合コンパラダイス!
今日は俺の人生で初めての合コンの日である。若干緊張しながらも俺は合コンの開催場所である『居酒屋・色彩』へと向かっていた。身だしなみは大丈夫なはず…。部屋を出る前にあれだけチェックしたからな。
…寮を出る時に何故か秋乃がジト目で睨んできた気がしたが、あれはなんだったのだろうか。
だが慣れないものに緊張する反面、少し楽しみでもあった。この3カ月、女子寮での生活で俺の対女性用のスキルというのは比較的にアップしたはずだ。今日はその成果を試す絶好の機会でもあるのである。もしかすると…今日の合コンで彼女が出来てしまうかもしれないねぇ…。
まぁ流石にそれは高望みすぎか。今日は女性とスムーズに会話できればOKという事にしよう。
…でも氏政が合コンの話を持って来るなんて珍しい事もあるもんだ。1回生の最初の方こそ彼は顔がそこそこ良いので他の人が開催した合コンにも呼ばれていたらしいが、その言動がヤバい事が知れ渡ると誰にも呼ばれなくなってしまったのである。当然といえば当然の話なのだが。
あまり氏政の性格を知らない奴から誘われたのだろうか? 面子は男3人、女3人と聞いているので俺、氏政、その誘った奴、つまりは男側の幹事の3人という事になる。何はともあれ、合コンを主催してくれるのはありがたい話だ。
俺がそう思考しながら歩いていると『居酒屋・色彩』の
「よっ!」
「うっす兼続、今日は楽しみだなぁ」
氏政は久々の合コンでウキウキしているようである。
「お前今日は酔いすぎてションベン漏らすなよ? せっかくの合コンが台無しだぞ?」
「大丈夫だ、ちゃんとおむつ穿いてきたから。これで泥酔してションベン漏らそうががう〇こ漏らそうが関係ないぜ!」
…対策してきたのは偉いのだが、対策の方向性が間違っている気がする。普通は泥酔しないように対策してこないか?
彼の服装は皮ジャンにジーパンという結構カッコいいクール系の服装をしてきているのに、ジーパンの下に穿いているのはおむつ…。想像すると無茶苦茶シュールである。
ありえないとは思うが…仮にも氏政が女の子をお持ち帰りする展開になったらどうするのだろうか? 流石にラブホでズボンを脱いだらおむつを穿いていたとなったら百年の恋も冷めるだろう。
「そういえばもう1人の男って誰なんだ?」
「それはだな…おっ、来たみたいだぜ! おーい!」
氏政は俺の後方に向かって手を振った。どうやら今日の合コンの幹事がお出ましの様だ。俺はどんな人物だろうと振り返った。
「合コン、ファー!!!」
「お前かよ!?」
今日の合コンを主催した人物…。それは千夏にフラれて脳破壊された挙句に壊れてしまった男…緑川義重だった。なんでまたこいつが合コンなんて主催してるんだ?
「お前千夏の事はもうあきらめたのか?」
緑川はこっぴどくフラれたにも関わらずまだ千夏に想いを寄せていた。しかしその緑川が男女の出会いの場である合コンを企画するというのはどういう風の吹き回しであろうか。
もし彼が千夏の事を諦めて、他の女性を探すべくこの合コンを企画したのであれば、それはそれでめんどくさいのが1人いなくなって有難いのではあるのだが。
「東坂兼続、俺は考え直したんだ」
「考え直した?」
「千夏君が俺に振り向いてくれない理由…それは俺に対女性用のスキルが足りないからだ! 俺は今まで女性と付き合った事すらないからな。故にまずは他の女性でスキルを磨いてから千夏君に改めてアタックする事にした」
緑川はキリッと真面目な顔でそう答えた。しかし…彼の服装はチノパンに上半身裸といういつものスタイルなのでシュール感が半端ない。せめて上に何か羽織って来いよ。
…相手が千夏以外の女性であれば、緑川のその判断は正しいと思う。だが千夏は自分の過去のトラウマ故に異性とあまり深い関係になれないので、それをやっても無駄なのだ。残念だったな。
「それを言うなら東坂よ。お前こそ何故合コンに居るんだ? お前は千夏君と付き合っているのだろう? …もしや浮気か?」
ヤッベ…そう言えばこいつの前ではそういう設定だったの忘れてた。千夏がこいつに言い寄られるのを防ぐために彼にそう言ったのだ。
「浮気じゃねえよ。ちゃんと千夏に許可は貰ってる。氏政が合コンに人が足りないって泣きついてくるから仕方なく参加したんだ」
俺はとっさに思いついた嘘を彼に話す。頼むからこれで納得してくれ。
「えっ? 俺そんな事してないけ…むぐっ」
氏政が余計な事を言わないように彼の口を塞ぐ。そして彼の耳元にヒソヒソ声で話しかけた。
「(頼む氏政、話を合わせてくれ。お前が合コンで女の子に注目されるようにお前の事アゲてやるから)」
「(マジで!? よっしゃ乗った!)」
ふぅ…彼が欲望に忠実な奴で助かった。
「そうそう。合コンに誘う奴が見つからなかったから俺が兼続に泣きついたんだよ」
「…そうだったのか。今回は許可を貰っているようだが…千夏君を泣かせたら承知しないぞ?」
緑川はそれで納得してくれたようだった。…しかしこれでこの合コンは軽率な行動がとれなくなったな。せっかく自分のスキルがどれくらい上がったか確かめるチャンスだと思ったのに…。氏政も残りの1人が緑川ならあらかじめ言ってくれよ!
「そういえば今日来る女の子はどんな子たちなんだ?」
俺はこの話を流してしまおうと彼に違う話題を振った。
「うん? 向こうの幹事は俺の高校時代からの同級生でな。確か後輩と友達を連れてくると言っていたな。ちなみに3人とも色彩大学に通ってるぞ」
「ほぉ…。で、可愛いのか?」
氏政がニヤニヤと緑川に詰め寄る。
「うーん、まぁ平均よりは上なんじゃないか? 俺はこの世で一番千夏君が美しいと思っているが…。おっ、噂をしていると来たようだぞ!」
緑川が道路の方を向いたので俺もつられてそちらを向いた。すると3人の女の子がこちらへ向かってきているのが見えた。
「義重おひさー! 元気だった? ってなんでそんな格好なの!?」
「これは俺の正装だ」
あれが緑川の同級生という人だろうか。んー…どこかで見た事があるような…。
…あっ! 思い出した。いつか氏政がレンタル彼女として借りられていた
「ウヒョ! あの子可愛い! 名前なんていうんだろ?」
氏政が秋山さんを見て歓声を上げる。
「いやいや、お前秋山さんをレンタル彼女として借りてただろ!? もう忘れたのか?」
「え、レンタル彼女? 俺がそんなん借りるはずもないだろ? 何言ってんだ兼続?」
こいつ…レンタル彼女を借りた時のことなどすでに頭から抜け落ちているらしい。都合のいい頭だ。割と真面目に病院に行った方が良いと思う。
「あはは…。お仕事の話はここでは無しにしてね」
向こうもこちらの事を覚えているのか気まずそうな顔をしている。そして彼女の左隣には…。
「ゲッ…なんで馬場冬梨の付き添いがここにいるワケ…?」
彼女も知っている。お菓子系metuberの穴山梅子さん。冬梨によくからかわれている。なんか知っている人ばかり集まってる気がするなぁ…。
「先輩に合コンに来ないかって誘われたから配信やめてついてきたのに…なんかサイアク…」
そういえば彼女は1回生か。秋山さんの後輩という所だろうな。
「あ、あの…本日はよろしくお願いしましゅ…、イタッ…舌かんじゃった」
そして最後の3人目…俺はこの人の事は知らない。控えめで小動物系の人だ。
「おっ、
「知ってるのか氏政?」
「知らないのか兼続? ウチの学部で4女神には及ばないものの、かわいい子ランキングで常にトップ10には入ってる娘だぞ。その小動物的な可愛さに何人の男がハートを打ち抜かれて来たか…」
へー…まったく興味が無いから知らなかった。確かに可愛らしいと言えば可愛らしいのだが…なんだろう? 彼女からはなんか妙なオーラを感じるんだよな。
「よし! これで全員集まったな。それじゃあ店の中に入ろうか」
緑川が号令をかけて俺たちは続々と店の中に入って行く。こうして俺の人生で初めての合コンが始まった。
○○〇
~side秋乃~
「(兼続君がオシャレして寮を出て行ったの怪しい…。それに晩御飯も要らないって言ってたし…)」
秋乃は先ほど自分の想い人である兼続がおめかしをして寮を出て行ったのが気になって仕方が無かった。男がおめかしをする理由…それは女の存在意外にありえないからである。
「(まさか私の知らないうちに彼女が出来た? いや…兼続君と仲の良い女の子なんて寮の住人以外にいないはず…。もしかして…合コンとか?)」
秋乃はまれにみる鋭さをみせた。いつもはポンコツである彼女だが、今日はたまたま彼女の頭脳はさえわたっていたのだ。
「(こうしちゃいられない…。これは調査しないと…)」
秋乃はそう思うが早いか寮の住人に「急用が出来たから晩御飯は各自で食べて」とreinで送り、本人は潜入捜査するために変装用の帽子とサングラスを部屋まで取りに向かった。そして急いで寮を出ようとしたのだが…。
「秋乃? どうしたのそんな格好で?」
しかし…またもや寮を出る際に彼女の親友である千夏に捕まってしまった。
「(千夏ちゃん!? …今は時間が惜しい。この前の先輩と兼続君の尾行の時は行き先を知ってたから何とかなったけど、今回は行き先を知らないから見失うとどこに行ったか分からなくなる…)」
そう思った彼女は千夏を仲間に引き込むことにした。
「千夏ちゃん! とりあえず一緒に来て! ハイコレ、サングラス」
「えっ!? ちょ!? 秋乃!? どうしてサングラスをそんなに沢山持ってるの? 秋乃!?」
千夏は訳がわかないまま秋乃に引っ張られていった。
○○〇
次の更新は10/14(土)です
※作者からのお願い
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