メイド喫茶でダベる男たち
「メイドさん萌え~ですな♪」
今現在、俺、朝信、氏政の3人は駅前にあるメイド喫茶に来ていた。以前傷心の朝信をなぐさめるために高広先輩と彼の好きそうな場所で彼を慰めたのだが、それ以来朝信はメイド喫茶にハマってしまったらしく、今では週に1回は通うようになったらしい。
「ウホッ! 俺メイドさんって初めて見たわ。中々乙なもんだねぇ~」
氏政が興奮した様子でジロジロとメイドさんを眺める。恥ずかしいからやめてくれ…。何故俺たちがメイド喫茶にいるのかというと、氏政から久々にみんなで集まらないかと言われてここに集まることになった。
思い返すと氏政と最後に会ったのはお盆過ぎに寿司を奢った時だから半月近く会っていなかったことになるのか。その間は平和だったなぁ…。
しかし…彼はいると何かしら問題を起こすトラブルメーカーではあるものの、いないならいないでちょっと物足りない。まぁ来月の頭からはまた大学が始まるので彼とは嫌でも顔を合わせる事になるのだが…。
「ところでなんで朝信はメイド喫茶にハマったんだ?」
氏政が素朴な疑問を投げかけて来る。朝信は顔を赤くしてそれに答えた。
「それは…兼続が我の純情をもて遊んだからですな////」
「えっ…お前らそんな関係だったの? 兼続…お前いくら彼女が出来ないからって男に走ったのか…」
「ちっがーう!!! 朝信も変な言い方すんじゃねーよ。確かに間違いじゃないけどさ!」
氏政にドン引きされるとは新鮮な感覚である。いつもはこっちがドン引きする側だからな。彼は俺から目を反らしながらも言葉を続けた。
「まぁ…その…なんだ。最近結構同性愛って話題になってんじゃん。LGBTとか。俺は…その…良いと思うよ? あっ、でも俺のケツの穴に狙いを定めるのはやめてくれな?」
「いやだから違うって! 失恋した朝信を慰めるために俺と高広先輩がメイド喫茶に誘ったら朝信がドハマりしただけの話だ」
「なんだそうだったのかよ。それならそうと早く言えよ。で、朝信は誰にフラれたんだ?」
「えっ…それは…その…女装した後輩に…」
「やっぱりお前らホモだったんじゃないか!?」
「違う!!! …色々と事情があるんだよ」
俺は渋々氏政にこの前起こった事件の内容を話した。彼にこの事を話すとめんどくさい事になりそうなので話さなかったのだ。この話を聞いた氏政は意外にも朝信を慰め始めた。
「うん、ドンマイ朝信。生きていれば新しい恋が見つかるさ! 俺みたいにな」
彼はキメ顔でそう述べる。言っている事は正論なのだが、失敗してばかりの彼が言うと説得力がまるでない。まぁそのメンタルの強さは見習うべきなのかもな。
「フン、別にいいですな。我にはここのメイドちゃんたちがいますからな。別に恋人なんてできなくても幸せですな! 同志氏政、メイドはいいですぞ! 我にもとびっきりの笑顔を向けてくれますからな!」
「朝信よ…。金で買った笑顔は嬉しいか?」
「…そういう言い方はやめていただけますかな? 我の財布が薄くなる代わりにメイドちゃんたちの
「それって完全に
「ヌフー! ATMの何がいけないんですかな? 世間ではATMは理想の旦那と言われていますぞ? つまり我はメイドちゃんたちの理想の旦那様なんですな!」
「朝信が幸せならそれでいいが…」
おそらく朝信はメイドを喜ばせる事によって自分の心の傷を埋めようとしているのだろう。心の傷の埋め方なんて人それぞれだからな。朝信が満足するまでやればいい。でも心の傷が埋まったらまた戻ってきて欲しい。
「お待たせいたしました旦那様方! ご注文の『ラブラブ♡オムライス』と『愛・煮込みとろとろカレー』と『メイドさん手打ちらーめん』をお持ちいたしました」
話をしていると俺たちが注文したものが届いたらしい。注文者はオムライスが朝信、氏政がカレー、俺がらーめんだ。ちなみに飲み物は全員水である。なにぶん値段がメイド喫茶価格のため非常にお高いので、少しでも節約したかったのだ。らーめん1杯になんと1500円である。どこの高級らーめんだよ!
「ではオムライスに文字をお書きしますねー」
朝信の注文したオムライスはメイドさんが直にケチャップで文字を書いてくれるというオプション付きだ。これで2000円もするんだからびっくりする。朝信はメイドさんに「旦那様大好き♡」という文字を描いて貰いご満悦の様だ。
「では最後に美味しくなるおまじないをかけますねー。旦那様も一緒に『萌え☆萌え☆キューン。美味しくなれニャン!』」
…これを見たのは今日で2回目だがまだ慣れない。何とも言えないこっ恥ずかしさを感じる。共感性羞恥心というのだろうか。多分俺はメイド喫茶には向かない人間なんだろうな。朝信などはもう慣れたものらしくメイドさんと一緒に呪文を復唱している。完全にメイド喫茶を楽しんでいるな。
…というか最後の「ニャン!」は一体どこから出て来たのだろうか? 別に猫キャラと言うワケでもないよな?
「うおおおお! あれが噂に聞くメイドさんの魔法か。初めて見たぜ!」
氏政が先ほどの光景を見て何故か興奮していた。どうやら彼にもメイド喫茶の適正があるらしい。
俺たちは腹も減っていたので配膳された食事に手を付けた。うーん…味はまぁまぁだな。不味くもなく、美味くもない。
「しかしアレだな。ここのメイドさんは綺麗どころが揃ってるな」
カレーをスプーンで頬張りながら氏政がそう言って来た。確かに彼の言う通り、ここのメイドさんたちは結構可愛らしい娘が揃っている。レベルが非常に高い店と言っても良いのではないだろうか。それがこの店が繁盛している理由の一つでもあるらしい。
カレーを平らげた彼は何を思ったのか突然ポケットから鏡を取り出して前髪を触り始めた。
「どうしたいきなり髪をいじって?」
「カワイコちゃんが周りにいるのに身だしなみを整えない男はいないだろう?」
言っている事は分かるのだが…、突然鏡を取り出して前髪をいじりだすのは何かナルシストっぽい動きである。
「兼続お前さぁ…、ちょっと髪をいじったぐらいでナルシストになるんだったら毎日ち〇ぽいじってるお前はどうなるんだよ? オナニ〇トか?」
またこいつはとんでもない事を言い始めたな…。
「声が大きい! 公共の場所で下ネタ言うんじゃねえよ! お前と一緒にするな!」
「お前…まさかいじってないのか?」
「当たり前だろ!?」
「兼続がその年ですでにイ〇ポだったとは…。今度よく効く薬やるよ…。怪しい東南アジア人から買ったんだ」
「どうしてそんな話になるんだ!? いらねぇよ!?」
「僕の友達の兼続君はホモでイ〇ポで包茎です。泣きました」
「だから違うつってんだろ!!!」
「すいません、お静かにお願いします」
俺たちが騒いでいると執事風で大柄な初老の男性から注意を受けた。店のマスターだろうか? まぁ女性だけだと防犯上の問題とか色々あるだろうし、何かあった時のために一応男性もいるんだろう。
「お前のせいで注意されたじゃねーか」
「俺のせいかよ? 俺はただ髪をいじってただけだぜ?」
こいつ…法律がなければぶん殴っている所だ。氏政は髪型のチェックが終わったのか鏡をしまうととんでもない事を言い始めた。
「よし、俺のナイスガイな容姿は確認した。それじゃあメイドさんをナンパと行こうか!」
「やめとけ!? 店出禁にされるぞ!」
「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』…このことわざの意味が分かるか兼続? あえて身の危険を冒さなければ、大きな成果を挙げることはできないという例えだ。つまりメイドさんの彼女を作るにはメイド喫茶でナンパするしかないという事さ! その結果店を出禁にされたとしてもな!」
「いや知ってるけどさ。それだったら普通に彼女を作ってその娘にメイドさんのコスプレしてもらえば良くないか?」
「兼続、お前は何も分かってないな。本物のメイドさんとコスプレのメイドさんでは天と地ほどの差があるのだよ」
「ここにいるメイドさんも全員バイトのコスプレだと思うぞ…」
そもそも現代日本で本職のメイドさんというのは存在しているのだろうか。創作物だと良く見るが。
「よし、次に注文を取りに来たメイドさんをナンパだ!」
「おい!」
氏政はそう言うが早いか俺が止めるより早く店員さんの呼び出しボタンを押した。「チリーン!」という音が鳴り、奥からメイドさんが注文を取りにこちらへ向かってくる。あーあ…俺もう知ーらないっと。他人のフリしとこ。
「お待たせいたしました旦那様、ご注文をお伺いいたします」
やって来たのは黒髪ロングの清楚で可愛らしいメイドさんだ。うおっ、黒髪ロングのメイドだ。メイド服も他のメイドとは違ってミニスカートではなく、ロングスカートのメイド服を着用した真に正統派のメイドである。おっと…俺も熱く語ってしまった。メイドさん属性は俺にないはずなのだが…。
「そうだな…君の心を頂戴しようかな」
氏政が黒髪ロングのメイドさんにクールなキメ顔をしてナンパした。顔だけはそこそこ良いんだがなぁ…こいつは、言動をどうにかできないものか。
「申し訳ありません旦那様、私の心は非売品でございます♪」
氏政の気持ちの悪い注文にもかかわらず、メイドさんは笑顔でそう返してくる。…このメイドさんできるな。考えてみればこんなところで働いていれば氏政みたいなナンパ目的の客も沢山来るだろうし、対応に慣れてるんだろうな。
「どうすれば君の心を奪えるのかな?」
「そうですねぇ。では旦那様と私でゲームしませんか? もし旦那様が勝てばデートして差し上げましょう」
「ホントに? やるやる!」
さっきまでのクールなキメ顔はどこへやら…。今の氏政は猿の様な下心丸出しの顔で鼻息を荒くしてメイドさんに詰め寄っている。メイドさんあんなこと言って大丈夫かな…?
「オプションのゲーム入りまーす! 旦那様、こちらのゲームは1回2000円かかりますがよろしいですか?」
「モチのロン! 君の心を俺のものにできるならそれくらいはした金さ!」
のせられてる、上手い事のせられてるぞ氏政!? なるほど…こうやって有料のゲームに誘って客から金をむしり取っているんだな。このメイドさん、清楚な顔立ちをしているのに中身は相当腹黒いのかもしれない。
そしておそらくゲームの方も…メイドさんクソ強いんだろうなぁ…。
○○〇
-30分後-
「もう1回! もう1回だ!」
「おい氏政、もう止めとけ。お前ゲームだけでもう2万円も使ってるんだぞ」
案の定氏政は負け続け10連敗。2万円もの金をメイドさんに吸い取られる事になった。
「あと1回やれば勝てそうなんだ!」
氏政がそう思うのも無理はない。このメイドさん、ギリギリの所で勝つのが非常に上手いのである。相手にもう少しで勝てそうという希望を持たせつつ勝つので、相手方はもう少しで勝てると勘違いをして2000円のゲームを続投してしまう。横から見ているとそれが良く分かる。
このメイドさん恐ろしいな…。もしホストのように売り上げランキングというものがあったなら、この娘が店のエースに違いない。
氏政は俺の必死の説得によってようやくゲームを止めた。
「くぅ~悔しいぜ! こうなれば俺の話術でどうにかするしかねぇ!」
「お前まだあきらめてなかったのか!? もう止めとけ、金もないんじゃないか?」
「フッ…俺を侮るなよ兼続! 俺はこの夏休みバイトをしまくってちょっぴりリッチになったのさ。これくらいの出費はまだ大丈夫だ。食事を水ともやしにすれば今月は乗り切れる!」
「すでにギリギリじゃないか!?」
「メイドさん! この『メイドさんと1対1でのお話30分』をお願いします!」
氏政は引き続き黒髪ロングのメイドさんをどうにかナンパしようとする。
「ありがとうございます♪ 指名料1000円とオプション料金2000円で合計3000円頂きます」
高ぇ!? 話すだけで2000円!? それに指名料まで取るのかよ!? この店かなりあくどいな…。
氏政と黒髪ロングのメイドさんはマンツーマンで話す用の席に移動する。俺と朝信はその様子を遠くから見守った。
「君を始めて見た時、俺の心はまるでチュパカブラを見たかのような衝撃を受けた。この胸の動揺を君に伝えなければ俺は心の中で粉塵爆発を起こしていただろう」
どんな例えだよ…。チュパカブラなんてマイナーなUMA知ってる奴の方が少ないだろ…。というかまずお前見たことないだろ。
「まぁ嬉しい♪ 旦那様にそう思って頂けるなんて光栄です」
メイドさんも強いなぁ…。厄介な客の対応に慣れているというか…。あのレベルの人は氏政程度では攻略するのは無理だろう。
「君はまるでこの腐った世界に舞い降りた一輪のウツボカヅラ…。どうかその笑顔をคุณจะไม่ให้ฉันปกป้องคุณเหรอ?」
まるで言ってる意味が分からんぞ…。誰か通訳してくれ! 何語? タイ語?
「どうだろうか? この後もし時間があるなら俺と『ラブキャッスル』にでも行かないかい? お姫様の様な君にお城を見せてあげたいんだ」
おい! 『ラブキャッスル』ってこの近くにあるラブホじゃないか!?
「はい、NGワード入りましたー。排除お願いしまーす♪」
「えっ?」
氏政がそこまで言ったところでメイドさんがそう切り出した。ああ…やっちまったか…。メイドさんをラブホに誘って店に居られるワケがない。
奥から先ほどの執事風の大柄な男性が出て来ると氏政の首根っこをむんずと掴む。
「ちょ…兼続、朝信! 助けてくれ!」
「アレ誰だっけ? 俺たちの知り合いにあんな奴いた?」
「さぁ? 我も知りませんな? あんな下品な顔の知り合いがいたら末代までの恥ですぞ」
俺と朝信は巻き添えを食らいたくないので他人のフリをする。
「ちょ!? おい!? 俺達友達じゃなかったのかよ!? 薄情者ー! あーーーーーーー!!!」
氏政はそのまま執事風で大柄の男性に店の外まで放り出されてしまった。全く…だからあれだけ下ネタは止めろと言ったのに…。
○○〇
途中のタイ語はグ〇グル翻訳なので適当です。間違ってたらすいません。
次の更新は10/6(金)です
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