感度3000倍!?
夏休みも終盤に迫ったある日、俺は氏政に呼び出されていた。彼との待ち合わせ場所である商店街の喫茶店へと向かう。
「なんだよ? いきなり呼び出して…」
俺が喫茶店の中に入ると珍しく氏政が先に来ていた。いつもはちょっと遅れてくるのに珍しい。俺が席に座ると彼はまれに見る真剣な表情をしていた。…なにか真面目な相談事だろうか?
「兼続…」
氏政が重苦しい口ぶりで話し始める。こいつがここまで真面目な顔になるなんて珍しい。一体どんな用件なのだろうか。俺はゴクリと唾を飲んで彼の言葉の続きを待った。
「お前…この前イ〇ポだって言ってたよな?」
「は?」
今までの重苦しい空気はなんだったのか。こいつ前の話をまだ引きずっているらしい。俺は別にイ〇ポじゃねぇって言ってんだろ! アホらしくなった俺は席を立って喫茶店を出ようとした。
「まぁ座れよ。お前にぴったりの物を持ってきた」
彼はそう言うと自分のバッグの中からいくつかの外国産と思われるお菓子の袋を取り出した。
「なんだよこれ?」
「これはな…今海外で大流行りしている媚薬のようなもんだ。食べるとなんと! 感度が3000倍になるらしい」
「3000倍!?」
なんかどっかの国家公務員の忍者が主人公の作品に出てきそうな設定のお菓子だな。実際に感度が3000倍になると物に触れるだけでも痛いレベルらしいが…俺は感度3000倍になったことはないので実際の所は分からない。
…なんでこいつがこんなものを持ってるんだ? それに明らかに怪しすぎるだろ!
「俺の知り合いの東南アジア人から買った。可哀そうな兼続にも特別に1袋分けてやろうと思ってな」
「いや、そんな怪しいもん要らねえよ! 変な薬だったらどうするんだ?」
「それは大丈夫だ。これam@jonにも売ってるから。ほら、レビューもちゃんと書いてあるだろ? しかも☆4.3もあるんだぜ?」
氏政はスマホでam@jonのページを開いて俺に見せて来る。確かに俺の目の前にあるお菓子と同じ商品のようだが…如何せん胡散臭すぎる。
「いらん」
「そう言わずに1袋もっとけよ。いざという時に役に立つかもしれないぜ? これでも俺は友達としてお前の事を心配してんだ」
「気持ちだけ受け取っとくよ。あともう一回だけ言うけど俺は別にイ〇ポじゃねぇ!」
俺がそう言ったにもかかわらず、氏政はニヤニヤと笑いながら俺のポケットにお菓子をねじ込んでくる。はぁ…仕方ないな。寮に帰ったら捨てるか。ここで捨ててもいいのだが、一応は厚意で貰ったものを目の前で捨てるのは流石に俺の良心が痛んだ。
「で? 用件はそれだけか?」
「実はまだあるんだ。なぁ兼続、お前…合コンに出てみないか?」
「合コン?」
合コンってあれか? 男女が彼氏彼女を作るために知り合いを集めてする飲み会。陽キャ大学生たちは頻繁にやっているらしいが、俺は1度も誘われたことは無かった。ある意味陰キャの俺にとっては幻ともいえるイベントだ。その合コンに俺を誘うと?
「何でまた合コンを?」
「実はさぁ…俺の知り合いが合コンを企画してて男の枠が1つ余ってるんだよね。だからお前に声をかけたんだ。どうだ、出てみないか?」
俺は少し考える。ちょっと前の俺なら尻込みしていただろうが…今の俺は約3カ月間の女子寮生活で女性に対するコミュレベルが上がっているのだ。自分のレベルがどれだけ上がったのかを確かめるために参加してみてもいいかもしれない。
「分かった。参加するよ。いつやるんだ?」
「今週の日曜19時開始。場所は『居酒屋・色彩』」
「りょーかい。楽しみにしとく」
氏政にしてはまともなお誘いである。ありがたく参加させてもらおう。氏政の用件はそれで終わったようなので、俺と彼は喫茶店を出てそこで別れた。他に特に用もなかったので俺はそのまま寮へと戻った。
○○〇
寮へと戻って来た俺はまず氏政から貰った怪しいお菓子を捨てようとした。こんなものをいつまでもポケットの中に入れておきたくはない。一番近いゴミ箱は確か食堂のゴミ箱だったな。俺はそこのゴミ箱にお菓子を捨てようと食堂に足を運んだ。
しかし、俺が食堂に入った瞬間に猛烈な腹痛が俺を襲う。どうしたんだ急に…なんか変な物でも食べたのだろうか。今にも漏れそうだったので、俺は急遽行き先を変更してトイレに向かう事にした。
俺がトイレに向かおうと食堂から出た時、ポケットに入れておいた
○○〇
side~冬梨~
馬場冬梨はその時お腹が空いていた。部屋にストックしてあったお菓子は底をついている。我慢しようとしたが、腹の虫が大声で鳴いていたので辛抱できなかった。仕方が無いので、彼女は食堂の冷蔵庫に何か摘まみ食いできるものはないかと探しに行くことにした。
「…なにこれ?」
冬梨が食堂に足を踏み入れた時、彼女の足元に何やらお菓子の袋のようなものが落ちているのに気が付いた。拾ってみるとどうやら外国のお菓子のようだ。彼女は袋を空けて中身を確かめる。空腹故に我慢ができなかったのだ。お菓子の持ち主には後で謝ればいいだろう。
「…いい匂い」
袋の中にはクッキーが5枚入っていた。袋を開けた瞬間に濃厚なバターの香りが彼女の鼻孔をくすぐる。匂いだけでこのクッキーは上質のものだと彼女は判断した。1つとって口へ運ぶ。
「…美味」
口の中に入れた瞬間、それはサクサクと舌の上でとけてその濃厚な味で彼女の味覚を刺激した。間違いない、これは相当上質なクッキーだ。以前兼続に買ってもらった缶入り3000円のクッキーも美味しかったが、これはそれ以上かもしれない。クッキーの美味しさに感動した彼女は舌つづみを打ちながらそれを堪能する。
「お腹空いたわ~」「秋乃何か買ってますかね?」
そこへ美春と千夏がやって来た。どうやら彼女たちも小腹が空いたので冷蔵庫をあさりに来たらしい。2人はクッキーを食べていた冬梨と目が合う。
「あっ、冬梨クッキー食べてるじゃない。1つ頂戴?」「私も1ついいかしら?」
「…ん」
冬梨は食べていたクッキーの袋を2人に差し出す。これほど美味しいクッキーを独り占めするのは気が引けた。美味しい物はみんなで食べた方が美味しい。
「これスッゴク美味しいじゃない!? どこのクッキー?」「本当! 私は基本和菓子派だけどこれはイケるわ!」
2人ともそのクッキーを絶賛している。やはり冬梨の味覚は正しかったようだ。
「…分からない。外国のクッキー」
「へー。文字からしてフランス製かしら? 流石お菓子の本場ね」
美春がクッキーの袋を観察しながらそう言った。袋に書いてある文字は英語ではないと思っていたがフランス語だったらしい。
「ただいまー。みんな何食べてるの? あっ、クッキー! 1つちょーだい!」
そう言うが早いか秋乃はクッキーの袋に手を突っ込み、1つとって口の中へもっていく。5枚入ってあったクッキーはこれであと1枚になった。冬梨はせっかくなので残りの1枚を兼続にあげようと取っておくことにした。
…彼女たちがクッキーを食べてから5分程経っただろうか? 彼女たちの体調に変化が訪れた。
「…(なんだか体が熱い?)」
冬梨は自分の身体が芯から熱くなってきているのを感じた。なんというか…体の中心が「カッカ」と火照る感じである。食堂の中はエアコンが効いており、先ほどまで汗すらかかなかったのに。一体どうしたのだろうかと彼女は首をかしげる。
周りを見ると他の3人も暑そうにしていた。服の先を摘まんでパタパタとしている。
「ちょっとエアコンの温度下げる?」
「賛成」「お願い千夏ちゃん」
千夏はエアコンの設定を最低温度である16度まで下げた。通常であれば寒いぐらいの温度であるが、今の彼女たちにとってはちっとも涼しくなかった。
そこでガラガラと食堂の扉が開く音がする。振り返ると兼続が食堂にやって来ていた。
○○〇
※少し補足。今回の感度3000倍クッキーは普通のクッキーに媚薬が入っただけの物なので、4人の健康には全く害はありません。ちなみに感度3000倍という名前ですが、実際に3000倍にはなりません。名前だけです。
本来は次の話と合わせて1話だったのですが、長くなったので2話に分けます。
次の更新は10/8(日)です
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