先輩とデート当日
こうして迎えたデート当日。俺たちは春海ちゃんとの待ち合わせ場所である駅前へと向かう。偽の恋人である事がバレないよう気を付けて行動しないとな…。
俺たちは待ち合わせ時間の10分前に駅前に着いた。周りをキョロキョロと見回すが、春海ちゃんはまだ来ていないようだ。
2人で春海ちゃんがいないうちに今日の最終打ち合わせをしていく。
「できうる限り自然にふるまいましょ? ギクシャクしている所を見られたらあの子の懐疑心が大きくなるわ」
「分かりました。あっ! そういえば先輩、またデートの期間中だけ下の名前で呼びますね。この前下の名前で呼んじゃいましたし」
「えっ? あっ…そ、そうね//// じゃあお願いするわ///(完全に忘れてた///// 下の名前で呼ばれちゃうと胸がドキドキして止まらなくなるのよね/////// あたし今日耐えられるかしら…?)」
俺たちが打ち合わせをしていると商店街の方から春海ちゃんがこちらに来ているのが見えた。俺と先輩は慌てて腕を組みなおし、どこからどう見てもラブラブカップルに見えるように姿勢を整える。
「春海ちゃん久しぶり! 元気にしてた?」
俺が笑顔でそう春海ちゃんに挨拶をすると、彼女は相変わらずこちらを疑うような眼をして言葉を返してくる。
「ええ、おかげさまで。今日はバッチリと2人のデートを見させてもらうから。春海は2人の後ろから着いて行くけど、いないものとして扱って頂戴(この前はトラブルもあって空気的に納得せざるを得なかったけど、今日こそ姉の嘘を暴いて見せるわ)」
「分かったよ。まぁ俺たちはいつも通りデートするだけだしな。なぁ美春?」
「え、ええ///// そうね(ああ~//// 不味い、また胸の心拍数が上がって来たぁ//// これダメかも//////)」
美春先輩大丈夫かなぁ? 早くも顔が真っ赤っかだ。やはり年下にしたの名前で呼ばれることに抵抗があるのだろう。でも嘘を貫き通すためにデートの時間だけ我慢してください。
「ちなみに…2人はこれで何回目のデートなの?」
「えっ? えーっと。これで5回目ぐらいだったかな? 大体週1でデートしてるから」
本当は先輩とデートするのはこれで2回目なのだが、付き合って1カ月半近く経っている設定なので少し数を盛らせてもらった。
「『ぐらい』? 彼女とのデートの正確な回数すら覚えてないの?」
春海ちゃんは俺を疑いの目で見て来る。不味い…軽率に答えすぎた。言動には注意しないと。
「思い出した。これで5回目だよ」
「ふーん…」
彼女の疑惑レベルが上がったようだ。クソッ…なんとかして巻き返さないといけないな。
「あっ、そうだ兼続さん、春海にreinのアドレス教えて」
「別にいいけど…」
俺は疑問に思いながらも春海ちゃんにアドレスを教える。どうして彼女は唐突に俺のアドレスを知りたいと言ってきたのだろうか?
「兼続さんはおねえの彼氏なんだから、別に妹の春海がアドレス知っててもおかしくはないでしょ?」
彼女はそう言ってニヤリと笑う。これはもしや…俺のreinに不定期にメッセージを送ってくることによって俺と美春先輩が何をしているチェックし、その矛盾を突き止めて俺たちの嘘を暴こうという魂胆なのでは…?
恐ろしいなこの娘…。今度は本気で俺たちの嘘を暴きに来ている。だが俺も先輩のためにこの嘘をバラすワケにはいかないのだ。受けてやろうじゃないかそのライアーゲーム。こっちだってバレないために色々打合せしてきたんだ。
俺は軽率な言動はしないように自分の心に楔を打ちながら最初の目的地へと向かった。
○○〇
俺たちが最初に向かったのは「スイーツキングダム」だ。先輩はこの前の打ち合わせでここをデートの行き先に提案してきた。正直スイーツキングダムにはあまりいい思い出が無いし、先輩が普段あまり行きそうにない場所なので辞めておいた方が良いのでは…と俺は最初先輩にそう進言した。
しかし先輩は俺が他の寮の面子とは「スイーツキングダム」に行ったのに、自分だけ「スイーツキングダム」に行ってないのが悔しかったらしく、どうしてもデートにここを組み込みたいと言って駄々をこねた。
どうしようかと思った矢先、俺の頭にとある考えが浮かんだ。それはスイーツキングダムの「カップル限定メニュー」の存在を上手い事利用できないかという事である。あれを頼むとカップルで写真を撮られる。そうすることで俺と先輩がラブラブなカップルであると春海ちゃんに見せつけられることが出来るのではないかと思ったのだ。
この考えを思いついた俺は早速先輩に提案した。先輩もその考えに賛成してくれたので今日のデートの最初の行き先はここになったのである。
俺たちはお金を払ってスイキン(※スイーツキングダムの略)に入店する。俺たちは2人席、春海ちゃんは少し離れた1人用の席から俺たちの様子を観察するようだ。
俺はメニュー表を開くと事前に先輩に話してあった「カップル限定メニュー」を指さし「これを頼みましょう」と先輩に提案する。先輩はメニューの説明文を呼んで少し赤面したが妹を騙すためには仕方が無いとそれを承諾した。
よし、これで春海ちゃんが俺たちに持っている疑念が少しは解消されるはず…。俺は早速「カップル限定メニュー」を頼むべく呼び鈴を鳴らした。
…そういえば今までは大体こういう時に甘利さんが注文を取りに来てたんだよなぁ。でもスイキンで「カップル限定メニュー」を頼むのは今回で4度目。流石に今回は別の人が注文を取りに来るだろう…。俺はそう思っていた。
「いらっしゃいませー。ご注文をお伺いしま…あれ、美春と東坂君?」
「えっ? 皐月!?」
デスヨネー。俺たちの注文を取りに来たのはやっぱり甘利さんだった。2度ある事は3度あるならぬ、3度ある事は4度あるである。
…なんかこの人とは妙な縁があるな。でもこれは不味いぞ…。甘利さんは俺と先輩が付き合っていないのを知っている。春海ちゃんは近くで俺たちの会話を聞いているのでバレる可能性大だ。いきなり大ピンチである。
「今日はどうしたの? 2人でデート?」
しめた! おそらく甘利さんは俺たちの仲を冷やかすためにこういったのだと思うが、その言葉は俺たちにとっては春海ちゃんを騙すための好機となる。俺はそれに乗ることにした。
「そうなんですよ。今日は美春とデートなんです」
「ちょ///// 兼続!?」
先輩は「友達に俺たちが付き合っていると騙すのは流石に…」と思っているに違いない。しかしここで甘利さんに俺たちが付き合っていないと言えば、必然的に近くにいる春海ちゃんにもバレる事になる。なので甘利さんも騙すしかない。もう賽は投げられたのだ。引き返せない。
俺はアイコンタクトで先輩に「甘利さんも騙すしかないです」と伝えた。甘利さんにはこのデートが終わった後に事情を話せば理解してくれるだろう。先輩は数秒間頭の中で葛藤しているようだったが、渋々頷いた。
「あれ? 本当にデート? それに美春って呼び捨てに…?」
甘利さんは俺たちの変化に気が付いたようだ。よしよし、そのまま乗って来て下さい。
「甘利さんには伝えるのが遅くなりましたね。実は俺たち付き合う事になったんですよ」
「/////////」
「えっ? 本当に!? やったじゃない美春! 念願の初彼氏ゲットよ」
先輩は友達に嘘を伝えるのが心ぐるしいのか、それとも友達に俺たちが付き合っていると言うのが恥ずかしいのかは分からないが、顔を真っ赤にしてうつむいている。反対に甘利さんは美春先輩に彼氏が出来たのが自分の事のように嬉しいのかウキウキの笑顔だ。
「本当はどうして付き合う事になったのか根掘り葉掘り聞きたいところだけど…、今はバイト中だし後にするね。覚悟しておいてよ美春? さて、ご注文をお伺いしますお客様」
甘利さんは顔をキリッとさせて仕事モードに入る。おっ、これもありがたいな。今色々聞かれるとボロが出る可能性があったからな。春海ちゃんの方をチラリと見るとジュースを飲みながらこちらの方を注意深く見つめている。よし、ここから攻勢にでるぞ。
俺は当初の予定通り「カップル限定メニュー」を甘利さんに注文する。今回注文するのは以前冬梨が食べていたカップル限定のいちごパフェだ。これ俺も食べてみたかったんだよな。
「おっ、早速カップル限定メニューを頼むんだね?」
「はい、美春がどうしても食べたいって言ってたので」
「/////////////」
まぁ先輩はそんな事一言も言っていないのであるが、騙すためには仕方が無い。多少の嘘は盛る必要がある。先輩は相変わらず恥ずかしいのかうつむいてプルプルしている。いつもは快活な人がここまで恥ずかしがるなんて…。でもプルプルしている先輩ちょっと可愛い。
「美春ったら照れちゃって、可愛い!」
甘利さんも俺と同じ事を思ったようだ。
「じゃ2人とも、ちょうど今日から新発売の『カップル限定メニュー』があるんだけど食べてみない?」
「えっ、そんなのがあるんですか?」
甘利さんはメニューなどが置いてある棚から1枚の紙を取り出し、俺たちに見せる。その紙にはハート型のケーキが映っていた。
「今日から発売の新メニュー『カップル限定! 永遠の愛を! ラブラブ♡ケーキ』です!」
「へぇ~美味しそうですね。美春、やっぱりこっち注文する?」
先輩は言葉で受け答えできるだけの余裕が無いのか、俺の問いの顔を揺らして「コクコク」と頷くだけだった。
「分かった。じゃあそれでお願いします。あっ、これも例の如く写真撮るんですよね?」
「もちろん。しかも今回もシチュエーション指定付き! 2人で『あーん』している所を写真に撮らせてもらいます」
えぇ…なんかそれ凄くハードル高くないか…? 2人でハート型のケーキを「あーん」している所を撮るだとぉ…。凄く恥ずかしいが…しかし春海ちゃんを騙しきるためにはやるしかない。
「ドンと来いです!」
「かしこまりぃ~♪ じゃあ超特急で作るから待っててね! 2人のために腕に寄りをかけて作って来るわ!」
甘利さんはそう言うとルンルンで厨房の方に小走りで行ってしまった。これで春海ちゃんの疑念を晴らせればいいのだが…。
○○〇
「ジャーン!!! ご注文の品でーす!」
数分後、甘利さんは俺たちが注文したケーキを持ってきた。ケーキの上に乗ってあるチョコレートにはご丁寧に「兼続♡美春」と書かれている。
「あっ、それは私からのサービス! 普通はチョコなんて乗らないんだけどね。2人の門出を祝って」
甘利さんは「ムフフ」とニヤケながら笑う。…サービスしてくれたのはありがたいんだが、俺たちが付き合っているの嘘なんだよなぁ。純粋に祝福してくれている彼女を騙している事実に心が痛む。だがやりきるしかない。
「美春、私に兼続君の事色々相談してきたもんねぇ~。いやぁ、2人が付き合って良かった良かった!」
「ちょ、皐月! それはぁ/////////」
先ほどまでうつむいていた先輩が顔を上げて甘利さんにポカポカと抗議する。何か知らんが俺の事で先輩が甘利さんに相談していたらしい。何を相談していたんだろう?
「じゃ、早速カップルの初々しい写真を撮りますか!」
甘利さんの手にはしっかりとカメラが握られていた。俺も覚悟を決めてスプーンに手を伸ばすとケーキをひとすくいして先輩の口元に持っていく。
「美春、『あーん』」
「うっ//////」
俺に「あーん」された先輩は顔を真っ赤に染めて怯んだ。おかしいな、夏祭りの時に俺に「あーん」してきたからそんなに抵抗はないと思っていたのだが…。
「(ううっ~///// 下の名前で呼ばれながら『あーん』ってされるのは恥ずかしすぎ/////)」
だがこれをしないと春海ちゃんに本当の恋人だと認めて貰えない。俺はアイコンタクトで先輩に「お願いします」と伝える。先輩も観念したのかスプーンを手に取ってこちらにケーキを差し出してきた。
「いいですねー。ラブラブなカップルの写真頂きでーす!」
甘利さんはそこをパシャパシャと写真を撮る。おい、写真は1枚じゃないのかよ。
「「あーん…////」」
俺たちはお互いの口の中にケーキを入れた。うーん…恥ずかしい。でもこれも先輩のためなんだ。仕方が無い。俺は先輩に差し出されたスプーンを口に含むと上に乗っていたケーキを飲み込んだ。同じく先輩も俺の差し出したスプーンに乗っていたケーキを飲み込む。
パシャパシャパシャ!
「「…///////」」
というか甘利さんさっきから写真撮りすぎじゃない!? 友達に彼氏が出来て嬉しいのは理解できるが職権乱用しすぎだろ!? おそらく後でこれをダシに先輩をからかうつもりなのだろうけれども。
「はい、ラブラブなカップルの写真取れました。ご馳走様です。では、あとはお若い2人に任せて…ごゆっくりどうぞー♪」
甘利さんはニヤニヤと笑いながら奥へと引っ込んでいった。お若い2人ってあんた美春先輩と同い年だろ!? おせっかいおばさんかよ!?
はぁ…でもとりあえずこれで乗り切ったぞ。今のを見れば流石の春海ちゃんも俺たちが本当に付き合っていると思わざるを得ないはずだ。
そこで俺のスマホが震えた。おそらくreinにメッセージが届いたものと思われる。俺は誰だろうとスマホを取り出して確認すると送り主は春海ちゃんだった。俺は意気揚々とメッセージを確認する。どうだ! 俺たちのラブラブっぷりは? 春海ちゃんもこれで信じざるを得ないはずだ。
しかし、彼女から送られて来たメッセージは俺が思いもよらないものだった。
『店内に展示してあるカップルの写真にどう見ても兼続さんとおねえでじゃない他の女が映ってるんだけど…、どういう事? あの写真ってカップル限定メニューを頼んだ客しか撮らないはずよね?』
俺の背中に嫌な汗が流れる。あっ…すっかり忘れていた。そういえば…寮の他の連中と来た時も写真を撮ったんだったな。あれまだ展示されてるの? もう3カ月も前の話だぞ!? 以前甘利さんに写真は大体1カ月程度で入れ替わると聞いたことがあるのだが…。
写真の展示スペースを確認するとそこにはまごうことなき俺の写真があった。寮長が暴れた時の写真、秋乃と来た時の写真、ご丁寧に海で冬梨と撮った写真まで並べてある。前に来た時に展示されてあったカップルの写真は展示されていないのに、なんで俺の写真だけこんなに沢山展示してあるんだよ!?
春海ちゃんの方を見ると彼女はどう見ても俺を強い疑惑の目で見ていた。あぁ…これどう言い訳しようかな…。俺は店の天井を見上げた。やはり俺にとってスイーツキングダムは悪夢の場所なのかもしれない。
○○〇
次の更新は9/24(日)です
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