ライアーゲームデート!

 スイーツキングダムに展示してあった写真の件をどうにか誤魔化しつつ、俺は美春先輩と春海ちゃんと共に次の目的地に向かっていた。


「へぇ~…じゃああの女たちはレンタル彼氏を依頼してきた人たちなんだ?」


「そ、そうそう。あの店ってこの町で定番のデートスポットらしくてさ。それで良く仕事で利用するんだ。で、その最中に客の女の子たちに『カップル限定メニューを頼みませんか?』って言われる事もあるんだ。あの写真はその時撮ったものだよ」


「レンタル彼氏として他の女と使った店で本命の彼女とデートするんだ? へぇ、そう、ふーん…」


 彼女はジト目で俺の方を睨む。スイーツキングダムのカップル限定メニューで点数を稼いだと思いきやこれである。なんで俺の写真だけあんなに展示してあったんだよ…意味が分からんよ。


「今回は美春がどうしてもスイキン(※スイーツキングダムの略)に行きたいって言ったからチョイスしたんだよ。なぁ美春?」


「えっ? そ、そうね//// 今回はあたしが行こうって言ったの」


「おねえがあんな店に行きたいだなんて珍しい。おねえの好みからは外れてると思うけど?」


 春海ちゃんは今度は美春先輩の方に懐疑の目を向ける。不味いな…完全に疑われてる。次の行き先で挽回しないと大分厳しそうだ。


「そ、それは…その…兼続が他の女の子と言った店にあたしだけ行ってないのは悔しかったから…//// つまり…嫉妬?」


「ふーん…(負けず嫌いなおねえらしいと言えばらしい。…さっきの店での光景は初々しいカップルそのものだったし、それにおねえの友達も祝福してたから偽の彼氏という線は無さそう? 偽の彼氏なら友達が絶対何か言うわよね? でもあんな写真見せられたらその関係を疑わざるを得ない…。考えられるのは兼続さんはおねえと遊びで付き合ってる。…もし兼続さんがおねえの事遊びだったら妹である春海がなんとかしないと…。少しぶっこんでみるか)」


 春海ちゃんはジト目のまま俺の方を向くと口を開いた。


「それに…あの写真に写っていた女の子達ってみんな綺麗どころだったわよね? 1人なんか年増のおばさんがいたけど。そもそもあんな綺麗な女の子たちがレンタル彼氏なんて利用するかしら? もしかして兼続さん…4股とかしてるんじゃないの?」


「いやいや、そんな不誠実な事は神に誓ってしてないよ。現に俺は美春が初彼女だし…。今まで20年間ずっと彼女無しだったんだぜ? ちょっとは女性耐性をつけたいってんでレンタル彼氏のバイトを始めたんだ」


 これに関しては(半分は)本当の話だ。俺には20年彼女はずっといなかった。そして今もいない…。悲しい。俺は(半分は)嘘はついていないので春海ちゃんの目をまっすぐに見つめながらそう宣言する。嘘をつくときは本当の話を混ぜた方が信じてくれる確率が上がるのだ。


「ふーん…(嘘は…ついていなさそうね。嘘をついている人はあんなにまっすぐな目はしない。話題を反らしたり、目をそらしたりするもの…。という事はおねえと兼続さんが真剣に付き合っているのは本当の話なのかしら?)」


 春海ちゃんは少し考えるようなそぶりを見せると言葉を続けた。


「ねぇ、兼続さん。それなら今はおねえと付き合ってるんだからレンタル彼氏は辞めるのが筋じゃないの?」


「そ、それはそうなんだけど…なんか契約の関係で今月一杯までは辞められないんだ。俺も早く辞めたいんだけどね。アハハ…(そう言えばそうだな。結局レンタル彼氏の依頼も全然来なかったし、今日のデートが終わったら退会しとこ…。今月で夏休みも終わるしな)」


「そんなもんなの…?」


 とっさに出たでまかせだがなんとか信じて貰えたらしい。ホッ…とりあえずは写真の件は乗り切ったかな。



○○〇



 次に俺たちが向かったのは『色彩の湯』だ。色彩の湯はこの町にある温泉施設でジジババたちの憩いの場となっており、今日も施設の中にはじいさんばあさんが大量にたむろしている。もっとも俺たちの目的は施設の中にある温泉ではなく、施設の外にある無料の足湯である。


 美春先輩はここの足湯が大好きらしく、暇があればちょくちょく通っているらしい。温泉まんじゅうを食べながら浸かるのが「通」なのだそうだ。


「足湯に浸かるの久しぶり~、楽しみだわぁ~♪」

 

 美春先輩ははしゃぎながら足湯に浸かるために靴と靴下を脱ぐ。いつもは大人っぽい人が足湯に疲れるからと言って子供のようにはしゃぐ、そのギャップが非常に可愛らしい。


「あ゛あ゛~…極楽ぅ♪」


 我先にと足湯に浸かった先輩がおっさんのような声を上げる。でもまぁそう言う声を上げたくなる気持ちは分かる。疲れた時に入る熱い風呂ってなんであんなに気持ちがいいんだろうなぁ。


 俺も靴と靴下を脱ぐと美春先輩に続いて足を湯につける。おおっ、確かにこれは気持ちがいい。これを無料で楽しめるって凄いな。美春先輩の言う通りこれは癖になりそうだわ。


「はい、温泉まんじゅう」


 隣で足湯に浸かっていた美春先輩が準備が良い事に温泉まんじゅうを渡してくれる。いつの間に買ったんだろうか。ありがたく頂戴しよう。


 俺はまんじゅうの包装を開けて中に入っている茶色いまんじゅうを口の中に放り込む。んー…。甘さ控えめのあんこが口の中でとろけていく…。足はポカポカで気持ちが良く、口の中はあんこの甘さで幸せ一杯だ。


 先輩の考えるデートコースは確かに今を時めく花の女子大生が考えた物だと思うと少しおかしい。でもやっぱり俺はこのデートコース好きだなぁ…。のんびりと足湯に浸かりながら日頃の疲れを癒す。2人でゆっくりと出来る時間と考えれば悪くはない。


「「あ゛~極楽(ねぇ)」」


 俺と先輩が上げた感嘆の声が思わずハモってしまった。でもまぁ…そんな細かい事いいじゃないか。足がこんなに気持ち良いのだから。


「………(ここだけ見ると凄くお似合いのカップルに見えるのよね…。でもまだ疑惑は消えてない。注意深く観察しておかないと…。それにしてもここの足湯気持ちいいわね。…ちょっとおねえを見直したわ)」


 春海ちゃんも最初は難しい顔をしながら足湯に浸かっていたが、彼女の顔も次第にふにゃりととろけ始めた。気持ち良いから仕方ないよね。



○○〇



 足湯に浸かってリラックスした俺たちが次に向かったのは『色バラ』だ。ここも定番のデートスポットと言えばデートスポットで美春先輩もよく利用する。以前に来た時は彼女とゾンビゲームをしたのだが、今回はウィンドウショッピングをするようだ。


 先輩が今回真っ先に向かったのは2階にある雑貨屋。ここで面白い新商品が入ってないかチェックするらしい。


「あー見て見て兼続。これ可愛い!」


 最初に先輩が発見したのは動物の耳がついているハンディファンだ。ハンディファンとは持ち運びできる小さい扇風機の事である。その扇風機の上部に猫耳や犬耳がついており可愛らしい。お値段も2000円とお手ごろだ。


 女の子受けの良さそうな商品だ。先輩もこういうの好きなんだなぁ…。


「気に入ったなら買おうか? プレゼントするよ」


「うーん…可愛いんだけど…。でももうすぐ夏も終わりなのよねぇ…。買ってもすぐに使わなくなっちゃうかも?」


「来年もまた使えるでしょ?」


「それもそうね。じゃあお願いしようかしら?」


 ここもデート前に先輩と打ち合わせした通りに進める。先輩が何かを「欲しい!」と言って、俺がそれに乗っかって「先輩にプレゼントします」と言う。これにより仲の良いカップルである事を春海ちゃんにアピールしていく。ちなみにお金は後で先輩が返してくれるらしい。俺は別にそのままでもいいんだけどね。


「………」


 春海ちゃんの様子をチラリと見ると相変わらず疑り深そうな目でこちらを見ている。うーん、スイキンでやらかした事がやらかした事だからな…。中々そう簡単に信用してはくれないか。


 俺達はハンディファンを買い物かごに入れると引き続き店の中を探索していく。次に美春先輩が見つけたのはなんと「陰陽師トイレットペーパー」。


 商品の説明を読むと陰陽師が使うありがたい魔除けの言葉がトイレットペーパーに印刷されているらしく、商品説明に「あなたの肛門に祝福を! 魔除けの効果もあり!」と書かれている。お値段1個50円らしい。


「こんなん買う人いるのかな?」


 トイレットペーパーにびっしりと漢字が印刷されているので、どちらかというとありがたさと言うよりも狂気の方を感じる。むしろ使うと肛門が呪われそうだ。


「でもこの店の売り上げNo1商品らしいわよ?」


「えっ!? こんなのが!?」


「発想は面白いと思うわ。あたしは買わないけど」


 …トイレットペーパーに魔除けの効果があるからと言って何になるんだろうか。全く持って不要な効果だと思うが。まぁ安いから面白さで買う人はいるのかもしれない。でもこれ売り上げ1位なんだよな…何がヒットするのか分からんもんだな。


 そして雑貨屋内を進んでいくとまたもや先輩が変なものを見つけた。この人よく変な物見つけるなぁ。


「『爆音目覚まし』?」


 懐かしい、俺も子供の頃はドラ〇もんの目覚ましをよく使っていた。しかし今では目覚ましを使わなくても一定の時間になると自然に起きられるようになったため、最近では目覚ましを使う事自体が無い。


「『工事現場の工事音や女性の金切り声、赤ちゃんが大声で泣く声など多種多様な音を実際に収録して目覚ましに内蔵しました。どんな寝坊助でも確実に起きられます』だって…」


「何かやだなそれ…」


 確かに確実に起きられるかもしれないが、最悪の目覚めになりそうだ。朝から「ギャオオオオオオオン!」なんて女性の金切り声を聞いて起きたくないよ…。


「でも確実に起きられるならアリかもね?」


「えぇ…無しだろ」



○○〇



 雑貨屋で時間を潰しているともういい時間になった、そろそろ夕食を食べに行く時間である。とりあえず…雑貨屋でのデートは仲の良いカップルがショッピングをしている様子を春海ちゃんにアピールする事ができたのではないだろうか?


 春海ちゃんは相変わらず難しい顔をしている。おそらくスイキンの件と先ほどの仲の良い光景が彼女の頭の中でせめぎ合っているのだろう。くそぅ…スイキンの写真さえなければ彼女に俺たちが付き合っていると信じさせることが出来たかもしれないのに…。もう2度とスイキンにはいかねぇ…。



○○〇


次の更新は9/26(火)です


※作者からのお願い


もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る