冬梨パパとの面談

「ふぅ、喫茶店の中は涼しいねぇ。あっ、好きなものを頼みたまえ。ここは私が払おう」


「は、はぁ…」


「…わーい、じゃあ冬梨はジャンボパフェとかき氷とクリームソーダ!」


「マイキューティ冬梨、一杯食べなさい」


 俺たちは冬梨パパに連れられて近くの喫茶店まで来ていた。現在の冬梨パパの格好はあの暑そうな電柱の変装を脱ぎ捨て、ピシっとしたスーツを着用したサラリーマンの格好に戻っている。…この見た目だけなら有能そうな企業戦士に見えるのだが、電柱に変装する変人なんだよなぁ…。なんで電柱に変装してたんだろう。


 席順は俺の隣に冬梨が座り、俺たちの正面に冬梨パパが座っている。


「どうした、兼続君も何か頼みなさい。外は暑かっただろう?」


「は、はい。じゃあお言葉に甘えて…アイスコーヒーを1つ」


「それだけでいいのかね? 遠慮しなくてもいいんだぞ?」


 そうは言われても初対面の人間にそんなに大量に奢ってもらうのは礼儀に反するだろう。というかこの人なんで俺の名前を知ってるんだ?


「大丈夫です」


「ふむ。では私はホットケーキとバニラアイスクリームとアイスティーを貰おうか」


 …この人も食べるなぁ!? 冬梨の一族はみんな大食いなのだろうか? 冬梨パパは店員さんを呼ぶと注文を伝える。数分後、店が暇だったのか注文はすぐにやって来た。


 ポチャポチャポチャポチャ


 冬梨パパは店員さんが持ってきたアイスティーにテーブルに備え付けてあった角砂糖を大量に入れた。うわぁ…あれクソ甘いぞ。冬梨が甘い物を大好きなのは間違いなくこの人の遺伝だな。


「うん、中々いい茶葉を使っているじゃないか」


 あれだけ砂糖を入れて茶葉の良し悪しなんて分かるものなのだろうか。まぁ本人が満足しているならそれでいいんだろうけれども。俺も少し喉が渇いていたのでアイスコーヒーを一口飲む。


「…そういえば、どうしてパパ上は電柱に変装してたの?」


 冬梨がジャンボパフェをパクつきながら今回の出来事の核心を突いてきた。ホントそれ。


「うん、それなんだけどね。やっぱりパパは冬梨が心配でね。仕事の休みを利用して様子を見に来たんだよ」


「…なんだ、そうだったの」


「そうなんだよ。ハッハッハ!」


 2人はそこで会話を打ち切ると再び食事に熱中し始めた。


「…えっ? それで終わり!?」


 俺は思わずツッコんでしまった。もっと色々言う事あるだろ!? 様子を見に来るんなら普通の格好で見に来ればいいだろとかさ!? なんでストーカーまがいの事してたのとかさ!?


「兼続君、親という物はね。自分の愛する子供を遠くから見ていたくなるものなのだよ」


「いやいや、だからと言って変装してストーカーまがいの事をするのは発想がぶっ飛びすぎてませんか?」


「…パパ上は恥ずかしがり屋。冬梨が小学生の時の授業参観も忍者のコスプレをして教室の天井裏から冬梨の事見てた」


「それもう保護者じゃなくて不審者じゃないか!? よく学校の人に見つかって放り出されなかったな!?」


「私はそんな簡単に見つかるようなヘマはせんよ。こう見えても若い頃甲賀こうがの里で忍者の修行をしていてね…。残念ながら膝に矢を受けてしまったので免許皆伝までは行かなかったが…」


「この令和の時代に膝に矢を受ける事ってあるの!? どんな事してたんですか!?」


「それは…私の口からは言えないな」


 冬梨パパは顔を赤らめながらそう言う。えぇ…ガチで何してたんだこの人…?


「しかし兼続君、君は実にツッコミが上手いな」


「…冬梨の言った通り、兼続はツッコミが上手い。的確にボケに返してくれる」


 なんか知らんが褒められている。でもあんまり嬉しくねぇ…。この程度のツッコミなんてみんなやってると思うんだが…。というかこの2人の前だとツッコまざるをえない。そうしないとカオスな空間になるのだ。


 と、俺はそこでついでに自分が気になっている事を聞いてみる事にした。それはどうして自己紹介してないのに冬梨パパは俺の名前を知っているのだろうかという事である。


「えっと…馬場さんはどうして僕の名前を知ってるんですか? 確か自己紹介はまだでしたよね?」


「馬場さんだなんて他人行儀な。もっとフレンドリーに呼びたまえ」


「え…。では冬梨のお父さん?」


「お義父さん!? そう呼ぶのは早いんじゃないのかね!」


「じゃあどう呼べばいいんですか!?」


「気軽に冬梨パパと呼びたまえ。パパ上でもいいぞ」


 …冬梨がこの人の事を「パパ上」と呼んでいるのは自分でそう呼ばせているからか。自分の娘に何てことさせてるんだこの人は!?


「えー…では冬梨パパはどうして僕の名前を知っていたんでしょうか?」


「それは冬梨から君の事を聞いていたからだよ。娘と仲良くしてくれているらしいね。ありがとう兼続君」


「は、はぁ…」


 冬梨パパはにこやかな顔で俺に礼を言ってくる。別にそんな礼を言われるような事をしているつもりは無いのだが…。冬梨とは気が合うのでよく一緒にいるだけだ。


「…冬梨、ちょっとトイレ」


 パフェを食べていた冬梨が席を立ってトイレの方へと向かう。冷たい物を食いすぎてお腹でも壊したのか? 俺と冬梨パパはトイレに向かう冬梨を見送った。


「さて、冬梨が居なくなったことだし本題に入ろうか」


 冬梨パパは先ほどのにこやかな顔から一転、真剣な表情になった。えっ、本題って何だ? 重要な話でもあるのだろうか。冬梨が居なくなってから本題に入るという事は彼女に聞かれたくない話だと推測するが…。


「実はね兼続君、今日私が変装をしてストーカーしていたのは冬梨ではなくて君の事を調べるためだったんだよ」


「えっ?」


 あ、この人自分が変装してストーカーしてたって認めたぞ。でも俺の事を調べるためだって? どうしてそんな事をしたんだ? 別に俺はそんな調べるほどの人物じゃないと思うが…。


「君も知っていると思うが冬梨はコミュ障でね。中々友達というのが出来なかったんだ。私たち両親もそれについては悩んでいてね。どうすればあの子に友達が出来るのだろうと色々苦心したものだよ」


 冬梨パパはアイスティーを一口飲んで話を続ける。


「更に何を思ったのかあの子は大学に進学する際に私たちの元を離れて1人で暮らしたいと言い始めた。女の子の一人暮らし…友達のいないあの子にはいざという時に頼れる人物が近くにいない。私たちも非常に心配だった。でも娘がチャレンジしたいというのなら…という理由で許可したのだよ」


「………」


 俺は冬梨パパの話を聞いていく。


「そしてこの前のお盆に帰省してきた時に冬梨が私たちに大学での様子を話してきた。そうすると友達が出来たというじゃないか。しかも異性の友達ときた。冬梨に友達が出来たことが嬉しい反面、私たちは気がかりだった。見ての通り冬梨は可愛い。もしかするとよこしまな気持ちをもって冬梨に近づいているのかもしれない。だから兼続君の事を少し調べさせてもらったのさ」


 なるほど…そんな理由で俺の事を調べていたのか。確かに大事な一人娘に初めてできた友達が異性の友達なら親なら心配するわな。冬梨パパはスマホのメモ帳を開き何かを確認している。


「東坂兼続、20歳。見た目普通、学業の成績も平均程度、実家は裕福とは言い難い、性格は温厚で義理堅く責任感が強い。彼女を作ろうと奮闘するも結果が出ず20年間彼女無しの童貞…」


 …前半はともかく、後半の情報は別に要らなくないか? 事実だけどさ…。


「…冬梨とは気が合い、お互いに言いたい事を言い合える関係」


 確かに冬梨とはそういう関係だ。もし冬梨が同性だったなら「悪友」と言ってもいい関係かもしれない。冬梨パパはそこまで言うとスマホをポケットにしまった。


「私が調べた結果、君は別に冬梨に邪な感情を持って接しているわけではないと判明した。本当の意味での友達として接してくれているとね。ありがとう兼続君、冬梨の友達になってくれて」


 そこまで言われるとなんだか照れくさい。まぁ冬梨パパも娘が大好きで、そして心配で仕方がなくてストーカーまでして俺の事を調べたのだろう。その心意気に免じてストーカーの件は水に流そう。


「そこでだ兼続君。娘と…冬梨と付き合う気はないかい?」


「…へ?」


 …んん? 今まで友達としてどうとか言う話をしていたような気がするのだが…。何故いきなり「付き合う」とかいう話になるのだろうか。


「君は今付き合っている人はいないのだろう?」


「はぁ、まぁそうですが…」


「君も知っていると思うが冬梨はコミュ障だ。この機会を逃すと恋人を作るどころか今後異性の友達を作れるとも限らない。だから冬梨と仲の良い君がそのまま恋人になって欲しいんだよ。私も親だからね、娘には幸せになってもらいたいんだ」


「ちょ、ちょっと待ってください」


 つまり冬梨はコミュ障だから今後彼氏を作れる保証が無い、それ故に冬梨パパは俺と冬梨をくっつけようとしているって事か? それは流石に判断を急ぎすぎじゃないだろうか。


「不満かな? 無茶苦茶可愛いマイプリティ冬梨を彼女にできるんだぞ? 親公認でだ」


「その判断は急ぎすぎかと…。冬梨は今自分の『コミュ障』という名の殻を破って前に進もうとしているんです。彼女は少し前に自分で同性の友達を作ることができました。そしてその友達とは今も仲良くやっています。もう少し冬梨の成長を見守ってもいいんじゃないでしょうか?」


 冬梨は俺の手助けがあったものの、夏休み前にバラムツさんという友達を作ることが出来た。そしてバラムツさんとは今ではよく遊ぶ仲にまでなっている。友達が1人作れたのなら、あとはその友達から徐々に友達の輪が広まっていくはずである。


 要するに冬梨は自分のコミュ障を克服できる可能性があるのだ。ゆくゆくは自分で異性の友達、そして彼氏を作ることもできるようになるだろう。


 子が頑張っているのに親が最初からあきらめていてはダメだ。親なら子の成長を温かく見守るべきである。雛が大空に飛び立つおおとりになるまで。


 確かに冬梨は可愛いし、話も合うし、彼女に出来たら嬉しい。でも彼氏を選ぶのは他ならぬ冬梨自身なのだ。冬梨パパでも俺でもない。


「…なるほど、君はやはり私の調べた通りの人物の様だ。この話は忘れてくれ」


 冬梨パパはそう言ってほほ笑んだ。ホッ、良かった。俺の想いは冬梨パパに伝わってくれたらしい。いきなり冬梨と付き合わないかと言われた時はガチでビビった。


「…た、ただいま////」


 俺と冬梨パパが会話を終えたところでちょうど冬梨が戻って来た。結構時間かかったな。んー? でも冬梨ちょっと顔赤くないか? どうしたんだろうか?


「…か、兼続これ食べて」


 冬梨は俺に自分のかき氷を渡してくる。食いしん坊の冬梨が食べ物を人にあげるだなんて珍しい事もあるもんだ。


「いいのか?」


「…ふ、冬梨は今が一杯で食べられない////」


「腹が一杯の間違いだろ?」


 俺は不思議に思いながら彼女から貰ったかき氷をありがたく頂いた。


 その後、俺たちは冬梨パパと別れた。冬梨パパ、娘想いだけど強烈な人だったなぁ…。



○○〇


次の更新は9/16(土)です


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