はいけないな。その証拠に俺は今こんなにも発情している。今この気持ちを言葉にするなら…「I am plum」アイアムプラァームゥ!!!!!』


 直訳すると「私は梅です」。意味が分からんよ…。一体どうしたんだあいつ? 氏政はそのまま上着を脱ぎ始めた。おいおい、何やってんだ?


『ねぇ梅子ちゃん。せっかくコラボなんだし、この機会に俺達付き合ってみない? アイアムプラムを日本語に直すと「愛編む梅」になるだろ? これは運命なんだよ。さぁ俺と一緒に愛を編もうじゃないか!? ハァハァ』


 日本語に直したって「梅」の部分しか合ってないじゃないか。「アイアム」を「愛編む」って無茶苦茶だなぁおい。というかコラボ相手に告白とか正気かあいつ? 梅子ちゃんのファンに刺されかねんぞ。


『絶対嫌です』


『そんな!? これは脈あると思ったのに…』


 氏政は膝から崩れ落ちた。いや100%ねぇよ…。一体どういう思考回路をしていたらそんな考えになるんだ。あと何で上着脱いだし。道行く人がジロジロ見てるからさっさと服を着ろ!


 氏政に上着を着させた俺は時間も押しているのでさっさと最後のお菓子の紹介にはいれとジェスチャーを送った。


『はい! ではいよいよ第1位の発表です。「女の子にプレゼントすると喜ばれるお菓子」第1位は~………ジャン! 色彩神社の『子孫繁栄クリームまんじゅう』です!』


 なんじゃそりゃ? 色彩市在住の俺でも初めて聞くお菓子である。あそこの神社そんなのも売ってんのか。


 梅子ちゃんがまんじゅうの箱の蓋を開けると中のまんじゅうは遠目で分かるぐらいに卑猥な形をしていた。しかも形が結構リアルだ。えぇ…これmetubeにアップしても大丈夫な奴なのか? banされない? 


 しかもクリームまんじゅうって…明らかにアレを意識してるんじゃん…。これを女の子に送ったらむしろセクハラ扱いになって逮捕されるんじゃないか? これが

1位? 今までの物がまともだっただけに拍子抜けである。


 冬梨とバラムツさんの様子を見てみるとハッキリわかるほど引いていた。


「…オホはやっぱりオホだった。品性のかけらもない人間。下品・低俗・悪趣味」


「うわぁ…ワタクシあんなの貰ったら鳥肌立つんですけど…」


 大不評である。


「フン! あんたら陰キャ女子には分からないかもしれないけどね。陽キャ女子にはネタになるってんで意外と受け良いのよ? チックトックやインシュタにこれを頬張っている写真を上げると『イイね』の数が桁違いにつくって評判なんだから!」


 …それって若い子のチックトックやインシュタを監視してるセクハラおじさんが『イイね』付けてるだけなんじゃ…。


「…友達がいないオホに陽キャ女子の何が分かるの?」


「失礼ね。友達はちゃんといるわよ。…今日は急に彼氏とデートが入ったってんでドタキャンされたけど」


「つまり所詮その程度の間柄ってことですね」


「うっさい! 陰キャと違って陽キャは予定が色々あって忙しいのよ!」


「…つまり予定の無いオホは陰キャ」


「くぅ~…。ああ言えばこう言う…」


 まぁ…でもmetubeの再生数とかを考えると今までのお菓子は無難すぎたしな。1品ぐらいこういう視聴者が驚くようなお菓子があってもいいかもしれない。…一応編集の朝信に頼んでまんじゅうにモザイクかけて貰っておこう…。


「まぁとりあえず食べてみようぜ。でないと動画取れないし」


 珍しく氏政がまともな事を言った。確かに撮影開始してからもう2時間以上経ってるからな。10分程度の動画撮るのにどれだけ時間をかけてんだって話だ。


『それでは1位の「子孫繁栄クリームまんじゅう」を食べてみましょう!』


 氏政が箱の中のまんじゅうを1つとって口に入れる。なんか絵面的にヤだな…。氏政そのものにモザイクをかけてしまいたくなる。


『んん!? 見た目はちょっとグロテスクですが味は確かです! 濃厚なクリームが口の中でとろけますね』


『でしょう? 味は美味しいんですよ。では私も一つ。ああっ…柔らかい生地とクリームの絶妙なハーモニーが口の中でセッションを唱え…ちょっと馬場冬梨! だから私を撮りなさいって言ってんでしょ!?』


 見ると冬梨はカメラを俺の方に向けていた。なんで冬梨は俺の方を撮るんだ?


「ああ、もう一回やり直しじゃない!」


 穴山さんはまんじゅうをもう一つとるともう一度撮れ高を取るべく準備を始めた。


 その後、なんやかんやで撮影は終わった。あぁ…いつもの如く疲れる撮影だったな。帰りにコンビニで栄養ドリンクでも買って帰るか…。



○○〇



~side冬梨~


 撮影終了後、冬梨は友人であるバラムツと共に帰り道を歩いていた。その途中でバラムツが口を開く。


「今日の冬梨ちゃん、おにーさんの方ばかり見てましたね?」


「…えっ、そうだっけ?」


 冬梨的にはまったくそんな自覚が無かったので、友人に指摘されて改めてその事実に気が付いた。


「ええ、見てましたよ。撮影の時何度も。何かおにーさんとあったんですか?」


 冬梨はせっかくなので最近自分に起こっている体調の変化を友人に相談してみる事にした。


「…なんかね。最近兼続を見ていると胸の中があったかくなってくるの。こう…なんというかポカポカしてくるというか…」


「胸が…ポカポカしてくる?」


 胸がポカポカして、その人物を無意識に目で追いかけてしまう…。バラムツはその症状に心当たりがあった。


「…冬梨の身体どうしちゃったのかな? 何かの病気かもしれない」


「…そうですね。それは病気ですね」


「…バラムツは何の病気か知ってるの?」


「ええ、それは恋の病です。冬梨ちゃんはおにーさんに恋をしているんですよ」








「…えっ?」








○○〇


次の更新は10/20(金)です


※作者からのお願い


もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る