恋する豚は空を飛べない
女装した定満が朝信に告白されている所をその彼女に見られて破局。この問題をどう解決するべきか俺は頭を悩ませていた。悪ノリしたのは高広先輩だが、そもそも俺が定満に女装してくれと頼まなければ起こらなかった事なので俺にも責任はある。どうにかしてこの問題を解決しなければならない。
今現在、定満は女装を解き自分の部屋で絶望している。朝信はサダコからの告白の返事を待ちながらウキウキで自分の部屋でエ〇ゲ、定満の彼女の美子ちゃんは怒って自宅に帰っていったらしい。
自分で考えても解決策が浮かんでこなかったので、こういう時に頼りになる友人に相談する事にした。俺はその人物の部屋を尋ねる。場所は女子寮の2階、左から2番目の部屋だ。ノックして許可を得ると中へ入った。
「助けてくれちなえもん!」
高坂千夏…。彼女ならこのややこしい問題の解決策を示してくれるに違いない。しかし相変わらず部屋汚いな。彼女の部屋にはいつもの如くお菓子の食べカスや講義で使う資料などが散乱していた。そろそろまた掃除のしどきか? 千夏は俺の姿を見ると目を細めた。
「…某ネコ型ロボットみたいに呼ばないでくれる?」
「これは敬称さ。頼りになる千夏に尊敬の意味を込めてこう言ってるんだ」
「つまり、私が某ネコ型ロボットのようにドラム缶の如く凹凸の無い体型をしてると言いたいのかしら?」
千夏がジト目で俺を睨む。
「深く考えすぎだ! そんな意味で言ってないって!」
相変わらずスタイルの事になると被害妄想が激しいな。某ネコ型ロボットはスリーサイズが全て129,3センチだっけ?
「まぁまぁ落ち着いて。潮風堂の特上どら焼きあげるからさぁ…」
「モノで私を釣ろうっての? 残念だけど私はそんなに軽い女じゃないわよ。冬梨じゃあるまいし。どら焼きは貰うけど」
「貰うのか…」
「まぁいいわ。兼続にはいつもお世話になっているから特別に聞いてあげる。ほら、話して見なさい(兼続が困っていると放っておけないのよね…。私ってこんなに甘かったかしら?)」
千夏は俺から受け取ったどら焼きをパクつく。流石千夏、困っている人にはなんだかんだ言って手を差し伸べてくれるんだよな。俺は先ほど起こった一連の出来事を彼女に話した。
「まためんどくさい事になってるわねぇ…。汚い三角関係…」
そう言われれば、これってある意味三角関係になるのか。確かに女装した男を男と女が取り合うって綺麗な物ではないな。そもそも三角関係自体が綺麗な物ではないといわれればそれまでだが。
「それで…その…解決策をご教授願いたいんだけど。自分でも考えたけどいい案が浮かばなくて…」
「解決策も何もネタバラシすればいいんじゃないの? そうすれば南野君は西野君の事を諦めるでしょうし、彼女さんもアレがネタだった事が分かれば許してくれるでしょ?」
「確かに朝信の方はそれでいい。でも美子ちゃんの方はそれで許してくれるかどうか…。かなり気性の激しい人みたいだったし」
「ならもう土下座して謝るしかないんじゃない?」
「ですよねー。はぁ…」
まぁ仕方が無い。自分がしでかしたことだからな。やった事の責任は取らないといけない。俺も男だ、彼女の目の前で立派に土下座して見せよう。立派に土下座と言うのも変な話だが。
「はぁ…仕方が無いわね。彼女…跡部美子さんだっけ? 確か入学時にお世話してあげた関係で少し交流があるから話をしてみるわ(そんな顔されると助けてあげたくなっちゃうじゃない…)」
千夏はスマホを取り出すとreinで美子ちゃんにメッセージを送り、いくつかやり取りをしているようだった。数分後、スマホをしまった彼女は顔を上げる。
「一応事情は説明して彼女も分かってくれたわ。でも彼女が怒ってるのはそこじゃないみたいね。どうも西野君が『彼女と付き合ってる?』って聞かれた時に『付き合ってる』と即答しなかったのが彼女にとって凄く不満だったらしいわ」
なるほど、定満の彼女としては付き合っている彼氏に「僕と彼女は付き合ってます!」と即答して欲しかったわけか…。女心は奥が深いなぁ…。
でも確か朝信って定満に「百合カップルとして付き合ってるか?」って聞いたんだよな。その問いに対して即答で「付き合ってる」と答えるのは中々決断力がいるよなぁ…。定満の気持ちも分かる。
となると…俺のやる事はただ一つだ。誤解を解く機会をセッティングし3人の誤解を解いて仲直りさせる事。
「ありがとうちなえもん!」
「それ止めて!」
俺は早速定満に連絡をとった。
○○〇
次の日、俺は3人(とついでに高広先輩)を男子寮に集めた。
「兼続、どうしたのですかな? 昨日の件で話があるという事でしたが…サダコ氏の姿が見当たりませんぞ? 我の愛の告白は結局どうなったのですかな?」
「せ、先輩…。本当に美子ちゃん許してくれるんですかね…?」
「お世話になった高坂先輩の頼みだから仕方なく来てあげたわよ。で? どうするのかしら?」
「兼続…お前って結構強引なんだな////」
「誤解されるような事言わないで下さいよ…。だだでさえややこしい状況なのに…」
朝信はまだサダコの正体が定満だと知らないので、彼女の姿を探してキョロキョロしている。
定満は美子ちゃんに許してもらえるのか不安のなのか少しオドオド気味だ。彼には昨日千夏から聞いた美子ちゃんの心情を話してある。なのでここで男らしく「美子ちゃんは僕の彼女です!」と言えば許してもらえる…と思う。
美子ちゃんはまだ怒っているらしく定満の方を睨みつけている。
そして高広先輩は俺が強引に部屋から連れ出した。彼も一応当事者なのでキチンと責任を取るべきだと俺は考えた。
「えー…みんな今日は集まってくれてありがとう。昨日の件についてみんなの誤解を解きたいから集まってもらった。そしてごめん! 昨日の件は全て俺と高広先輩の悪ノリのせいなんだ」
集まってもらった皆に俺はまず自分から頭を下げる。そもそも事の発端は俺の悪ノリである。なので俺から謝るのが筋というものだ。
「どういうことですかな兼続? 悪ノリとは…?」
「朝信スマン、実はな…。サダコちゃんの正体は定満なんだ。俺が定満に頼んで女装して貰ってたんだ」
「兼続…嘘はイケませんな。あの可憐で可愛い菜の花のようなサダコ氏が定満ですと…? 我は信じませんぞ」
自分が初めて好きになった異性が女装した男性であるという事実を朝信は受け入れられないのであろう。気持ちは分かる。だが事実は事実として受け入れてもらわなくてはならない。
「仕方ない…。定満頼む」
定満はカバンから昨日の金髪ツインテのカツラを取り出して自分の頭にかぶる。サダコちゃんの完成だ。その姿を見た朝信は驚愕して腰を抜かした。
「な…なんと…。サダコ氏は本当に定満だったのですかな? 我は…女装した定満を女の子と勘違いをして告白したと…?」
朝信は絶望の表情で崩れ落ちた。まぁ…精神的なショックは大きいだろうな。スマン朝信。今度何かエ〇ゲでも奢ってやるよ。
「我のあの胸のトキメキはなんだったのですかな…。人生で初めて感じた胸の高鳴りだったのに…。我のガラスのハートはもうボロボロですぞ…」
…お前この前50メートル走のたびに胸の高鳴りを感じるって言ってなかったっけ? 小・中・高で最低でも12回は胸の高鳴りを感じているはずなんだが…。
悲しんでいる朝信に高広先輩が近づいて肩に「ポン」と手を置いて話しかけた。
「朝信スマン、俺も昨日は悪ノリが過ぎた。許してくれ」
まぁ先輩の悪ノリがなければそもそもここまで事態はこじれてないからな。ある意味今回の事件の一番の悪と言えよう。
「これでは我は実質ホモではないですか…」
「朝信! 女装とホモを一緒にするんじゃねぇ! 戦争だ!」
「今はその話をする時じゃないでしょ!?」
女装界隈やら男の娘界隈やらで色々派党があるのは知っているが、今はその話をしている時ではない。
「定満と跡部さんもスマン。俺たちの悪ノリにつき合わせて。跡部さん、聞いての通り定満が女装してたのは俺たちの悪ノリに協力させられてたからなんだ。だから跡部さんも定満を許してやってくれないか?」
俺は定満と美子ちゃんにもう一度頭を下げる。今回の一番の被害者はこの2人だからな。
「せ、先輩頭を上げて下さい。僕も悪ノリに乗ってしまったので僕にも責任あります。先輩方だけの責任じゃないですよ」
定満もなんだかんだ言って責任感強いよなぁ…。ここは俺たち先輩に罪を擦り付けておけばいいのに。
美子ちゃんの様子を確認するが、彼女の不満顔はまだ元に戻っていないようだ。俺は定満を肘でつついて事前に話しておいた事を美子ちゃんに伝えるように促す。
「み、美子ちゃん。あの時はとっさの事で言えなかったけど。僕が好きで付き合ってのは美子ちゃんだから。だから安心して!」
「…遅い。もっと早く言って欲しかったわ。でもまぁ…許してあげる」
「美子ちゃん…ありがとう!」
美子ちゃんの顔がようやく緩む。どうやら定満は許されたようだ。これで2人は無事元の鞘に収まったわけだ。あー…良かった。俺たちの悪ノリで幸せなカップルを破局させたとなっては笑い事ではないからなぁ…。俺は心をなでおろした。これで一見落着かな?
○○〇
定満と美子ちゃんはそのまま仲直りのデートに行くらしく、男子寮から出て行った。俺と高広先輩はこれから傷心の朝信を慰めるべく駅前にあるというメイド喫茶ヘと行くことになった。もちろん俺たちの奢りだ。俺は財布を取りに一旦女子寮へと戻る。
「無事解決したみたいね」
男子寮から出た所に何故か千夏がいた。何故彼女がここにいるのだろうか? もしかして…心配だから様子を見に来てくれたとか?
「千夏ありがとう。千夏のお膳立てがなければ解決できなかったよ。今度お礼もかねて何か奢らせてくれ」
「いいわよ別に///(兼続は律儀ね…。普通の人だったら今回のような事が起きれば『俺は悪くない』って言って放っておきそうなものだけど…。彼はちゃんと責任を取って2人を仲直りさせた。一見簡単なように見えて中々出来る事じゃないわ。私は彼のそういう所が結構好き…。あっ、もちろんライクの方の好きだからね////)」
彼女は照れくさそうに横を向く。相変わらず褒められるのが少し苦手なようだ。
「いや、世話になったらお礼をする。当然の事だろ? だから遠慮せずに受け取ってくれ」
「あなたのそういう律儀な所…嫌いじゃないわ。じゃあお言葉に甘えて和菓子でも奢ってもらおうかしら?(いつもなら断るのだけれど…、何故かしら? 彼と一緒に居たいと思ってしまう)」
「おう、期待しといて!」
俺はそう言うと男子寮を後にした。
○○〇
そのライクはいつしかラブに代わる
次の更新は9/20(水)です
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