彼女たちの気持ち
俺が風邪を引いた次の日、朝起きるとすっかり体調が良くなっていたので朝食を食べに1階に上がる。と、そこでバッタリと美春先輩と出会った。
「おはようございます! 2日酔い大丈夫でした?」
先輩は一昨日のデートの時に誤ってアルコール度数96%の酒であるスピタリスを飲んでしまった。なので昨日は2日酔いで寝込んでいたそうだ。
「ええ、なんとか…。秋乃が介抱してくれて助かったわ。兼続の風邪はもう大丈夫なの?」
「もうすっかり良くなりました」
「それは良かったわ。人間健康が一番よね。それでね兼続…。ちょっと聞きたいんだけど…」
「はい、何ですか?」
「お酒に酔ってる時のあたしって何してた? 居酒屋を出た辺りまでは覚えてるんだけど、それ以降の記憶が無いのよね…」
「あー…」
先輩は頭を押さえながら俺にそう尋ねて来る。これは…どういえば良いのだろうか? まさか酔って幼児退行し、ラブホのSM部屋に突入した挙句に暑いからと言って俺の前で服を脱ぎちらかした…と正直に言うわけにもいくまい。乙女の名誉を傷つける事になるからな。多少オプラートに包んでおくか。
「えっと、あの後は…春海ちゃんを騙すために作戦通りラブホに行って、ラブホで時間を潰している間に先輩が寝ちゃったので俺がおぶって帰ってきました」
よし! これでいいだろう。これなら先輩の名誉は傷つかないはず…。
「ふーん…そうなんだ。ごめんね兼続、迷惑かけたみたいね。今度何か高い物でも奢るわ」
「いえいえ、お気になさらず」
ふぅ…誤魔化せるか心配だったが、どうやら先輩は信じてくれたようだ。さて、朝飯を食いに行くか。もうお腹ペコペコだ。俺は食堂のドアを開けようとした…しかし、先輩からまたもや質問される。
「あと一つ質問があるんだけど。昨日秋乃が『兼続君に返しておいてくれって言われました』ってあたしのブラを持ってきたんだけど…。どうして兼続があたしのブラをもってるのかしら?」
先輩がジト目で俺を見て来る。あっ…そう言えば秋乃に先輩にブラを返しておいてくれって言っておいたの忘れてた。俺の背中に冷や汗が流れる。えーっとこれは…どうやって言い訳しよう。
「それは…ラブホで先輩が『暑い』って言って自分で脱いだんですよ。で、そのまま先輩が寝ちゃったので俺が鞄に入れて持って帰ってきました。流石に寝ている先輩に男の俺が着けるワケにもいかなかったので…」
そもそも付け方も知らんしな。…もしもの時のために知っておいた方が良いだろうか。飯食ったらネットで調べておこう。
「…そうだったの? 兼続にはすごく迷惑をかけちゃったわね。ごめんなさい」
ホッ…先輩が素直な人で助かった。これが疑り深い千夏や秋乃ならもっと追及されてただろうな。でもこれで先輩の名誉は守られたわけだ。先輩…俺は先輩の恥ずかしい言動は墓まで持っていきます。
○○〇
先輩との問答を終え、俺たちは食堂に入室する。食堂には女子寮の住人がすでに全員揃っていた。俺は自分の席に座ると左隣に座っていた千夏に声をかけた。
「千夏、おはよ。一昨日苦しそうにしてたけど大丈夫なのか?」
「ッ!? え、ええ/// 昨日病院に行って診て貰ったけど、特に病気ではないみたい」
「そうか、なら良かった。でもなんだったんだろうな?」
「そうね…私も教えて欲しいぐらいよ」
千夏はそう言って遠い目をしながら窓の外の景色を見つめた。外は9月の末になってようやっと秋の匂いを感じさせるようになってきている。
もしかして…最近千夏に考え事が多いのって胸の痛みの原因が分からないからなのかな? 病院に行って健康に問題が無いと言われたのなら、その痛みは精神的なものなのかもしれない。
ちょっと例えがおかしいかもしれないけど、それまで何ともなかったのに緊張してくると腹が痛くなるみたいな奴、あれの胸の痛みバージョンみたいな感じで。でも精神的なものって本人以外には分かりづらいからな。何とかしてあげたいのは山々だが、俺は力になれそうにない。
○○〇
~side千夏~
千夏は
「えっ? 異常なしですか?」
「はい、高坂さんはいたって健康そのものです」
医者の言葉を聞いて千夏は唖然とした。そんな馬鹿な…。立っているのがやっとなほどの痛みだったのに…と。もしかしたら胸に小さい
しかし次に行った病院でも「特に健康に問題ない」と言われる事になる。この病院は千夏が住んでいる県で一番大きな病院である。検査のための設備も最新のものがそろっている。千夏は悩んだ。どうして何も発見できないのか。もしかすると現代の医学では解明できない未知の病気にかかったのかもしれない。
だが帰り際に医師に気になる事を言われた。
「肉体的に問題が無いなら、その胸の痛みは精神的な物かもしれませんね」
千夏は自室に帰り胸の痛みが発生した時の事を思い出してみた。千夏の胸が猛烈に痛み出したのは兼続と美春がラブホに入って行ったのを見たからだ。あれで頭が混乱して胸も痛くなり、そして涙まで出て来た。
「(待って! そんな症状をどこかで見た記憶がある。どこだっけ…?)」
千夏はベットの上に転がり、兼続に買ってもらったチンアナゴのぬいぐるみである「アナ続」を抱きしめながら記憶の海の中にダイビングする。
「(…えっと、そうだ。あれは確か「恋」について調べていた時に似たようなものを見た記憶があるわ)」
千夏はスマホを取り出しgaagleで再び「恋」について調べる。
「(3ページ目の4番目の奴。これ!)」
そのページはとある女性ブロガーが自身の「失恋」について書き連ねていたブログであった。自分語りが長いので、文章を要約するとこうなる。
『前から好きだった人が自分とは別の女の人を連れて彼の部屋に入るのを見た。その光景を見た筆者は
という内容だった。
千夏はこの内容を読んで自分が体験したあの状態と似ていると思った。胸が痛くなって立っていられなくなり、涙が出る。
「(つまり…、えっ!? 私の胸が痛かったのは『失恋』による胸の痛みって事!?)」
もっと言うとそれは…千夏は兼続が好きだったという事になる。
「(いやいやいや、夏祭りの時に彼に近づいて自分の胸がドキドキするか確かめたけど、別にドキドキしなかったわよ!? だから私は別に兼続に恋をしているわけじゃないと判断したのだけど…)」
しかし自分の置かれていた状況を考えてみるとこれが一番しっくりくる。千夏は兼続が美春と付き合っていると勘違いをして自分の想いはもう届くことは無いのだと思い、胸が痛んで涙が出たのだ。
「(胸の痛みが無くなったのも兼続が美春先輩の妹を騙すために仕方なくラブホに入ったと聞いてから…)」
千夏はこれまでの話を頭の中で整理して見た。
「(まとめると私は…兼続に恋をしているって事?///// あの胸の痛みの原因は兼続が美春先輩と付き合っていると思って自分が失恋したと思ったから?)」
千夏は自分が推察したその事実に顔を赤くする。恋愛音痴の少女はベッドの上で恥ずかしさで両手で顔を隠し、足をジタバタとさせてもだえ苦しむ。見る人が見ると「青春してるねぇ」と思わず微笑ましく思ってしまう光景だろう。
「(あー///// あ゛ー///// あ゛あ゛ー////// 分かんない、分かんない、分かんない! なんで恋愛って教科書が無いの!? 文部科学省や政治家は今すぐ恋愛の教科書をつくりなさいよ!!!)」
恋する少女は行き場の無い感情を全く無関係の人に向けながらベットの上で悶々としていた。
○○〇
次の更新は10/4(水)です
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