またもや先輩のお願い!

「兼続~、お願い助けてぇ!」


 食堂で麦茶を飲んでいるとのっけから先輩が俺に助けを求めに来た。どうしたのだろうか。部屋にGでも出たのかな?


「妹がね、今度2人でデートしている所を見せてって言って来てるのよぉ」


 …なるほど、そっちか。どうやら先輩の妹関連の話らしい。2週間ほど前、先輩の偽の彼氏として妹の春海ちゃんと顔合わせをし、なんやかんやあってなんとか春海ちゃんに俺たちは付き合っていると認めて貰ったのだが…また問題が発生した様だ。


「えっと…とりあえず詳しい話を聞きましょうか」


 先輩の話によると、春海ちゃんはやはりどうも俺たちが付き合ってるとは納得がいかなかったらしく、俺と先輩がデートしている所を見て真偽を見極めようとしているらしい。


「どうして断らなかったんですか?」


「え、えっと…それは///// …妹に『おねえは人に見せられないような粗末なデートをしてるんだ。ふーん、そう。所詮その程度なんだ』って煽られて…」


 先輩は恥ずかしそうに両手の指をツンツンとしながらそう答える。おそらく負けず嫌いな先輩の事だ、売り言葉に買い言葉で受けてしまったのだろう。流石妹。姉の性格を良く熟知している。


「しかもよりにもよってデートしている所をですか…。これは困りましたねぇ」


 人間少しの間なら演技をしていてもボロが出る事はあまりない。だがデートのような長時間一緒に行動する場合はどうしてもボロが出やすくなってしまう。春海ちゃんはそこを突いてきたのだろう。これはかなり入念に準備しないとバレる事になりそうだ。


「え? 受けてくれるの?」


「そりゃ乗り掛かった舟ですからね。一度先輩の偽の彼氏役を引き受けたからには最後までやり通しますよ」


「兼続…ありがとうー!」


 先輩はそう言って俺に抱き着いてくる。…先輩って結構ボディランゲージ好きだよなぁ。俺の顔に先輩のそこそこ大きいお胸が押し付けられる。何度経験してもこの感覚には慣れない。


 俺は先輩を引きはがすと早速デートの内容を詰める事にした。


「それで…デートの内容ですけど、どうします? また先輩のおススメの場所を巡りますか?」


「それでもいいんだけど…、あたしの好きな場所だと妹に馬鹿にされそうで…」


 まぁ確かに先輩の好きな場所って独自だからなぁ…。ゲーセンに温泉に定食屋に居酒屋…失礼を承知で言うが、今を時めく花の女子大生が行きそうな場所とはとうてい思えないような所ばかりだ。俺は結構好きだけど。


「でも先輩があまり行かないような場所に行ってもそれはそれでボロがでちゃうんじゃ…」


 今回のデートの目的は春海ちゃんに俺と先輩が本当に付き合っていると信じさせる事である。なので見栄のためにそのような所に行って、俺たちが偽の恋人である事がバレたら本末転倒なのだ。


「そう考えればそうね…。あたしオシャレなレストランとか行った事無いから緊張でギクシャクしちゃうかも?」


 そうか…先輩オシャレなレストランに行ったことないのか…。本当に今までデートをまともにしたことが無いんだな。…俺もオシャレなレストランは秋乃とのデートで1回行ったぐらいなのであまり大きな口では言えないが。


 こうして先輩と色々相談した結果、結局先輩の好きな場所に行く方がボロが出る心配が少なくて安牌だろうという事になり、デートの行き先が決まった。


「あっ、それともう一つ心配事があるんですけどいいですか?」


「なぁに?」


「春海ちゃんが前回みたいに…その…キス…とかを求めてきたどうします?」


「えっ?」


 疑り深い春海ちゃんの事だ。俺と先輩が無事に恋人らしいデートを終えても信用してくれない可能性がある。「デートの終わりにキスとかしないの? 恋人同士なのに? おねえたち本当に付き合ってんの?」とか言って煽ってきそうである。


 今回はほっぺたにキス程度では許してくれないだろう。恋人がデートの終わりにするキスといえばやはりマウス・トゥ・マウスではないだろうか。


 流石に本当に付き合っているのではないのに唇にキスするワケにもいかないので、この問題についてはどうするかあらかじめ考えておかなければならない。


「あー…/////」


 先輩はあの時の事を思い出しているのか少し顔が赤く染まる。ほっぺたとはいえ恋人でもない男性に良くキスする気になれたもんだ。


「そ、その…あの時はごめんなさい…。妹に煽られたとはいえほっぺたにキスしたのはちょっとやりすぎだったわ。その…嫌じゃなかった?」


「い、いえ俺は別にいいんですけど…。先輩こそ嫌じゃなかったですか? 俺のほっぺたに唇が触れたわけですし…」


「あたしは別に…大丈夫よ? 別に唇にしたワケじゃないし…」


 先輩の中では直接唇にしなければキスはノーカンという解釈なのだろうか。先輩がそれでいいなら俺の方は別に構わないのだが。


「でも春海なら確かに言ってきそうね…。あっ! こういうのはどう? 昔少女漫画で読んだんだけど、キスする直前に口にテープを貼るの! そしてテープを付けたままキス! これでお互いにキスしたことにはならないわ」


 唇にテープを貼る。確かに直接キスをしたことにはならないが…かなりキワドイな。テープを一枚を隔てて唇と唇が触れ合う。まさに本来の意味での間接キスだろう。相手の唇の感触とか体温とかをテープを通して感じるかもしれない。なんかちょっと卑猥だな。


「テープを貼っているとはいえ唇と唇を触れ合わせるのは大分ギリギリだと思うんですけど…、先輩は大丈夫なんですか?」


 正直俺は美人の先輩の顔が目の前にあると言うだけでも心臓がドキドキして爆発しそうだ。正気を保てる自信がない。


「それにテープを貼っている暇なんてありますかねぇ…。漫画なら漫画的表現っていうので読者も納得できますけど、春海ちゃんの事だから横からジロジロと見てきそうじゃないですか? 絶対テープを貼ってるところを見られちゃうと思いますけど」


「う、うーん//// 確かに考えてみると現実的じゃないわね。これは忘れて頂戴」


 その後も「キスの直前に指で唇をガードする」だとか、「テレビドラマみたいに顔と顔を近づけるだけでキスは実際にはしない」などの意見が挙げられたが、どれも春海ちゃんにバレたら終わるという事で却下されることになった。


「キスのフリをするって難しいわね…」


 俺と先輩は頭を悩ませる。どうすれば春海ちゃんを納得させることができるのだろうか。


 しかし、そこで俺の頭に「ピーン!」と電流が走り、天啓の様なものが浮かんできた。これなら美春ちゃんを騙せるかもしれない。


「ねぇ先輩、思ったんですけど恋人同士でやる事なら別にキスじゃなくても良くないですか?」


「? どういう事?」


「つまりキスの先をやっているフリをするんです」


「キ、キスの先って…////」


 その内容を想像したのか先輩の顔が真っ赤に染まる。まぁこの話題は女性なら寮長みたいな下品で品のない人間でもない限り誰しも顔を真っ赤に染めるだろう。恋のABC、Aはキス、Bはディープキス、そしてCは…。キスの先と言えばもちろんアレの事である。


「か、かかかかか兼続、流石にそれはちょっとやりすぎじゃないかしら?///// いくら美春を騙すためだからって裸で…/////」


 先輩は一体何を想像したのだろうか?


「先輩、落ち着いてください。本当にするわけじゃないですよ。フリをするだけです」


「でもそのセック…のフリってどうするのよ?///////」


 先輩は顔を真っ赤に染めて抗議してくる。うーん…いつもは自信満々の先輩が動揺しているのを見るのはちょっと楽しい。


「いいですか? 説明します。俺たちはデートの終わりにラブホに入ります。もちろん実際に行為をするワケじゃないですよ。入るだけです。そして時間をつぶしてホテルを出ます。それだけ。流石の春海ちゃんもラブホの中にまではついてこないでしょうし、彼女に性行為をしていると勘違いさせる事が出来れば俺たちは本当に付き合っていると認めてくれるんじゃないでしょうか?」


「な、なるほど…//////」


 先輩は顔を赤くしながらも納得する。


「もちろん先輩がこの作戦を実行する事を承諾してくれればですけど」


 実際にはやらないとは言え、妹に俺とそのような事をする関係だと認識させる事になる。女性にとってはかなり悩ましいのではないだろうか。俺は彼女の本当の彼氏ではなく、所詮は偽の彼氏なのだ。


 正直、キスのフリで春海ちゃんを騙すのが難しいと判断した上での苦肉の策であった。できれば俺もあまり実行はしたくない。


「えっ、実際には行為はしないんでしょ? じゃあいいじゃない。それ採用よ!」


 しかし俺の予想とは裏腹に先輩は2秒で俺の作戦を承諾した。…そんな簡単に決めちゃっていいのかな?


 こうして先輩とのデートの段取りは決まった。後は春海ちゃんが無事騙されてくれるのを祈るだけだ。



○○〇


次の更新は9/22(金)です


※作者からのお願い


もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る